【質問#34】【質問#31の続き】日産プリメーラのレーザーによるACCについて

質問・悩み相談の回答です。

質問

ご回答ありがとうございました。
ADASの充実、普及を切望している一市民として、TSSCの件は非常に
気になることでした。

測距能力が単眼カメラよりも(たぶん)高いミリ波であっても、件のアセスメントでは、日産のスカイライン以外は、30km/hでの停止すら実現できていない車種もありますので、測距能力の高低が、そのまま自動ブレーキの
性能というわけでもなく、ソフトウェア、設計思想の違いが結果に違いを及ぼすと
いうのは、納得です。
私、TSSPでは、ミリ波で対象との距離は測れるが、その対象が本当に、避けるべき対象なのかという点をカメラで、補完しているのだと考えています。
ですが、TSSCでは、単眼カメラで距離を測り、対象を把握して、その上、赤外線で一体何を
補完するのか?というのがそもそもの疑問でしたが、
ご説明いただいた内容で理解は深まりました。ありがとうございます。

以下、質問ということではないのですが、
私、工学の専門知識がないため、レーザ、レーダーなどの区別が、時として曖昧です。
日産プリメーラはレーザで、ACCを実現していたと読める記事に出会いました。
ずいぶん古い記事ですし、メーカーのサイトにはすでに情報はありませんでした。
http://precious.road.jp/car/acc.htm

ここでいう、レーザとはミリ波などの電波をいっているのでしょうか。
それとも、(可視光ということはないでしょうから)
赤外線のことなのでしょうか?
赤外線でACCを実現しているとすれば、驚きです。

お時間のある際に、解説いただければ嬉しいです。

回答

私、TSSPでは、ミリ波で対象との距離は測れるが、その対象が本当に、避けるべき対象なのかという点をカメラで、補完しているのだと考えています。

まず、上記の点ですが、ご推察されているとおりです。後述しますが、自動車用のADASシステムに使われるミリ波レーダーは可視光線や赤外線に比べると分解能が悪かったり、「検知した物体が何であるか(車なのか壁なのかガードレールなのか)」は大きさや速度から推測するしかないです。また、道路の白線1などはそもそもレーダーでは検知できません。これらの不足している情報をカメラで補完します。

さて、続いてレーザーとレーダーの違いです。一般的な説明をすると、「レーザー」とは光(特に可視光)を増幅して放出したものです。光の波長の整数倍の長さになるように合わせ鏡を設置して光を増幅し、その一部を取り出すような装置から発せられます。一方で「レーダー」とは電波を用いて電波を反射する物体の位置や相対速度などを検知するための装置を指します。

また、レーザーや可視光線というのは電波の一種でもあります。周波数(波長)によって呼び方が異なっています。レーザー、可視光線、電波は大雑把に言えばどれも波長(周波数)が異なるだけの電磁波です2

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image from シーシーエス株式会社

ADASにおいて「レーザー」と「レーダー」という言葉の違いは、他車の距離・相対速度・方位を検知するためにレーザーを用いて検知しているのか、レーダー(ミリ波、電波)を用いて検知しているのかという分類で用いられています。

ADASにおける「レーザー」とは、赤外線を利用したレーザーで、照射したレーザーが対象物に反射して跳ね返ってきたものを受光センサーが拾うまでの時間と、光の速度(既知)を用いて距離を測定します。これを数回繰り返すことで相対速度も検知できます。方位を測定するためにはセンサを物理的に回転させる必要がありますが、そこまで大掛かりなシステムになっているものは無いと思います。つまり、レーザーによるADASシステムは方位までは検知できていないのではと思います。

一方でADASにおける「レーダー」とは、ミリ波帯の電波を利用しています。アンテナはフェーズドアレイと呼ばれる種類のものを搭載しており、詳細な説明は省きますが装置を固定したままでも電気的に照射方向を変化させることができ、広い範囲を高速に走査できるのが特徴です。位置はレーザーによる測定方法と同じように反射波が帰ってくるまでの時間によって計測しますが、相対速度はドップラー効果(救急車のサイレンが近づいてくる時と遠ざかっている時では異なって聞こえる現象)を利用して計測できます。

