ホンダi-DCDの制御と次期プリウスについて

以前、「ホンダのi-DCDは凄く良く出来ている」という記事を書いたのですが、これを読んでいただいた方からメールを頂きました。グレイスに搭載したギアポジションとモーター回転数が判別できる

アークデザイン社のMFD2-HYというギアポジション表示装置

というデバイスを使用して実際の走行時のデータを送ってくださいました。この内容を公開して良いとのお許しを頂きましたので、今回記事にいたしました。とても貴重なデータを送っていただいた上、快くブログで紹介することの許可を頂けたことに、この場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございます。

内容はとても興味深いものになっています。以下、引用です。


車両速度10km/h時​
※ゆっくりと加速している状態です。(アクセル開度12%、スロットル開度15%)
エンジン側が2速の場合、エンジン回転数1530rpmに対して、モーター回転数は682rpmで、モーターは3速からアシストしていると推測されます。

車両速度20km/h時​
※比較的速めの加速している状態です。(アクセル開度22%、スロットル開度20%)
エンジン側が2速の場合、エンジン回転数1820rpmに対して、モーター回転数は3754rpmで、モーターは1速からアシストしていると推測されます。

同じ2速でも加速の仕方でアシストのギアが違うようです。

​​車両速度25km/h時

エンジン側が3速の場合、エンジン回転数1650rpmに対して、モーター回転数は1646rpmで、モーターはエンジンからの入力軸と直結で同じギアでアシストしていると推測されます。
​車両速度35km/h時
エンジン側が4速の場合、エンジン回転数1690rpmに対して、モーター回転数は2285rpmで、モーターは3速からアシストしていると推測されます。

​車両速度50km/h時
エンジン側が5速の場合、エンジン回転数1790rpmに対して、モーター回転数は1796rpmで、モーターはエンジンからの入力軸と直結で同じギアでアシストしていると推測されます。

​​車両速度56km/h時
エンジン側が6速の場合、エンジン回転数1490rpmに対して、モーター回転数は2007rpmで、モーターは5速がギアでアシストしていると推測されます。


引用は以上です。

ちなみに、以下が私が推測しているグレイス(Fitハイブリッド、ヴェゼル、JADEハイブリッド)に搭載されている動力用モーターのトルクカーブ&パワーカーブになります。左側目盛りがトルク[N・m]、右軸がパワー[kW]です。

おそらく、上記グラフはそれほど実際のデータと差異が無いのではと私は思っています。

これらから確実に言えることが幾つかあります。

モーターが接続するギアはエンジンの出力軸が接続されているギアと関係なく奇数段から選択できる

…と書いても分かりにくいので具体例を使って説明します。

前述の頂いた画像を拝見すると、低速走行時にゆっくり加速しているときは3速側からアシストしており、速めの加速をしている際には1速側からアシストしています。この時の回転数は、前者が682rpm、後者が3754rpmとなっています。パワーカーブから判断しますと、トルクは682rpmの方が高いのですがパワーは3754rpmの方が出ています。パワーがほしい時、ゆっくり加速したい時でモーター側が接続するギアを切り替えています。エンジンが1速の時はモーターは2速固定、という制御をしているわけではないということです。

ギアの構造からエンジンの出力軸とモーターの出力軸が別々のギアから動力を伝達できるだろうとは思っていましたが、その変速のストラテジーはシンプルな原理にもとづいているのだと考えていました。i-DCDのトランスミッションはとても自由度が高いですが、自由度が高過ぎる故にあまり複雑な制御をするとその制御ソフトの開発難易度がとてつもなく難しくなるというのがその理由です。

ちなみに、あくまでも素人の推測ですが、i-DCD関連でリコールが相次いでいた一因がこれではないかと考えています。ただ、それがもし本当だったとしてもホンダのリコール情報を見るとDCTのプログラム関連でのリコールは下記3件で2014年2月10日以降は出てない(っぽい)ので収束したのかもしれません。

そして、Fitでは沢山の品質問題を出しましたので、それに続くグレイスは正直、無難な制御をしていると思っていましたが、そういうことではなかったのですね。

モーターのトルク制御も行っている

画像右下には良く見るとモータートルクの表示もあります。5速、6速のときは1800rpm、2000rpm付近でそのときのトルクが19N・m、10N・mです。一方、2速で早めの加速をしている時は3754rpmで47N・mです。おそらく3754rpmで47N・mというのは定格で(そのモーターのスペック上最大のパワーで)運転しているのだと思いますが、5速、6速の時は明らかにトルクを落としています。

ということは、インバーターで電圧を落とすなりしてトルクの制御も行っているのでしょう。まあ当然だと言われればそれまでですが、ギアポジション制御の他にさらに電圧調整という自由度が(システム全体の出力制御として)さらに加わるということですから、改めて制御の難しさを感じる次第です。

所感

トヨタのTHS-2も素晴らしい仕組みでよくこんなもんを考えつくなーと私は思ったものですが、i-DCDは車の正常進化といった感じで非常に好感を持てます。ホンダはもっとi-DCDの素晴らしさをアピールしても良いような気がしますが、ただどういうアピールになるのか…というとちょっと難しいですね。メカにあまり興味が無いユーザーは「エンジン出力軸とモーター出力軸が違うギアを選べるんだぜ!!」なんて言われてもなんのこっちゃ分からないでしょう。そこら辺をうまく一般ユーザーに分かってもらうにはどうしたら良いんでしょうね。

