【夢日記】青いハート

青いハートを集める夢

泥だらけの道でトラックがスタックしている。なぜこの道を無事に通れるのかと運転手に問い詰めたくなるような泥沼だった。道と呼ぶのもおこがましい。

外は異常に寒い。飛んでいる鳥が落ちてくるほどの寒さだ。拾い上げると、飛んでいる姿勢のまま固まっている。凍ったバナナで釘を打ち付ける映像が脳裏に浮かんだ。

一刻も早く脱出しないと皆泥だらけの道でトラックがスタックしている。なぜこの道を無事に通れるのかと運転手に問い詰めたくなるような泥沼だった。道と呼ぶのもおこがましい。

外は異常に寒い。飛んでいる鳥が落ちてくるほどの寒さだ。拾い上げると、飛んでいる姿勢のまま固まっている。凍ったバナナで釘を打ち付ける映像が脳裏に浮かんだ。

一刻も早く脱出しないと皆凍死してしまう。トラックの荷台にはたくさんの兵士が乗っていた。 皆で泥だらけになりながらトラックを押し凍死しそうになりながらなんとか車を元の位置まで押し戻したのだった。

これでようやく先に進めると私は荷台に横になった。そしてそのまま小銃を抱えながら寝てしまった。

目を覚ますとそこは日本の学校だった。おそらくは高校。我々は銃を肩にぶら下げたままいつものようにそれぞれの教室へと入っていった。

戦地から帰ってきた兵隊はみんな人気者だった。どこに行っても女の子が手を引きに来た。戦勝国というのはこんな感じなのだろうなと私は思った。

そのうちの一人、顔になんとなく見覚えがあった。私は彼女に挨拶をすると、彼女に手を引かれるがまま、校舎の南側にある人通りの少ない階段の最上階へ登っていった。

彼女は私の頬を、まるでなにか高級な椀でも持つかのように優しく手で掴み、 自分の顔を引き寄せた。彼女の目はずっと私の目を射ていた。 私は緊張した。しかし、思考はそれとは裏腹に、私の脳天上30cmの範囲を漂っていた。天窓から光が斜めに差し込み、彼女の額に影を落としていた。あの泥の沼とは違って、気温は快適だし湿ってもいなかった。私がもし結婚式をあげるとしたら、陽の光はこんなふうになるのかなと漠然と考えた。

そのまま彼女は唇を耳元に寄せた。私は、私にとって何か心地の良い何かを言われると思っていた。だって、こんなに陽の光が心地よい学校の階段で、呪詛を言われるわけがないから。でも、結論はよくわからなかった。彼女は「血の巡りの良い女でしょ」とだけ、囁いた。意味はわからなかったが、何となくそのとおりだなと思った。耳元の皮膚が、その発音一つ一つを吐息で感じていた。

授業が終わると私は友達と遊んでいた。弾倉の抜け落ちた小銃を振り回し、 校舎内の一部屋一部屋を巡って敵兵を捜索していくふりを友達に見せたのだった。

「さすが戦地で敵兵をなぎ倒してきた男は違うな」と言われて調子に乗った私は、そのまま隅々の部屋まで走り回った。

私が銃を構えたまま、ドアの前に立ち、戦友にドアを開けろと目配せをする。ドアが開かれて小銃を構えたまま部屋に突入すると、そこに美術の先生がいた。まずい、これは怒られるぞと思った我々は散り散りに逃げた。案の定、先生は私を追いかけてきた。

まだ若い先生だったが、当時の私は先生の事をおばさんだと思っていた。まだ二十代だったとは思うが、あの頃は私もまだ子供だった。15歳かそこらの少年にとって20歳は未だ知ることのない、想像だに出来ない世界だった。それを私は、あの人はおばさんだから。と理解するのを諦めていた。しかし私も年を取り、先生と同じくらいの年になった。先生はあのときの姿のままだった。

先生はしつこかった。私が内履きのまま外に飛び出し、そのまま土の上を走ってもまだ追いかけてきた。私はそのまま麦畑に飛び込み、麦をかき分けながら走り回っても、それでもまだ追いかけてくる。私が観念して振り返ると、先生は笑っていた。

笑ったまま、私に飛びついて首をしっかりと抱きしめながら押し倒した。

おかえり、と言われたような気がした。先生の匂いがかした。こういう匂いか、と思った。人間それぞれの匂い。家の匂い。友達の家で食べたカレーの匂い。夕焼け時に住宅街を抜けて帰るとき、食器のカチャカチャとした音と共に感じる、夕ごはんの匂い。体が耐えられないほどに強い郷愁だった。引きずり込まれるかのような。空はどこまでも高い秋の空だった。

