「新車を雨ざらしにするな」は過剰品質要求だと思う

以下のような記事がにぎわっている。

ホンダ、山奥に大量の新車が雨ざらしで保管?人気車種があり得ない短納期のワケ?

内容を要約すると、筆者が4月12日にジェイドの納期を訪ねた所、4月末という非常に速い納期であるという回答が得られたとのこと。売れ筋の車種なのであらかじめ大量に生産しているのだろうか。と思いホンダのお客様相談センターに問い合わせると

「あらかじめ生産しておくことはありえません。グレードや内装など、それぞれご注文いただく内容が異なるため、基本的に受注生産しております」

との回答が得られたとの事。しかしながら、

実は、自動車業界関係者の間では、「ホンダが大量にジェイドの在庫を抱えている」という情報が流れている。ジェイドだけではなく、グレイスやフィットといった車種も大量に在庫を抱えているという。この見積書に書かれた納車時期は、その情報に真実味を持たせるものである。

と考えた筆者が調査を進めた所、

ホンダは埼玉県に大きな生産工場を構えているが、すでに工場敷地内の駐車場には収まりきらないほどの在庫車があるといわれている。それどころか、ホンダの所有地ではない場所に、大量の在庫車を保管しているとの情報をつかんだので、実際に行ってみた。

ということで、様々なカラーの大量の新車が山奥に野ざらしになっている写真が掲載されている。実際の写真は元の記事を参照してほしい。

自動車業界に詳しい弁護士は、「この在庫から“新車”として納車したとしても、法的には問題ない」と語るが、受注生産されるものと信じて購入した消費者に、山奥で雨ざらしにされた車を納車するのだとすれば、企業倫理上の問題が生じる余地はある。

というのが、最終的な筆者の見解だそうだ。

以下、私が思ったこと。

まず大前提として、新車がこのような場所(モータープール)に保管されるというのはホンダに限らずどのメーカーも共通している。特に米国では、契約を済ませて納車を待つ日本のユーザーと違い、店舗にある車をその場で購入して乗って帰るという文化があるため、広大な敷地に新車をプールさせておくことは普通である。

特に日本では自販連で集計している新車販売台数は新車のナンバー登録が済んだ件数をカウントしているという事情から、販売台数を水増しするために買い手が付いていない新車に対してディーラーがナンバー登録を済ませてしまうというケースがホンダに限らず往々にしてある。以下記事なども参照して頂きたい。

スズキ鈴木会長、未使用車の増加「責めるわけにはいかない」

「責めるわけにはいかない」という言葉にある通り、良くないことは分かりつつも業界の中では黙認されているという感じだろう。

ただ、ホンダは定期的にこういうことを指摘され、問題になっている節があるように思える。もちろん、冒頭の記事も今回初めて明らかになったスクープではない。私の記憶に特に強く残っているのはインサイトの水増しだった。その時もネット上ではモータープールに並ぶインサイトの画像をよく見たものだった(頑張って検索したが今はもうヒットしなかった)。

このような背景を鑑みたうえで、もう一度何が問題なのか整理してみたい。

まず、水増しはイカンでしょう。新車販売台数はその名の通り「販売された台数」としてカウントされるべきである。これを見て、今の人気車は何某という車だ、ということが明らかになる。それなのにディーラーが販売台数を水増ししてしまったら正確性に欠ける。これはよろしくない。(ただ、これは冒頭で紹介した記事とは直接関係しない)

そして、ホンダお客様センターの対応ももしかしたらイカンかもしれない。もう一度内容を再掲するが、

「あらかじめ生産しておくことはありえません。グレードや内装など、それぞれご注文いただく内容が異なるため、基本的に受注生産しております」

との事だった。「あらかじめ生産しておくことはありえない」としながら、もし、モータープールされている車を新車として販売するケースが一つでもあればこれは嘘である。個人的には大量にモータープールされた車がすべて新車以外の扱いで販売されるとは思えないのだがいかがだろうか。

別の推測として、これはホンダ本社がディーラーには「モータープールされた車は新車として売らないでくださいね」という説明しているが、実際はディーラーが「新車です」として売ってしまっているんですよ、という建前になっているかもしれない。もしそうならば嘘を言っていることにはならないが不誠実とまでは言えるだろう。

ただ、いずれにせよ上記文章をよく読むと「あらかじめ生産しておくことはあり得ません」としながら「基本的に受注生産しております」と厳密には矛盾した内容になっているので、応対したコールセンターの社員が間違ったことを言っているか、もしくは、記事を書いた人が正しく伝えていないかのどちらかという可能性も残っている。以上をひっくるめると、やはり「もしかしたらイカンかもしれない」としか言えない。

