スマホに装着する殺菌UVランプ、ピカッシュの件

中学校あたりから、理科や数学に関して「こんなん勉強しても日常生活では一切役に立たねーよなw」みたいなことを言う友達をちらほら見かけ、そんなわけ無いだろ。役に立つだろ。と当時から理科大好きだった私は常々反論してたんですが、最近でもよく思います。

高校卒業レベルくらいの理系科目をしっかり勉強しておくことは、日常生活でも大いに役に立ちます。(というか、高校卒業レベルの理数系の科目はかなり高レベルなことをやってると個人的には思います)

じゃあ具体的に何の役に立つのか。分かりやすいのが、「科学的に怪しい商品やビジネスの見分けが一発でつく」ということですね。最近、そういうことを何度か目にしました。

スマホにつけるだけ!uv除菌ライト(5秒で99%除菌)『ピカッシュ』早期お届け!

これは5秒で99%の除菌が可能なスマホに取り付ける紫外線殺菌灯だそうです。中国の専門機関で試験済みだそうです。

この商品は本当に効果があるんでしょうか?これも高校卒業程度の理系科目の教養と、適切なググりスキルがあれば容易に検証可能です。

まず、床屋に行くとよく紫外線殺菌灯が入ったボックスを目にしますよね。調理器具の殺菌のために飲食店なんかでも置いてたりする例があるみたいです。ああいうのが存在する、ということを知ってれば瞬間的に違和感を感じるはずです。5秒で実用的なレベル(殺菌不足が原因の感染症がほぼ発生しないくらい)で殺菌可能な商品があるなら、そもそも殺菌灯はそれが設置された「箱」の形態は取らないはずで、殺菌灯を手に持ってビビビーと照射するような形態が合理的なはずです。しかし、床屋に置いてある殺菌灯ボックスがそういうふうになっていないのはつまり、殺菌対象の器具を長時間に渡って(少なくとも数分~数十分)置いておく必要があるからです。この時点で眉唾に感じますね。

ではもうちょい正確に検証していきましょう。

上記のページには産業微生物学広州試験センターというところで検査した結果が掲載されています。要所を引用すると、

Test time: 5s
Test distance: 5mm
Test bacteria: Escherichia coil
Killing rate: >99.99%

と書いてあります。確かに「5秒99%殺菌」に偽りは無いように見えます。ただ、色々気になるところはあります。

5mmという照射距離

5mm という距離は相当に近接した距離です。商品のサイズ感がよくわからないのですが、おそらくMicro USB端子のサイズよりも一回り大きいくらいでしょう。これを 5mm くらいの距離で近接して照射すると照射範囲はせいぜい 1cm^2 くらいになるのではないでしょうか。

例えば、私の手のひらを雑に定規で測って面積を調べたところ、だいたい 160cm^2 くらいありました。ですから、これを使って手のひらを殺菌しようとすると5秒単位ですこしずつライトをずらしていくというのを160回繰り返さねばならず、かかる時間は単純計算で13分になります。両手を殺菌するならば26分かかります。26分スマホを持ち続けるのは相当しんどいですね。

掲載されている用途の例では「キッチン周り」などもありました。なるほど。まな板とか除菌したいですよねー。うちのまな板の面積を測定したら 864cm^2 でした。ということは殺菌完了まで 864 * 5 / 60 = 72分かかる計算です。いやー、一時間以上もスマホを持つのはしんどい。

他の用途としてはトイレとかもあります。確かに公衆トイレとか、手軽に殺菌できたらいいですよね。でもまな板で1時間ですからそれ以上かかるのは明らかで、1時間以上も殺菌してたらウンコ漏れて余計不潔になるのは間違いない。

というかおそらく、スマホのバッテリー的にも1時間以上付けてるのはしんどいですね。

いや、手に持ってスライドさせるのが辛ければスマホを三脚かなにかに立てれば良いんじゃない?という意見もあるでしょう。ごもっともです。スマホのバッテリーがキツければAC電源→USB充電器を経由して電源だけ取れば良いんじゃない?という意見もあるでしょう。ごもっともです。でもそこまでするならこの商品じゃなくて普通に殺菌灯買ったほうが良くないですか?どうせ殺菌灯を使って出先で殺菌なんてできないですよ。公衆便所に三脚設置して1時間も2時間も待ってウンコ漏らしても平気なら別ですけど。

