私はなぜCVTを嫌うに至ったのか

当ブログですでに何度も述べているように、私は(自動車の変速機の)CVTが好きじゃないです。その理由も何度も説明したのですが、CVTのみに焦点を絞った記事って書いてないな、と思い、まとめてみます。

車にはクラッチと変速機が必要

車には変速機とクラッチが必要です。これは動力源にレシプロエンジンを乗せているからです。レシプロエンジンは頻繁に止めたり動かしたりすることが苦手で、ある程度のトルクと出力を得るにはそれなりの回転数で運転しなければならないという性質があります。しかしながら、車は様々な速度域で走行しますし、止まったり進んだりを繰り返したりします。時には後ろ向きに走行させる必要もあります。ですから、動力を車輪から切り離したり、緩やかに接続したり、変速ギアを切り替えたりという機構が必要になります。

一方で、たとえばモーターにはそのような制約がありません。モーターはエンジンと比較すれば、定格のトルクを発生させる回転域はとても広いですし、止めるも動かすも逆転させるも容易に行うことが出来ます。ですから、たとえば日産リーフには変速機やクラッチがありません。

ちなみに、「私の車はオートマだからクラッチ無いよ」と思われる人がいるかもしれませんが、それはクラッチペダルが無いだけであって、クラッチの役割を果たす機構(例えばトルコン)は装備されています。CVTにはトルコンが搭載されていないと思っている方がたまにいらっしゃいますが、多くのCVTではクラッチ機構としてトルコンを装備しています(燃費性能向上のためロックアップ機構をも備えます)。

CVTの利点

CVTは主に燃費性能向上技術として研究・開発されました。燃費性能には様々な要素が複合的に絡んで作用しあっていますが、ここではエンジンのみに焦点を当ててみます。自動車に搭載されるエンジンの燃費が良い運転状態というのは実験的に大体わかっています。以下はWikipedia(英語)にあったBSFC図です。

bsfc

縦軸はBMEP(≒トルク)、横軸は回転数(rpm)でグラフ内に書かれている等高線がBSFCで、出力あたりの消費ガソリン量[g/kWh]を示しています。何のエンジンの図かは分かりませんが、ガソリンエンジンであれば大体同じような図になります。この図ではだいたい回転数2200回転くらい、最大負荷よりもちょっと小さめのあたりで運転させるのが最も効率がよいという事になります。

このグラフの縦軸(BMEP)はラフに言えばアクセルの踏み具合に依存します。最近の車は電子スロットルですから、ここは車両側がかなり自由に制御できます。問題は横軸です。段階的な変速機では、走行速度とギアが決まれば自ずと回転数が決まってきてしまいます。なので、スイートスポットで運転するのが難しくなります。

ところがCVTは連続的にギアを変更することができるので、殆どの速度領域でスイートスポットでの運転を逃さないように制御できます。これがCVTの最大の利点です。

あとは、エンジンの運転をピーク出力が出るところに維持するよう制御することで、加速性能を高くすることができます。

CVTの欠点

「無段階変速機」という意味でのCVTは、効率面で語ればまさに理想の変速機で文句のつけようがありません。しかしながら、現代広く自動車用CVTとして採用されているベルト(プーリー)式CVTは変速機としていくつかの欠点を有しています。

伝達効率

CVTはMTに比べて伝達効率が悪いです。何故かと言うと、

 - プーリーをベルトに押し付けるために油圧ポンプで圧をかける必要があるため、油圧ポンプの駆動にエネルギーが取られる
 - プーリー(バリエータ―)のスリップ損失

が大きな要因です。Webを見ているとよく「CVTが滑るというのは誤り」という解説があります。確かに巨視的な滑りが発生しているわけでは無いのでこれは正しいのですが、それでもスリップによるエネルギー損失はあるということです。

下記は伝達トルクに応じたそれぞれの損失の推移を示したグラフです。

cvt_loss

image from Pushbelt CVT efficiency improvement potential of servo-electromechanical actuation and slip control

じゃあ実際のトータルでの伝達効率はいくつくらいになるのか。ググると色々な値が出てきます。70~85%あたりとする資料が多いようです。メーカーは伝達効率を公開したくないらしく、信頼できる数値が中々分かりません。私は信頼できる値をずっと探していますが、とりあえず以下のLuk社(スバル用リニアトロニックCVTのチェーンを供給)の資料が比較的信用できる値と思われます。

image from LuK CVT Technology – Efficiency, Comfort, Dynamics

これを見るとCVTの伝達効率は97%~88%程度の範囲であることが分かります。伝達効率が最も良いとされるMTの伝達効率が95%以上とされている(たとえばコレ)ので、CVTも大して悪くないじゃんと思われるかもしれませんが、これはCVT用のチェーンを作っているLuk社の資料なので当然良い条件で計測されているはずです。

