労働者は経営者やインテリ層に搾取されているのか?

よく上記のような言論を目にします。こういった発想は日本だけでなく世界的に蔓延しており、代表的なのはアメリカ大統領選におけるトランプ氏の躍進でしょう。トランプ氏が支持されている理由の一つは「企業献金を受けてないから」だそうです。

なぜ日本に“トランプ”は現れないか

本来であれば「圏外」であるような候補が、これほどまでに人気を集めた大きな理由は、企業献金を受けていない、つまり、企業に金で買われていないところにある。「不動産王」とも呼ばれるトランプ氏は、選挙資金を自腹で工面しているし、サンダース氏は草の根の個人献金を集めて選挙戦を戦っている。両者とも、「株式会社アメリカ」に不満を抱える人たちからの共感と期待に支えられているのだ。

つまり、労働者から搾取を行っている企業にとって有利な政策を行ってもらうための「献金」という考えですね。その企業献金を貰っていない候補ならば、企業とは距離を置いて中立的な政治を行ってくれるだろうという期待です。

日本においては、特に派遣労働者問題が顕在化してきてからこういった論が唱えられることが多くなった気がします。労働力に見合った報酬を与えない企業による労働力の搾取だという指摘です。その結果、民主党など野党が議員立法で提出した同一労働同一賃金法、正式名称「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」が成立したりしました。

では、本当に派遣をたくさん使っている企業の経営者や社会のインテリ層は庶民から搾取を行い私腹を肥やしているのでしょうか?というのが気になったので調べてみました。

でもどうやって調べたらいいでしょうか。色々方法はあるでしょうが、私は正直企業経営にはそんなに明るくないですし厳密な検討も難しそうなので、たとえば「経営層が貰っている報酬を従業員に分配したらどれだけ従業員の年収が上がるか?」というのを計算してみたいと思います。これはたぶん誰しもが納得できる算出方法の一つではあるでしょう。もし経営層の報酬を従業員に分配した結果、年収が一人当たり100万も200万も上がるのでしたらそれはもう搾取と言って良いような気がします。

じゃあ日本で活躍している会社役員の方々の役員報酬を調べてみましょうか。検索したら下記ページがヒットしました。

"年収1億円超"の上場企業役員443人リスト

こういうゲスな記事は東洋経済が得意ですね。この上位10人くらいの方々の役員報酬総額と会社の従業員数から、役員報酬を全額返上して従業員の給与として還元した場合に従業員一人当たりどれだけ年収が向上するかを計算してみました。ちなみに、報酬を貰っていた期間とその間の従業員数が合ってるかどうかとか、退職慰労金も役員報酬総額に含まれてるが一緒に計算していいのかなどというあたりはあまり深く考えないことにします。

結果はこちら。じゃん!

会社名 役員名 役員報酬(百万円) 従業員数(連結) 一人当たり年収加算(千円)
キョウデン 橋本浩 1,292 2,529 511
カシオ計算機 樫尾和雄 1,233 11,322 109
キヤノン 御手洗富士夫 1,105 187,504 6
カシオ計算機 樫尾幸雄 1,083 11,322 96
武田薬品工業 F モリッヒ 1,016 31,168 33
日産自動車 C ゴーン 995 149,388 7
ミスミグループ本社 三枝匡 900 9,628 93
フジッコ 山岸八郎 847 1,007 841
武田薬品工業 山田忠孝 838 31,168 27
ユーシン 田邊耕二 834 6,695 125

多いのはフジッコで、全従業員が約84万円年収アップできます。ただ突出しているのはキョウデン、フジッコだけでその他は十万円前後~それ以下の金額になっています。キョウデン、フジッコは従業員数が少ないので相対的に値が高く出てしまうのでしょう。また、こないだ「10億円の報酬は高すぎないか」などと言われたゴーン氏も、従業員一人頭に換算すれば年収7千円分の報酬です。

以上を搾取と思うかどうかは人それぞれだと思いますが、私は別にこの程度であれば搾取とは言わないのでは、という気がします。

そもそも会社役員はそれだけの仕事をしているから、それまでの業績があるから相応の報酬を貰う権利があります。さらに会社の経営層だからといって自社を自分の所有物にできるかというとそういう訳でもなく、どちらかというと会社は株主の所有物です。

それに、役員が負わなければならない責任に比べて役員の報酬があまりにも低かったら誰も役員などやりたがらないですね。一般のサラリーマンのように指示された仕事をこなして月給をもらうというスタイルとは違う訳ですから。

もしそれでも「経営層が搾取している」とお思いならば、ここで計算したように役員報酬を従業員数で割った額が少なくなるような会社を選んで働くか、自分が勉強と努力を重ねて一流の経営者になり、他の従業員と同じ報酬で働くのがよろしいかと思います。