【エビ研】第5回 定量的にミナミヌマエビの繁殖環境について考える

今回は掲題のようなことを試みます。

エビ研を結成しました
エビ研 〜10日目
エビ研〜もしかしたら最終回
第4回 単に餌が足りてないのでは

全然情報がないミナミヌマエビの繁殖環境

過去の記事でもずっと書いているが、ミナミヌマエビの繁殖方法というのは少なくともネット上には全く情報が無いと言って良い。というか、ネット上に限らず私は見つけられなかった。ちなみにAmazonで「ミナミヌマエビ」の「書籍」を検索するとアレな本が大量に出てくるのだが、これってどうにかならないんだろうか…。著者の一人の「蝦沼 ミナミ」氏に引っかかってるみたいだ。

まあそれは置いといて、では学術論文はどうかと言うと、これも前回書いたとおりで、陸封エビの研究自体があまりにもありふれた生物であるためかほとんどなされていないようだ。(両側回遊型のエビならばやや論文の数が多い)

であるからして、私が知りたい情報はおそらく一部のミナミヌマエビを大量に養殖しているペットショップの組織内のノウハウとしてしか存在しないという状況だ。

いやいや、ネットでミナミヌマエビの飼育方法なんか探せば山ほどででくるじゃんと思われるかも知れないが、私が求めるのは「定量的」で「再現可能」な繁殖環境の構築方法である。そういう情報は皆無である。すべてのサイトで解説している内容はは「エビが死ぬ理由は水合わせの失敗です」「脱皮不全は殆ど起きません」「餌はあげなくてOKです」などという、自身の飼育経験や真偽が定かではないネット上の情報の寄せ集めの再掲示に過ぎない。これらは私に言わせると情報量が皆無である。なぜならば、たとえば「餌はあげなくてOKです。なぜならば餌の食べ残しやコケを食べるからです」などという事は必ずと言っていいほど書かれているが、ある水槽に置いてコケの発生量も餌の食べ残し料も、水換えの頻度や給餌量、光量の積分、生体の量などに大きく左右されるし、そもそもすべての種類のコケをミナミヌマエビが食べるわけでもない。一律で餌は不要などといい切ることは出来ないはずだ。

方法

ではどうすれば「定量的」で「再現可能」な方法を提示できるのか。それは関係すると思われるパラメータを列挙して目的の変数をエビの期間当たりの死亡数だったり、抱卵個体数だったり、生まれてからの生存期間だったりにして重回帰分析をすればよろしい。

と、言うのは簡単だが、これを行うには水槽をいくつも用意した上で実験のためのエビを大量に用意し、実験を重ねなければならない。そんなことは一個人ではやってられないので他の方法で妥協することとする。それは「飼育しているミナミヌマエビの総数が繁殖により増加していく状態」をまず構築し、その時の水質パラメータ、給餌量、照明点灯時間などをすべて記録する。そして、また別の水槽で全く同じ条件で環境を構築し、状況を再現できれば「定量的」で「再現可能」な繁殖環境の少なくとも1つが提示できたと言って良いだろう。

先例の調査

まず参考として某通販サイトでミナミヌマエビを入手し(そもそもミナミヌマエビを売ってる某通販サイトは2〜3しかないのだが)、そのときに生体が入っていた水の水質をチェックした。ここに入っている水は店舗の飼育用水槽に入っていた水と等しいはずで(出荷のたびにわざわざ水合わせという長い時間がかかる作業を挟むわけがないから)、であれば少なくともこの水の水質はミナミヌマエビの飼育と繁殖に適したものだと言える。

で、チェックした結果は以下だ。1ヶ月の期間をあけて2回購入・2回測定し、どちらもほぼ同じ数値だった。

NO3- : 30 [mg/l]
NO2- : 0 [mg/l]
GH: 9 [°d]
KH: 4 [°d]
PH: 7.0
CO2: 14.01 [mg/L]
電気伝導率: 207〜212 [ppm]

亜硝酸・硝酸塩・二酸化炭素に関しては、運搬の途中で上昇している可能性が高く、「少なくともこの値ならばOK」とは言えないことに注意したい。

現時点での経験からくる予想

ほとんど「?」だが…。最終的に以下の表が埋められ、かつこの条件で再現可能ならばこの一連の記事でやりたいことは完了となる。

理想値予想 成体生存率 孵化直後生存率 抱卵数 備考
NO3- [mg/l] 低いほど良い -- - 20mg/L 以下が理想?
NO2- [mg/l] 低いほど良い 測定器具の精度限界で常に0しか計測されないので良くわからない
GH [°d] 8以上? ++ + 0〜5程度ではおそらく脱皮不全
KH [°d] 3以上? ++ + 0〜2程度ではおそらく脱皮不全
PH PHよりもCO2濃度、硬度に関係がありそう
CO2濃度 [mg/L] 低いほど良い? --- 20 mg/L 以上だと死に始める?
酸素濃度 [mg/L] 高いほど良い 高いほど良いと思われるがエアレーションを続けても死ぬことは多々あるので決定的なパラメータではない
電気伝導率 [ppm] 150〜200前後が良さそう、指標としては硬度の代替として使える?
給餌量 多いほど良い + + ++ 多いほど良い、は確度が高いと思われる
照明量 関係ない気がする
水温 極端に高水温・低水温でなければあまり関係ない?