ただ、デュアルクラッチはユーザーのウケが良いとか、自社のミッション製造ラインを有効活用できるからとか、もちろんそういうビジネス上の理由もあって、純粋に技術的に正しい姿を追い求めたという事でもないと思います。しかしそれを考慮しても、個人的にはやはりTHS-2とi-DCDを比較したらi-DCDを搭載した車に乗ってみたいと思いました。

私がプリウスを買った時はまだIMA-hybridしか無かったのでちょっとプリウスのそれと比べると仕組みがしょぼいなー、技術マニアとしてはそそらないなー、なんて思っていたのですが、i-DCDがもしあの時に存在していたら、絶対i-DCDを選んでいたでしょう。まあ、i-DCDは後発の技術だから比較するのはちょっとアレかもしれませんが。

ちなみに、次期プリウスに搭載されるTHS-3ではプラネタリーギアをやめて並行ギアにするそうです。また、後輪を電動モーター駆動するE-Fourもラインナップするとのこと。その理由として「プラネタリーギアが重くて複雑」ということが挙げられたりしていますが(例えば以下)

トヨタ プリウス【スクープ!】

ちょっと個人的にプラネタリーギアが重くて複雑というのは真逆な気がします。普通の平行ギアなトランスミッションの方がよほど部品点数も多く、重量もかさむでしょう。そもそもプリウスが重量のかさむバッテリを抱えながら車両重量を抑えることができたのは重い平行ギア式トランスミッションを搭載しなくて良いという点が顕著に効いていると認識していました。根拠が無いので断言できないのですが、限りなく間違っているように思えます。

プラネタリーギア式で弱点となるのは重さやシステムの複雑性(に起因する信頼性低下、製造・保守コスト増)だと言われるのは少なくとも私は効いたことが無く、むしろ伝達効率が問題だと言う話をよく聞きます。

プラネタリーギア式ではエンジン出力を走行速度と切り離したうえでなるべく高効率な回転数域でエンジンを回すことが出来るというのが最大のメリットですが、エンジン出力の何割か(不可状態によって可変)は必ず発電機で電気に変換させられ、その後(場合によってはバッテリを経由した後で)モーターに供給されます。ここの変換ロスが幾分かありますので、通常のガソリン車が高速度定速巡航しているような領域においてはプリウスの動力分割機構は通常の並行式ギアに比べて全体の効率が落ちる可能性があります。(もっとも、プリウスはエンジンも1.8Lでありながら90psまで最大出力を落としてミラーサイクル領域をかなり広げたエンジンなので、そこまで燃費が悪いわけではないです)

ちなみに、i-DCD開発者による以下のような言及もあります。

 「トヨタシステムは、2つのモーターとエンジンが常時、プラネタリーギア(遊星歯車)を通じてつながっていて、片方が上がると片方が下がりバランスを取るというやじろべえ式。これが調べれば調べるほど良くできていて、常にエンジンを最高効率のところで使えるんです。最初は、できるだけそれに近づけようと思っていました」(中略)

そしてi-DCD方式ならば、EVドライブとエンジンドライブをほぼマニュアルギアボックス並みの直結状態で行える。(中略)つまり常時すべての動力源がつながっているトヨタ方式に比べ、パワー伝達効率が非常に高いのだ。(中略)

中でもホンダのi-DCDが得意とするのは、ほとんどエンジン直結状態となる高速域。同時にこの領域は常にモーターを引きずるトヨタ方式のウィークポイントでもある。よって当初、池上さんは「時速100km以上では絶対勝つ」と限られた範囲内でのトヨタ超えを目論んでいた。

まあ特に目新しい情報ではないですが、

  • プリウスがエンジンを効率の良い領域で動作させるためにとても適したシステムであること
  • i-DCDの強みは伝達効率の高さであること
  • 100km/h以上の高速巡航領域ではプリウスよりもi-DCDが優れている(可能性が高い)こと

という三点を再確認する意味では重要かと思います。

プリウスはエンジンを最高効率のところで最大限回すために伝達効率を犠牲にするという選択肢を取ったという事です。もちろんそれは、自動車のあらゆる利用シーンをひっくるめて考えるとそのほうが燃費が良くなると踏んだからでしょう。しかしながら、トヨタはTHS-3で遊星ギア式をやめ、平行ギアを選んだ。この決定はそれなりに重要な意味があるのだと思います。

ちなみに、これを「トヨタのハイブリッドがホンダに続いた」と解釈する人も居るかもしれませんがそれはおそらく違うと思われます。トヨタのハイブリッドはTHS-2だけではなく、E-Fourもあります。これが初搭載されたのはエスティマハイブリッドと記憶していますが、こいつはリアのトランスアクスルにモーターを搭載するタイプです。次期プリウスでもE-Fourのラインナップがありますから、おそらくは本システムを拡張したような構造になっているのではと推察しています。現段階では何も言えませんが、E-FourとTHS-2の実績を鑑みた結果、前者に何か優位点があったのではという気がします。

話しがあっちこっちに行ってしまいましたが、今回言いたいことは以下の通りです。

  • i-DCDは運転状態に応じてモーターを接続するギアを切り替えている
  • プリウスのTHS-2は素晴らしい
  • ホンダのi-DCDはTHS-2と同等以上に魅力的
  • 次期プリウスに搭載されるTHS-3がi-DCDと同じような軸平行式ギアになったという決定は非常に興味深い

以上。