【質問#94】i-DCDは今後どうなるのか

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質問

現在、ホンダのグレイスもしくはシャトルの購入を検討していますが、各社のハイブリッドの比較と比較、ホンダi-DCDの制御は大変参考になりました。(F1世代アイルトン・セナ世代なので、それ以来のホンダファンで、ホンダ車を第一に車は検討しています。)
i-DCDの制御でデュアルクラッチの両方を繋いでいるというのは意外でした。奇数段のギアのみ、モーターがつながっているので、エンジン側が奇数段の時のみ、モーターがアシスト出来ると思っていました。
実際フィット3ハイブリッドを試乗してみましたが、乗ると普通に走る分にはスムーズですが、思いっきりアクセルを踏んでキックダウンをした時やSボタンをおした時は、エンジンが主体になり、これは面白いと感じました。
現在、ホンダの従来のCVTではないAT車(MA4ドマーニ)に乗っていますが、違和感は少なかったです。
小耳に挟んだ話なのですが、ホンダのATは平行歯車式のATなので、ギア比の自由度が高く、2速3速でも直結に入るため、4速ATで他社の遊星歯車式のATの5速相当だと言う話がありました。どこまで本当かは分かりませんが。(実際にタコメーターを見ていると、2速直結は分からないのですが、3速変速と直結は明らかに回転数が変化しますので、60kmぐらいまでの加速は、タコメーターを見ていると6速ATのような回転数の変化になります。)
ただ、コスト的に高いので、ATの多段化が他社に比べて遅れ気味になるという話もあるようです。

それで、ここからが本題なのですが、時期フィット4にはi-MMDが採用されるという噂があります。ホンダは今後、i-DCDを継続していくのか、それともフィット3とその派生車一代限りなのか、色々噂はあるようですが、気になるところです。
トルコンATはATフルードを定期的に交換すれば20万キロ超、ノンオーバーホールで使用できますが、DCTの乾式クラッチにそこまでの耐久性を期待できるでしょうか。最近タクシー業界ではトルコンATのほうが長寿命という話があるようですので、DCTについては耐久性が気になります。

余計な話ですが、国鉄形のディーゼル機関車は2組から3組のトルクコンバーターとそれぞれギア比の異なる固定ギアを持っていて、速度に応じて切り替えていく、デュアルクラッチ車、トリプルクラッチ車です。

回答

次期Fitでi-MMD採用というのが本当ならば、i-DCDの将来は暗いような気がします…。

私は従来、i-MMDなどに見られるシリーズハイブリッド構成はシステムのコストが非常に高価になりがちなのだと思っていました。アコードハイブリッドやオデッセイハイブリッドの価格が高いこと、エンジンもモーターもどちらも車体を動かすのに十分なパワーを発揮できるものを搭載しなければならないことなどがその理由です。

でしたので、日産がノートe-Powerを200万円を切る価格で投入してきたのは衝撃でした。i-MMDが高速巡航時用のエンジン直結ギアを装備しているのに対して、e-Powerはそれを装備しておらず、システム的には確かに低コストで済むような要素は確かにあります。それでもここまで低価格化できたのは何か従来のi-MMDと比較してずっと低コストでシリーズハイブリッドを実現できる、なにかインパクトのある要素があったのだと思います。もしくは、単にi-MMDが設計開発費の回収などを目的に高い値段設定にしていたのか、単にプレミアム感を演出した値段設定だったのか…。

私が思うに、ホンダがi-DCDではなくi-MMDを今後普及価格帯の車にも搭載していくことには以下のメリットがあると思います。

  • EVのノウハウ蓄積
  • 品質問題の回避
     - 開発リソースの集中
  • 車種の展開が簡単
  • カタログ燃費の向上

それぞれ解説していきます。

EVのノウハウ蓄積

遅かれ早かれEV(FCVやレンジエクステンダー含む)化の波は必ず来ます。トヨタも最近はEV技術にリソースを投入するとのニュースが沢山流れています1。欧州の各社も同様です。その理由はZEV規制などの環境保護を目的とする各種規制の強化でしょう。以前はZEV規制もハイブリッド車をちょっとは考慮してくれていましたが、今後考慮されなくなるようです。規制にクリアした自動車を作るというのは自動車メーカーにとって最低ラインの技術です。これを担保しなければなりません。

