自動車の変速機による燃費の違いをまとめた

なんだか、このあたりを勘違いしている人が多いのでは?とネット上の会話等を見ていて思ったので書いてみます。

いきなりですが、下記が違いです。

変速機 伝達効率 市街地燃費 高速燃費 発進ショック 変速ショック(ダイレクト感) クラッチ 変速機構
MT ドライバー次第 ドライバー次第 ドライバー次第 乾式クラッチ 平行軸ギア
ステップAT(トルコンAT) 〇(ギア数等に依存) トルコン 遊星ギア
ステップAT(トルコンAT・ロックアップ) 〇(ギア数等に依存) トルコン/ロックアップ 遊星ギア
CVT ○~◎ × トルコン/ロックアップ プーリー
AMT ○(ギア数等に依存) 多種 並行軸ギア
DCT 湿式クラッチ 軸平行ギア
電気式CVT(モーター式) - × なし モーター負荷
EV なし なし

ここで、市街地燃費/高速燃費はその変速機が燃費にもたらす影響という意味であって、車そのものの燃費が良いとか悪いとかいう意味ではありません。また、それぞれ簡略化のためにかなり乱暴に分類しています。特に、「発進ショック」「変速ショック」の項目は人によって評価が異なる部分ですので参考程度に考えてください。詳しいところは以降で記述します。

また、伝達効率のみに注目すると、以下のような感じになると思います。

EV >(わずかな差) MT, DCT, ロックアップAT, AMT > トルコンAT > CVT

電気式CVTの伝達効率の見積もりは難しいです。MT未満、CVTより上のどこかだとは思います。

MT(マニュアルトランスミッション)

昔ながらのマニュアルミッションです。クラッチとギアの両方を人間が自分で操作します。

仕組みとしては乾式クラッチ板と並行軸ギアをそなえているものがほとんどです。シンプルな構造です。

クラッチ板では伝達ロスはほとんどありません。唯一、半クラを常用したりエンジンをふかしつつクラッチをいきなり繋いだりしたときにはクラッチ板の摩擦によってエネルギーが熱として捨てられます。一部の人はクラッチを蹴った時のクラッチの匂いを嗅いだことがあるでしょう。あれは摩擦熱によってクラッチが焦げた(?)臭いです。

変速機構は機械的なギアですので、これもまたほとんど伝達ロスはありません。ですので、MTは変速機としては非常に伝達効率が高いシステムになっています。ではマニュアル車の燃費は良いかと言われれば、単純に良いとは言い切れない所があります。

まず、ギアを変更するのがドライバー自身なので燃費を良くも悪くもいかようにもコントロールできます。エンジンには最も燃費が良くなる負荷領域というのがありますが、適切なギアを選ぶことでその領域をいかに使ってあげるかが肝になります。また、燃費はギア比やギア数などのセッティングにも大きく依存します。

ざっくりと言えば、MT車の市街地燃費は一般的なATよりは悪くなる傾向にあると言ってよいと思います。それは、人間がギアを制御するよりも機械が変速比を制御したほうがよりエンジンを燃費が良くなる領域で回しやすいからです。

しかしながらその一方で、ギアをいじるく必要があまりない高速道路での燃費はその他のミッションよりも良い燃費を実現できる可能性は高いです。

ステップAT(トルコン)

従来、3ATとか4ATとか5ATとか呼ばれていたトルコンを利用したATです。トルコンATなどとも呼ばれます。ここでは、ロックアップ機構が無く、変速機構が遊星ギアのものをステップAT(トルコン)としています。

トルコンとは、正しくはトルクコンバータと呼び、日本語では流体継手と言います。継手(つぎて)とは、クラッチの事なので流体クラッチと書いても良いかもしれません。トルクコンバータとはクラッチの役目を果たします。ではなぜトルクコンバータと言うのかというと、トルクと回転数を変換するための減速機としての役割も一応果たしているからです1

トルクコンバータの構造は羽根車とそれを包むオイルからなります。扇風機に風車を向けると風車が回りますね?あれと同じような原理で動力を伝達しています。トルクコンバータの場合は空気がオイルになります。速度ゼロからの発進や変速した瞬間であっても、ダイレクトに振動が伝わらないのでスムーズな変速が可能というのが最大の特長になります。オートマフルードを交換せずに放置すると徐々に変速ショックがひどくなりますが。一方で、変速時はトルク比がゆっくりと変わっていくので変速フィーリングは良くない(ダイレクト感が無い)と評価する人たちもいます(私もそう思います)。