私ならば殺菌用のアルコールとウェットティッシュを持ち歩きますね。

テストした菌種

Escherichia coilというのは、調べたところ大腸菌のようです。このテストの結果からわかることは、「大腸菌は99%除菌できた」ということです。

菌、と一口に言っても様々な種類がいますし、世間では微生物もウィルスも一緒に菌扱いしてますからね。そして、感染症等を防ぐという点ではウィルスも細菌類も全部殺せるのが理想なことには間違いないはずです。

紫外線殺菌 | 岩崎電気株式会社

を確認すると、それぞれの菌やウィルスに対し、99.99%以上の不活性化に必要な照射エネルギー量が掲載されています。その中でも大腸菌は比較的必要なエネルギー量が低く、5.4 もしくは 9.8 [mJ/cm^2] という値が記載されています。

しかしながら例えば幼稚園や保育園で流行りやすいロタウィルスを不活性化するには 24 [mJ/cm^2] と大腸菌の数倍のエネルギー量を必要とします。カビに至っては数百 mJ というエネルギーを必要とするものも多く、これが「床屋や飲食店で殺菌灯ボックスに器具を長時間放置しておく」理由だと推測できます。

本当に殺菌可能なエネルギーがUSB端子から取り出せるのか

ついでにこれも簡単に計算してみましょう。

これまでは「テストに用いた殺菌灯と売られている商品が同じ」という前提を置いてきました。しかし、例えば悪どいメーカーだと「テストに用いた殺菌灯は市販する商品よりも出力を上げている」とかいうことを平気でします。そのようなことをしているという検証は一般的な消費者ではできないからです。

そういうことをしていないという証明は(つまり検査した機器が商品と同等のスペックをもっているという証明)困難なのですが、せめて用意に実現可能かどうかくらいは市販されている殺菌灯のスペックを見れば調べられるはずです。

一般に殺菌灯というと低圧水銀ランプが使われるみたいですが、最近では殺菌が可能な深紫外線を照射できるLEDも商品化されているみたいです。商品を見る限り、大きさは小指の先程度なので、おそらくは表面実装サイズのLEDが一つついているという感じと思われます。

適当にぐぐってみると、ナイトライド・セミコンダクター株式会社というところで表面実装サイズの殺菌に使える波長の光(200nm台)を出力できるLEDを販売しているみたいです。スペックを見てみましょう。

深紫外線LED 表面実装タイプ(Deep UV-LED SMD)

いくつか種類がありますが、サイズ感的に3.5mm x 3.5mm x 1.2mmのものを見てみます。それより大きいサイズとなると6.5mm角となり、商品写真のサイズに収まるようには見えません。

すると、スペックは定格6.0V, 200mAとなります。消費電力は1.2Wとなるのでまぁこのくらいの消費電力ならばUSBからも取り出せると思われます。光出力は11.5mWだそうです。

大腸菌を99%不活性化するのに必要なエネルギーは5.4~9.8mJ/cm^2でした。JはW秒なのでたとえばこのLEDを5mmの距離から1cm^2の範囲に収束するように構成すれば5秒と言わず1秒で大腸菌を99%不活性化させるエネルギーが取り出せます。実際は試験対象の範囲に均一に全エネルギーを照射することなど不可能ですからもうちょっと時間がかかるため、5秒という値は妥当に思えます。

なので、検査結果には特に不審な点があるわけではなさそうですね。

結論

商品の紹介ページの記載をよく読んでいくと、確かに嘘はありません。大腸菌は5秒間で99%殺菌できます。

しかし、感染症を予防するという観点で関連する細菌やウィルスは大腸菌だけではないです。例えばロタウィルスによる感染を予防するには5秒間の殺菌では不完全だということはわかりました。

また、照射範囲は商品のサイズや搭載するLEDのスペック、数から考えてもせいぜい1cm^2程度であることが想像でき、説明書きにあるような「なんにでも瞬間殺菌」はちょっと誇大広告な感じがしました。

ページ中には歯ブラシの先、化粧につかうブラシの先、ホイッスルの先端などが照射対象として写真掲載されていますが、確かにこの程度であれば面積が小さいので実用的であるかと思います。が、普通の人なら件のページのように「なんでも瞬間殺菌」「キッチンやトイレ、洗濯物にも利用可能」と書かれれば、「まな板や便座のようなサイズでも瞬間的に殺菌できる」というような印象を持つのではないでしょうか。少なくとも私はそう感じました。

まぁ、そもそも世間一般で言われる除菌って、本当に感染症対策に役に立つレベルのものが紹介されている例は少ないと思われ、ほぼ「除菌できたという満足感」を満たすことが目的になっているような節もあります。その意味で言えば、こういう商品も精神安定効果を狙うのなら良い商品なのかもしれないですね。