AppleはCPUを製造してない

小ネタです。先日こういうツイートを目にしました。

「Intelが7nm processへの移行に手間取っているのと対照的」

という文章は主語が省略されていますが対象はAppleだというように読めます。これを踏まえて補足すると、

「Intelが7nm processへの移行に手間取っているのと対照的にAppleの5nm proessはうまく行っていて製品化できてる」

という文章を省略したものと思われます。似たような主張を他にも見ましたが、これらは間違いです。

Fabを持ってるCPUメーカーとFabレスCPUメーカー

CPUを設計しているほとんどのメーカーは自社で半導体製造工場(Fab)を持っていません。この潮流は10年以上前、実に2008年からです。2008年にAMDは半導体製造部門を分社化し、後に2009年に半導体製造企業「GlobalFoundries」となりました。現在、Fabを持ってる大きなCPUメーカーは多分Intelだけだと思います。あんまり詳しくないしググっても分からなかったけど。

CPU以外の製造業でも自社で工場を持たないメーカーというのは多いです。なぜか?

工場設備を持ったら稼働率を上げないといけないからです。工場設備は動かして商品を製造してこそ売上になります。動いてない工場設備は投資を食いつぶし固定資産税もかかる完全な無駄な資産です。止まり続けている設備は所有していると損なので売ったほうがマシなのです。もうちょっと分かりやすく言うと住人が入居していないアパートを所有してローンだけ払い続けてるようなもんです。アパートは住民が入居して家賃を払ってこそ、工場は商品をつくってこそ金を生み出せるわけです。だからシフト制で工場はずっと動き続けるわけですね。

CPUの製造プロセスには金属原子数個〜数十個といったレベルの非常に微細な加工技術が必要になり、多額の投資が必要です。それを回収するために一社のCPUを作り続けるというのはあまりにもリスクが大きすぎます。

なぜか?そのCPUの設計が悪くて競合に勝てないとか、需要を見誤って思ったよりも数が出なかったとかいう場合に生産数は抑えられてしまいます。すると工場の稼働率は下がります。下がると売上も下がります。売上が下がると投資を回収できません。投資を回収できないと工場は潰れます。

でも、他社からいろんな注文を受けたらどうです?情報機器には必ずCPUは必要になりますね?情報機器が売れている限り、需要は発生しますね?その需要の受けてCPUを作り続けられますね?稼働率が上がりますね?すると投資を回収しやすいですね?そういうわけでほとんどのCPUメーカーはFabレスになります。

AppleのCPU

Appleにはあんまり興味がないので良くわからないんですが、ざっと調べた所AppleのCPU(の一部?)はTSMCで作ってるみたいです。

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TSMCというのは聞き慣れない人も居るかも知れませんが、台湾の企業です。TSMC、サムスン、GlobalFoundriesが世界のTOP3です。

で、工場で導入されている半導体の製造プロセスは完全に製造工場の持っている設備や技術に依存しますから、

「Intelが7nm processへの移行に手間取っているのと対照的にAppleの5nm proessはうまく行っていて製品化できてる」

という理解は誤っており、

「Intelが7nm processへの移行に手間取っているのと対照的にTSMCの5nm proessはうまく行っていて製品化できてる」

が正しいと言えます。なぜなら製造プロセスがすごいことにAppleはぜんぜん関係ないです。(※もしかしたら「TSMC」は間違ってるかも知れませんが。本筋じゃないので裏を取ってない)

ちなみにこのnmというのは半導体製造プロセスがどの程度微細であるかという指標であって、数字が小さいほうが基本的には優れています。微細であればあるほどより沢山の電子部品(トランジスタ)が乗るからです。沢山の電子部品が乗ってたほうが基本的にはCPUは高性能になります。

Appleは何をやってるのか

ようするにAppleはCPUの設計だけやって製造はTSMCにやってもらってるというわけですね。

もうちょっと詳しく説明すると、Apple Silicon初めとするApple独自のCPUはARMベースであると述べています。ARMというのはCPUのアーキテクチャの一種であって、アーキテクチャとは何かと言うと要するにCPUの大まかな設計図であって、アーキテクチャによってCPUの命令セットが決まります。命令セットというのは文字通りCPUが受け付けることの出来る命令の集合です。CPUが理解できる言語の種類がここで決まるわけで、プログラムのソースコードからCPUが理解できる言語に変換する作業(コンパイル、ビルド)では必ず対象とする命令セット、CPUアーキテクチャを指定する必要があります。

ARMはARMホールディングスというイギリスに本社のある会社が権利を持っており、2016年にソフトバンクが買収しましたが2020年、こないだNVIDIAに売却されました。

ARMというのは非常によく使われるアーキテクチャです。AndroidのスマホのCPUには主にSnapdragonが使用されていますが、これもARM系です。その他のCPUも名前は違いますが大体ARMです。もっと言うと、iPhoneのAxxみたいな名前のCPUもARMです。つまりモバイル端末は名前は違えどほとんど同じCPUを採用しているわけですね。もっと言うと任天堂の携帯ゲーム機もARM系です。世界のモバイルは全部同じようなCPUと言っても言い過ぎでは無いと思います(こういう事を言うとCPU設計者には怒られると思いますが)。

そういうわけなので、「AppleのCPUはARM系」という言葉からは「ARMホールディングスからARMアーキテクチャCPUの設計図(IPと言ったりする)を買ってカスタマイズしたものにA10みたいな名前を付けてTSMCに製造して作ってもらったものを利用している」というところまで分かるわけです。

Appleが他に使用していたCPUとしてはPowerPCがありますが、これはまた別のアーキテクチャです。

まとめ

とりあえず上のような感じになっているので、「AppleはCPUメーカーとしてもすげえ!!」みたいな事を言うときは文脈に気をつけないと私のような揚げ足取り大好きなパソコンオタクにツッコミを入れられて記事を書かれるので気をつけましょう。