VWに乗らない日本人はビビってる?

久々に突っ込みたくなる記事を見かけたので紹介。

自動車業界ゆく年くる年

渡辺:自動車業界にとって最大の事件はVWショック(排ガス不正問題)でしょうね。
清水:業界にとってはね。でも日本には該当するディーゼル車は1台も正規輸入されてないから、なんの被害も受けてないんだよ。
渡辺:日本には直接的な影響はなかったのにVWの販売が激減しているのは、完全にイメージの問題ですね。
清水:日本人は狂ってるよ(笑)。なにビビッてんだよ!
渡辺:VWの罪状は言い逃れようがなく、完全にけしからんではあるけれども、なんで日本人がここまで怒ってるんだろう感はありますよね。
清水:世界で一番日本人が怒ってんじゃないの。

一つずつ考えていきましょう。

VWの国内販売が激減している

調べてみました。

輸入車新車登録台数速報 JAIA

VWの国内新車販売台数

  • 8月 4339台(前年比116.4%)
  • 9月 5989台(前年比90.9%)
  • 10月 2403台(前年比52.0%)
  • 11月 3638台(前年比68.2%)

10月にはおよそ半分に落ち込みましたが、11月には7割近くまで回復しています。確かに激減といっていい数字です。

VWの国内販売が激減しているのはイメージの問題

不正発覚が9/22で、10月から一気に減少しており、他にさしたる理由も見当たらないので確かに因果関係はあると考えるのが普通でしょう。

「日本人は狂ってるよ(笑)。なにビビッてんだよ!」

えっ、何で?

言わんとしていることが不明瞭ですが、おそらく「不正を行っているような車種に乗るのは危険なのでは」とユーザーが判断したことによって購入を止めている、ということを指して「ビビっている」と表現しているのではないでしょうか。そういう人が皆無だとは思いませんが、多くのユーザーはVWという会社のイメージが悪くなったから購入を止めた、つまり不正をするような会社の製品は買いたくないと思ったからやめたのではないでしょうか。

今回は安全性につながる不正があったわけではありません。たとえばタカタのエアバッグでは金属片が首筋を切り裂いたなどと言う報告がありましたが、そのようなニュースを聞いて「うちの車も突然エアバッグが暴発してけがをするのではないか」とメーカーに問い合わせを行う、などというケースがあったとすればそれは「ビビってる」と言って良いかもしれませんが(もちろん臆病ではなく正当なリスク評価だと思います)、別に排ガスではビビる要素すらないように思います。いかがでしょうか。

なんで日本人がここまで怒ってるんだろう感はありますよね

企業イメージ、ブランド、インテグリティというのは近年数多の企業が気にかけているポイントであります。消費者は商品それ自体の魅力だけでなくそれを提供する企業のイメージにも重きを置くようになったというのはもはや解説不要の事実であって、であるからこそ「私たちは木を植えています」「途上国に学校を作っています」「フェアトレードしています」などと主張するようになりました。

この傾向は日本特有のものではなく、世界的なものです。特にインテグリティに関しては、STAP細胞に関する一連の報道や反応がその好例でしょう。誠実でない方法で成果を上げようとすることに対する怒りというのは特にその道の専門家や当事者やステークホルダーに留まるものではありません。現代社会において「誠実さ」はあらゆる場面でグローバルに重視される要素です。もはや当たり前の事です。そんな現代において世界的な有名企業が不正な方法で国家の審査を通り抜けたのだから、市民が怒りを感じるのは普通とまでは行かないかもしれませんが、特におかしい事ではないのではないでしょうか。

VWショックの件で言えば、先に述べたように「不正をするような会社の製品は買いたくない」という気持ちが購買意欲の低下につながったと考えるのが自然なように思います。「組織的に不正を行ったことを認めているのだから、他の個所でも問題が出てくるかもしれない」とも思うかもしれませんね。つまりはユーザーが「VW車に対する潜在的なリスク」をより高く見積もるようになったということでしょう。

また、

清水:世界で一番日本人が怒ってんじゃないの。

とも述べていますが、これは完全に個人の印象です。

なぜ評論家やライターはそれでもVWが良い車だと思うのか

「販売台数半減」、これが世間の評価でした。にも関わらず、「狂ってる」「何ビビってんだ」「何で怒ってるんだ」などという言葉が飛び出すのがかの方々です。なぜここまで一般人との認識の乖離が大きいのでしょうか。そしてこれまで私が読んできた種々の記事、雑誌などの内容と私個人の印象を基にもう一歩踏み込んで言えば、本件だけに限らず一般人と自動車評論家、ライターの人々の考え方の乖離というのは結構大きいように思います。

ここからは私の勝手な推測ですが、あの人たちは結局車だけが好きなのではないかと思っています。車が好きなので、車の性能や機能、車の進化、車のデザイン、車を運転することそのものにフォーカスしがちなのでしょう。

しかし我々多くの一般人はそういう見方をしません。車とは趣味性を持ちながらも日常の一つになっています。多くの人にとって車は自分の駐車場に常に止まっていて、日々の買い物や特別な旅行に常に寄り添う大きな機械であるとともに、場合によっては交通事故で人を殺してしまうかもしれない道具であり、もしくは信号無視した車が横から突っ込んできたときに自分を守ってくれる箱かもしれません。自分が運転するだけでなく、知人や家族も運転することも考えなくてはなりません。製品寿命が長いですから、将来の家族構成が変化することに対応できるかも考えるはずです。こうして現在から将来、自分から家族、知人を含めてまで色々な事を考えるでしょう。

すると車の評価軸は十人十色になるのですが、これを理解できないライターが多いように私は思います。(もちろん、全てがそうだと決めつけているわけではなく、一般のユーザーの考え方に沿った考え方をしているライターさんもおられるのは知っています)今回の例で言えば、「商品を製造している企業の誠実さ」という評価軸をかの方々は理解していなかったということでしょう。

十人十色の評価軸を理解するためには車の事だけを知っていてもダメで、物事を広く知っている必要があります。数多のユーザーが自分の生活に根差した車を選んでいるのですから、車を評価する仕事をしている人たちもそれに合わせて数多のユーザーの利用シーンや要求、要望を分析しなければなりません。それを行わずして「この車は速くて良く曲がるし格好いいからこの車が良いんだ」などという記事を書いても何の役にも立ちません。オタクが内輪で盛り上がってるのと大差ありません。

今回冒頭で紹介した記事で私が言いたいことはそれです。「VWは良い車を作っているのだ。排ガス問題なんて小さな問題だ」と主張するのであれば、その根拠を一般のユーザーの目線や価値観に訴えかけて伝えるべきなのです。その結果、記事を読んだ読者が新たな知見を得て「ああー、そうなんだ。日本国内で販売されているVW車は良い車なんだ。しかも今は不正問題が原因で値引きも活発なんだ。じゃあ検討の余地はあるなあ」と考え直したらそこで初めてライターとしてちゃんと仕事をしたと言えるのではないでしょうか。それを行わずに、一方的に「日本人って馬鹿だよなー。車の価値を分かってねーや」みたいな書き方をされても不快なだけだと思うのですが。