【質問#68】原子力発電の是非

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質問・悩み相談の回答です。

質問

突然ですが、私は原発に反対です。
理由は、核廃棄物の処分方法が「数万年以上にわたり人間の生活環境から遠ざけ、管理」することであり
これは非現実的だと思うからです。(以下を参照しました)
http://www.fepc.or.jp/nuclear/haikibutsu/high_level/index.html

ただ私は素人なので、識者の方々が、地中なら数万年に渡って安全としたことに対して
声高に反対意見を言いたいわけではないです。
しかし数万年というレベルになると、私は人間なので想像がつかない年月であるし、
日本が存続しているかも分からないし、人類が人類として生存しているかも分からないし、
そんな途方もない処分方法を採用するのは無責任ではないのかなと感じる次第です。
withpopさんを玄人だと考えているわけではないのですが、ブログ等読む限り恐らく
原発賛成だと思うので、反対派とは違う立場から核廃棄物の処分方法に関して
何か思うところがあればお聞きしたい、というのが質問です。

微妙な話題とは思うので、言及を避けたい場合はお答えいただかなくても問題ありません。
こんな質問ですみません。喧嘩を仕掛けたい意図ではないです。
純粋に私の読解力不足、または考えの至らない着想がないかと思うのですが、「原発反対」と一言言うだけで
「代替エネルギーはどうするの?今まで頑張ってくれた福島disってんの?」
みたいなアレルギー反応をされるので、マトモな対話にならないのが正直なところです。
尚、これは震災前から同じ考えなので、昨今のブームに乗って言っているわけではないです。
また、私自身、代替エネルギーの目星はないので、原発に頼らない生活が実現不可能であろうことは
承知しているつもりです。
ただ、その上で、現状の生活が分不相応なのではないか、という不安について検討することには
意味があるのではないかと思っております。

以上、よろしくお願い致します。

回答

なんとも回答の難しい問題です。

まず私のバックグラウンドから説明しますと、私は原子力発電所で使用される計算機システムのうち、炉心の内部をシミュレーションによって推定する機能の開発を行っていました。その流れで、炉の運転や事故時解析や過酷事故あたりの知識はある程度はありますが、正直なところ国家戦略とか原発の是非までに話が及ぶとそこまで詳しく語れる知識はありません。

ですので、私が知っている範囲での一般的な説明をしたいと思います。

地層処分の現実性

高レベル放射性廃棄物はご指摘の通り、放射能レベルが落ち着くまではかなりの期間要します。一応付け加えておきますと、1万年後まで高いレベルをキープするとか線形でレベルが落ちていくとかいうことではなく、短期間(数百年)に一気にレベルが落ち、その後はゆったりと減少していくような推移をとります。

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image from 経産省

ですから、1万年の間は何が何でも人類と隔絶するという思想でやっているわけではなくて、放射能レベルが高い数百年の間は厳重に保管する、その後もなるべく外に出ないようにするという感じの思想でやっているわけです。

いずれにせよ、長い期間人類から遠ざけておいた方が良い事には変わりありません。宇宙の彼方へ投げ捨てるのが確実なのですが、ロケット打ち上げにはコストがかかりますし、打ち上げに失敗したら地上に落ちてくるという危険がありますし、他の知的生命体を害する可能性も一応はあります(真面目に言ってます)。そういった理由があるために、宇宙へ投げ捨てる方法はとられていません。なので、地中深くに穴を掘って捨てるという方法を取っています。これを地層処分と呼びます。

地層処分では高レベル放射性廃棄物を一か所にとどめておくために色々な防御策を講じています。

  • 放射性廃棄物を容易に分離・拡散しないようにする
  • 地表に出てくるまで十分な時間が掛かる程度深い場所に埋める
  • 地下水と接しないようにする

というあたりが基本的な考え方で、具体的な方法が以下です。

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image from 電気事業連合会

この方法でどの程度安全なのかというのは、各分野の専門家が熱心に検討した結果ですからそれなりの確証はあるのでしょう。私は地質学については素人ですが、適当にググってみると世界でもトップレベルであると言われる赤石山脈の隆起速度は年間4mmだそうですし、地震による断層を境とした隆起に関しても、ググると数mオーダーという数字が良く出てきます。(加えて言えば、断層があるような場所に処分場は作らないでしょう)

リスク評価

ともかく、地層処分で現実的な安全性を確保でき、かつ、コスト的にペイできているから今原子力発電所は動いているということになっています。「長期間厳重に保管するのは非現実的」というご指摘は、地層処分された放射性物質がまだ放射性レベルが高いうちに人間と触れてしまうというリスク(とそれを抑えるために支払うコストと得られるメリット)をどう評価するかによります。