で、トルコン式ステップATの伝達効率における最大の弱点はトルコンそのものです。オイルをかきまぜて動力を伝達させているので、ここでロスが発生してしまいます。中学生の時に発泡スチロールの箱の中の水をかき混ぜて水温を上げるという実験をしませんでしたか?あれと同じ原理です。動力の一部は熱となってオイル(オートマフルード)を温めます。これを冷やすためにオイルクーラーが設置されます。つまり、動力の一部が熱として車外に捨てられます。この分、伝達効率は悪化します。

昔のトルコン式ステップATを知っている人は「燃費が悪い」「MTよりも燃費が悪い」というイメージを持っているかもしれませんが、これはトルコンの伝達効率による影響もありますが、それよりも3ATとか4ATとかいう変速段数の少なさによる影響の方が高いのではと個人的には推測しています。

また、変速ギアには遊星ギアを使います。これは並行軸式ギアに比べるとギアとギアとの接点箇所・面積が大きくなるため、その分摩擦によるロスが若干大きくなります。そして変速するためにまた内部でクラッチを使っていたりするのですが、あまり詳しく書くと収拾がつかないのでやめておきます。

ステップAT(トルコン・ロックアップ)

前述のステップATとほぼ同様のシステムですが、最近のほとんどのステップAT(トルコンAT)はロックアップ機構が付随しています。このロックアップというのは文字通りトルクコンバータの入力側と出力側を機械的に結合してしまう仕組みで、結合後の伝達ロスはほとんど無くなります。変速時や発進時など、車軸側シャフトとエンジン側回転数のずれが大きく変速ショックが発生してしまう場合はロックアップせず、回転数が同期してきたらロックアップするという方式によって従来のトルコン部分での伝達ロスを大幅に軽減したという仕組みです。

ロックアップ付のステップATは6速以上の多段ギアと組み合わされることが多いです。アイシンあたりが8速ATなどを開発してたりします。

個人的には、ガソリン/ディーゼル車はこの方式が今後主流になってくるのでは、という気がします。

CVT

ある時期から急速に日本車で広まった方式です。当初は大トルクに対応できるものがなく小型車での採用がほとんどでしたが、近年では大型ミニバンなどでも採用されています。CVTにも色々な方式があるのですが、日本車で広く利用されているのは金属製のベルトとプーリーを使ったベルト式CVT/チェーン式CVTと呼ばれるものです。ベルト式とチェーン式の違いは、押し出し方向で力を伝えるのか、引張方向で力を伝えるのかの違いです。

CVTは無段変速といってギアレシオの範囲内であれば無段階でギア比を選択できるという非常に優れた特長があります。このおかげでエンジンの回転数を好きなように(車載コンピュータが)決定できるようになりました。燃費に関して言えば、CVTを使う事でどの様な走行シーンであっても常にエンジンを最も燃費の良い領域で回すことが出来るようになったわけです。

しかしながら、そのような制御はユーザーからもろ手を挙げて歓迎されたわけではありませんでした。加速時にエンジン回転数と車速の変化が一致しないため、どうしても「滑ってる」「ゴムバンドのような」フィーリングをもたらしてしまいます。原付スクーターのようなフィーリングと言えば分かりやすいでしょうか。その結果、近年では違和感を解消するためにわざとスイートスポットを外してあたかもステップ(段付きの)ATであるかのような制御を行っている車種もあるそうです。これはCVTの利点をわざわざ殺してしまっていると言ってよいでしょう。伝達効率こそ変わらないものの、このような制御を行う事で燃費や加速性能は犠牲になってしまいます。

また、CVTの機構は伝達ロスが多いものになっています。具体的には二つのプーリーの間に渡した金属のベルトで動力を伝達するのですが、このベルトを常時高い圧力で締め付けるために油圧ポンプが作動しています。このポンプを作動させる動力は単純にロスになってしまいます。このおかげでCVTの伝達ロスは数ある変速機の中でも最も悪いです。

ではなぜCVT搭載車種はそうでない車種よりもカタログ燃費が良いのかと言えば、先に述べたとおり「常にエンジンを最も燃費の良い領域で回すことが出来る」ことによる燃費向上分が伝達ロスによる燃費低下分を上回るからです。また、車載コンピュータによってきめ細かに制御することが出来るため、燃費性能測定試験に最適化した変速制御を実現させやすいからです。その結果、CVT車種のJC08燃費はかなり高い数値になりますが、一般道を走らせるとJC08燃費よりもかなり悪い値になることが多いです。

