日産の1モーター2クラッチ式ハイブリッドを調べた

調べてみました。

以下あたりを参照しました。

第9回新機械振興賞受賞者業績概要 1モーター2クラッチ式パラレルハイブリッドシステム

構成

image from nissan

エンジンとミッションの間に軸を同一とするモーターを設置し、その両端にクラッチが存在するような形です。これによって、上図右側のように計6パターンの制御を行っているとの事です。

この方式の利点はシンプルであることと、一定速度走行時の伝達効率の高さの2点であると思います。デメリットはトルク変化が過渡状態の時の制御の難しさと、幾分かの伝達効率悪化でしょうか。またデメリットと言うほどでも無いですが気になるのがクラッチ寿命とモーター変速比です。以下でそれぞれ述べます。

シンプルである

トヨタのTHS-2やホンダのi-DCDと比べるとかなりシンプルな構成です。一般論を言えば、シンプルであるという事はコストがかからないという事の他に、部品点数が少なくなることによる信頼性の向上(=故障のしにくさ)に繋がります。

ただ、シンプルさで言えばスバルXVハイブリッドで採用される方式がよりシンプルだと思います(後述します)。また、シンプルであるというのはトルクフローが分かりやすいという事であって、実際のシステムでの部品点数や制御の複雑さは他システムとさほど変わらないかもしれません。

一定負荷での伝達効率が高い

これはもちろん、トルクコンバータを廃してクラッチで接続したからです。ほぼMTと同等と言って良いでしょう。「ほぼ」なのは、伝達効率の高いクラッチと言えど2つ直列に配置してある点と、同一軸上にあるモーターでの磁気的・電気的な抵抗がゼロではないのと、その二つが理由です。まあどちらもCVTと比べれば取り立てて文句言うほどの悪化要素ではないはずです。

トルク連続変化時の複雑さと効率悪化

日産の2クラッチ式ハイブリッドではトルクコンバーターを廃する事で高効率が実現できました。

欧州車にて多段式のデュアルクラッチが流行ってきてからは「トルコンは悪」と風潮が一部で広まったように思います。その際たる理由はダイレクト感の欠如、次に伝達効率の悪さでしょう。その後、マツダのSKYACTIV-DRIVEなどに見られる全域ロックアップなトルコンATが登場してからはまた「トルコンは復活した」などと言われることが多くなりました。トルコンとは悪なのでしょうか。正義なのでしょうか。いや、道具に良いも悪いもありません。使いようだと思います。トルコン自体が良いとか悪いとか言う人はぶっちゃけトルコンとギアの区別もついていないんじゃないかと思います。

トルコンは文字通りトルクコンバート、つまり変速ギアと同じ役割を果たします。以下が一般的なトルクコンバータの特性を表した図です。

image from 車両に搭載された内燃機関の推定トルク算出装置(PAT.2007-192082)

速度比が低い(入力軸の回転速度>出力軸の回転速度)時は大きなトルクが得られ、同じ回転速度になった時点で同一のトルクが得られます。つまりトルコンは小規模なCVTであるとも言えます。また、その伝達効率は速度比が中央(0.5)よりやや後半になった段階でピークを迎え、速度比1の時は効率は落ち込みます。この点をもってしてトルクコンバータは特に低負荷走行時に伝達効率が悪いと言われます。

トルクコンバータのもう一つの特徴は継手(クラッチ)としての役割も果たします。トルコンは日本語で言えば「流体継手」です。入力軸と出力軸を接続しているのは流体、つまりオートマフルードと呼ばれるオイルなのでトルクの瞬間的な変化に対して応答が緩やかになります。言い換えれば変速ショックや急激な出力変動を抑え込むことができます。

冒頭のリンクにある日産の資料では、エンジン始動時の歪なトルク変動を抑え込むためにクラッチを滑らせて出力制御するのに苦労したことを結構な文量を割いて説明しています。

image from nissan

image from nissan

そもそもこういう事をしなければならなかったのは、トルクコンバーターを廃してクラッチによる接続としたからと予想されます。逆にトルクコンバータを採用したハイブリッド車の例としては、スバルXVハイブリッドが挙げられるでしょう。以下がCVT周りの断面図になります。

image from Car Watch

モーターはCVTのプライマリプーリーに接続され、エンジンの出力軸とプライマリプーリーの間にはトルクコンバーターが接続されています。このようにしておけば、モーター走行時にエンジンが始動した際でもプライマリプーリーに伝達されるトルクの変化は緩やかなものになります。少なくともクラッチによる接続よりは明らかに緩やかになるとまでは言ってよいでしょう。