ここは明確な答えを出せません。地層処分に限らず何でもそうですが、たとえば「今後100年に死亡事故が起こる確率が90%というリスクを支払って得られるメリットは年間1万円」という何かのシステムがあったとしましょう。これを実施するようなひとは居ないですね。これがたとえば「今後100年に死亡事故が起こる確率が1%というリスクを支払って得られるメリットは年間1000万円」だったらどうでしょう?実施するひとが出てくるかもしれませんね(私はやります)。

電力は国家の生命線です。現代では1次産業から3次産業まですべての産業は電力で動きます。電気のない生活だって耐えられる!と主張する人がたまにいますが、それは電力によって支えられた食料物資が届けられるから個人のレベルで電気を使わなくても生きていけるだけです。電力がなかったら現代日本では自給自足体制でも整えない限りは生活できません。

だから、発電をどうするかという議論が感情論や文化論で動いていてはだめです。なので、何らかの定量的な数字を導き出して良いかどうか決断を下さなければなりません。原発の導入にあたっては、そのような種々のメリット・デメリットを勘案し、最終的にメリットの方が大きいと判断されたから導入したのでしょう。

一方で、質問者様のようにそのリスクに対して得られるメリットが見合っていないと主張される方もいらっしゃいます。このような場合は、ふつう、双方の意見を聞いてどちらがより正しいか、もっともらしいかを判断するプロセスが必要になります。つまり、普通の一般市民が原子力が商業発電に利用されることの是非を考えるには膨大な資料を読み、勉強しなければならないということです。そして推進側の意見を理解した上で反論を述べるのがフェアだと私は思います。

じゃあ、そんな膨大な時間と労力をかけないと原子力の是非をめぐる議論をする場にすら立てないのか、と思われるかもしれませんが、そうではありません。疑問を感じたらそれを率直に表明して意見を問うというのは、それ自体が意味のあることだと思います。「一般市民が疑問や不安を感じている」ことそれ自体が「原子力事業者や関係省庁はもっと説明をしなければならない」というメッセージになりますし、もしかしたら有識者が個別に回答をくれるかもしれません。その一連の流れがネット上で誰でも読める形で公開されれば、他の大多数の人々の利益にもなります。だから、質問者様がおっしゃるように双方とも冷静な議論が行えると良いですね。現実はそうでもないですが…。

蛇足ですが、あまりにも感情的な発言は人工知能が自動判別して表示しないようにする掲示板みたいなものがあったら良いなと思っています。Quelonという会社がそんなシステムを作っているのですが、こういうのが広まればもっとネット上で有益な議論ができるのかな?という気がします。ただ何らかのバイアスがかかることは間違いないので、一長一短ではありますが。

ということで、原子力の是非を語るほど私は知識がないので結論はぼかしたまま、参考になりそうな資料などを載せてごまかします。

といっても今回のような議題(地層処分が妥当とされた経緯)に対して適切な資料がどこにあるのかは私にもわからないのですが、原子力規制委員会が似たような議論を取り扱っていますので、参考になるかもしれません。

あとはこちらの資料もよくまとまっていて分かりやすいと思います。

原子力技術開発の動向

また、地層処分や核燃料サイクルなどの一般的な知識に関してはATOMICAを参照するとだいたいわかるのではないかと思います。

なんだか微妙な回答で恐縮ですが、冒頭に述べたとおり私も詳しく語れるほどの知識が無いので申し訳ありません。

余談

以下余談です。余談のほうが長くなりそうです。

日本が存続しているかも分からないし、人類が人類として生存しているかも分からないし、

そのために、核廃棄物には現代の言語が理解できないことを想定して、これは危険だ!とわかる絵や図などが処分される廃棄物(施設?)には書かれていると聞いたことがあります。

ブログ等読む限り恐らく原発賛成だと思うので

私は短期的には規制委員会の承認を受けた原発を動かすのには賛成で、あまりにも古い設計の炉を動かすのは懐疑的です。また、長期的には原発以外の選択肢をも模索すべきと考えています。

原子炉(核分裂炉)については数多の種類があります。それぞれ特性が全く異なり、安全設計もどんどん進化しています。古い設計よりも新しい設計の原子炉の方が安全性は高いです。たとえば、最近研究されている軽水炉(普通の水を冷却材に使う原子炉)は静的安全性といって何か事故が起こっても勝手に冷温停止状態になる(電源が不要、もしくは最初の数日だけしか電源を必要としない)仕組みが備わっていたりします。その他にも様々なタイプの炉が研究されています。

