夏タイヤは4℃くらいでガラス転移点に達するのでグリップ力が急激に失われる。だから路面が凍ってなくても冬場に夏タイヤで走るのは危険という論をTwitterで見ました。
雪が降らないから夏タイヤでいいというのは大間違い。ドイツのコンチネンタルの論文でにも夏タイヤのガラス転移点が大体4度か5度くらいにあるので、幅を持たせて路面温度が7度を下回るような状況になるならスタッドレスに履き替えないとタイヤがタイヤの意味をなさないってある。雪のためじゃないんだ
— 風早比古命(犬一坐/無格) (@T_Kazahaya) 2017年12月17日
路面温度が「ガラス転移点」を下回ると、タイヤのゴムが弾性をなくす。 言ってみればゴムがプラスチックに変質するようなモンで、ぶっちゃけ、グリップ力がなくなる。てことは、走らない、止まらない、曲がらないという、非常に危険な状態になる。
……危ないなんてもんじゃねーな。 https://t.co/Tdm18iJX48— guicheng (@guicheng) 2017年12月17日
結論から言うと、私が調べた限りこれは正確ではないと思っています。
当初これを見た時は信じましたが、しかしよく考えると違和感のほうが強くなります。
- 冬場に夏タイヤを触ったことは何度もあるが、ガラス転移しているほどに硬化していると感じたことは無かった
- そもそもガラス転移している状態で走行したらタイヤに相当なダメージが与えられていると思う(予想です)が、そのような形跡を見たことがない
- 路面温度がマイナスになるような乾いた路面でしょっちゅう車を走らせたことがあるが、グリップ力に特段の変化を感じなかった
- そもそも乾いた路面で積雪路のようにスリップして事故る車を経験上見たことがない
- スタッドレスタイヤの装着率が低い南関東でも路面温度がマイナスになることはよくあるはずで、その程度でガラス転移点に達してグリップが失われるのであればしょちゅう事故がおきているはず
- そんなに危険なのであればもっとJAFあたりがしつこく警告する記事を書くはず
- 走行中のタイヤは熱を帯びる。夏場だと走行後はかなり熱くなっている。冬場はよく分からないけど、路面温度よりはプラスになるはず
で、以下あたりからタイヤに使用されるゴムのガラス転移点(Tg[℃])を調べてみました。
[1] http://www.kyowakg.com/tech/netsu/taikan.html
[2] http://www.kayo-corp.co.jp/common/pdf/rub_propertylist.pdf
[3] https://note.mu/uchikun/n/na87bcac63c9d
[4] https://www.packing.co.jp/GOMU/syuyougomu_teisuuhyou.htm
- スチレンブタジエンゴム(SBR) : -78℃ [4]
- 天然ゴム(NR) : -30〜-50℃ [1]
- ブチルゴム(IIR) : -78℃ [1]
- イソプレンゴム(IR) : -63〜-72℃ [3]
その他のゴムについてもガラス転移点は似たような感じでした。タイヤのコンパウンドは炭素などが混じっているため原料の特性がそのままタイヤのガラス転移点になるわけではないと思いますが、用途を考えればガラス転移点の上昇を抑えたり下げたりということはあっても、0℃前後という高い温度でガラス転移してしまうような物性のコンパウンドをタイヤに採用するわけがないんじゃないかと思います。
ただ、ゴムはガラス転移点で唐突に特性が変化するわけではなく、低温になるにつれ徐々に硬化していきグリップ力が失われるし、夏タイヤよりもスタッドレスタイヤのほうが低温路面であってもグリップするのはそのとおりであると思います。 しかし、どの程度の温度でどの程度グリップ力が失われていくかというのは分からないので、4〜7℃で実用にならないほどにグリップ力が失われるかどうかというのも疑問です。
完全に推測ですが、そのコンチネンタルの論文なるものが本当に存在するなら、そこに書かれていたのは4℃程度での夏タイヤの制動距離が伸びることを試験によって確かめたというような内容で、それがガラス転移点であるとは書いていなかったのではないかな、という気がします。
また、以下のようにネットを検索すると外気温が7℃を超えたらスタッドレスに変えるべきという主張がなされているページが多数ヒットします。
http://car-me.jp/custom/articles/6893
http://www.clg-sv.com/tire2/w-tire_change.htm
http://www.tire-fitter.co.jp/18499/
しかしながら、タイヤメーカーやJAFなどの一定程度信頼できるようなサイトで7℃という主張をしているところは見当たりませんでしたし、7℃という数字の根拠も見つけられませんでした。
個人的には路面がどれだけ凍結していようと乾燥路面であれば夏タイヤのほうがグリップする気がします(経験上)。ただ、これは人間の感覚なので参考にならないですけど。
下記のブリジストンのブログではスタッドレス交換時期については、特に外気温については触れられておらず、降雪時期と新品のスタッドレスタイヤの場合は降雪時期までにある程度乾燥路面を走ることを推奨することが書かれています。
いつ履く?いつ戻す?スタッドレスタイヤの履き替えタイミング(時期)
まとめ
- 夏タイヤのガラス転移点はおそらく-30℃以下であると推測される
- したがって路面温度が4℃程度でガラス転移するわけではない
- 乾燥路面かつ低温状態ではサマータイヤよりもスタッドレスタイヤのほうがグリップするのはおそらく事実
- しかし何℃くらいでスタッドレスタイヤのほうのグリップ力がサマータイヤに優るのかはよく分からなかった(7℃という値が広く信じられている)
- 寒くなってきたら雪が降っていなくても早めにスタッドレスタイヤに替えたほうが良いのはそのとおり(降雪がなくとも路面が凍ることはあるので)