ルンバをいじめるな?

下記のような記事を見た。

日本企業よ、みんなでルンバをイジめるな! 後追いでなく新しいものを作ろう

以下、感想。

言わずと知れたロボット掃除機の先駆けは、アメリカのアイロボット社が製造している「ルンバ」だ。(中略)これに続いてロボット掃除機市場に参入したのが、東芝やシャープといった日本メーカーだ。(中略)これに対し夏野氏は、「情けないことだ。もう掃除機の世界はルンバに任せておけばいいじゃないか。むしろ洗濯機とか、浴室乾燥機とか、ほかのところでAI(人工知能)をどんどんやったらどうなのか」と嘆く。

「後追い製品ではなく新しい領域にチャレンジするべき」、その意見には私も同意です。かつてのウォークマンのような革新的な製品がまた日本企業から誕生することを願っているのは私だけではないでしょう。

ただ、日本の電機メーカー各社は家電部門を継続したくないというのが正直なところなのだと思います。理由はそれほど儲からないからです。中国、韓国、台湾あたりの製品が隆盛を極めてきてコストで対抗するのはしんどいですし、爆発的な成長が望める分野でもありませんから。成長分野に投資して成熟期を過ぎた領域からは緩やかに撤退していくのはビジネスとして普通のことです。

もちろん、革新的な製品を作って世界規模での流行を作ればもうかりますが、そういう製品は金や時間を投じた所でどうにかなるものでもありません。そういう複合的な背景があり、各社、家電部門は分社化して切り離したり、売却したりということを進めている最中です。

あと、東芝のトルネオはサムスンのOEMであって、別に本腰入れて対抗しているわけではないと思います。金をかけて開発する程でもないからとりあえずラインナップ埋めとけ、くらいの気持ちなのではないでしょうか。
(追記:最新式トルネオから自社開発になったそうです)

さらに言えば、AIを家電製品に搭載するというのも昔に一度流行ったネタですので今さらという感があります。80年代後半くらいでしょうか、一時期ファジー制御とかいう言葉が流行りました。結局、ユーザーにとって何がメリットなのか曖昧なまま尻すぼみに終わりました。AIを洗濯機や乾燥機に追加すると言うネタそのものは悪くないと思いますが、過去失敗した経験もある程度は重く見たほうが良いのではないでしょうか。ロボット掃除機のAIが注目されるのは、ユーザーがロボットの掃除戦略を目で見てわかり易く、面白いからであって特殊な例であろうと思います。

そして、下記はちょっと疑問。

加えて夏野氏は、アイロボット社が新興企業である点を指摘する。「東芝やシャープのような大きな企業がつぶすようなことをしなくても。ルンバのほうが可愛いんだから、ここで戦っても仕方ない」。現にルンバの人気は、日本メーカーが続々参入してきた今年に入っても衰えていない。

「大きな企業がアイロボット社を潰すようなことはしなくてもいいのでは」とは、記事タイトル「ルンバをいじめるな」にあるように一番主張したいことなのだと思います。しかし私は、そもそも東芝、シャープ(+ダイソン)などの後追い製品がルンバに対して圧倒的なアドバンテージがあるとは思えません。端的に言えばいじめるほどの実力がそもそも無いと思っています。ですから、

現にルンバの人気は、日本メーカーが続々参入してきた今年に入っても衰えていない。

のでしょう。ルンバの人気があるという事実そのものが、日本の家電メーカーが作ったロボット掃除機にいじめるほどの実力が無いことの証です。いじめるというのは一方が他方よりも圧倒的に強大な場合のみです。そして、ルンバの人気が衰えない理由を筆者は

ルンバのほうが可愛いんだから

と言っていますが、もはや意味不明です。まさかとは思いますが、商品の出来そのものは日本メーカーが作ったロボット掃除機の方が高いが、可愛さではルンバが勝るために結果としてルンバが売れている(人気が落ちない)とでも言いたいのでしょうか?ルンバが可愛いからルンバを買ったなんて、少なくともわたしはネットでも伝聞でも聞いたことがありません。

そして既に述べたように、ロボット掃除機の本分である「部屋をきれいにする」という機能においてはルンバは他メーカーに比べても優秀であると言っていいと私は判断しています。その点で、ルンバの人気は衰えないのだと考えています。

私がそう判断する理由のすべては以下記事に集約されています。

ロボット掃除機戦争激化! 「ルンバ」はライバル社がたたくほどダメなのか?

