変な漢字列伝

こないだ訳あってJIS第3、第4水準の漢字を色々調べていたのだけど、面白いものが幾つかあったので紹介。

𪗱𪘚

これなんて読みます?「そご」ですよね?

でも、ちょっとみなさんが知ってる漢字とは違いませんか?みなさんが知ってる漢字は

齟齬

だと思いますが、この漢字は

𪗱𪘚

です。

もともと下のほうの漢字で覚えていた人が多いのではないでしょうか?でも、IMEなどで変換すると「齟齬」が出てきます。「齟齬」はどちらも第二水準の漢字ですが、「𪗱𪘚」はどちらも第四水準の漢字で、通常使われる漢字は「齟齬」です。

なんでこんなことになってるのでしょう?これは、朝日文字の一種だそうです。

朝日文字(あさひもじ)とは、朝日新聞社が主に当用漢字表(後に常用漢字表)にない漢字について、朝日新聞紙面に使用していた特徴的な字体の通称で、いわゆる拡張新字体の代表例の一つである。朝日字体(あさひじたい)ともいう。
wikipedia 朝日文字

説明を辿っていくと、第二次世界大戦後に現代仮名遣いの源流となる「国語改革」と呼ばれる運動があり、これによって漢字表記の単純化が図られたそうで。この時は読売新聞が「漢字を廃止せよ」と主張したりしてたみたいです。これはCJK(Chinese, Japanese, Korean)言語圏全体の流れであって、北朝鮮や韓国で漢字が廃止されたのもこの時期だそうで。

で、「𪗱𪘚」は朝日新聞社が紙面で用いていた簡略字体の一つだったそうです。

そもそも「歯」の異体字として「齒」が存在します。一般的なのは「歯」ですから、「齟齬」は「𪗱𪘚」と常用漢字の一部を使って書くのが自然であることは明らかです。しかしながら「齟齬」という漢字自体が日常生活では「齟齬」でしか使わない漢字だったためか、結局「齟齬」は「𪗱𪘚」にならず「齟齬」のまま残ってしまったんではないでしょうか。コンピュータの世界においても「𪗱𪘚」はUTF-8だとサロゲートペアとしての扱いで、絵文字と同じく正しく表示できない環境が時たま見かけるという状況です。

そろそろ「齟齬」と「𪗱𪘚」でゲシュタルト崩壊してきた頃だと思いますのでもう一度確認しましょう。

一般的なのは

齟齬

ですが、朝日新聞が使っていた簡略化字体を使用したものは

𪗱𪘚

で、こちらがUTF-8だとサロゲートペアです。

𩻩

これは「まぐろ」と読みます。えっ、マグロは「鮪」では?と思いましたか?私も思いました。

でも「𩻩」は特に本マグロを指すそうです。

そもそも鮪と本マグロで何が違うんじゃ、と思ったので調べてみるとそもそも生物としての種が違うみたいですね。本マグロは「クロマグロ」という種類で、「マグロ」と単に言った場合はクロマグロ、ミナミマグロ(インドマグロ)、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンチョウマグロ(ビンナガマグロ)全部を指すそうです。

知って納得!マグロの種類と味の違い

そう言えばどれも聞いたことがある名前ですが、まぁ私には寿司や刺身で出てきても見分けは付かなそうですね…。

𩊱

「しころ」と読むそうです。

兜の鉢に付いて左右及び後ろに垂れ、頸を保護する部分。錣、錏とも書く。
日本服飾史

「𩊱」もそうですが、「錣」「錏」も見たことない漢字ですね。そもそも、「兜の鉢に付いて左右及び後ろに垂れ、頸を保護する部分」とか言われても殆どの現代人には理解不能で、そんな部分あるかぁ?あったような気もするけど良く分からんなぁって感じです。歴女みたいな人だったら知ってるのかもしれないけど。

「兜の鉢に付いて左右及び後ろに垂れ、頸を保護する部分」に「𩊱」「錣」「錏」と3つも文字があって、Unicodeの文字セットを消費していると思うとなんか、意味あんのかなぁ、他の漢字を当てたらダメなのかなぁ、という気分になってきます。私は特に鎧とか兜とかに思い入れないし興味も無いので。

まぁでも、今調べたらUnicodeの符号空間ってまだ75%くらいが未使用らしいのでそんなに気にしなくても良いんですかね。でもUnicodeの関連会議みたいなやつでCJK圏って嫌がられるだろうなぁ…。そこで頑張って日本語を入れてってる人たち、偉いなぁ…。

𩊠

「ぬめかわ」と読むそうです。「滑革」ですね、よく見るのは。その名の通り、なめして光沢が生まれた革だそうです。光る革で𩊠。うーん、そのまんまだ。

𨵱

「かずき」と読むそうです。門に屋。

帽子をかぶるように,人の借金を『かぶる』、つまりみんなで一緒に年貢などを負担することを言います。『𨵱』にはいろいろありますが,『川成(かわなり)』といって、洪水などで田畑が流されてしまったため、その土地にかかる年貢をみんなで負担するのが一番代表的な例です。
東広島市自然研究会