いまのところ、CO2やNOxを排出しない車のパワートレーンはモーターしかありません。今後何十年にもわたってその状況は変わらないでしょう。モーターに食わせるエネルギーをどう作るにせよ、モーターからタイヤに至るまでと、モーターを制御する技術は今後の車づくりの基礎となります。

品質問題の回避

i-DCDではその制御の難しさから度重なるリコールを発生させました。i-MMD(やシリーズハイブリッド)はすでに実績もあり、技術的なリスクやチャレンジはi-DCDよりは小さいと考えられます。

i-DCDも品質問題を乗り越えてまともに動くようになった実績があるじゃないか…と思われるかもしれませんが、限定されたエンジンとの組み合わせのみでうまくいっているという表現がどちらかと言うと正しいでしょう。

開発リソースの集中

各車がEVに向かって技術開発を進めている時にハイブリッド技術を複数並列で抱えていてもあまりいいことはありません。トヨタは4代目プリウスでもTHSを大きくは変更しませんでした。日産はハイブリッド技術にはそもそも投資を避けてるように思えます。結果論かもしれないですが、ハイブリッド技術への積極的なリソース投入を避けてEVを第一目標とした日産の戦略は今思うと正しかったように思います。

車種の展開が簡単

「品質問題」の項と若干重なりますが、i-DCDはその制御の難しさゆえかエンジンとの組み合わせが限定されていました。i-DCDを採用するすべての車種で組み合わせるエンジンはLEB(1.5L NA)エンジンで、システム出力もほぼ同じです。JADEでもFitと同じプラットフォームを採用し、パワー不足を感じさせるようなケースでは、「ファイナルギア比を大きくする」という投げやりな方法で解決(?)しました。

これらのことから、i-DCDは1.5Lエンジンとの組み合わせ以外での運用が難しいシステムというのが推測できます。THSも大体同じエンジンを組み合わせています2から、まあハイブリッドシステムでは珍しいことではないのでしょう。原理上はエンジンを変えるころができるものの、数多のパラメータの設定がやりなおしになるとか、変速機相当のシステム部分が完全に再設計になってしまうとか、色々事情があるんじゃないかと思いますが。

i-MMDは、乱暴な事を言えばパワーソースがエンジン+バッテリであるようなEVなので、車種にあった大きさのエンジンとモーターを組み合わせればそれでOKなはずです。なのでどんな車種でも容易に(といっても小型車の場合はサイズやレイアウトが難しそうですが)展開できるんじゃないでしょうか。少なくともi-DCDやTHSよりは容易でしょう。

カタログ燃費の向上

JC08にせよ、WLTPにせよ、シリーズハイブリッドが一番苦手な一定速度巡航する試験区間はあんまり無いように思います。グラフを見ると後半の一部分ですかね。

image from Worldwide Harmonized Light Vehicles Test Cycle (WLTC) | DieselNet

であれば、車速の変化にほぼ関係なく一番おいしい燃費領域で運転し続けることができるシリーズハイブリッドはかなり有利と思われます。

WLTPではコールドスタートのみを考慮するとのことでしたので、もしかしてバッテリも残量ゼロの状態でテストするのかな?と思いましたが、どうも試験前後でのバッテリ残量の差(ΔSOC; state of charge)をゼロにするような補正を行うみたいなので、シリーズハイブリッドシステムが実際の負荷に関わらず発電し続けるので燃費が落ちるということもなさそうです。

(参考: 乗用車等の世界統一試験法における電動車試験法検討に関して | 交通安全環境研究所

以上、考えられるメリットを色々挙げてみました。

そもそもi-DCDの開発の背景を辿ると、トヨタのTHSを超えるシステムを開発するというまっとう(?)な目標はあったものの、その他に自社がかかえる平行軸式トランスミッションの生産設備の稼働率を上げたいという事情もあったようです。

