パニックムービーとしてのシン・ゴジラ

もうだいぶ日にちが過ぎてしまったけどシン・ゴジラを見てきたので感想を書いてみる。ネタバレたくさん含む。

私はゴジラシリーズをまともに見た記憶が無い。怪獣映画に全く興味が無い。また、私はミリタリーオタクでもあるが、自衛隊の活躍するゴジラシリーズであっても食指が伸びない。非現実的な描写(兵器)が多い点が私の内部にあるハードSFオタク面によって拒否される。なんと面倒な人間なんだろうと自分自身思う。

今回シンゴジラを見るに至ったのは、Twitter上での皆の感想がすこぶる良かったのと、エヴァシリーズがそれなりに好きな私としては庵野監督という点で興味が湧いたため。

結果、面白かった。すごく面白かった。何が面白かったのかというのを1か月くらい考えて分析した結果、見せる人の対象範囲をすごく絞った作品だから面白いのだと私は思った。

対象範囲を絞ったというのは、もう少し具体的に言うと対象を日本人、特に首都圏に住んでいる人をターゲットにしているという点である(本当にそういう意図があったかどうかは知らないが少なくとも私はそう感じた)。

結局、何かに対して深い共感を得るには対象を限定したほうが効果的である。我々が「システムエンジニアのあるあるネタ」とか「子育てのあるあるネタ」で笑ったり、ローカルタレントが方言丸出しでただ酒や料理を飲み食いするだけの番組を面白いと思うのは、ターゲットを絞ることによって深い共感を得られるからである。なぜターゲットを絞ると深い共感を得られるかという理由は不明だが、まあ経験上これは明らかと言ってよいだろう。

シンゴジラは日本の文化に深く根差した作品となっている。出所は不明だが、Twitterでシンゴジラは海外で「日本人の日本人による日本人のための映画だ」と評されるなど、あまりその評価が高く無いとのことである。その点に関してはおそらく見た人であれば納得出来るのではないかと思う。

そして何よりも、シンゴジラは3.11震災に深く根差した作品となっている。川を遡上してくるゴジラから生じた波が船を陸地まで押しのけたり、それらに巻き込まれる一般市民の地獄絵図というのは3.11においてニュースやYoutubeで公開された映像を意識しているのは明らかだ。

ほかにも、映画の中ではTwitterやニコニコ動画といったインターネット関係のサービスも多数登場するが、ここで交わされる一般市民のやりとりも3.11から原発事故にかけての焦りや緊迫感を深く連想させる。また、これもTwitter情報で出所が定かでないのだが、「シンゴジラはもっと人が死ぬシーンが欲しかった」とのコメントに対して出演者の一人でもあるピエール瀧が「ゴジラって天災みたいなもんで、それに巻き込まれる人をそんなに見たいですか?」とラジオ番組中で反論した、という話があった。シンゴジラを見てピエール滝のような感想を持つのは非常に自然である。

3.11が影響しているのは映像表現にも及ぶ。シンゴジラではiPhoneで撮影した動画を多数利用しているそうだが、この「現場で撮影された緊迫感のある画」を表現している感じは、3.11の時にYoutube等に投稿されたホームビデオカメラで撮影した映像なんかにも当然、影響を受けているのだろう。

ちなみに一番初めのシーンはアクアラインの海底トンネルが崩壊する瞬間を車内から撮影した映像で始まるのだが、この車内は私が前に乗っていた30型プリウスであるし、低輝度で撮影されたCMOS素子のノイズなども良く目にする画なので、もう始まって数秒のこの瞬間で私は映画の世界に引き込まれてしまった。共感が深ければ途端に映画に没頭できる。

一方では、3.11を経験していない人は同じような感想を持つだろうか?私は同じような感想を持つことは無いだろうと思う。iPhoneで撮影した動画、ホームビデオで素人が撮影した手ブレのひどい動画、低輝度でノイズが乗った動画、こういったものを「臨場感がある」と感ずるのは3.11を経験して、そのような動画を多数見てきた我々だからこそだと思う。

そういう意味では、シンゴジラは視聴者の対象を日本に限定したのみならず、3.11を経験した世代、つまり時間軸でも限定している気がする。だから、海外では評価されないし、おそらく、私の子供が大人になったときにシンゴジラを見ても私が感じたほどには好意的な感想を抱かないだろう。

また、私は特に理由があったわけでは無いが、たまたまシンゴジラを立川の映画館で見た。すると映画の中では政府機能を立川に移すような場面があったり、立川の陸自駐屯地が映ったりして「これ、俺が今居るところのすぐ近くじゃん!」と興奮したし、無人在来線爆弾なる名称でJRの車両が次々衝突していくのは正直笑えたが、日ごろ満員電車で苦痛を感じていた私としては単純に心地よい、スカッとするという感情も抱いた。そして、これもTwitter初の話題で恐縮だが、「ゴジラが自分の会社のビルを破壊したシーンでは思わず拍手しそうになった」との感想を述べてる人もいた。

冒頭でも述べたように、こんな感じでシンゴジラは首都圏在住の人であれば地方の人よりはもっと楽しめるのではないかと思う。つまり、日本の中でさらに地域を限定しているとも言うことが出来る。

そうして平均的な面白さを捨てて的を絞ったことにより、シンゴジラは首都圏に住んでいて3.11を経験した日本人には圧倒的に面白くて臨場感のあるパニックムービーに仕立てることができたのだろう。

一応補足しておくと、シンゴジラで登場するのは地方の人でも知っているような場所が多いので、首都圏に住んだことのある人でないと全然分からないというレベルではないと思うので、十分に楽しめると思う。立川は知らない人が多いかもしれないけど…。