anopara

うるせークソメガネ

※この記事は2015年5月19日に投稿されたものを加筆修正したものです。

以前、嫁さんからこんな話を聞いた。

嫁さんの友達の話だ。その友達は教師をしているらしい。Aさんとする。当時、20代の女性教師だった。

Aさんの勤める学校にはBさんというそれなりに偉い立場に居る教師が居たそうだ。この教師は普段から事あるたびに「僕は千葉大出身だからさ~」と口にして学歴を自慢するような人だったそう(学校名はフェイク)。千葉大って、まあ凄いのかも知らんけど、常々自慢するような学歴かあ?とAさんは日々イライラしていたそうだ。

ある年、Bさんは修学旅行の計画担当者となった。その学校では毎年修学旅行の計画担当者を決め、その人が宿の予約やバスの手配などを進めることになっているらしい。私なんかはそのような話を聞くと「一人で出来る仕事なの?」と思ってしまうのだが、毎年おなじところに行くような学校であれば、付き合いのある旅館やバス会社もあったりしてほぼルーチンワークのようになっているかもしれない。

ともかく、修学旅行の計画を任されたBさんであったが、その年は修学旅行まであと2~3か月という段になってもBさんが何も準備をしてこなかったというとんでもない事態が発覚したそうだ。Bさんは千葉大出身だからと日々自慢しているが、その実態は重要な職務を放り出してギリギリまで何も言わない、重要な仕事を放棄して知らんぷりしてる社会人としてあるまじきとんでもないポンコツであったのである。

教員一同は焦った。学年全員の宿泊場所や移動手段を予約するのだから、友達数人で旅行に行くのとは規模が違う。修学旅行まであと2~3か月という状態で予約を取れるのか?予定の計画をこなせるのか?しかし、やるしかない。担当者の怠慢による修学旅行中止など前代未聞だ。生徒にも保護者にも説明できるわけがない。Aさん含む教師一同は一丸となって旅館やバス会社に予約を取るべく奔走した。その間も何を考えておるのか、Bさんは協力せずにわれ関せずで押し通したそうだ。

結果的には教職員一同(Bさん除く)の努力の甲斐あって、なんとか修学旅行行程の目途が立ったそうだ。それで皆が「よかったねー、一時はどうなる事かと思ったけど」などと安堵して雑談をしていた時のことだった。Bさんが現れ「ごめんね~、僕のせいで…」などと会話に混ざってきたそうで。

自分の怠慢によって引き起こした事態でありながらその事態の深刻さすら理解せず、他人に多大な迷惑をかけたうえに手伝いもしない。すべてが済んでから調子のいい時に現れて許してもらおうとしている。なんて性根の腐った人だろう。その時点でAさんは堪忍袋の緒がぷっつりと切れ、

「うるせえクソメガネ!!!!千葉大に帰れ!!!」

と一喝したそうだ。Bさんはきまり悪そうに「はいはい、帰ればいいんでしょ」とその場を後にしたとのこと。それを見た他の教師一同から「良く言ってくれた!」「ああいう人は一喝してやらなきゃだめだ」などと褒められたそうだ。

私が面白いと思うのはクソメガネというストレートでピュアでキャッチーな言葉である。だって、メガネなんて数多くの人がかけてるだろう。ガネをかけている事に特にネガティブな印象などないだろう。それなのにわざわざメガネを罵る言葉として取り上げる発想がまず素敵だと思う。とてもいい。

さらに面白いのは、Aさんには過去にも似たようなことがあったそうで。嫁さんと一緒に大学に通っていたのだが、その時も気に入らない教授に対して「あのガチャガチャメガネが…」などとつぶやいていたそうだ。

ガチャガチャメガネ。おそらく、特徴的で我の強い意匠のメガネとか、オモチャみたいな質感のメガネの事などを指していると思われるのだが、何よりも素晴らしいのは「ガチャガチャメガネ」というそのすさまじい語感の良さだろう。何処までも透き通った爽快感のある言葉だと思わないだろうか。ガチャガチャメガネ、である。私がもし楽器が出来る人間だったら「ガチャガチャメガネ」という名前でバンドを作ると思う。もちろんみんな伊達メガネをかける。絶対売れる。バンド名だけで売れる。「SEKAI NO OWARI」「ゲスの極み乙女」そして、「ガチャガチャメガネ」である。

さらにさらに面白いのが、Aさん自身もメガネかけているとのことであった。人の事をクソメガネとかガチャガチャメガネとか言うのに自分もメガネをかけているのである。例えば髪が無い人が同じく髪が無い人に「うるせーハゲ!」と暴言を吐くだろうか?それはないだろう。なぜならば自分もハゲているからであり、「お前もハゲだろうが!」と言われるのがオチだからである。

しかしながら「クソメガネ!」とか「ガチャガチャメガネ!」とかいう語感はそういうレベルを超越している。クソメガネ!とかガチャガチャメガネ!と言われてとっさに「お前だってメガネだろうが!!!」と反撃できるだろうか?私はできる自信がない。「ガチャガチャメガネ」とか「クソメガネ」という単語がとっさには理解不能なのである。人間の論理を超えたサウンドが地震のP波のごとく先行して脳内に響き渡っているのである。

人間はもっとストレートに、ピュアに生きていいと思う。思ったことをストレートに言葉に出せば良いと思う。でも、昨今だと「ストレートに言ったら差別だのパワハラだのセクハラだのモラハラだのになるじゃん」という懸念はあるかも知れない。でも、違う。本当に人間の深層心理をそのまま取り出したその言葉というのは、「クソメガネ」「ガチャガチャメガネ」のような非日常的なその人の世界固有の言葉になっているはずである。その様な言葉に対してパワハラだのセクハラだのモラハラだのという定義はそもそも出来ないと思うがいかがだろうか。

以上です。おわり。

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