クーラーボックスを科学するー保冷剤は無駄?

キャンプに行く時のクーラーボックスについて科学的に考えてみます。

序論

ネットでクーラーボックスについて色々調べていたのですが、ほとんど定性的な評価で感覚的にこれは良い、これはダメ、高くてオシャレなクーラーボックスはとても良い。みたいな記事が多く、あんまり当てにならなかったのでちゃんと科学的に調べてみたいと思います。

ここで私が議論したいのは「低温を保つ能力と方法」です。本記事ではこれをクーラーボックスの性能と呼びます。

キーファクター

以下の要因が性能に大きく関係しています。

  • 断熱材
  • クーラーボックスの大きさ
  • 保冷剤の量
  • 気密性

それぞれ考えていきます。

断熱材

クーラーボックスは箱の内外の熱移動を極力少なくなるようにしたボックスです。断熱材として利用されるのは発泡スチロール、発泡ウレタン、真空パネルなどです。ここには書いていないのですが極端に安い製品の中にはどうもクーラーボックスを構成する壁面が中空になっていると思われるものもあり(押すと大きく凹む、分解していないのではっきりとは言えない)、それはもう性能的な面から論外(宿泊を伴うキャンプ用としては明らかに不適)とします。

それぞれの良し悪しは熱伝導率[W/mK]で比較できます。ググってよく用いられている値を調べたところ、以下のような感じでした。

  • 発泡スチロール: 0.040
  • 発泡ウレタン: 0.026
  • 真空パネル: 0.0025〜0.0050

断熱材の厚さを熱伝導率で割ると熱抵抗値[m^2K/W]になるので、実際の断熱性能はこの値で比較することになります。発泡スチロールは発泡ウレタンと同一の断熱性能を出すのに1.5倍程度の厚みを持たせなければなりません。しかし、実際の製品は内容積との兼ね合いもあるため、3〜5cm程度の厚みになっていることがほとんどです。

断熱性能で言えば真空パネルが最も優れています。文字通り桁がひとつ違います。断熱性という点では発泡ウレタン製の製品が真空パネル採用のクーラーボックスに敵うことは無いと思われます。

が、キャンプ向けのクーラーボックスで真空パネルを採用しているものは私の知る限り無く、釣用のクーラーがメインになります。魚を運ぶという運用上、保冷性能の欠如がクリティカルな問題になるからでしょう。釣用のクーラーでもキャンプに使用は出来ますが、基本魚を入れることを想定しているために高さを抑えた上で平たい箱になるような設計をしていることが多く、500mlペットボトルを立てて入れることが出来なかったりするので注意が必要です。

ちなみにクーラーボックスと言っていますが、クーラーボックス自体に冷やす能力があるわけではなく単に断熱性の高い箱なので、暖かいものを保温する能力にも優れています。私が小さい頃学研の「学習と科学」の科学の方を購読していて、それで「夏場にアイスキャンディーを溶かさずに運ぶにはどうすればよいか」というページがありました。選択肢は、「そのまま運ぶ」「うちわで扇いで運ぶ」「タオルでくるんで運ぶ」の3つであり、私は「これはうちわだろ。扇風機涼しいし」と思ったところ、うちわで扇ぐのが最も溶け、タオルでくるむのが最も溶けないという答えでした。

私は大層納得が行かず、「なんでや!毛布に包まったらあったかいやんけ」と不服だったのですが、それはつまり断熱性とは熱移動を防ぐ能力であり、暖かさを保温する能力と同じということなんですよね。毛布やタオルでくるむと断熱性が高いのは、空気がそもそも断熱性が高いものの、空気が満たされた空間だと熱対流によって積極的に熱交換が進んでしまうために、空気を物理的に移動させないようにする構造のもので覆うことによって対流を発生させないという原理です。発泡スチロールと発泡ウレタンも基本的に原理は同じです。

真空パネルの断熱性が極端に高いのはその名の通りパネルが真空で対流が発生しないからです。これで熱移動がゼロにならないのは、真空パネルと言えども内部が完全な真空ではないことと、熱は対流だけでなく放射(赤外線など)によっても移動するからです。宇宙が真空でも太陽の暖かさを感じるのはこういう理由です。放射を反射させるために真空パネルにアルミを蒸着させて鏡を形成させたりもします。昔の割れる魔法瓶って内側が鏡みたいになってましたよね?そういう理由です。

余談ですが、自分の娘に上記のアイスを運ぶ問題を出したところ、「うちわ!仰ぐと涼しいから」と答え、「残念、答えはタオルでしたぁ〜」と言うと「なんで!?毛布にくるまると暖かいじゃん!!!」と不服なようでした。