「何してんの」

と唐突に声が聞こえた方を向くと、同級生が「良いもの見たわ」とでも言いたげなしたり顔で私達を見つめていた。私の苦手な人だった。その同級生は今は川崎で保育士をしている。当時から意地悪な感じだった。私って女らしくない女だから。とでも言いたげな顔で、だから男でも女でも関係ない、弱みを握ったら徹底的にいじめてやる。という考えが受けて見えるような人だった。

先生は顔を真っ赤にして離れると、しどろもどろに何かモゴモゴと言っていた。同級生は私など気にも留めていないという風に私の頭のすぐ側に立った。私はまだ地面に寝転がっていた。だから嫌なんだ。

遠くから野次を飛ばす声が聞こえ、ようやく起き上がると同級生が集合写真を撮っている最中だった。

「青いハート何個集めたんだ」

友達の一人が叫んでいた。

青いハート。それは、この学校の中で青春っぽい事をするともらえる「アイテム」だった。私は持ち物を確認すると、26個も青いハートを所有していた。それが多いのか少ないのか分からない。そうだよな。私が26個も集められるわけも無い。この段になると私はもうこの世界は夢で、現実には存在しないものだと理解できている。夢日記を書き続けたせいで、夢の中で夢だと気づく能力が人一倍高いのである。

目が覚めると、曇り空のマンションの一室であった。夢だと気づいたから起きたのではない。すごく大きい地震が発生したからだった。

目が覚めてもなお、建物は揺れている。まだ地震は続いている。いや、そうか、高層階だと地震の波が長周期で振幅の大きい振動に変化するはずだ。と咄嗟に思った。外を見ると、雨に濡れながら自転車で走る大学生と思しき男と目があった。敵意がある目だった。クソガキが。お前なんか新卒就職活動に失敗してブラック企業に就職して一人暮らしのアパートで脳卒中で死に、誰にも気づかれないまま腐っていけば良い、下階の住人に腐臭を撒き散らして疎まれればいいと心の底からの呪詛を送った。

別の方向を見ると、反射式の石油ストーブをこれでもかと積み重ねた、すこし背の低い建物がぐらぐらと揺れていた。それでも積み重ねた石油ストーブが地面に吸い付いているかのように微動だにしなかったのは、つまり、そういうことだろうと理解していた。

子供二人がトイレに行きたいと言うので連れて行った。広い部屋だったが、トイレは無かった。トイレは数部屋で一つを共有する共同トイレだった。わかる。これも夢である。私はマンション住まいではないし、マンションが共同トイレであるわけがない。それでも、あの揺れ。不快で酔いそうな長周期振動は東日本大震災で経験したレベルのそれだったし、万が一夢でなかったという可能性もある。私はこれは夢だろうなと思いつつ、夢の中の娘達をトイレに連れて行った。

トイレは清潔であるが古かった。和式便器が並んでる。そうだ。こんなトイレは存在しない…。目覚めなければと思った。私はもう成人して、結婚もしていて、子供も居るし、仕事もしている。青春している場合でもないし、自分の子どもたちに似た空想の存在に気をかけている暇もない。もしかしたら月曜日の朝6時かもしれない。私は現実に戻らなければ…。

そして瞬きをするごとに、少しずつ世界が再構築された。そこは私の実家だった。

なんか変な夢を見ていたよー、と妻に言う。返事はない。まぁそういうもんですよね。と思いつつ、夢日記を記そうと思った。夕方だった。もうすぐ夜になる。蛍光灯の、いかにも雰囲気がない、白い光が居間を照らしていて、父親が瓶ビールを飲み始めている。そうだ、ここは実家だ。おかしい、何かがおかしい…。外はもう暗い。蛍光灯は不気味なほど白い。私はペン立てにあった、かすれた線しか書けないボールペンを握り、夢日記ノートを手にとる。いや、違う。私の夢日記ノートはこんなきれいな新品じゃない、もっと古い、安っぽくて汚いノートだった…。いや違う、そもそも夢日記を書くのにノートなんか使っていないはずだ。そうだ、私は…スマホに。Google Keepに…。夢日記を書くんだ。

現実に戻った私がGoogle Keepに残した内容:

「荷台、戦争?キスするごとに青いハートがもらえる いじられて恥ずかしくなる 先生と抱き合ってるところを見られたりする 先生方について抱きしめられては負けに押し倒したり枯れる。目が覚める、じしん、睨んでる自転車の大男、マンション、すごいゆれてる、ストーブ大量子どもたちはトイレマンションには住んでいない。更に目覚める 瞬きするごとに実家になる お菓子が腐やら以下どうか聞かれる また目が覚める」