たとえば、Offsetというのは油圧ポンプがプーリーにかける圧の(標準圧からの)オフセットを意味しています。CVTではプーリーを押さえつけるトルクが足らないとベルトがプーリーから離れて破損してしまうので、保険のために余分に圧をかけるような制御をしているのですが、伝達効率向上のためにはこの保険を削ってギリギリを攻めるようなチューニングが必要です。Luk社はそのために精度よく測定可能な弊社センサを使うのが良いですよ、と営業しているわけですが、ここで知りたいのは通常どの程度のオフセットが掛かっているかということです。

Luk社の資料を読み進めますと、オイルが低温なときのオフセットというグラフが掲載されていまして、こちらは0.7MPaあたりを指しています。よって少なくとも冷温時には0.7MPaくらいのオフセットは掛かるものだと言うことが出来ます。適正な温度の時はもっと減るのだと思いますが、それでもゼロになることは無いんじゃないかなという気がします。勘ですが。

別の資料も当たってみましょう。以下はプッシュベルト式のCVT(プッシュ式だろうがプル式だろうが他の変速機と比較する際に特段言及するほどの差は無いと考えています、ちなみに先のLuk社のCVTもプッシュ式です)の伝達効率は電動式ポンプを用いることでどの程度まで改善される余地があるか解析的なアプローチで検証するという論文です。

Pushbelt CVT efficiency improvement potential of servo-electromechanical actuation and slip control

この最後の方にトルクvs効率のグラフがあります。

torque_vs_eff

image from Pushbelt CVT efficiency improvement potential of servo-electromechanical actuation and slip control

低負荷のときは効率が著しく悪化しています。よって、実用CVTでも低負荷時(50Nm)は好意的に1見積もっても80%台くらい、90%は行かないんじゃないかという気がします。低負荷時に極端に効率が悪くなるのは前掲の損失要因のグラフと合わせて読むと分かるのですが、機械的損失やポンプ駆動損失は低負荷領域でも小さくならないために、結果として低負荷ののときは効率が悪化してしまうからです。

Luk社の伝達効率のグラフはよく読むと50Nm、2000rpmの条件とあります。資料の中で50NmというトルクはMid-sizeの車では標準的な数値とありますが、一定速度巡航シーンを想定するならばもう少し小さい値であっても良い気がしますし、加速時にしては小さめなトルクという気がします。(例えばヴィッツの最大トルクは121Nmです)ということは、やはり効率の良い領域を選んで掲載しているのだろうと思います。

以上を含めますと、やはりCVTの平均的な効率は良くても90%前後が妥当なのではという気がします。ただ、繰り返し述べますが資料がほとんど見当たらない中での類推なので間違っている可能性は大いにあります。このあたりはユーザーが正しく公平に比較できるよう、ちゃんと値を公開してほしいと思うのですが、そういう日は来そうにもないですね。

高速道路走行中の燃費

CVTの伝達効率の悪さは高速道路で一定速度巡航しているときに効いてきます。一定速度巡航している場合はCVTの持つ「常にスイートスポットでエンジンを駆動させる」というメリットがあまり活きないからです。なので、変速機の伝達効率が燃費を大きく左右します。

CVTは元々伝達効率が悪いことに加えてさらに、ハイギア比になったときに効率が悪化するという性質があります(前掲Luk社資料など)。

さらに、一定速度で高速走行をしている最中はそこまでエンジン負荷が高くありません。たとえば、ヴィッツをモデルにして計算したところ(仔細は面倒なので省きます、聞きたい人が居たら質問ください)、100km/h巡航させるために必要なエンジン負荷は32Nmでした。前述したように、低負荷領域ではCVTはベースの損失が減らないので効率は悪化します。前掲のCVTシステムでは32Nmあたりの効率は70%前後となっていました。さすがに、3割も伝達効率が悪化すれば燃費性能にも歴然とした差が現れるのでそこまでは悪くないと思うのですが…。

以上よりCVTは高速道路で一定速度巡航するようなシーンでの燃費が苦手と考えられます。どの程度燃費性能が悪化するのか具体的な値は分かりませんが、下手したらMTよりも1割弱悪化していてもおかしくないんじゃないかという気がします。

というか市街地走行でも本当に効果があるのか

ここまでエンジンの「スイートスポット」という表現をしてきましたが、「スポット」という程にはBSFCマップの燃費が良い領域というのは狭くないです(感覚的表現ですが)。

たとえば、以下にWikipediaにあったBSFCマップのサンプルを再掲します。

bsfc

大ざっぱにMTとCVTで平均7%の伝達効率の差があったとしましょう。ということは、逆に考えるとMT(ステップAT)で7%以上、最大効率領域を外していないと、燃費向上的な観点ではCVTを採用する理由が無いことになります。

一番燃費が良い領域は206[g/kWh]ですから(めちゃくちゃ燃費いいぞこのエンジン?)、7%の悪化でだいたい220[g/kWh]となり、このラインをステップATが外していないとCVTを採用する意味はありません。すると、

cvt_vs_step

このように1700rpm~3000rpmあたりを外さないように変速すれば良いわけです。昔の3速や4速のATならまだしも、最近の5~7速に多段化されたステップATがこれを外すとは思えず、するとCVTを採用する理由そのものに疑問が生じます。