なので私は古い炉を捨てて新しい炉に切り替えていったほうが良いと思うのですが、単純に経済的な側面を見ると炉全体の稼働率を上げることは低コストで原子炉新設以上の以上の効果があったりするので、古いからと言って安易に取り壊すのも判断が難しいところです。建設用地の取得に多大な苦労を要するという点も考慮しなくてはなりません。

原発以外の選択肢に関しては、自然エネルギー(太陽光、風力など)がよく挙げられますが、自然エネルギーは発電量が安定せず、バッファの役割を果たす電力系統向け蓄電池はまだ研究段階ということでベースロードを担う原発の代替にはなりえません。

ベースロードの代替案(核分裂炉からの移行)としては石炭・石油火力、核融合発電あたりが候補となります。前者はエネルギーセキュリティの観点(国家戦略に重要なエネルギーをどのように確保していくか)から不適とされて原子炉が導入された(はず)ので、今更移行するメリットは無いでしょう。

核融合発電は核分裂炉とはちがって「反応を維持するのが難しい」という特性があるため、なにか事故が起こっても安全に止められます。ただ、放射線と放射性廃棄物は出ます(量は原子炉に比べたらずっと少ないはずですが)。ただ核融合炉は何十年も炉の研究が行われ、やっとプラズマが数十秒というオーダーで維持できるようになった(今年になって中国が102秒維持できたと発表)という段階なのでまだまだ商業発電炉として使う段階にはありません。

また、一応米ロッキードのスカンク・ワークスというチームが2014年に「実用核融合炉を10年以内に実用化させる」と発表したのですが、それから続報がありません。「スカンク ワークス 核融合炉」で検索したら私が昔書いた記事がトップでヒットするほど情報が無いです。

ロッキードの核融合炉詳細

と、まあ以上のようなことを漠然と考えています。

純粋に私の読解力不足、または考えの至らない着想がないかと思うのですが、「原発反対」と一言言うだけで
「代替エネルギーはどうするの?今まで頑張ってくれた福島disってんの?」
みたいなアレルギー反応をされるので、マトモな対話にならないのが正直なところです。

これは何の議論にしてもそうですね。

特に私が気になるのは、日本では(海外でもあるのかもしれませんが)完全なるリスクフリー、ゼロリスクでないとダメという人は沢山いるという点です。良くわからないのですが、たぶん文化的なものでしょう。日本人は車や家電製品などでも、「全部入り」をよく好みます。将来、こういうことに陥るかもしれない。こんなことがあるかもしれない。だからそのための備えをしておきたい。だから車は多人数が載れて荷物もいっぱい乗れる車が良い、燃費は良ければ良いほどいい、テレビは録画できて4Kであれもこれも付いてるのがいい、見るだけのテレビなんてリビングには置きたくない。みたいな感じですね。勝手な想像ですが、日本では天災が多いので必然的に安全志向、余裕設計を重要視するようになったのではないでしょうか。

しかしながら世の中に本当にリスクフリーな行為などかなり限られています。大体の行為はある程度のリスクを受け入れた上でリターンを望まなくてはなりません。こういう考えだから、日本では起業やフリーランスがよろしくなく、大企業に努めて安定した収入を得るのが良しとされるのでしょう。おっと、話がまた逸れそうなのでやめます。

現状の生活が分不相応なのではないか、という不安について

これは非常に興味深いご推察と思います。高度にシステム化された社会、あまりにも便利になりすぎた社会を生きづらく感じる人は多いのではないでしょうか。

私はこの点についても上手く説明することはできませんが、人間は道具を使い、農耕をはじめ、余剰エネルギーを使って脳を発達させて知恵を使って生きてきました。それは進歩とふつう言われますが、私はなんとなくそれは進歩ではなくて変化なのでは、十分なエネルギーが脳に供給されればいずれ行き着く文明レベルがあって、そこに水が流れ落ちるように移動しているだけなんでは、と思うことがあります。つまり我々が望もうと望むまいと、ある程度の科学技術レベル、生活レベルまでは勝手に進歩しちゃうんじゃないかと。根拠はないのですが。

そしてその平衡状態にたどり着いた時、人間が文明レベルを保ったまま半永久的に存続しているような仕組みが整っていればいいなあと思います。

なんだかいつも通り何を喋っているのかよくわからなくなってきましたのでここでぶった切って終了したいと思います。ご査収ください。