そして最後。野ざらしは一概にイカンとは言えない、というのが私の意見である。

元記事を参照して頂ければ分かるが、山奥に様々な色の新車が整然に並べられている姿は異様そのものである。また、路面は舗装されておらず、草木も茂っているような場所であるため、走行中に泥だらけになるような姿は容易に想像できる。この写真を見て衝撃を受ける人は少なくないだろう。「新車なのに、なぜこういう場所へほうっておくのか」「野ざらしで放置しておいた車を新車として売っていいのか」…そういう感情を抱く人が殆どだろう。

ただ、冷静に良く考えてもらいたい。そもそも前述したようにホンダは「受注生産している」と述べている。そしてこのモータープールに保管された車が新車として販売されるという裏が取れているわけではないのである。これは記事中でもちゃんと記している。再掲しよう。

受注生産されるものと信じて購入した消費者に、山奥で雨ざらしにされた車を納車するのだとすれば、企業倫理上の問題が生じる余地はある

「だとすれば」、である。つまり推測であって、裏は取れていないのである。

ただ、これまでの売上水増しなどの経緯や業界事情を考えれば、消費者の目には限りなくクロに見えるだろう。そして、実際黒だったとしよう。しかし、そもそもどんな車であれ納車前に雨に晒されたり、汚れが付着する可能性はあるのだ。スマホのように工場出荷時に化粧箱に包まれるような製品ではないのでこれはしょうがない。であれば、「雨ざらし野ざらし」であるか否かというのは単に程度問題となる。

程度問題であるならば、その量を知ることが肝心だ。たとえば、もし前述のモータープールに保管される日数が1~2日というレベルであればどうか。おそらくそれを野ざらしだと表現する人は居ないだろう。では1週間ではどうか。半月ではどうか。1か月、2か月ではどうか。そのあたりの何処かで「これは野ざらしだから不快だ」と思われるレベルに達すると思う。

つまり、あの写真を見た上で「雨ざらし野ざらし」という表現をするという時点でもはや恣意的に物事を解釈しているのではないかという疑念がある。

でも常識的に考えれば、整然とキッチリ並べられた大量の車が1~2日のサイクルではけるわけがない、と思うのは自然だろう。ごもっともである。しかしそれでも私は軽々しく批判すべきでないと思う。

それは、「雨ざらしにするな」というのは過剰品質ではないかと思っているからだ。そもそも車は常時屋外で運用するものであるから、雨ざらしであることを前提に設計されている。数か月間くらい屋外で放置されていたとしても品質上の欠陥は生じないと考えるのが普通だろう。

ただ、もちろん屋内で保管されていたものに比べれば、ほんの少しだけゴムパーツや塗装は劣化しているかもしれない。ただそれは今後の通常の使用状態ですぐに達してしまう域の劣化である。

そのほんの少しだけの劣化すら許せない、となればどうなるか。メーカーは完全受注生産をしなければならなくなる。すると、まず間違いなく納車日は現状よりもずっと延びる。さらに、生産管理にも手間がかかるようになってコストがかさむ。輸送スケジュールにも無駄ができてここでも追加コストが発生するかもしれない。設備稼働率も落ちるかもしれない。もし大規模な屋内モータープールを作ることとなったら、その建設費もかかる。こういう無駄や追加コストはメーカーが負担するのではない。巡り巡って製品価格に反映されるのだ。それはユーザーにとって不幸ではないだろうか。

日本人は何かと完璧であることを求めるが、それは時として過剰品質となり、結果的に自分たちの首を絞めることに繋がる。今回の事例もその一つであるように私は感じた。

ここまでホンダを擁護するような書き方をしてきたが、しかし私は「メーカー様のいう事に逆らうな、そんくらい許容しろ」と言いたいのではない。特にホンダは度々指摘されているのであって、そしてそのたびに何か説明があった、もしくは何かが改善されたという発表は何も聞かない。不快なことは不快だと伝え、説明を要求することは大切だろう。

ならばどうするか。効果的なのはやはり裏を取るしかない。モータープールに野ざらしにされている期間はどの程度で、他メーカーの比べてどう違うのか、どのくらい長いのか、販売を見込んで大量生産を行い野ざらしでプールしておくことは本当にないのか。そういう事を調べたうえで、お前のとこは他のメーカーと比べてこのくらいダメだから改善しろ、というのが最も効果的だろう。ただ「野ざらしにするな」では、「他のメーカーもやってるふつうの事ですよ」と言われたらそこでおしまいである。

で、そういう事をするのは一般人では難しいので、ぜひとも業界関係者が追及してほしいなと思うところではある。冒頭の記事を執筆したビジネスジャーナル編集部様におかれましては、ここまで調査したのであるからぜひとももう一歩進めてホンダに今回の件を追求して頂きたいと一読者としては思うのですが、いかがでしょう。