デマ記事の特徴

こないだ、ハフィントンポスト日本版の記事で「チリ産の鮭が危ない」などと書かれている記事を見ました。

日本のスーパーで売られているチリ産の鮭を地元の人が食べない理由

この記事は本家ハフィントンポストが配信して日本語に訳されたものでは無く、日本版のハフィントンポストが独自に何らかの基準で一般のブログから記事を転載したもののようです。こういった形態の記事は最近良く目にします。

私は一読しただけでこの記事の信頼性は非常に疑わしいと思いました。私は鮭の養殖に関してはなんら専門的な知識を持ち合わせていませんが、それでも疑わしいと思ったのはなんなのか。このあたりを今回の記事では紹介したいと思います(偉そうな書き方ですが、たぶん一読して同じように思った人は大勢いると思います)。

ちなみに、当該記事においてはすぐに反論記事がSNS上で紹介されてありました。

チリでサーモンは大人気の高級魚!サーモン記事のここがデマだ!

さて、私はすでに述べたように鮭に関しては何ら専門的な知識を有しないのでそこら辺の反論はできません。なので、その「なぜおかしいと思ったか」あたりを説明していきたいと思います。

変だと思った点

以下、冒頭の記事で私が変だと思った箇所を列挙していきます。

私たちの友人に、海洋生物学者で、チリ政府の漁業検査官として働いている男性がいます。
その彼も、養殖の鮭を食べません。

いきなり個人の感想から入ってきます。本当にいるかどうか分からない人物を偉そうな肩書とともに記し、感想を述べさせる。人間は権力がありそうな肩書きが併記されるとそれだけでその情報を重要視してしまいがちです。そういう手法に頼ることがまず怪しいと私は警戒しました。

本当にそのような人物がいて、養殖の鮭をお勧めできない確固たる理由があるのであれば、実名を出してその人の意見を書くのが筋じゃないでしょうか。

鮭のエサは、他の魚を粉にしたものを、ペレットにしたものだそうです。(鮭を1キロ太らせるために、4キロの魚が必要だそう。普通、市場に売られる鮭は、4.5キロ~5キロなので、18キロ~20キロの魚が必要ということになります)良心的な会社は、きちんと、魚をエサにしているそうですが、それは、コストがかかる。そこで、鶏肉、牛肉、鮭などを冷凍して販売しているある会社は、鶏肉をパッキングした後の残骸を鮭のエサにし、鮭をパッキングした残骸を牛のエサにし、牛肉をパッキングした残骸を鶏のエサにしているのだそうです!!!(それを聞いてから、私たちは、養殖の鮭を食べるのをやめてしまいました。)

ここに書いてあることが仮に真実だとして、そこから分かるのは

  • 鮭を1kg大きくさせるのに4kgの魚が必要
  • 通常は鮭のエサは他の魚が減量
  • たまに鶏肉の残骸を鮭のエサにする業者が居る

ということだけで、このことでなぜチリ産の養殖鮭を食べるのをためらう理由があるのかという説明がありません。

それを聞いてから、私たちは、養殖の鮭を食べるのをやめてしまいました

上記3点からなぜこのような結論になるのか理解できません。

おそらく、自然界の鮭は他の魚を食料とするわけで、自然界で鶏肉を食う鮭はほとんどいないわけで、そのいびつさが自然界からかけ離れているのでなんか気持ち悪いということが言いたいのでしょう。そうならば鶏肉を鮭に食わせた場合、その鮭を人間が食べる場合にどういう不都合があるのかということを説明してくれないと「なんか気持ち悪いよねー」と幼稚園の送りが終わったママ達が集まって噂話しているのと大差ない情報量にしかなりません。

さらにいえば、前述の反論記事では鮭の増肉係数は1.2-1.5なのでサーモンが1kg大きくなるのに餌が1.2-1.5kg必要ということになり、数値も間違っているということでした。さらにさらに言えば、鶏肉や魚粉、大豆などの配合飼料こそがむしろ一般的な鮭の飼料で、むしろ魚のみを飼料とする業者なんかいないそうです。