だそうです。これ沖縄のゆいまーるだな。

ゆいまーるを調べた所、そもそもの由来は「結」で、もともとは農業の繁忙期などにおける相互扶助、共同作業とのこと。「結」を持ち回るから「ゆいまーる」。「隣組」もその一種だったとのこと。あー、隣組!あったよねー。あったよねーって言っても知らないか。私の地元には「隣組」というのがあった。明確に決められてないけど、「隣近所」くらいの意味で、小学校の登下校などでも「隣組で集団登校して」などと使われていた。地域によってはもっと厳格に、町内会の細分化されたグループの一つとして運用されてるところもあるみたいですね。

隣組を調べると、

隣組(となりぐみ)は、概ね第二次世界大戦下の日本において各集落に結成された官主導の銃後組織である。大政翼賛会の末端組織町内会の内部に形成され、戦争総動員体制を具体化したものの一つである。
wikipedia

とのことで、これ、そういう成り立ちなんですね。大政翼賛会が絡んでたんですか…。

𨊂

「シ」と読むそうです。「忍びいろは」の一種だそうです。

忍びいろは(しのびいろは)とは、かつて忍者が使ったといわれる暗号の一種で、漢字に似た49文字から構成される。『万川集海』に見えるが、実際に使われたかどうかは不明。
白土三平による忍者ものの漫画にしばしば使われ、『いしみつ』では題そのものが忍びいろはで書かれているが、目録類では下駄記号になっていることがある[4]。JIS X 0213ではこの題を根拠に第4水準に「𠎁」(ミ、人偏に黑、2-1-87、U+20381)と「𨊂」(シ、身偏に黑、2-89-57、U+28282)の2字を収録している(「栬」(イ、木偏に色、1-85-64、U+682C)と「潢」(ツ、さんずいに黃、1-87-13、U+6F62)は別典拠によって第3水準に追加)。
wikipedia

という、なんともゴリ押し的な経緯でJISに入ったようですね。標準化するほどの意義があるのかは私にはちょっとよく分かりません…。

𧘕𧘔

「かみしも」と読むそうです。


wikipedia

この、織田信長が着てるやつ。これがかみしも、だそうです。

かみしもは「裃」と一字で表記できる漢字もあるそうで。「裃」は確かに何かどっかで見たことありますね。

漢字ってこんなのばっかりですね。きっと「𧘕𧘔」と書くのが面倒だからくっつけて「裃」にしたんでしょう。個人的には簡略化したならもともとの方は廃止して使わないようにすればいいのに、と思うんですがたぶん、「簡略化の表記はあくまでも簡略化のための表記であって本来の漢字はこれだから残さないとダメ」みたいな論理で残ってるんでしょうね。

𧑉螽

「きりぎりす」だそうです。渡部温譯、「通俗伊蘇普物語」のアリとキリギリスのところにこの漢字が出てきます。

渡邊譯:通俗伊蘇普物語

キリギリスの漢字に「冬」が入ってるのはもしかしてイソップから来てたりするんですかね…。

ただ、こちらでは「ふしゅう」と読み、バッタ科の総称と書かれています。

漢字林(非部首部別) 阜部

𦿸

「たん」だそうです。

タンプ 【𦿸父】1 日本姓氏語源辞典
𦿸は「海士」を意味する。熊本県玉名市岱明町野口に江戸時代にあった。同地、熊本県玉名市大浜町では漁業に従事していたと伝える。
日本姓氏語源辞典

「海士」…?かいし…?航海士…?とか思ってたんですが、「海士」で「あま」だそうです。

「あま」だと「尼」「海女」のイメージが強いので女性を意味する言葉だと勝手に思ってましたが、「尼」と「海女」が良く使われるだけで偶然なんですね。

「海人」「海女」「海士」、ぜんぶ「あま」です。「海人」は貝とかウニとかエビとか取る漁師、「海女」はそのうちの女性、「海士」はそのうちの男性。そして「𦿸」は「海士」を意味する言葉ですか。なんかもう日本語難しすぎない?

𠮟

「しか(る)」と読み…たいですよね。

これは有名なので経緯等々知ってる人もいると思いますが。

多分、みなさんが普段PCやスマホで目にしているのは「叱る」だと思います。同じじゃないかって?よく見て下さい。

珍しい(?)のが𠮟

普段見てるのが

です。右側が「七」と「匕」になってますね?ちなみに、これは異体字ではなく別の漢字です。音読みが違っていて、七のほうが「シツ」、匕のほうが「カ」だそうです。

だから、普段我々が目にしている「叱る」は「かかる」と読むべきで、「しかる」ならば「𠮟る」と書かなければならないはずです。

なぜこんなことになってるのか、以下のページでまとめて記述されています。

“𠮟る” と “叱る” - hydroculのメモ

西馬音内

ふと思い出したので最後に追加。「にしもない」と読みます。秋田県の地名です。西馬音内は盆踊りが有名です。

これ、おかしくないですか?私はおかしいとずっと思ってました。

「西」で「にし」、「内」で「ない」、じゃあ、「も」は…?「馬音」で「も」?

地名で当て字はよく目にしますが、漢字二文字でひらがな一文字になってるパターンってすごく珍しい気がするんですけどどうでしょう。たぶん、本来は「にしもおんない」みたいな読みだったのが簡略化されて「にしもない」になり、漢字が取り残されたんだと思いますが。