顕著なのは高速道路走行中です。高速道路では変速比一定で走行することが多いですから、伝達効率の差が燃費に大きく影響してしまいます。

ちなみに、CVTはクラッチ機構としてトルコンを利用することが多いです。CVTに装着されるトルコンはロックアップ機構を備えることがほとんどだと思います。CVTのロックアップを「ステップATのように変速比固定で走行する」ための仕組みと勘違いされている人をたまに見ますが、間違いです。

同様に、「CVTの伝達効率が悪いのはベルトがプーリーを滑りつつ走行するから」と勘違いされている方も多いようですが、実際は先に述べたようにベルトが滑らないようにプーリーを押し付ける機構がありますので巨視的なレベルで滑りが発生するというわけではありません。おそらく、先のロックアップに関する勘違いも、「プーリーでの伝達ロスが大きいのでプーリーをバイパスする軸が存在する」という考えがあってのことだと思います。

もちろん、そのようなクラッチと軸を用意すると同時に、クラッチ接続後は油圧ポンプを停止させてMTと同等の伝達効率を実現するという仕組みにもメリットはあると思いますが、実際にそのような方式が取られている車種は私は知りません。

AMT

MTの構造をそのままに、クラッチとシフトの制御を機械にやらせた方式です。特徴はMTのそれに準じますが、市街地燃費に限っては機械が正確に操作する分MTよりも高い燃費を実現できるかもしれません。

DCT

奇数段と偶数段を別々の軸・クラッチとして配置し、それぞれのクラッチを交互につなぎ合わせて変速していくことで高速に変速することができます。ダイレクト感も強いので、DCTの変速フィーリングが良いと評価する人は沢山います。ただし構造が複雑な分、重量やコスト、信頼性の点は他の方式に比べて劣ります。

発進時はクラッチを半クラ状態にしてクリープ現象を再現させるのでかなり違和感を感じます。ただ、ホンダのi-DCD方式ではクラッチを切ってエンジン側からの動力を切り離し、クリープ現象をモーターによって再現させるので自然な動作となっています。

DCTの特徴も、その構造の類似性からMTやAMTと同じような傾向になります。伝達効率はMTと同等と言われています。

電気式CVT(モーター式)

実質的にトヨタのハイブリッド方式を指しています。変速比は発電機の発電負荷を変化させることで調整します。エンジンからの動力は遊星ギアを通って機械的に出力軸に伝わるルートと、発電機にて電力に変換され、再度動力用モーターに注ぎ込まれて動力となるルートの二つを通ります。前者の伝達ロスはほとんどないはずですが、後者は運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、その後再度運動エネルギーに変換するという過程でロスが発生します。したがって、伝達効率はMT(とそれに準ずる方式)以下と見なすのが自然です。

トヨタのハイブリッド車の燃費が良いのはCVTと同じくエンジンを常に効率の良い回転数で回しておける(ハイブリッド車の場合はさらに自由度が高い)という点が大きく寄与しています。

EV

EVは通常、変速機が存在しません(減速ギアはあります)。これは、モーターのトルクが低回転数から高回転数まで一定している2ことが理由です。

構造がシンプルなので機械的なロスはほとんどありません。伝達効率は全システムの中で最高で、モーターはエンジンのように負荷に応じて極端に効率が悪くなる領域というのも無いので変速機が無いことによるデメリットもあまりありません。

EVは変速機に関する諸々の悩みとは無縁な車であると言えると思います。

まとめ

燃費という観点から変速機を評価した時は、

 - 最適な変速比で動力を伝えて常にエンジン回転数をスイートスポット(最も燃費が良くなる負荷領域)になるべくとどめる
 - 伝達効率を高くする

という2点が非常に重要になってきます。

個人的には、自動変速であればロックアップ付トルコンATで多段(6速以上)のものが最も良いと思っています。下記のマツダ提供の図で述べられていることが理由になります。

skyactiv-drive_02

マツダのSKYACTIV-DRIVEはロックアップ付きトルコンATです。

ただ、普及価格帯の車種でロックアップ付トルコンが搭載されている車種はかなり少ないですから、選択肢はぐっと狭まります。というかそもそも変速機を基準にして車を選び始めるというのもおかしな話なので、基本的には好きな車を選んでゆき、最後に残った候補で決め手が無い場合などに検討する程度で良いんじゃないでしょうか。運転の仕方でもかなり燃費は変わってきますし。

一方で「いや、俺はロックアップ付トルコンじゃだめだ、XXという方式でないと」というこだわりがある人はそういう車に乗ればよいと思います。


  1. ここでは詳しく述べませんが、「トルクコンバータ ストールトルク比」などで検索してみてください。 
  2. よくメーカーのパンフレットなどではフラットなトルクカーブが掲載されていますが、実際の同期電動機のトルクカーブはあそこまでフラットにはならないと思います。