鮭に与えられたエサの残りや鮭の糞は、すべて、海に流れていきます。そのせいで、海の栄養度が極端に上がってしまい(富栄養化)、赤潮の原因になります。
(中略)
チリの海岸で赤潮が大発生し、鮭が大量に死にました。鮭だけでなく、もちろん、他の魚も、何キロにもわたって死骸がビーチに打ち上げられました。貝類、海鳥、鯨なども、死骸が打ち上げられました。

この記述は赤潮の危険性を説明しているのだと思いますが、そこからチリ産の養殖鮭を食べるのをためらう理由があるのか、あるなら何なのかという説明がありません。

また、記事本文では赤潮で大量発生した有毒プランクトンを食べて死んだ海鳥という写真も載っていますが、鮭となんの関係があるのかわかりません。さらに言えば、その赤潮の発生原因が鮭の養殖の所為という証拠も述べられていません。ただショッキングな事実を並べ立ててさも関連がありそうに印象操作しているだけです。本当に関連があると主張するならば数値データを示さないといけないと思います。

もっといえば、養殖業をするうえで餌のコストって粗利率を左右するすごく重要なパラメータだと思うのですが、それを食べ残しがじゃんじゃん発生するくらい大量に餌を投入してしまうというのもなんだか理解しがたいところです。

チリで発生した赤潮は今年、過去最大で、チロエ島の人たちは、「赤潮が異常発生して、大量の魚介類や海鳥、鯨などが死に、ビーチに打ち上げられているのは、鮭の腐った死骸を大量に海に捨てて、海を汚染したせいだ」と言って、抗議しています↓

ナショナル・ジオグラフィックに掲載された記事をシェアします。英語です。
「チリで起こった過去最大の有毒な赤潮の発生は、魚の養殖と関係がある?」という記事
→この場合、魚の養殖というのは、チリ産の鮭のことです。
Chile's Record Toxic Tides May Have Roots in Dirty Fish Farming

最初は鮭の食べ残しと糞による栄養負荷そのものが赤潮の原因であるように示唆しておきながら今度は「鮭の腐った死体を捨てて赤潮になった」という記事を紹介するのは一貫性に欠けます。どっちが原因なんでしょう。両者は鮭に関連したことではありますが、因果の関係がおかしなことになっています。

また、矢印記号を多用しています。文章中で矢印を多用するのは文章表現力の無さ(自信の無さ)を感じさせます。

養殖場では、この寄生虫を殺すために殺虫剤を使います。これが、また、海へ流れていきます。この寄生虫は、カニや海老と同じ甲殻類なので、寄生虫を殺すために使われる薬は、カニや海老も殺してしまうそうです。

殺虫剤を使うのは分かりましたが、それが人体に悪影響を及ぼすレベルで出荷される鮭に残留していないとチリ産の養殖鮭を食べるのをためらう理由にはなりません。その説明が無いことには、「殺虫剤使ってるんだってー、危ないよねー」というママさんたちの以下略。

カニやエビを殺してしまうというのも、濃度を書かないことには何とも言えません。たとえば濃度100%で使うとカニ、エビ、寄生虫のすべてが死にますが、実際には半分の濃度で使います。そうするとカニ、エビなどの大きな生物には影響がありませんが寄生虫は死にます。…という状況なのであれば何ら問題ありません。そこらへんが述べられておらず、ただ、エビ・カニも死ぬと書かれても「そうですか」としか言いようがありません。寄生虫を殺すための薬剤が環境を破壊しているということを主張したいなら、それが客観的にわかるデータを示さなきゃダメでしょう。

免疫の低いチリの鮭が、病気にならず、市場に出るサイズに育てるためには、抗生物質が必要です。「チリ産の鮭は薬漬けなんだよ」と友人。もちろん、抗生物質も、海に流れていきます。

2015年にチリの養殖場で使われた抗生物質の量は、2013年に比べて25%増。2014年のデータによると、ノルウェーで生産された鮭は、年間130万トン、使用された抗生物質の量は、972キロ!それに比べて、チリで生産された鮭は、年間89万5000トン、使用された抗生物質の量は、なんと、56万3200キロ!!!驚きの数値です。

謎の友人がでてきました。本当に確固たる理由があるなら実名で以下略。

抗生物質の量も出てきました。量だけではあまり意味が無くて、その使った抗生物質の量が出荷される鮭に対し、それを食べた人間に悪影響の有るレベルにあるかどうかが重要以下略。

