Toyota Safety Sense Pと自動車メーカーとソフトウェアと

車載向け画像認識用プロセッサ「Visconti2」がデンソーの前方監視カメラシステムに採用

DENSO 事業を通した社会への貢献(Toyota Safety Sense向けに「ミリ波レーダ」と「画像センサ」を開発)

上記あたりを見る限り、東芝製画像認識プロセッサがデンソーに採用され、デンソーがToyota Safety Sense Pを作っており、当該システム搭載車両は今秋(2015年秋)から市場投入予定とあることから、多分東芝製プロセッサがプリウスに採用されているのでしょう。だから何なんだ、って思いましたか?いや、これ面白いですよ。

最近こういった記事を見て思うのは自動車はどんどんソフトウェア化しているな、という事です。もともと自動車産業は自動車メーカーの傘下に何百何千という下請け企業や子会社、サプライヤーなどがぶら下がっており、大量の雇用を創出する基幹産業であるというのは今さら言うまでもありませんが、そこにソフトウェアという軸が加わり、伸びてきたのは面白いな、と思います。

「チップというハードで売るのだからソフトは関係ないのでは」と思うかもしれませんが、結局こういうチップが提供するのは低レベルの画像認識処理だけでそこから抽出したオブジェクトをどう活用するかという部分はメーカーが自前で実装しなければならない部分ですから、そのあたりのノウハウを含めてちょっとしたエコシステム的な世界が構成されるわけです。もうすこし丁寧に言うと、いま、「メーカーが自前で実装」と書きましたが、実際にメーカーの社員が開発するということは(自社の得意分野にミートする技術ではないので)多分少ないはずです。だから外注することになるわけですが、そこは東芝としても商売ですから当該チップを扱える技術者をセットで売り込んでいるはずでしょう。つまり、チップひとつ採用するにもただ買う、だけでなくそこから直接的にまたさらに雇用が生まれるわけですね。そしてこんなことは珍しいことでも無く、近年ではごく普通に行われている事であります。

ただそこに一つ私が危惧しているのは、日本のメーカーというのは元来「ソフトウェアなんてハードウェアのオマケ」みたいに考えている節があることです。私自身、メーカーに在席してソフトウェア開発に携わっていますが、そういう空気は身を持って感じるところです。昔は特にモバイル製品においては物理的制限や技術レベル、消費電力の点から高性能なプロセッサを載せるのは難しかったため、本当に「オマケ」程度の処理しかできなかったのは事実です。しかし現在はプロセッサの性能が飛躍的に向上したこともあって、多様な応用が利くようになりました。画像認識によるADASなんてのはその好例ですが、メーカーがこのような事実に直面して経営的な側面で何が変わるのか(もしくは何も変わらないのか)が気になります。

業種にもよりますが、企業規模が大きくなればなるほど外注の比率は一般には高まるといってよいと思います。その結果、自社のコア技術が外注先に流出してしまうことになります。ひどいときには「外注先が提示してきた見積もりの妥当性を判断できない」なんてことになってしまうケースも私は見たことがあります。

そうならないためには、自社内にも一定規模の開発が行えるチームを抱えておいて、少なくとも外注と自社内開発が選べるという状態にしておかなければなりません。そしてそういう事はもちろんすでに実践されている事と思いますが、ソフトの分野ではどうでしょうか。私はそこら辺を気にして継続的にウォッチしていますが、自動車メーカーが人工知能や機械学習といった先進的な分野でのソフトウェア技術者を積極的に採用しているという話は聞いたことがありません。

強いて言えば、トヨタが米国に人工知能の開発拠点を設置するというニュースがあった程度でしょうか。

トヨタ、人工知能に1200億円 シリコンバレーに新社

近年では人工知能や機械学習の敷居も良いライブラリが登場してだいぶ敷居が低くなり、ツールを組み合わせれば色々な事が出来てしまうレベルにまで達しています。その元となる基礎的なアルゴリズムを開発できる技術者は探しても中々見つからないと思いますが、たぶん今後の10年くらいのスパンで必要になってくるのはそのような便利なツールをさくっと使って色々な応用例を開発できる技術者なのではないでしょうか。その程度であればそこそこのボリュームは確保できるわけで、今のうちからそれを集めておいた方が良いのでは…という気がするのですがいかがでしょうか。メーカーの皆様。