米中対立の解説記事を読んでいたと思ったらシンギュラリティだった

この記事です。

中国の「極超音速ミサイル」開発が示唆する“米中軍事同盟”という意外すぎる近未来

昔は当ブログでもネット上の記事を見つけ出してきて、この意見は間違っていると論評するスタイルをやってたこともあります。最近はほとんどやりませんが。その理由はやっても意味ないなーと思ったからですね。

しかし久々に、昔少年マガジンでやっていたMMRみたいな珍説を見てしまったので、これはやべぇなと一人で笑っていたのですが、これを真に受ける人も世間には居るだろうなとも思いまして、せめて本記事を読んでいただいた方に関しましてはこの記事の内容はトンデモの部類ですよ、というのを書いていきたいと思います。

MMRはエンターテイメントですが、現代ビジネスでこういう記事を書かれるとちょっとネタなんだか本気なんだかわからなくなっちゃうよね。

というわけで記事の気になった点についてツッコミを入れていきます。本記事を読む前に、できれば上掲の記事内容も読むことをおすすめします。

音速は気温15度の場合、毎秒340mで、その5倍、すなわち毎秒1.7km以上進むミサイルのことを「極超音速ミサイル」と呼ぶ。ここまで高速かつ変幻自在な動きをするミサイルが飛んでくると、もはやアメリカの最新防衛システムでも、迎撃は不可能だ。

マッハ5以上と書けば良いと思いますが、ちょっと回りくどいような気がします。間違ってないと思いますが、そもそも極超音速ミサイルの厳格な定義は無いです。極超音速ミサイルの迎撃は不可能と言い切っていますが、これは不正確で、終末段階の拠点防衛に限れば現在のMD(ミサイル防衛)でも対処できます。極超音速ミサイルの探知と迎撃については、JSF氏による「極超音速兵器の探知迎撃手段」が簡潔かつ分かりやすい記事かと思われます。

以降、3ページまでは米中高官の発言を引用しつつ、簡単な解説を加えるという普通の内容が続く。

4ページ目から雲行きが怪しくなる。

田母神俊雄元航空幕僚長から、「21世紀において、国家の軍事力はその国の軍事予算に比例するということを肝に銘じておきなさい」と言われたことがある。

この言の真偽は私には評価できないが、しかし「田母神俊雄元航空幕僚長」という名前がちょっとひっかかる。氏については広くニュースになったので解説不要だろうと思われるが、有名な「田母神論文問題」についてのリンクも貼っておく。

決定的に雲行きが怪しくなるのは5ページ目で、

深圳のIT関係者から、こんな話を聞いた。
「半導体チップの小型化に伴い、ドローンも年々、小型化・軽量化していっている。おそらく近未来には、『ハエ型ドローン』が誕生するだろう。もしも『ハエ型ドローン』を100万機作り、AI技術を駆使して、それに強力な細密兵器を積んで飛ばせば、太平洋上に浮かぶアメリカ軍の巨大空母だって撃沈できるはずだ」

「深圳のIT関係者」とは一体誰なんでしょうか。発言者のバックグラウンドとセットで根拠のない展望を語るようなシーンはたくさんありますが、その場合は発言者の名前・所属・ポストからその情報の信憑性を推し量るしかありません。例えば「内閣総理大臣が消費税を15%にすると明言した」と報じられた場合はかなりの信憑性があるとほとんどの人は判断すると思いますが、「深センのIT関係者」ではマックの女子高生、ハイキングで出会ったドイツ人、電車で見かけたするどい疑問を提示する小学生と狼狽するママ、という程度の信憑性しか私は無いと思います。無いと思いますが、「深センのIT関係者」と書けば信憑性が高まるという筆者の考えが透けて見えるような気がしますが、皆さんどうでしょうか。

また、後段の「半導体チップの小型化に伴い〜」は意味不明です。ハエ型のドローンを100万機作ってどうやってバカでかい空母を撃沈するというのでしょうか。その方法は「強力な細密兵器」だそうですが、そもそも「細密兵器」なる言葉は私は聞いたことが無いですし、ググっても1件も情報がヒットしません。筆者の造語ではないでしょうか。

物理的に考えても明らかにこの主張はおかしいと思います。ハエ型ドローンが完成したとして、それにどれだけのペイロード(積載重量)があるのでしょうか。本当に昆虫のハエ程度のサイズだったとして、それが1kgも2kgもの荷物を運ぶなんて不可能だろうということは物理や航空力学に精通していなくとも、常識で分かるはずです。せいぜいが数グラムというオーダーになるのではないでしょうか。その数グラムの制約の中で、目標となる空母までの航法システム、動力を生み出すエネルギー源(バッテリ、化学燃料など)、遠く離れて動き続ける艦隊を補足・追撃するための足の速い推進機関、空母を破壊するための兵器などを搭載せねばならないのです。これでどうやって空母を破壊しようというのでしょうか。優秀なAIがあれば広い海原で現在位置が分かるわけでもないし、長距離を飛んでいくエネルギーを生み出してくれるわけでもないし、ましてや空母を破壊するテクニックをその場で思いついてくれるわけでもないです。