また、感嘆符を多用しています。文章中で感嘆符を多用するのは文章表現力の無さ(自信の無さ)を感じ以下略。

鮭の養殖は、外資の会社、いわゆる大企業が独占しているので、昔から漁業をしてきた地元の漁師さんたちの漁獲量と収入は減っています。

これも印象操作ですね。

そもそも「昔からの由緒あるやり方が資本力のある企業によって潰されている」という言い方は個人的に嫌いです。それで問題があるならばその問題とは何かを説明しないと誰も理解してくれませんよ。

鮭が養殖されるケージ(檻)は、縦、横、高さ 30メートル。その中に、なんと、5万匹の鮭が入れられているそうです。最も、ヘルシーな養殖場でも、鮭が成魚になる1年半の間に、1万匹は何らかの理由で死ぬそう。残りの4万匹がこのケージの中で、ぎゅうぎゅう詰めの状態で育てられるそうです。

これも製品の歩留まりというのは経営にインパクトのある重要なパラメータです。しかも1/5が死ぬということですから、歩留まりは80%となり、残りの2割分をも何とか生かし続けて出荷させようというのは経営者であれば誰しもが考えるでしょう。2割というのは非常に大きな数字と考えられ、過密のみが原因ならば(明言していませんが、暗にそれを示唆する文章です)ケージのサイズを大きくしてもよいでしょう。ケージなんて消耗品じゃないし、高級な材料を使っているわけでもないんだから、歩留まりが2割も向上すればすぐにペイするでしょう。それをやらないというのは、おそらくはこの死んでしまう1/5の鮭は単純に過密だけが原因で死ぬわけでは無いのでしょう。…というような予測が出来ます。

もしそれが間違っていたとしても、過密飼育のみが原因というのはやはり考えにくいです。というのも、ケージでの飼育だからです。ケージで飼育するので常に水が入れ替わるため、ケージ内の環境は過密であってもそこまで周囲と異なるわけではないと思います。これが水槽であれば過密飼育が良くないというのはまだわかります。

ちなみに、ノルウェーの基準は、同じ大きさのケージの中に、最高2万匹!!!!と決められているそう。
同じノルウェーの会社が(養殖場はノルウェー資本の会社のものも多い)、ノルウェーが2万匹が限界と決められていると知っていて、チリでは、5万匹を同じケージに入れている???どうして??と聞くと、彼は言いました。
「チリでは、その数が合法だから」
「でも、当然、酸欠になりやすいんだよ」

感嘆符以下略。「酸欠になりやすい」、果たして本当にそうでしょうか。

また、「5万匹というラインが合法である」とも述べています。合法ということはつまり法規制があるということです。養殖鮭を輸出しているくらいなので、国家レベルで戦略的に管理しているということでしょう。ということは、もし記述が本当ならばむしろ5万匹という数値にはそれなりの合理的な根拠があるはずです。それに対して、素性のしれない「友人」が言う「酸欠になりやすい」という感想のほうをより重視する理由はありません。私は良くわからない「友人」よりはチリ政府の方を信用します。

「ではなぜ、彼のような科学者が水質検査をしているのに、今回の鮭の大量死が防げなかったのか?」と聞いてみると、

「赤潮のレベルを測るのは、ある有毒プランクトンが基準なんだけど、今年は、そのプランクトンの数値は安全域内だった。それで、誰も気づかなかったんだよ。鮭を殺したのは、検査対象になっていないプランクトンで、今年の異常気象でそれが大量発生した。このプランクトンは、鎖のようにつながる性質を持っていて、鮭のエラにはりついて、鮭を窒息死させてしまったんだよ」

「赤潮は、海水の温度と海水中の栄養物の濃度の影響で発生するんだ。鮭の養殖場があるところには、海水が汚染されているので、特に赤潮が発生しやすいんだよ」

私たちは、彼の話を聞いて、ますます、養殖した鮭は食べないようにしようと決めました。

赤潮による鮭の大量死を予測できなかった下りと養殖を食べないようにすると心に決めた理由の関連が意味不明です。というかここまで「食べない様にしようと思いました」と連呼されると、こういう新しい修辞学なんじゃないかとちょっと笑えて来ます。