ホンダがDCTに傾斜するわけ | 日経テクノロジー

ホンダには、現在の平行軸式の自動変速機を製造する大規模な設備があるからです。この設備をすべて捨てて、CVTに統一するというのは現実的な解とはいえないでしょう。

DCTなら、手動変速機の構造がベースですから、変速段を増やしてもそれほど構造は複雑化せず、しかも現在の平行軸式の自動変速機の加工・製造設備を生かすことができます。こう考えてくると、エンジン車の変速機でCVT化を進める一方で、ハイブリッドシステムにDCTを導入するというホンダの戦略は、自社の経営資源を生かしながら技術革新に対応する、巧みな戦略といえそうです。

しかしながら2015年末にホンダは平行軸でない、遊星歯車式の、それも10段の変速機を発表しました。変速機は7段、8段以上の多段化が大きなトレンドですが、これらの段数を平行軸式で実現するのは難しかったのでしょう。

今後、平行軸式変速機が必要になるシーンというのはあまり思い浮かばないですし、ホンダとしてもいつまでも生産設備への投資を渋って既存の設備の稼働率を上げる…という戦略に未来は無いと踏んだのではないでしょうか。すると、i-DCDを採用する経営的なモチベーションも無くなります。

というか、そもそもホンダは平行軸式変速機の稼働率向上分以上の経営資源をi-DCDの品質問題で失ってるはずなので、結果論としてはi-DCDって経営的には完全に失敗だったシステムだったのかもしれませんね。私の会社でもよくあるんですが、偉い人が鶴の一声で「元々Aというシステムがあるんだから、それを流用してBを作れば良いじゃん」とか思い付きで発言して大失敗するんですが、ホンダにもそんな人がいたんじゃないですかね(あてずっぽう)。

そういうわけで、よくよく考えると「時期Fitはi-MMDかも」という噂が真か否かという以前に、ホンダにとってはハイブリッドはi-MMDで進めたほうが良いということが明らかな気がしてきました。i-DCDが廃れ、i-MMDが広く採用される可能性は高い気がします。

しかしながら、私は再三このブログでも述べていますように、i-DCDはハイブリッドシステムとして非常に美しいと感じています。一定速度巡航時の燃費を犠牲にせず、フルハイブリッドで、クリープ現象を半クラではなくモーターで再現し、ステップATでパドルシフトにも対応できる。一部の技術好き、車好きにとってはかなり魅力的なシステムだったのではないでしょうか。

そのi-DCDが1世代で終わってしまうのは悲しい限りですが、しかし「運転の楽しい車」という観点ではi-MMDをはじめとするシリーズハイブリッドも悪くないと思います。その理由は、「ノートe-powerとswiftがすごい」で説明したとおりです。

余談ですが、現在の日産e-Powerに対抗するという意味でも、Fitがi-MMDを採用する際にはエンジン直結ギアを装備しておいてほしいな、と思います。

余計な話ですが、国鉄形のディーゼル機関車は2組から3組のトルクコンバーターとそれぞれギア比の異なる固定ギアを持っていて、速度に応じて切り替えていく、デュアルクラッチ車、トリプルクラッチ車です。

ああ〜なるほど。電車はVVVFですがディーゼルは変速機が必要ですね。考えたこともありませんでした…。大きいトルクに対応するためそういう構成になってるんですかね。これも余談ですが、もし自分が生まれ育った場所でもうちょっと電車が発達していたら鉄道マニアになっていたきがします。


  1. 乱暴に言ってしまえばFCVとリチウムイオンバッテリ搭載EVの違いはパワーソースだけなので、メディア各社が報じているほどの方針転換では無いとは思いますが。 
  2. たとえばTHSをマツダ アクセラ向けに技術提供したときは、マツダのSKYACTIV-2.0エンジンと組み合わせられましたが、システム出力は従来のTHSのそれと全く一緒でした。