しかも、この検証はCVTに有利な設定(つまり回転数によって効率の差が表れやすい負荷領域)での比較ですから、実運用では益々CVTを使用する意義が薄れます。

Wikipediaにあった出所不明なBSFCの比較では当てにならないと言われそうなのでもう一つも検証してみましょう。以下の左図はマツダのSKYACTIV-G 2.0Lエンジンです。235[g/kWh]あたりがスイートスポットなので、7%の悪化だと240[g/kWh]あたりになります。

cvt_vs_sky

original image from Air Flow Optimization and Calibration in High-CompressionRatio Naturally Aspirated SI Engines with Cooled-EGR

すると、やっぱり2000rpm前後から4000rpm弱という広い範囲が許容されるわけで、やっぱりCVTを使うメリットは薄い気がします。

フィーリング

CVTは加速時にエンジン回転数がほぼ一定のまま加速していくので、エンジン応答に対して速度が見合っていないような感覚に陥ります。これをラバーバンドフィールと言ったりします。気にならない人は気にならないでしょうが、MTを運転した経験のある人や、走りにこだわる人をはじめとして違和感を感じる人は多いようです。「ブオーン!」とエンジンが頑張っている音がしているのに速度や加速度がそれに見合っていなければ確かに応答の遅れを感じるというのは仕方がないとも言えそうです。

しかしながらそれはCVT、つまり無段階変速を求めれば必然的に許容しなければならないポイントではあります。ベルト式CVTに限らず、将来に開発されるであろう未知のCVTを含めてそれは同じです。

このために最近では、CVTでありながら、アクセルを踏み込んだ際にはステップATのように段階的な変速を行いその違和感を低減させるような制御を行う車種があるそうです。たとえば、有名なところではスバル レヴォーグがこれに当てはまります。段階的な変速を行うということは、CVTの「加速時にピーク出力を維持しやすい」というメリットも犠牲になっているわけですが、そのためにタイムアタック用の裏機能として特殊な操作をすることで段階的変速を無効にする操作が実装されていたりするそうです。

はっきり言ってCVTを採用しておきながらこのようなことをするのは馬鹿なんじゃないのかな、と私などは思ってしまいます。CVTはラバーバンドフィールがありますよ、なんてのは原付スクーターか何かを運転したことのある人間であればだれでも知ってることであり、それをば、何ですか?研究開発費を投入してやっとこさ市販車にCVTを実装した段になって「あんまりユーザーからの評価がよくないから段階的変速にしよっか」なんて方向に傾くのはあまりにもポリシーが無さすぎです。

燃費を追求してエコカーの方向に振るなら全力でそれをやるべきだし、燃費を犠牲にしてでもドライブフィールは犠牲にしたくないというのであればCVTは採用するべきじゃなかったのではないでしょうか。走行性能にこだわるスバルのことですから、燃費というよりは走行性能(エンジンのピーク出力を最大活用できる)という点を重視したのかもしれませんが、であれば、「走り」とは人馬一体のドライブフィール(加加速度やエンジン音による演出)の事を指すのか、サーキットで良いタイムを出すのが偉いのか、そこを決めきれなかった(ユーザーに伝えきれなかった)のはやっぱりアカンと思うのですがいかがでしょうか。

まとめ

色々述べましたが、実際に車を買うときはこのページの記述を真に受けて「だからCVTはダメなんだ」とCVTを拒絶しなくても良いように思います。

たとえばCVTとMT(やステップAT)でコンスタントに7%くらいの燃費性能差が出たとしましょう。1か月で30Lくらいを消費するとしましょう。すると、月1回給油したときに2.1Lの差になります。ガソリンが110円とすると220円くらいの差しか生まれないということです。CVTかステップATかを気にして乗るよりは、低燃費運転につとめて定期的に空気圧をチェックしたほうがよほど節約になるはずです。その程度の工夫で対応できることを、わざわざCVTだからダメとかいう理由で車を選び、本当にその人のライフスタイルに適した車を諦めるというのはバカバカしいことこの上ないです。そういうことは私のような揚げ足取りの技術オタクが語っていればいい事です。

ちなみに私は今の車(CX-5)を「CVTじゃないから」という理由で購入しました。クレバーな読者の皆様方におかれましては、私のような偏屈な人間のいう事は無視して好きな車を購入するのが精神衛生上も良いと思います。以上、ご査収ください。

補足

実は今回、BSFCマップをみてふと市街地走行でCVTが意味ないんじゃないかと気づいたんだが、そこらへんCVTの開発時にはどういう判断だったんでしょ。アイシンAWさん、スバルさん。


  1. この論文の主旨は「電動ポンプ採用によってどこまで効率が改善するか」なので、リファレンスのCVTの効率を若干低めに見積もっている可能性はあるかもしれない、ということを踏まえての「好意的」です。