チリ政府の漁業検査官の話を聞いた数日後、今度は、チリで最も尊敬されている環境活動家の一人、ピーター・ハートマンさんからメールが入りました。
「日本人の友達に聞いたんだけど、チリ産の鮭は天然鮭として日本で売られているって、本当?」
「僕らが住んでいるアイセン州の養殖鮭は、すべて日本に輸出されているんだよ。チリ産の天然鮭なんて、存在しないんだ。チリ産の鮭は、すべて養殖で安全じゃないから、食べないようにと日本の人たちに伝えてくれないか?」
そうなんです。チリ産の天然鮭というのは、輸出されていません。
スーパーで「チリ産の天然鮭」というのを見たら、それは、間違いなく、養殖です。

ついには養殖の鮭が危ない話では無くてチリ産の養殖鮭を天然鮭と偽る悪徳業者が居るという話になりました。フリーダム極まりない記事ですね。

養殖物を天然物と称して販売するのは確かにイカン話ですが、そのイカンという話と養殖鮭がアカンという話は全然関係ありません。

チリで最も尊敬されている環境活動家の一人、ピーター・ハートマン

私は「環境活動家」と呼ばれる人の中で尊敬できるような人は居ないと思っています。

安全に作られているのか?
(鮭に与えられている抗生物質や養殖場にまかれている殺虫剤は、微量であっても、私たちの身体に入ってきます)
地元の人たちの生活に貢献しているのか?
持続可能な方法で作られているのか?
それとも、環境を破壊しているのか?

残念ながらこれらの疑問はこの記事を読むことで全く解決できませんでした。不毛でした。

デマ記事の特徴

さて、これまでに書いたことから類推できるデマ記事の特長を考察してみたいと思います。

友人、知人が登場

本来、こういう公的な場で「友人、知人」なる人の言には何ら信頼性がありません。その言を採用するのであれば実名を記述して本人に発言の責任を担保させるか、別の方法を使って発言の内容が正しくて信頼性のあるものだと示さなくては説得力がありません。名のある新聞社が「消息筋」として伝えるのならまだ分かりますが(その場合でも信憑性は乏しいですが)、どこの誰かも分からない人が書いた記事の、そのまた知人など信頼性は皆無です。

人間であればだれしもテレビやニュースで伝えることよりも親しい人が語る「ここだけの話」を重視したがるという心理は分かりますが、しかしご注意ください。このブログ記事に出てくる「知人」とは居るかどうかも分からない、もし実在したとしてもあなたにとってはおそらく一生で一度も会わないような人を指しています。

感情に訴えて同意を求める

「こんなに海洋生物が死んでいます!」「こんなに大量の薬剤を使っています!!」と、直接の関連性が不明なことをまくし立てて、最後に「だから私は反対です」などと個人的な感想を述べる。「人が死んでんねんで!!」と煽るやり方と同じです。

本当に問題があるならば、その問題が何なのかを丁寧に説明するのが普通のやり方のはずです。つまりは、それが出来ないから感情に訴えるのでしょう。

数値のみを取りざたす

「5万匹がケージの中に居ます」「XXXトンの薬剤が使われています」「XXXX万匹の魚が死に、XXXX万トンが埋められました」となんとなく膨大な量のような数値を並べる。数値を示してるのだから説得力がありそうな感じがしますが、主題に関連させるために重要な数値が抜けています。

「5万匹が過密」と主張するならば、通常は何万匹が健康に飼育できるボーダーラインなのかを示さないといけません。それを示さずに、「五万匹ってすごい数だなあ」「XXXトンの薬剤を使ったら薬漬けだろうなあ」というようにミスリードを誘うのはイカンですね。

関係ない話を始める

今回の記事で言えば、「チリ産の天然鮭など輸出されていない」「外資の会社が参入してきている」というあたりの話しでしょうか。主題とは全く関係ない話です。

なぜ関係ない話を始めるのか?それは推測ですが、おそらく多少の真実を織り交ぜることで真実味を増そうとしているのでしょう。空虚ですね。

これって…

ここまで書いて思ったのですが、こういうのってほとんど「詭弁のガイドライン」に書いてありますね。

詭弁のガイドライン

「詭弁のガイドライン」自体は2ch発祥なのですが、うまく簡潔にまとまっているので個人的には好きです。