以上、ご存知の点も多々あるかと思いますが、一般的な説明として記載いたしました。

さて、ご質問の日産プリメーラですが、私もこのような機能が備わっていたとは初耳でした。オートクルーズ関係の機能は意外に市販化も古くから行われていて、たとえばトヨタ スープラ(90年台初頭のモデル)にはマニュアルミッションでオートクルーズが搭載されていたりします。調べてみたら他にもあるのかもしれませんね。

ご提示頂いたWebサイトの内容を読みますと、たしかにレーザーで速度追従クルーズコントロール(以下ACC)を利用しているとあります。最近の車種でACCを採用している場合はまず間違いなくレーダーが搭載されております。その理由は、レーダーはより遠くまで検知でき悪天候にも強いからという単純な理由であります。レーザーによってACCを実現していたというのは確かに最近の車種と比較すると違和感が残るところです。ですので、質問者様もプリメーラのACCで利用されるレーザーとはもしかして電波のことなのでは?と推測されたのだと思います。

しかしながら、レーザーとレーダーは赤外線レーザーと電波という区別においては言葉のゆらぎはありませんので、やはりプリメーラはレーザーを用いてACCを実現していたのだと思います。

ではなぜ現行車種で利用されていない赤外線レーザーによるACCがプリメーラで実装されていたのかといえば、それは性能が良くないことを前提とした割り切りがあったのだと思います。

実際、ご提示頂いたWebサイトの記載にも、現在のACCに比べて性能が良くないことを伺わせる記述がいくつかあります。

まず、「雨が降ると使えない」という点です。現代のACCも激しい降雪によってセンサー部分が覆われてしまうと使用できない場合がああったりしますが、雨程度では正常に動作する車種がほとんどです。また、雨が降ると使えないというのはレーザー特有のものです。波長がミリ波よりも短い赤外線レーザーは雨粒による影響を受けやすいです。

次に、「センターライン上に立ってる短いポールに、左カーブで反応してしまう」という点です。これも、単眼カメラ等を併用しないので、感知したオブジェクトすべてを車とみなすような安全側に傾倒した処理をしているのでしょう(本当にいきなりブレーキがかかるのが安全なのか、はわかりませんが)。

「車線の端っこを走ってるバイクは、うまく検知できないことがあります」というのも走査範囲が前方一直線のみに限られるレーザーの特徴です。

以上3点は、時に危険になりうる欠点です。日産としては「あくまでもドライバーの補助であって、緊急回避はドライバーの判断で」というスタンスで売っているのだと思いますが、それでも何かあったときに裁判で確実に勝てるかという保証はなく、できればリスクは避けたい、安全なシステムを作りたいというのは自然な考えです。当時は競合車種に対する優位点を作りたいとか、市販車でデータを集めたいとか、そういう戦略的な理由でリスクを取ったのではないかと私は思います。

しかしレーダーが低価格になってきた現在では赤外線レーザーのみでのACCを実現するのはリスクの割にうまみがないのでやっていない、と、こういう背景になっているのだと思います。

まとめますと、プリメーラのACCは記載の内容を信じる限りはレーザーで行われていたと見て間違いないと思います。欠点の記述もレーザー方式特有のものだからです。日産は競合車種に対するアドバンテージを作りたいとか、そういった理由で当時はリスクを取ったのでしょう。現在ではミリ波レーダーのコストも下がってきましたので、リスクを鑑みればレーザーのみでACCを実現させる動機は弱いのでこういう方式が採用されないのだと思います。


  1. 白線の検知はレーン逸脱警報以外にも、オブジェクト検知(対象の物体が何であるかを判定)にも利用されます。 
  2. 正確には、波長が短くなると粒子性が現れたり(強くなったり)します。