ちゃんとした用語を使え

以下記事を読んだ感想。

トヨタ「MIRAI(ミライ)」(公道試乗)

ところで“燃料である水素”というフレーズを用いたが、燃料電池とは水素を燃やすものではないから、実はこの表現は不正確。いや、もっと言えば「燃料電池」というネーミングそのものにも問題がある。それは、水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を起こす“発電機”で、決して電池などではないからだ。

というわけで、本来であれば燃料電池車とはそうした水素を用いる発電機を搭載した電気自動車と訳するのが正解。

上記の文章は意味が分からないというか、独自理論だと思う。

水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を起こす“発電機”で、決して電池などではないからだ」、というならば、ボタン電池は何なんでしょう。ボタン電池、正式名称を「空気亜鉛電池」と言いますが、こいつも燃料電池の一種で亜鉛と空気中の酸素を反応させて電流を取り出すものです。

おもちゃや時計などに入れるボタン電池を「発電機」と言うひとは居るでしょうか?居ないでしょう。

では発電機と電池の違いは何か。厳密な定義は存在しません。イマイチ良いソースが無いのですが、例えばwikipediaでは下記のように書かれています。

電池

電池(でんち)は、何らかのエネルギーによって直流の電力を生み出す電力機器である。

私もおおむね上記の理解でいました。私が読む文献や世の中での言葉の使われ方で直流は電池、交流は発電機という分類に反する例はたぶん見たことが無い気がします。

あとは、英語でgeneatorとbatteryの違いを調べてみると、

generator

noun
1.
a machine that converts one form of energy into another, especially mechanical energy into electrical energy, as a dynamo, or electrical energy into sound, as an acoustic generator.

battery

Electricity.

  1. Also called galvanic battery, voltaic battery. a combination of two or more cell electrically connected to work together to produce electric energy.

  2. cell1 (def 7a).

とありました。generator(≒発電機)は特に動力から電力への変換を行うものであり、battery(≒電池)は2個以上のセルが合わさって電力を生み出すものとあります。

以上の英単語の定義も私の経験上での判断ですが、特に違和感は無いです。おそらく読者のみなさんでもそうでしょうと期待しています。

ただし、既に述べたように「電池」と「発電機」に厳密な定義は無いので正解というのもありません。しかしながらその一方で、「燃料電池とは水素を燃やすものではないから」燃料電池と言う呼称はおかしいという主張の方が、今までの経験上や世の中の言葉の使われ方から見ておかしいと思います。ですから、限りなく間違いに近い独自理論な気がします。それを「正解」などと言い切るのも大いに疑問です。

こういう指摘を揚げ足取りと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、しかし、自動車関係の記事はあまりにも不正確な記述が多いです。以下記事など。

2015年新型カローラ発表

ジェイドRSの記事を読んでの感想

まあ私も正確性では人の事は言えないと思いますが、しかし私が10分かそこらでちゃちゃっと記事を書くのとは違う訳です。ちゃんとした看板を掲げてライターとして食っている人が記事を書き、誰かが校閲・校正をして記事にするのですからこういう文章はちゃんと修正されるべきではないかと思います。

もっとも、これはライターだけでなく自動車メーカー自体にも原因があると思います。たとえば赤外線レーザーを使った自動ブレーキシステムを「レーザーレーダー」と呼称する例。最近はちゃんとレーザーと書く例も見ますが、「レーダーと書かないと消費者が自動ブレーキシステムの事だと分からない」のでそのような名前を付けた、という発言を何かの記事で見ました。消費者が分かりにくいからほとんど誤りに近い用語を付けて、それを広める。そういうやり方で良いのでしょうか。分かりにくいのなら、名前を付けたりメーカーがちゃんと説明するなりカタログに書くなりすればよいのではないでしょうか。

たとえばステレオカメラなんて言っても知らない人には意味不明だと思いますが、「EyeSight」という名前を付けてアイサイトとはぶつからない車だ、と宣伝するのはまっとうな方法だと思います。アイサイトとはぶつからない車に搭載される技術なんだ、というのがCMを見た人は一発で分かります。そうやってブランドを構築することはビジネス上もメリットがあります。そういうやり方もできるのに、レーダー非搭載車種に対してあたかもレーダーを搭載しているかのような非常に紛らわしい名前を付ける。そういうの、俺、嫌いだな。

あともう一つ嫌いなのが、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池をエネルギー源としてモーターを駆動させて動く車を「EV(電気自動車)」と呼び、燃料電池をエネルギー源としてモーターを駆動させて動く車を「FCV(燃料電池車)」と呼ぶのも止めてほしい。元々は「EV」の中でバッテリを燃料電池とする電気自動車を特に「FCV」と呼んでいたが、最近では上記のような使われ方をしている文脈を多々目にする。こういうのが広まってしまうと、電気自動車一般のことを指して「EV」という用語を使えなくなってしまう。

「EV」は「electric vehicle」なのだから電気で動く乗り物(輸送車)であることはすぐわかる。FCVはfuel cell vehicleなのだから燃料電池で動く乗り物であることはすぐわかる。そして燃料電池はその名の通り電池で電気を起こす装置なのだから、FCV∈EVであることは容易に想像が付くはずだ。

なのに、そういう使い方をしていないと言うのは、その略語が何を示しているかすら調べていないか、調べていたとしても適宜、自分が書きたい文脈に応じて意味を多少捻じ曲げてしまっているかのどちらかだろう。どちらであっても物書きとしては褒められる態度ではない。

今回言いたかった事をもう一度書く。以上の指摘は重箱の隅をつつくかのような些細なものかもしれない(私は全くそうは思わないが)。しかし、せめて、ちゃんとしたライターがどこかの出版社なりWebサイトなりの看板を掲げて公開する文章であれば、上記のようなところはチェックしてからリリースしてほしいと思う。