こうしたドローン万能論はネット論客によってよく語られますが、ドローンは万能ではなく、その局面でドローンよりも優れた兵器が存在することが多いです。中国が米空母打撃群を攻撃するという目的においても、少なくとも現段階では中国人民解放軍が導き出した答えがそもそも極超音速ミサイルであるDF-17であって、本記事冒頭で解説していた兵器です。

ただ、誤解のないように書いておくと大量のドローンによる飽和攻撃というのは荒唐無稽なアイディアというわけではなく、何年も前から研究されてはいます。しかしながら民生品に見られるようなクアッドコプター(4枚プロペラ)のドローンではコストこそ安いものの航続距離が短く、ペイロードがせいぜい数kg、動く目標を狙うには速度が遅すぎるといった課題があります。

一方で十分な速度とペイロード、航続距離を有したドローンはもはやミサイル以上に高価な機体も多く、例えばアメリカ軍が運用するMQ-9 リーパーという無人攻撃機はミサイルを発射する能力もありますがその価格は16〜32億円と言われています。これは高性能な軍事用ドローンで、1tを超すペイロードがありますし海上を航行する目標に対しての攻撃も試験されてはいますが、現状使われている対艦巡航ミサイルを代替するような能力も計画も今のところは無いでしょう。

こういった各種の障壁を乗り越え、ドローンが本当にミサイルよりも安くなったとするならばドローンによる同時飽和攻撃が可能になるのでしょうけれども、その見込みが今の所はっきりとあるかどうかはわかりません。これはドローンだなんだというよりは、安価な推進方法・燃料・航法システム・通信システムをどう作るかという話であって、「ドローンだから」という理由だけでゲームチェンジャーになることは無いと思います。

そして件の記事に戻りますと、筆者が論じているのは更に特殊な「ハエ型ドローン」なる謎の概念でありますが、ここまでの議論からそのアイディアが現段階で単なるアイディア以上の何者でもないことはなんとなく感じ取ってもらえるのではないかと思っております。

半導体チップで世界最先端を行く企業は、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)である。昨年から5nmの半導体チップの量産化を始め、来年は3nmの半導体チップを開発し、2025年には2nmの半導体チップを開発すると宣言している。
「nm」(ナノメートル)というのは、1mの10億分の1の単位である。人間の髪の毛の直径は約10万nmだから、髪の毛の直径の10万分の1が1nmである。つまり2nmの半導体チップと言えば、髪の毛の直径の5万分の1ということになる。
また、物質の一応の最小単位である原子の大きさは、0.1nm程度である。ということは、原子が20個並んだくらいの半導体チップを、TSMCは5年以内に開発してしまうのだ。

上記の文章はびっくりしました。この5nmとか3nmとかいう長さは何なのかと言うと、これは半導体プロセスルールの話です。「プロセスルール5nmの半導体」が意味するのは最小加工寸法が5nmという意味であって、配線幅(ゲート配線幅やその間隔)が5nmの分解能で製造できますよということです。ですから、これが小さくなるほど同じサイズの半導体チップにより多くの部品を乗せられるので嬉しいよね、というわけです。決して、最終的に出来上がってくるチップが5nmというわけではないのです。

そんなことは半導体の製造についての知識が無くても、身の回りの家電製品のサイズがどう変わっていったかを考えれば推測出来ることだと思います。本当に原子20個分くらいしか並んでいないチップが開発されようとしているならば、身の回りの電子機器はもっともっと軽く小さくなっているはずだという想像がつくでしょう。もっと言えば、高校物理程度の知識があって金属原子の特性を知っていれば、たった原子20個分の組み合わせで複雑な論理演算を行うデバイスなど作れるはずもないということも分かるでしょう。巨視的に考えれば、20個の銅配線と乾電池を与えられて、これで電卓を作れと言われているようなものです。

繰り返しますが、これは半導体の製造についての知識が無くても、実生活で得た知見や高校程度の理科系の知識があってちょっと考えればおかしいということがすぐに分かると思います。この文章がなぜ校閲を突破できたのか謎です。

そうなると、「ハエ型ドローン」どころか、「ウイルス型ドローン」だって作れてしまうだろう。日本ウイルス学会のホームページによれば、昨年来世界を席巻している新型コロナウイルスの直径は、約100~200nmである。つまり新型コロナウイルスの中に、TSMCの最新半導体チップを十分搭載できるのだ。
前述の深圳のIT関係者の話ではないが、「ウイルス型ドローン群」と「巨大空母」が対決した場合、ドローンに軍配が上がるというのも、肯ける話だ。