しかしながら日産の方式ではトルコンを排除したためにトルクの変化をなめらかにする制御に苦労(たぶん)することとなりました。しかもこの制御方法はクラッチ滑りを利用したものです(だから、ミッション側のクラッチだけ湿式になっているわけですね)。つまりクラッチ滑りを行うような領域において、運動エネルギーの一部はクラッチでの摩擦熱として捨てているわけです。もしトルコンでなくクラッチを採用した理由が伝達効率の向上であれば、これは本末転倒と言える気がしないでもありません。加減速が激しい市街地での燃費を優先するのか、高速巡航での燃費を優先するのかの違いとも言えるかもしれません。

個人的には日産の方式はミッション側のクラッチをロックアップ機構のついたトルクコンバータにすればよかったのではという気がします。そうすればトルク変動を平滑化できるでしょうし(多分)、ロックアップすれば伝達効率も悪くありません。実際、スバルXVハイブリッドの方式がまさにこれに似ています。

ではXVハイブリッドと日産の2クラッチ式ハイブリッドを比較するとXVハイブリッドの方が伝達効率で優れているのか…と問われればそれは走行条件によりけりとしか言えません。XVハイブリッドはトルコンでの伝達効率がたとえ100%だったとしても後続するのがCVTですのでここで伝達効率が悪化します

※より厳密に言えば、プーリーを締める油圧ポンプの駆動にエネルギーを取られることが燃費悪化の主因です。

大ざっぱに推定すれば、加減速が激しいシーンではXVハイブリッドの方が燃費が良く、一定速度走行時には日産方式のほうに分があるのではないでしょうか。

日産がトルコンでなくクラッチを採用した理由が良く分かりません。前述したようにクラッチの片方をロックアップトルコンにすれば複雑な制御は不要だったと思うのですが…。まあ私が考えているほどクラッチの滑りを利用したトルクの平滑化は難しくないのかもしれません。それならばネガティブイメージのあるトルコンを採用するよりはクラッチの方がマーケティング的に有利と考えたのかもしれません。もしくは、素人には分からない何か別の難しさがあったのかもしれません。ただ単に他のメーカーと似たような機構にしたくなかったのかもしれません。そこいらの背景は開発者に聞くしかないでしょう。

私は何となく「2クラッチ」がいわゆるデュアルクラッチトランスミッションであるかのように思わせる戦略のような気がしてしまうのですが…。それは考え過ぎでしょうか。

クラッチ寿命

一々気にすることでもないですが、クラッチ滑りによる制御というのはつまりマニュアル車で言えば半クラのまま加速してく様なものなのでクラッチ寿命が短いのでは?なんて思ってしまいます。もちろん半クラを常用することを設計をするため問題が起きることは無いかと思いますが、何か気持ち悪いです。

モーターギア比が固定

これはデメリットというよりi-DCDが凄いという感じなのですが…。日産方式でもモーターのギア比は固定です。というか、私の知る限りモーターの総減速比が可変であるのは現状i-DCDしか無かったと思っています(私が知らないだけで何かしらあるとは思いますが)。

一般に、モーターは高速回転域ではトルクが小さくなります。ハイブリッド車に採用されるようなモーターのスペックを見ると、大体1000rpmあたりで最大トルク、2000~3000rpmあたりで最大パワーとなっているものが多いように思います。このような特性のモーターがエンジンと伝達機構を共有するというのは理想的とは言えません。

ただエクストレイルハイブリッドは100km/h以上の領域でもモーターのみの走行が可能と言いますし、そんな気にするほどの事でもないのかも。

まとめ

日産の2クラッチ式ハイブリッドは悪くは無いですが、何かこう、メカマニアを引き付ける魅力が薄いような気が。

私もかつては日産ユーザーだったので昔ながらの日産の良さがまた発揮されて欲しいと思うのですが、近ごろはそういう車種を日産で見かけることは無くなりました。日産は海外での売り上げが伸びていますが国内の売り上げは落ちていると聞きます。大体どのメーカーにもいえることですが、もっと国内も重視してほしいと一ドライバーとしては思います。