+/-: それぞれ正・負の相関が「ありそう」という予想。数が多いほどその確度が高い

その他雑感

水質の測定にはなるべく液体の試薬を使用した。テトラの6 in 1テストペーパーはほとんど当てにならない。特に亜硝酸・硝酸塩は感度が低すぎる。

給餌量はおそらく多いほど抱卵個体が増える。生存率、特に深直後の生存率にも関わってくる可能性は高そう。ただし、当たり前だが水質管理には注意が必要。

給餌無しでミナミヌマエビが死なない程度のコケを発生させることは一般的には難しいと感じる。なぜならば、殆どの場合でミナミヌマエビはコケ取り生体として投入されるのであり、そのような水槽では明らかに コケの発生量 < ミナミヌマエビのコケの捕食量 という関係が成り立ちやすいから。であるから、「ミナミヌマエビに餌は要らない」は個人的には懐疑的。

硬度は脱皮不全と関係すると言われ、確かにその傾向があるように思える。脱皮不全が疑われるかどうかは単純に脱皮した抜け殻がどのくらいあるか、によって判別できる。私の経験則だと、30〜40匹以上がいれば毎日少なくとも1つは新しい抜け殻を目にする。数日に渡り脱皮した抜け殻が見られないという場合には脱皮不全の可能性がある。

実験したところ、自宅の水道の硬度はKHが1〜2[°d]程度、GHが3〜4[°d]程度であった。このような環境では、ミナミヌマエビは新しく購入して水槽に投入した直後から1週間ほどは脱皮を頻繁にするが、その後は脱皮回数が減り、抜け殻がまったく見られない日も多かった。このため、私は硬度を上げるために外部フィルターに大粒のサンゴ砂を、ADAのソフナイザー(イオン交換樹脂を入れたガラス管に水を循環させる器具)にサンゴ砂を入れて循環させている。これで硬度をKH 4〜5[°d]程度、GH 7〜11[°d]程度にまで上昇させている。

酸素濃度の確認は比較的容易だ。酸素濃度が低いとミナミヌマエビは高いところに集まってくる。魚の鼻上げに似た現象だろう。私はカージナルテトラ、レッドテトラと混泳させているが、これらの魚が鼻上げする前からミナミヌマエビは酸欠の症状を呈する。酸欠に対する耐性は、こういった小型魚よりは弱いようだ。

二酸化炭素濃度については成体エビの生存率と大きく関係しているように思う。具体的には、25 [mg/L]あたりを超えると1日に4〜50匹いるうちの2〜3匹ずつが毎日死んでいき、少なくとも14 [mg/L]程度だとそういった現象は見られない。酸欠だと一斉に症状が出るが、こちらは一定数ずつ死んでいくので個体によって耐性にかなりばらつきがあるのか、それか二酸化炭素に直接関係しているというよりは添加に伴う急激なPHの変動に関係しているのかもしれない。ただ、硬度による緩衝作用が高かろうと低かろうと(つまりPH変動量が高かろうと低かろうと)死亡数に大差は無いように見えるので、今のところは二酸化炭素そのものが悪影響を及ぼしているという説を支持している。

エビの死に方について。ミナミヌマエビの死に方を検索すると、「ポツポツ死」なるものが語られている。ポツポツ死の原因は「ダメージの蓄積」だと語られることが多いがこれは個人的にはとても懐疑的。なぜならばミナミヌマエビの身体構造は非常に単純で、エネルギーを蓄積しておくような機構も高等な生物に比べると低レベルであるがために、ひっきりなしに餌を取り続けていかなくてはならない。このような状態でそもそもダメージを「蓄積」しておけるとは思えない。すごく感覚的&経験的な話だが、ダメージを「蓄積」している期間があるとすれば、せいぜい1週間程度と思われる。これは、ミナミヌマエビを通信販売で買ってから水槽に投入した直後から1週間程度は死亡率が激増することから、そのように予測している。(この死亡原因が水質変動のショックであろうと輸送時の環境悪化であるかはここでは議論の対象でない)

もう一つ、エビが赤くなって死ぬ場合と白くなって死ぬ場合の2種類があると言われる。私が見たパターンのほぼ全ては「白くなって死ぬ」パターンであったが、こないだ初めて「赤くなって死ぬ」というパターンを目にした。それは添加剤を使って硬度を上げすぎてしまったとき(水草が溶けるほどだった)で、このときに死んだエビはすべて赤くなっていた。硬度を下げてからは一度も見ていない。もしかすると、死んだときのエビの色は硬度と大きく関係があるのかもしれない。ただ、死亡の原因が硬度と関係しているかどうかは分からない。