【質問#116】ATと回転数について

質問・悩み相談の回答です。

質問

withpop様、こんばんは。
いつも楽しくブログを拝見しております。

大した質問ではないのですが、気になって夜も八時間しか眠れないので質問させてください。

三ヶ月前に車を買い替え、anopara読者である私はめでたくAT車を買いました。
BL型のアクセラです。本題とは関係ありませんが、金銭的な事情と顔の好みにより、BMではなく、スカイアクティブ搭載前のBLに手を出しました。
車そのものには大変に満足しており、また、ATも5速と、多段ATが増えてきたこの御時世では燃費が気になるところではありますが、楽しく乗らせていただいてます。

閑話休題
そんなATなのですが、マニュアルモードにして走っているときのことです。
メーター読みの時速は変化していないのに、回転数が上下することがあります。
場面としては、5速で走っていて上り勾配に入ったときに回転数が上がるといった具合です。

無知を晒すようで恥ずかしいのですが、どういった仕組みによるものなのか、一切わかりません。
前に乗っていた9N型のポロもAT車(6速ですが…)でしたが、このようなことはなかったと記憶しています。

理系はもとより、文系を名乗ることすら危うい落ちこぼれの私では検討もつかず、withpop様の知恵に頼らせていただきたく存じます。
何卒よろしくお願いいたします。

回答

夜も八時間しか眠れないので質問させてください

8時間睡眠はしんどいですね。あまり世間では知られていないですが、人間にとって最も快適な睡眠時間は24時間と言われています。四六時中布団から出ないほうが人類は幸せなのです。

さて、「速度が一切変化していないのにどのような仕組みで回転数が上がるのか(ギアが1段下がったり上がったりするのか)」ということですね。

私も専門は計算機科学や情報工学といった分野で、自動車は色々記事を書いているものの専門外なので完璧に正しいことは言えないのですが、大体間違ってはいないはずなので解説を試みます。

まず、

「速度が一切変化していないのにどのような仕組みで回転数が上がるのか」

という疑問が出る背景には、「走行に使用するギアは速度に応じて決まる」という暗黙の仮定があるように思います。たとえば、20km/hまでは1速、20~30km/hは2速…というように速度帯によって選ばれるギアが決まっている、という制御になっていると質問者の方は考えているのではないでしょうか。

もしかしたら、初期のATはそのような制御だったのかもしれませんが、現在走っているほとんどのAT車は走行している速度とアクセルの踏み込み量という2つの量を用いて制御を行っています。以下の図を御覧ください。


image from 運転を楽にするAT変速ってどうなってるの? | MONOist

例えば、アクセルをゆるく踏んだ状態で60km/hで走行中(黄色の星)に急激にアクセルを踏み込む(ピンクの星)とギアは4速→3速→2速と変化していきます。すると、エンジン回転数はどんどん上がっていきます。

なぜこのような制御になっているかというと、「アクセルを少しだけ踏んだ巡航状態からアクセルペダルを更に踏み込んだとき、ドライバーは加速したいと思っている」とみなしているからです。MTだと走行に使うギアはドライバーが決めますから車はドライバー任せで何もする必要がないですが、ATの場合はドライバーが急激に加速したいのか、それとも緩やかに加速したいのか、巡航したいのか、どうにかして車がドライバーの意思を読み取らなければなりません。そのために、アクセルペダルの踏み具合を利用しているというわけですね。

「坂道にさしかかると速度は一定なのに回転数が上がった(つまりギアが下がった)」は、坂道に差し掛かったために無意識のうちにアクセルペダルを踏み込んだからだと思います。アクセルペダルを踏み込んだがために、上図のように現在のギアが担当する領域を超えて一段低いギアが選ばれた、という感じだと思います。

最近の車がすべて電子スロットル(アクセルペダルがワイヤーでスロットルバルブと繋がっていない)を採用している理由の一つが、こういう制御をしたいためです(あとは、排ガス規制に適応させるためにNOxやCO2が大量に出る領域で車を運転させたくないという理由も大きい)。現代の車のアクセルペダルはスロットルバルブの開閉とはあまり関係なく、加速度を指示するためのインタフェース、という感じなわけですね。