まず私が思うのはSLAM(Simultaneous Localization and Mapping; 自己位置推定と部屋のマッピングを同時に行う制御)がそんなに簡単に出来るわけがないと考えています。事実、記事中では

アイロボットは「AVA(エイヴァ)」という移動ロボットのプラットフォームを持っておりますが、何千万円もするロボットでも高解像度の完全なマップを作るのに2時間から3時間もの時間がかかります。10万~20万円程度の機器でマップを作るといっても、処理能力を考えると高い解像度を実現するのは難しいはずです。

と述べられています。アイロボット社はSLAMを否定しているわけではありませんが、

移動体であるビークル(車両)と掃除機のバランスが良くなる技術チョイスをしているということです。ルンバもその他の掃除機も、マッピングは行っています。ルンバは自分で動きながら状況判断をして、部屋の形状を10分ぐらいで認識します。

SLAMを採用しているロボット掃除機は、レーザーレンジファインダーやカメラなどを使ってマッピングします。しかし、それらは実現するためのシステムの負担が大きいと我々は考えています。動的に常にマッピングをしなければならないので、高性能CPUや大容量メモリーが必要になります。

という理由で壁に衝突するというイベントから統計的に部屋のサイズを推測したりするというヒューリスティックなアルゴリズムを採用しています。

また、部屋の隅から往復を繰り返して綺麗に床を1パスで掃除していく…というのは、想像するといかにも賢くスマートに掃除しているかのように思えますが、実際にこういうことをやってみると想像するよりもずっと大変だという事に気づくはずです。手押し式の芝刈り機で芝刈りしたことのある人は分かるでしょう。どんなに注意しても刈残しの筋が出来てしまいます。ですから、芝刈りは直行する縦横2方向で刈るのが綺麗に仕上がると言われているわけです

※芝目が一定方向になるのを防ぐという意味もありますが

掃除機でも同じアプローチの方が私は良いと思います。つまり、ルンバのように1パスでなく4~5回の試行によって綺麗にするという戦略の方が確実と考えます。

「あらかじめ形が分かっていない部屋を隅々まで掃除する」というのは人間であればそれほど苦も無くできますが、機械にこれをやらせるのは相当に複雑な問題となります。私の経験則になってしまいますが、こういう複雑な問題にコンピュータが対処するときはバカ正直に正面から正攻法を仕掛けて100点を目指すよりも単純な原理原則に基づいたアルゴリズムで80~90点くらいを目指す方がうまく行くことが多いです。

もし私がルンバのようなロボット掃除機の制御プログラムを書けというふうに言われたら、まず間違いなくルンバのようなヒューリスティックで統計的な方法を取ると思います。

ロボットにとっての最適解が一見非効率的に見えてしまうのはよくあることです。

部屋のだいたいの大きさが推定できれば、あとは走行距離さえカウントしていれば平均何度床面を掃除したかというのは分かります。部屋の大きさの推定は壁に衝突してから方向を変え、もう一方の壁に衝突するまでの距離から推定できそうです。ただ、ゴミは部屋の中央よりも部屋の隅に堆積するような傾向はありますから、その点での最適化は必要でしょう。具体的には壁に衝突したら迷路を探索するときの「右手法」のような形で壁沿いに走行すればよろしい。時計回りか反時計回りかいずれかに制限しておけばブラシを二つ付ける必要もないですね。ブラシを一つに制限すれば、コスト的にも重量的にも稼働時間的にもプラスになります。あとは、「部屋の大きさ推定モード(兼中央部掃除モード)」と「壁伝いに掃除モード」を何らかのタイミングで適宜切り替えれば良いでしょう。

…という風に私なら考えますが、ルンバの動きはおおむねそんな感じです。そしておそらく、私が考え付く程度のことよりももっともっと高度な制御を行っているのだと思います。

私がルンバを使用した都度、嫁の掃除チェックをする姑のようにホコリが落ちてないか確認しますが、ほとんど落ちていません。たまに落ちている時もありますが、それはルンバが小物を巻き込んで停止してしまっているとか、充電が不足していてステーションに戻ってしまっているとかいう原因です。少なくとも私の使用経験ではルンバによる掃除は完璧と言ってよく、十分に満足できるものです。

で、あるからこそ、「日本メーカーがルンバをいじめている」という主張に対してコメントしたくなった、という経緯でした。

まあ、私は日本メーカー製のロボット掃除機を使ったことが無いので比較はできないのですが。しかし、ルンバの掃除がもう完璧と言えるレベルに達していると感じているのですから、ルンバを上回ると感じることも無いでしょう。