紙文化が無くならない理由

ちょっと時期を逸したネタですが…。

Twitterで「紙文化が無くならない理由は印鑑文化にある。印鑑文化を滅ぼせばペーパーレスは実現できる」みたいな論を見ましたが、だいぶ支持が集まってる感じでした。

いや、そうですかね?私は印鑑文化とはあんまり関係ないし、印鑑や紙を滅ぼすべきとも思いません。なんか色んなものを混同して何となくでバズりそうなことを言ってるようにしか思えず、そういうところが一部のツイッタ民のよくないところだと思います。

で、それを説明するのは長くなるので記事に書きました。

まず、こないだ(といっても去年の話ですが)全国印章業連絡協議会というところが政府のデジタル・ガバメント計画を撤回するよう要望書を送ったそうです。

政府のデジタル・ガバメント計画について要望書を提出

〈1〉デジタル・ガバメント計画の「法人設立における印鑑届出の義務の廃止」を再考し、オンライン登記後に印鑑届出を行うなどの方法で印鑑届出の義務を残すこと。
〈2〉「行政手続きにおける本人確認での押印の見直し」など、デジタル・ガバメント計画において押印不要に繋がる施策について、印章業界の意見を交えた上で再考すること。
〈3〉民間同士で社会慣習上おこなわれている押印と書面による取引について、政府が書面によらないデジタル取引を促す「民民手続きにおけるオンライン化の推進」を白紙撤回すること。

らしいです。詳しくは原文を見ていただきたいのですが、Twitter上ではポジショントークだろうという見方が大多数でしたね。あとは、この要望書には社長印による代理承認を堂々と認めてしまっているような文言もあり、そこも批判されていました。

それ以外にも印鑑は「偉い人にお辞儀してるように斜めに押せ」とか良く分からんルールがあったりと、何かと批判の対象にされる側面があります。とりあえずそういったことが念頭にあっての発言なのかなという気がします。

しかしながら、これは「Twitterで話題に登ったテーマを手繰って人続きにしてバズりそうなことを言ってみた」だけで、別に紙文化が無くならない要因を印鑑のみに求めるのは無理があると思うんですよ。

なぜ紙文化が無くならないかと言うと、

  • そもそも1枚の紙に必要な情報を分かりやすくまとめる「帳票」という文化が強く根付いている
    • 「帳票」という文化は、いわゆる「Bento」にも似ていて、必要なことをきちっとした表と罫線にまとめて分かりやすく仕上げるという意思と結びついている(それが実際出来ているかどうかはさておき)
    • 「帳票」と紙は密接に結びついている。なぜならばそれぞれの帳票はA4だったりA3だったりと用紙の規格を念頭に置いて設計されるし、印刷できることが暗黙的に前提されることもほとんど
  • そもそも紙自体が優れた媒体である
    • 軽い
    • 安い
    • どこでも印刷設備がある
    • 安価
    • 大きなものから小さなものまで広く規格化されてる
    • 折りたたんでポケットに入る
    • 電源が要らない
    • 誰でも扱え書き込みできる
    • 安易にコピーできる
    • 印刷解像度は一般的なディスプレイよりも大幅に高い
    • 目に優しい
    • 物理的な媒体として存在するので人間の脳に対してフレンドリーである

という感じだと思う。

それを理解した上で、そもそもなぜペーパーレス化が必要なのかと言えば、

  • コスト圧縮
  • 環境負荷軽減

が当初の目的であったと思われるが、最近は

  • 最初からデータを電子化しておくことで利便性を向上しておく
  • 業務効率化。手で書いて紙持って承認印ペッタンおつかいゲームをやるよりもキーボードを叩いたほうが早い

が目的であることが多い。

以上を踏まえた上で、じゃあペーパーレス化ってつまり何なのかというと 「金や手間を節約したい」というのが主なモチベーションで、紙文化絶対滅亡させる、みたいな話ではない んですよ。

冷静に考えてみればわかりますよね?たとえば工事現場に貼ってる工程表をタブレット端末にしたところで誰がどう嬉しいですか?半期に1回変わるか変わらないかの駅時刻表をデジタルサイネージにリプレースして投資したコスト分の利益が出るというストーリーを書けますか?街の不動産屋のおばちゃんが印刷してきた契約書に印鑑でペッタンする仕組みを全部タブレットと電子承認に置き換えることがそんなに幸せですかね?

ペーパーレスなんて困ってからやれば良いんですよ。納品書大量に出さないと行けないから困る、毎回請求書を印刷して送付するのが面倒くさいから何とかしたい、という問題にぶちあたって初めて、自前でシステムを構築するなり、Misocaやfreeeを使うなりすればいいのであって、今、紙を印刷してOKとか、それに印鑑を一個ぺったんすればOK、みたいな業務フローで困ってないのであればそれを変える必要なんて無いですよ。

だから何でもかんでもペーパーレスなんてのは私に言わせればIT屋のエゴと思い上がりだと思うんですよね。IT関係の人でよく見る本当に良くないことの一つが、それがレガシーである(しかもその定義も自分たちが恣意的に決めてる)からという理由で、それは古くて悪いもので新しくて良いものに転換すべきという勘違いですよ。

レガシーというのは大体が「文化」に限りなく近い何かになっているのは世の常なのであって、その文化や慣習を外から変えるのはIT関係の人が思っている以上に膨大なエネルギーを必要とするんですよ。だって相手は人間だったり、人間が組織化した集合体だったりするからね。コード一行変更したら修正完了、みたいな世界とは違うよね。

というわけでまとめると、

  • 紙文化が無くならないのは印鑑文化のせいじゃなくて単純に紙を使うのがいろんな場面で適しており、それを完全に代替した上位互換の製品が世の中に無いから
  • 印鑑文化なり、紙文化なり、それを変えていくのは非常にコストのかかる作業で、困ってないなら現状維持のほうがよっぽど良い
  • それを「古いから」と無理やり変えるべきなどと外野がわーわー喚くのはちょっと違うよね

という感じになります。ご査収下さい。