ただ、ここからが自動車の制御の深いところです。

これは推測ですが(しかし大きくは間違っていないはずです)、近年の車はATの走行ギアを決定するために他にも色々な状態を読み取っていると思われます。例えば、マツダはアクセルの踏みこみ量だけでなく、踏み込み速度(難しく言うと踏み込み量の微分)を利用していると公言しています。つまり、すばやくアクセルを踏み込んだ際はそれだけギアを下げる方向に判断が傾きやすい制御をしているということです。アクセルをすばやく踏み込んだときは、たぶん間違いなく「すぐに加速したいとき」ですからね。アクセルを踏み込んでもプルプルしたまま車が進まず、2秒前後経ってからようやくギアが変わって加速し始める、みたいな馬鹿な車もありますが、とりあえずそういうふうにはならないようにという工夫の一つですね。

後は排ガス規制や燃費の問題も大きいと思われます。すでにちょっと書きましたが、現代の車は排ガス規制をクリアしたり高い燃費性能を実現するために、エンジンが動作する領域(回転数、噴射する燃料、点火時期などで決まる)のすべてを自由に使える、というわけではありません。「この回転数でこのくらいの燃料を吹くと排ガス規制はクリアできない」とか、「この回転数でこのくらいのトルクを出してるときはめちゃくちゃ燃費が悪いからここのゾーンは避けて欲しい」みたいな制約が沢山でてきます。

つまり、現代のエンジンは好きな時に(ピーク性能の範囲内で)自由に燃料を燃やしてトルクを調整できる、というようにはなっていないのです。現代のAT制御は、このあたりも当然考慮して走行ギアを決めていると思われますが、具体的にどういう制御を行っているかは基本的に社外秘なので出てこないと思います(たぶん)。

具体例では、

前に乗っていた9N型のポロもAT車(6速ですが…)でしたが、このようなことはなかったと記憶しています。

これなどでしょうか。

基本的に、エンジンはフルスロットル付近が最も燃費が良い領域です。なので、例えばゆっくり加速しているときは、アクセルをゆるく踏んでいる状態でもスロットル開度はほぼ全開、ギアはなるべく早く高いギアに移していく、という制御を行って「スロットルをなるべく全開付近に、しかし加速はゆっくりと」という状況を実現しています。

しかしながら、このような制御にも欠点があります。例えばゆっくり加速している時に急に加速する必要が出てきたらどうでしょうか。すでにスロットルは全開付近なので、全開にしたところでそこまでトルクが上がるわけではありません。なので一段ギアを落として回転数で馬力を稼げるようになるまでラグが発生します。こういう車だと、ドライバーは「反応が鈍い」「なんか遅い」という不快な感情を抱くはずです。

そうならないために、あえて燃費が良いゾーンをスロットル全開からだいぶ下げた位置に設定しておき(これはEGRのバルブ制御で実現させますが、詳しくは省略します、というか私も語れるほどの知識は無いです)、いざアクセルを踏み込んだときでもトルクの出る余地を残しておいてドライバーの意思に即座に反応できるようにしておこう、という制御をやっている車もあります。

つまり、アクセラは早めにギアを下げてすぐに加速できるようにしておこうという制御を採用し、ポロはギアを下げなくてもある程度加速できるように余力を残した制御をしようという方式を採用している…のかもしれません。

もしくは、単にアクセラとポロではだいぶ車両重量も違うので、ポロではギア一定で登れた坂道でも重いアクセラではギアを下げる必要がある、ということかもしれません。

回答は以上のような感じですが、いかがでしょうか。

以上を簡潔に言うと、「ギアの決定には速度以外にもアクセルの踏み込み量、エンジンの運転状態など多用なパラメータが関わってるので、速度一定でもギアがころころ変わる。しかも現在値だけでなくて、微分量や積分量まで使う」という感じです。