クーラーボックスの大きさ

クーラーボックスの大きさは大きければ大きいほど保冷にも有利に働きます。大きい冷蔵庫の方が電気代が安い理由と同じですね。体積は3乗のオーダーで増えていきますが、表面積は線形のオーダーでしか増えていかないからです。ただし、それは後述しますが十分な量の保冷剤があるときに限ります。

クーラーボックスが大きく余剰容積があればその分保冷剤も沢山入れられるので運用上の保冷時間を伸ばすことも用意です。

とは言っても、車の大きさなどの都合上、無制限にでかいクーラーボックスを運用できるというわけでもないので限界は生じます、

保冷剤の量

先程述べたとおり、保冷剤は多いほど保冷時間が長くなります。ですから、保冷剤は詰め込めるだけ詰め込む(保有している分、もしくは重量が許す限りという意味)のが良いということで特に悩むところがないと思います。

議論の余地があるのは保冷剤の種類でしょう。

保冷剤は市販されている板状のものや、ケーキを買った時に付いてくるような袋に入ったジェル状のものなど色々あります。キャンプ用ではよく板状のプラスチック容器に入った保冷剤を使う人が多い…というような印象があるのですが、いかがでしょうか。

そのような保冷剤を調べてみると、パッケージには「-15℃の温度を持続」などと書いてあり、実際使用したひとの感想などでも「キンキンに冷えます!隣の食材が凍ってしまいましたw」などとちょっとオツムの弱そうなレビューが書いてあったりします。一方で、安上がりなのはペットボトルの水などを凍らせて保冷剤として利用する方法です。これは保冷剤と比べてどのような差があるのでしょうか。

保冷剤の保冷力という言葉を科学的な言葉で説明するならば、「常温(20℃くらい)になるまでに吸収する熱量の大きさ」ということになるかと思います。これを定量的に説明できるパラメーターは、比熱容量と融解熱です。比熱容量とは単位重量あたりの物質を1K(℃)上昇させるのに必要な熱量で、単位は実用上[cal/gK]が使われることが多いです。融解熱は単位重量あたりの物質を個体から液体の状態に遷移させるための潜熱で、単位は[J/g]が使われます。小学校の理科で氷が液体になるときの温度変化を示したグラフを見ましたね?そのグラフは氷が水になる0℃のところでしばらく0℃のまま温度が変わりませんでしたね?あれは個体の氷から液体の水に変化するために潜熱を吸収している期間ということです。

保冷剤の性能を高めるためには比熱容量と融解熱の大きな材料を選ぶ必要があります。実は比熱容量も融解熱も非常に大きく、かつ手に入りやすい材料があります。知りたい?知りたいですか?知りたいよね〜。

実はそれは水(氷)です。

水といくつかの物質のデータ比較表

比熱容量の比較

これらの値は実験的に導き出したもので、理論的に計算で導き出したものではないです。氷(水)の比熱容量や潜熱が大きい理由は水素結合が関与してるんじゃないかとか諸説あるみたいですが、ともかく、氷は保冷剤としてかなり優秀であるということは言えるでしょう。水や氷を超える性能の保冷剤は中々無さそうです。

では市販されている保冷剤とは何なんでしょう。パッケージを見てみると「天然高分子」などと書いておりいまいち意味が分かりません。たぶん、保水性能があるポリマーを使用しているということだと思うのですが、そのポリマーに染み込んでいる液が何なのかっつう話を知りたいのに、ダメだなーお前は。誤魔化しだよそれ。とか思うのですが。でもたぶん想像するに、単に凝固点を下げるための何かを混ぜた水だと思われます。水の保冷剤としての性能がこんなに優秀でかつ安価なのにこれを利用しないわけはありませんから。

つまり市販されている保冷剤とは、単に凝固点が下がったジェル状のほぼ水である、と私は予想しています。

すると氷を保冷剤に使った場合とで何が違うかと言えば、水が0℃で融解熱を吸収し始めて0度を維持し続けるのに対し、保冷剤は-15℃付近を維持し続けるということです。ただ、吸収する熱量の総量は大差無いと思われます。したがって、常温まで達する時間を比較すれば同等になるはず、と私は信じています。まず、間違いないと思います。めんどくさいので実験はしませんが。

多くの食材は0℃くらいを保っていれば問題ないでしょう。-15℃を維持していて欲しいというのは、例えばアイスクリームとかですね。サーティーワンでアイスを買うとドライアイスが付いてきて、ケーキ屋でケーキを買うとジェル状の保冷剤が付いてくるのはそういう理由です。キャンプでアイスを食いたいというならば保冷剤が必須ですが、そうでなければ保冷剤をわざわざ買う必要は無さそうです。

