最近、SKYACTIV-2などという単語を聞くようになった。国内サイトではほとんど情報が出て居ないが、海外サイトを回るとある程度情報が出てくる。今回はそれらをまとめて、SKYACTIV-2、SKYACTIV-3とは何か?どういう風に変わるのか?を書いてみたい。
以下が参考ページ。
Next-gen Mazda SkyActiv Engines Could Be Cleaner Than EVs
ガソリンエンジンの自己着火、課題と実現への目算…次世代SKYACTIV開発者に聞く
Next-generation Mazda engines to eclipse electric cars on emissions
Mazda pins improved mpg on Skyactiv 2
SKYACTIVとは何か?おさらい
まずはおさらい。
マツダでは最新の低燃費技術をSKYACTIV技術というふうに命名している。それは、エンジン、シャシー、ミッション、ボディなどを総括的に刷新する思想だ。
具体的には、高効率なガソリンエンジンであるSKYACTIV-G、クリーンディーゼルエンジンのSKYACTIV-D、全域ロックアップを採用したSKYACTIV-DRIVE、軽量化と高剛性、衝突安全性を実現したSKYACTIV-BODY、SKYACTIV-CHASSISからなる。
これらの技術は段階的に販売車種に搭載され、エンジン、ミッション、ボディ、シャシーのすべてがSKYACTIV技術で構成された(フルスカイアクティブ)車種として、昨年11月から3代目アクセラが販売された。SKYACTIV技術はユーザーからも識者からもおおむね好意的に受け止められているようだ。
マツダは「いずれはEVやHVへと到達するだろうが、2020年代でも自動車のパワートレインに占める内燃機関の割合は大きいと予測されているため、まずは内燃機関の高効率化を推し進めるべき」という考えに立ち、下記のようなビルディングブロック戦略を推し進めている。
「まずはベース技術の向上」を目指し、完成したのがSKYACTIVだった。では、今後SKYACTIV-2、3はどのような技術が採用されるのだろうか。
SKYACTIV-2:HCCIエンジンの実現
第二段階(SKYACTIV Gen 2)としては、HCCI(Homogeneous-Charge Compression Ignition; 予混合圧縮自動着火)エンジンの実現と言われている。これは、ガソリンエンジンの「究極」の技術と言われ、燃料としてガソリンを使いながらもディーゼルエンジンのように燃料と空気の混合気を圧縮して自然着火させるようなエンジンである。つまり意図的にノッキングを起こしているようなものである。
HCCIエンジンは従来のガソリンよりも30%程度効率が良く、これはディーゼルエンジンに匹敵する効率であると言われる。
HCCIの歴史は古く、2000年代以降に、GM、ベンツ、VW、日産、ホンダなどがプロトタイプを何度か作っているが、いずれも実用化には至っていない。もっとも大きな障壁となっているのは、HCCIが動作する領域が非常に狭いということだ。HCCIエンジンは常に自然着火させているわけではなく、加速時などは通常のプラグによる着火を行っている(だから、Homogeneousである)。現時点では、マツダは実運用での50%の領域でHCCI動作をさせる技術を持って、これをいかに拡大させるかがカギとなる。
実運用上でHCCIが有効な領域が少ないので、「苦労している割には燃費が上がらない」という事で実用化を断念したり、世界中で燃料性状がバラバラなのに同じように燃やせるのか?という問題があったり、冬にエンジンが極端に冷えたような状態でHCCIに移行させるのが難しいなどという問題があって、まだプロトタイプの域を出ないというのだ。
マツダは技報と言う形で技術論文をWebサイト上で公開しており、この中に以下のようなHCCIが成立する領域を詳しく解説した論文があった。
これを読むと、吸気温度を上げてやることで燃料特性の差異を吸収出来るようなことが書いてある。また、冒頭でリンクを張った日本語記事においても、SKYACTIV開発者が「EGRを利用してやることで燃料性状の違いにも対応できるようにもしている」などと言っている。
このマツダのHCCIエンジンの圧縮比は18になる。CO2排出量は80g/kmになり、NOx排出量も抑えられる。熱効率はなんと30%も向上する。
SKYACTIV-3:断熱燃焼とマイルドハイブリッド
続くSKYACTIV3 (SKYACTIV Gen 3)では、シリンダーブロックの断熱化が予定されている。
下記が、エンジンからの損失の割合をグラフに表したものである。Cooling lossというのが、エンジンの冷却によって失われる損失を表したものである。30%弱といったところだろうか。
image from 新世代技術「SKYACTIV パワートレイン」New-Generation Technology “SKYACTIV Powertrain”
シリンダーブロックを断熱化し、冷却水が奪ってしまうエネルギーを動力に転嫁できれば効率は一気に上がる。これによって、SKYACTIV-2からさらにまた30%程度の効率向上が可能だそうです。上図からだとCooling lossが30%に満たないように見えるので、本当か?という疑問はあるが・・・。
ちなみに、断熱エンジンは戦車の分野でかなり昔から研究されている。セラミックス系の素材が用いられることから、「セラミックエンジン」などと呼ばれることが多いようだ。陸上自衛隊の10式戦車のエンジンはこの研究成果が応用されていると言われている。「戦闘車両用セラミックエンジンの研究」という評価書を見ると、平成15年に米陸軍と共同で研究を行ったようだ。
また、ATの駆動機構としては8速を超えるギアを用い、さらに幅広い変速レンジを実現するとのこと。
さらにこれに加え、SKYACTIV-3ではマイルドハイブリッドの搭載が予定されている。マイルドハイブリッドに厳密な定義は無いが、通常のハイブリッドよりもコンパクト化されたハイブリッドシステムであると言われる。ブレーキ回生エネルギーを貯めておいて加速時にモーターを回して加速する最小限のシステムである。通常のハイブリッドのような大きなバッテリーは積まない。
マツダはi-ELOOPとしてすでにブレーキ回生エネルギーシステムを搭載した車種をリリースしているが、これは回収したエネルギーを電装品に使うだけで動力としては用いない。蓄電は電気二重層キャパシタによって行われる。マツダが言うマイルドハイブリッドもこの延長であると思われる。
SKYACTIV-3でのゴールとしては、EV車よりもCO2排出量が小さい、つまり、火力発電所のCO2排出量よりも小さい環境負荷を設定しているそうだ。
まとめ
今回は、SKYACTIV技術の変遷について述べた。マツダは「ハイブリッドやEV化の前にまずは基礎技術を」というポリシーでSKYACTIVの研究開発を推し進めているが、もしSKYACTIV-3まで実現できればその後も中長期的にガソリンエンジンやディーゼルエンジンはパワートレーンとしてずっと残り続ける気さえしてくる。
一部の評論家などはVWによるダウンサイジング思想を崇拝して日本車を貶しているが、ダウンサイジングという思想は目的を達成するための一つの手段に過ぎない。唯一無二の最適解でもない。排気量で税金が変わる欧州の税制度が関係しているということも念頭に置く必要があるだろう。マツダにはマツダにしかできないことに今後も挑戦していってもらいたいと思う。