【補足】【質問#116】ATと回転数について

【質問#116】ATと回転数についての補足です。

前回の質問で回転数が上下する状況は「マニュアルモード時」というのを見落としていました。何人かの読者の方から同様の指摘を受けて気づきました、すみません。
ギアが変動しない(厳密にはしにくい)マニュアルモード時であるならば別の理由も考えられます。

まず、マニュアルモードで走行中に上り坂などに差し掛かり回転数が上下する時、ギア(メーターパネル中の走行ギア段数表示)は変わっていますでしょうか?

ギアが変わっている場合

もしギアが変わって回転数が数百rpmというレベルで変動するならば、前回の記事に書いたとおり、現在のギアが担当する領域の限界を超えたためにギアが切り替わって回転数も変わった、という理由かと思います。マニュアルモードはなるべくドライバーが指示した走行ギアで走ろうとしますが、それでも前回の記事で説明したような各ギアの作動領域は決まっているのでそこから外れるとマニュアルモードであっても勝手にギアが変わる車種が多いです。

ちなみに、VWのDCTやSKYACTIV後のマツダ車ではこの「なるべくドライバーが指示したギアで走る領域」がすごく広いです。私のCX-5は上はレブゾーンギリギリまで回り、(そこまで回るとそアクセルをいくら踏み込んでもその回転数を維持する動作になる)下はあんまり試したことはないですが、上り坂でべた踏みしても減速していくような高いギアでもなかなかギアが切り替わらないです(1000rpm以下まで下がって初めてギアが切り替わるような記憶が…)。

なので、ポロでコロコロ切り替わらないというのはそういうことです…と書こうとしたのですが、あまり詳しくないのですが調べたら9N型のポロはDCT搭載前なんですね。この時代のポロに乗っていた変速機がどうであるかは全然知らないのですが、前回も書いたようになるべくドライバーが指示したギアで走ろうとする制御をしていたのではないでしょうか(マツダのSKYACTIV世代の車のように)。

ギアが変わっていない場合

いわゆる「トルコンAT」という変速機の場合、トルクコンバータというクラッチと変速ギアを兼ねる機構を前段に置いた遊星ギアが変速機として搭載されています。余談ですが、近年の6速以上の多段ATでも基本的な構成は変わっていません。

下記はアイシンAWの10速ATですが、左端に位置する白い円盤のようなあたりがトルクコンバータですね。


image from アイシン・エイ・ダブリュ株式会社

さて、そもそもトルクコンバータがどういう動作をするかというと、下図を御覧ください。


image from AUTOMOTIVE TRANSMISSION by G.Elavarasan

トルクコンバータは前述したとおり、そして名前の通り、これ自体が減速ギアとしても動作します。ではどのようにして変速比が決まるかと言うと、入力側(エンジン側)と出力側(タイヤ側、遊星ギア側)の速度比に応じたトルクが得られるようになっています。

タイヤ側の回転数に対してエンジン側が多く回転している場合(グラフ左側)のときは大きな変速比(ローギアな状態)が得られ、このグラフだと最大で2.3くらいの変速が得られますね。

その状態から車の速度が上がっていって、タイヤ側の回転数とエンジン側の回転数が一致すると変速比は1になるような仕組みになっています。

トルクコンバータはこのようにそれ単体で無段階の変速機として動作します。一種のCVTと言っても良いかもしれないですね。この変速機構は後に続く遊星ギア(例えば5ATであれば5段の変速ギア)とは別個に動いているので、マニュアルモードで走行中のギアが固定であってもトルクコンバータの変速比分は回転数が上下する可能性があります。

ちなみに、これを読んだ方の中には「トルクコンバータで変速できるなら遊星ギア要らんやんけ、トルコンだけで十分やんけ」、と思う人もいるかも知れませんが、トルコンだけでは大きな変速比が得られないので後段に多段の遊星ギアを設けたり、ベルト&プーリー式のCVTを設けたりしてるわけです。

ただ、このトルクコンバータによる変速は質問者の方がおっしゃるような「回転数が上下する」という表現とはあんまりマッチしないような気もします。回転数が上下する、という響きからは瞬間的にタコメータの針が触れる、というような印象を受けますが、トルクコンバータによる変速は線形なので瞬間的な動作はしないはずです。

もし、マニュアルモードでギア一定で走行中に瞬間的にタコメータの針が触れるような動作で回転数が上下したのならば、それはロックアップしたり、ロックアップが外れたりといった制御が入ったのかもしれません。

ロックアップというのは、トルクコンバータをバイパスして入力軸と出力軸を直結するクラッチ(乾式単板…のはず)のことです。前述のトルクコンバータの特性図を見ていただきたいのですが、トルクコンバータでは特に変速比が大きい領域で顕著に伝達効率が悪化します。これは燃費に効いてくるので、最近の車種ではなるべくトルクコンバータをバイパスしてロックアップさせようとする制御を行います。SKYACTIVで「ロックアップ領域をほぼ全域に拡大した」と言ってるのがこれですね。

ちなみに、これを読んだ方の中には「ならトルクコンバータなんて要らんやんけ、クラッチの後段に遊星ギアで良いやん」と思う人もいると思いますが、それをやったのがスズキのAMT(Automated Manual Transmission)です。ではさらに踏み込んでなぜ多くの自動車メーカーがそれに追従しないかと言うと、トルクコンバータがあると便利なこともあるからです。例えば、前述したようにトルクコンバータはクラッチとしての役割も果たすと書きました。トルクコンバータは流体継手とも言いますが、その名の通り流体(具体的にはオイル)でトルクを伝達しています。なので、変速ショックを流体で和らげるという効果もあるんですね。ですから、スズキのAMTは通常のトルコンATに比べて変速ショックが大きい傾向にあると聞きます。

ということで、トルクコンバータにロックアップ機構が採用されている車種(スカイアクティブ搭載前のBLアクセラもそうであったはずです)でロックアップが働いたり外れたりする際には、瞬時に回転数が変動する可能性があります。ロックアップ部分は流体ではなく乾式クラッチなので。

というわけでまとめると、

  • マニュアルモードでも勝手にギア表示が変わっているなら前回の回答の通り
  • ギア表示が変わってないのに回転数がじわじわと滑るように変わっていくならおそらくトルクコンバータのせい
  • ギア表示が変わってないのにタコメータの針が瞬時に上下するようならおそらくロックアップの作動境界を通過したため

という感じになります。