2016/11/15追記: 記事公開当初、タイヤの半径でなく直径でエンジントルクを算出していたので、巡航に必要なトルクを2倍でで計算してしまっていました。下記の値は訂正後の値です。
質問・悩み相談の回答です。
質問
「Cd値の優劣を比較してもあまり意味がない」について。
CX-5は100km/h巡航のために、本当にトルクカーブのピーク=アクセル全開が必要なのでしょうか?購入を考えているのですが、そんなショボイのなら見直しを考えています。
回答
いや、必要ありません。
え?そんなこと書きましたっけ?ちょっと読み返してみました。
CX-5 2.0L エンジンのトルクカーブのピークは2000rpm付近で、100km/h巡航走行時の回転数もこの程度であることから考えると、100km/h走行時にCX-5はエンジンからの出力の8%程度が空気抵抗により失われることになります。
ここの事ですかね?ここでしたら、最高負荷(≒アクセルべた踏み)状態の8%程度の力で空気抵抗に釣り合うという意味です。いや、すみませんでもこれ比較対象が変ですね。比較している対象はおそらく1〜2速のローギアで路面に伝わる最大のトルクですからこの値を100km/h巡航時の話に利用するのは変です。
なんかすみません、このあたりの文章は非常に分かりにくかったですね。なぜかフルスロットルで走行していることを前提としています。この記事を書いた時は計算で0-100km/hの加速を導出するとか頑張ってた時なので、完全に脳みそがそっちの方向にスイッチしていたのでしょう。
余談ですが、当該記事の
これが、たとえばプリウス程度の抗力であれば5%程度になります。2.0LガソリンエンジンのCX-5が高速道路で15km/Lの燃費だったとして、ボディだけが突然プリウスに変化する魔法を使うと燃費は15.45km/Lくらいまで伸びることが期待できます。
ここも乱暴すぎる計算ですね。空気抵抗が5%減したら燃費が5%改善するというのはいくらなんでもどんぶり勘定すぎます。両者はぜんぜんイコールの関係ではありません。具体的には、空気抵抗しか抗力を考えてない事、負荷変動によるエンジン熱効率の変化を考慮に入れてない、というあたりが駄目です。というか15km/hから5%増えたらそもそも15.75ですよ。誰がこんなこと書いたんでしょう。もうちょっとちゃんと計算してほしいです。
ということでもうちょっとちゃんと計算してみました。
条件
CX-5
- 100km/h巡航時
- エンジン回転数 2029 rpm(6速)
- 全幅 x 全高 1840[mm] x 1705[mm]
- 最低地上高 210mm
- Cd値: 0.33
- 重量: 1470kg
- タイヤ外径 0.724[m] (225/65 R17)
- 6速総減速比 0.599 * 4.624 = 2.77
プリウス(3代目)
- 全幅 x 全高 1745[mm] x 1490[mm]
- 最低地上高 140mm
- Cd値: 0.25
計算
CX-5の空気抵抗:
※最低地上高を考慮しているため前述記事よりも少し小さな値になっています。こちらのほうがやや正確なはずです。
1.84[m] * (1.705 - 0.210)[m] * 27.7[m/s]^2 * 1.2[kg.m^3](空気密度) * 0.33(Cd値) / 2 = 418.0[N]
プリウスの空気抵抗:
1.745[m] * (1.490 - 0.140)[m] * 27.7[m/s]^2 * 1.2[kg.m^3](空気密度) * 0.25(Cd値) / 2 = 271.1[N]
CX-5が100km/h巡航するのに必要なエンジントルク
x1: 必要な推進力[N] = 空気抵抗 + 伝達効率(0.95、5%損失と仮定) + 走行抵抗(転がり抵抗AA、RRC=7.0と仮定)
x1 = 418.0[N] + 0.05x + 9.8 [m/s^2] * 1470kg * 7.0 * 10^-3
0.95x1 = 418.0 + 100.1 - ①
x1 = 545.4[N]
よって、545.4[N]の推進力を発生させるために必要なエンジントルクx1tはトップギアの場合
x1t * 2.77(総減速比) / (0.724[m] / 2) = 545.4[N]
x1t = 545.4 * 0.362 / 2.77 = 71.27[N・m]
この値は最大トルク196Nm(@2000rpm)の36%。 - ②
また、4速の場合
x1t * 4.624(総減速比) / (0.724[m] / 2) = 545.4[N]
x1t = 545.4 * 0.362 / 4.624 = 42.69[N・m]
この値は最大トルク196Nm(@2000rpm)の21%。- ③
CX-5がプリウス程度の空気抵抗だった場合に100km/h巡航するのに必要なエンジントルク
①を流用して、
0.95x2 = 271.1 + 100.1
x2 = 376.46[N]
よって、376.46[N]の推進力を発生させるために必要なエンジントルクx2tはトップギアの場合
x2t * 2.77(減速比) / (0.724[m] / 2) = 376.46[N]
x2t = 376.46 * 0.362 / 2.77 = 49.20[N・m]
この値は最大トルク196Nm(@2000rpm)の25%。- ④
ガソリン消費量を算出
2000rpm、71.27[N・m]と49.20[N・m]でのガソリン消費量をBSFCマップ(縦軸トルク)から算出
上図より、それぞれ250[g/kW·h]と280[g/kWh]くらいですかね。かなり大まかな値ですが…。で、kWが邪魔なので取ります。まずそれぞれのトルクと2000rpmから出力(仕事率)を求めます。
71.27[N・m] * 2π * 2000[r/min] / 60[sec] = 15.0[kW]
49.20[N・m] * 2π * 2000[r/min] / 60[sec] = 10.3[kW]
よって、250[g/kW·h]と280[g/kW·h]はそれぞれ
250[g/kW·h] * 15.0 = 3750[g/h]
280[g/kW·h] * 10.3 = 2884[g/h]
となりました。ということは、下記のことがわかります。
- トップギアでは100km/h巡航時、負荷率36%。4速では負荷率21%。②、③より。
- CX-5がプリウスサイズになって1時間100km/h巡航したら、両者には1kg強くらい(≒1.4Lくらい)燃料消費に差がでる
- 比率で言えば燃費は23%の向上
ということになります。なんだ、全然違うじゃねえか。しっかり計算しろよ。
まとめ
ただ、前述の記事の言いたかったことは「空気抵抗を比較することにあまり意味はない」ではなくて、「Cd値を比較することにあまり意味はない(それよりも前方投影面積のほうが支配的)」ということです。
空気抵抗は燃費に大きくしますが、空気抵抗の小さい車に乗りたいのならばCd値が小さい車に乗るのではなく、真正面から車を見た時に小さい車に乗りましょう。SUVやミニバンがいくらCd値を小さく設計したところで大差ありません。