なぜドローンに軍配が上がるのか、筆者は何も説明していません。「俺の言ってる話の雰囲気でだいたい分かるだろ、ばかかおまえ?」と面倒くさい先輩が酔っ払って絡んできたかのような不快感を私は感じます。

それどころか、米中2大国はこの先、ある時点までは、互いに最大のライバルとして角逐するだろうが、ある時点を境に、逆に「米中軍事同盟」を結ぶ気がするのだ。

ここでタイトルにもある米中軍事同盟の話が出てきますが、その論拠は「気がする」というだけの心もとないものです。さらに言えば、なぜそんな気がするのか?すら最後まで読んでも意味がわかりませんでした。私は。

移動通信システムの「世代」(Generation)というのは、約10年毎に進化している。4Gを搭載したiPhoneが初めて発売されたのが2007年夏で、4Gは2010年代に世界中に浸透していった。同様に、現在の2020年代は、5Gが世界の隅々まで浸透していく時代である。
そうなると2030年代は、6Gが浸透していく時代ということになる。5Gから6Gになると、何がどう変わるのか? 

そして突然移動通信網の話が出てきます。益々意味がわかりません。脈絡のない場面がころころと移り変わるような夢を見ている気分です。

すなわち、現在われわれが持ち歩いているスマホが、メガネ型になるというのだ。

もう指摘するのもバカバカしくなってきますが、4Gとか5Gとかいうのは移動体通信網、具体的にはdocomoとかauなどといった移動体通信事業者が提供する、スマホなどに用いられる屋内外の通信網の世代を示す言葉です。それとスマホがメガネ型になるのは全く関連がありません。「全裸で野良猫を撫でると家系ラーメンが不味くなるというのだ」くらい意味がわかりません。

メガネ型デバイスそのものについても、情報を表示する方法としては合理的なものの、操作方法が非常に限られるので私は流行らないような気がしますが、皆さんどうでしょうか。

それにしても、「すなわち、現在われわれが持ち歩いているスマホが、メガネ型になるというのだ」という文章には味わいがありますね。

続く2040年代の7Gの時代には、何が到来するのか? それは、人間の脳に半導体チップを埋め込む時代になるというのだ。

ここらへんで私の脳裏にMMRのキバヤシが浮かんできました。「マヤ文明は人間の脳に半導体チップを埋め込む時代の到来を予測していたんだよ!!」「な、なんだってー!!!!」って。

人間の脳に電極を埋め込んでどうこうするという実験は色々な研究がなされていますが、まあもう言わなくてもいいとはおもいますが、それと移動体通信網の世代とは何も関係ありません。

だが実際には、それは「地獄へ向かう門」である。なぜなら2045年前後に、シンギュラリティ(Singularity)を迎えるからだ。
「AIが人類の知能を超える技術的特異点」のことだ。この時代には、量子コンピュータでビッグデータを処理する時代になり、チェスや将棋だけでなく、人類は何もかもAIにかなわなくなる。

しつこいですが、移動体通信網の世代とシンギュラリティは何も関係ありません。

シンギュラリティという言葉自体、まだSFの世界の言葉だと私は考えています。そもそも2010年ごろから急激に盛り上がってきたディープラーニング、AIなどといった一連の技術をごく簡潔に言うと、「大量のデータセットからそれらしい答えを導き出してくれる一連の計算」になると思います。これらの技術はそれらしい答えを提示してはくれますが、なぜその答えになるのかを教えてはくれません。また、人間のように全く異なる考えを結びつけて新しい着想を生み出すことも出来ません。大量の論文を読んで新しい価値のある論文を生み出すこともありません。ひたすら大量のデータセットを元に、それと似た統計的な分布になる答えを出力する、ただそれだけの技術なのです。

7G時代が到来したらシンギュラリティが発生するなどと主張している人はおそらく世界広しと言えどもこの人だけだと思います。

シンギュラリティの時代には、われわれ人類の脳内に、半導体チップが埋め込まれている。つまりAIからすれば、そのラインを使って、一気呵成に人類を「洗脳」し、支配下に置くことができる。

もしかしたらそういうこともあるかもしれませんが、その蓋然性の高さを論じる材料は皆無です。なので現時点ではSF映画の使い古されたネタ以上の意味は無いと思います。

いまのところ、世界でこうした議論は盛んには行われていない。その最大の原因は、主に米中ロの3大国が、独自に研究している最新鋭のAI兵器の軍事機密を秘匿しているからだ。

私が気にしている懸念はほとんど世界で議論されていない。その理由は国家など巨大組織が真実を隠蔽しているからだ。こういう論調のものを人々は陰謀論と言ったりします。

これは100年先の未来ではなくて、20数年先の未来である。だから日本人も、「中国製極超音速ミサイル」の心配をするよりも、シンギュラリティの心配をすべきではないかというのが、私の結論である。

お願いですから記事内容に即した記事タイトルを付けてくれませんかね。