では、一般的なキャンプにおいて板状の保冷剤が無意味かと言うとそういうわけでもないです。私は板状に整形されているということ自体に意味があると思っています。2Lペットボトルを凍らせるとなると冷蔵庫の中でもかなり容積を食いますし、クーラーボックスの中でもかなり邪魔になります。凍って膨張したペットボトルは丸くなりますから、クーラーボックスの充填効率に悪影響を及ぼします。であれば、薄くて凍らせやすい保冷剤を利用するメリットはあります。

そういった性質を承知して使っているのなら良いのですが、どうもググった限りでは「1Lの氷よりも500gの保冷剤のほうが保冷力がある」みたいな文脈で語ってることが多く、正確な表現とは言えないので書いてみた次第です。中にはどうも氷は0℃以下には冷えないと思っている人も居るらしく、もうちょっと勉強したこと活用しようぜと思った。

気密性

最後に気密性です。断熱性を最優先にするのなら蓋は付けるべきではありませんが、蓋を付けない箱があってもクーラーボックスの用を為さないので仕方なく蓋は付けることになります。蓋を付けると気密性が悪化します。気密性が悪化すると外の熱が空気ごと流入しますので断熱性はかなり悪化します。

キャンプ用のクーラーボックスは殆どの製品で気密性が悪いです。そもそもシーリング用のゴムすら付いていない製品がほとんどです。別記事でも書きましたが、どうもアメリカで遊んでいてクーラーボックスに閉じ込められて死亡した子供がいるらしく、それが原因で規制がかけられたらしく、米国産製品(コールマン、イグルー等)については特に蓋の密閉性と耐久性が低い印象を受けます。

ただ気密性については、蓋の部分にホームセンターでよく売っているような、窓やドアの気密性を高めるためのテープみたいなものを貼っておけば簡単に改善可能かと思われます。

クーラーボックスの運用

次はクーラーボックスの運用についてです。

予冷

クーラーボックスは大きいほど保冷効果があると書きました。しかし、その効果を発揮するにはいくつか条件があります。まず、クーラーボックスが大きいほど、クーラーボックス内部の空気と内壁を冷やしておく必要があります。クーラーボックスを使用する前は当然内部も常温なので、まずは内部を冷やす必要があります。クーラーボックスの大きさに対して入れる食材が少なく、かつ、保冷剤が多数用意できるときはあまり関係ないのですが、そうでない場合はクーラーボックスの中に保冷剤を予め入れて冷やしておき、十分冷えたところで保冷剤を取り除き、改めて食材と別の保冷剤を詰め込むという方法が有効です。

これもググると、大きくて高価なクーラーボックスと小さい発泡スチロール製のクーラーボックスの両方に凍らせた500mlペットボトル飲料を入れて比較したら発泡スチロールボックスの方が氷が残っている時間が長かったなどという話が出てきたりしますが、これは当然です。大きいクーラーボックスは内部に溜め込んでいる熱量(常温)もそれだけ多いのでそれに見合った保冷剤を入れるか、予冷しておかなければその真価を発揮できません。

食材の温度

食材も冷やせるものはなるべく冷やしておくに限ります。クーラーボックスはクーラーと言っても冷やす能力があるわけではありません。あとで常温の食材を入れていくとその分保冷能力は失われます。最初になるべく冷たくした食材を詰め込んで、あとは取り出すだけという運用がベストです。

そのためには、保冷剤も食材もなるべく冷やしておくことが大切です。冷蔵庫に温度設定(強度)を設定するツマミがあると思いますが、これを一時的に最大まで回して十分に食材を冷やしておき、凍らせてもよい食材は凍らせたほうが良いでしょう。

保管場所

熱は温度勾配が大きいほど大量の熱が移動します。ですから、クーラーボックスも日向に放置するのと日陰に放置するのとでは保冷能力にかなり差が出てきます。必ず日陰に置いておくようにしましょう。もっと言えば、地面がそもそも太陽の熱を受けて真っ先に温まるところですから、何か台座などを利用して地面から離したところに置いておくのが良いです。

まとめ

  • クーラーボックスは許せる範囲でなるべくデカイものを選ぶ
  • 保冷剤も許せる範囲で大量に詰め込む
  • でかいクーラーボックスはそのぶん予冷もしっかり
  • 市販の保冷剤が必要かどうかはよく考えて
  • キャンプ先では日陰・地面から離すことが大切
  • 食材もなるべく冷やしておいたほうが良い