前回記事の補足です。
ダウンサイズターボとレギュラーガソリンについての関係を調べてみました。
おさらい
ターボ車ではハイオクを要求する車種が多いです。何故かと言うと、ハイオクは耐ノック性(ノッキングのしにくさ)に優れているからです。「ハイオク」とは「ハイオクタン」の略であり、そもそも、オクタン価なる値はノッキングのしにくさを表すために導入された値なのでハイオクに耐ノック性があるのは、まあ当たり前と言えば当たり前です。
オクタン価としてはリサーチオクタン価(RON)が使用されるケースがほとんどです。RONの定義は、wikipediaを参照すると、
RONは可変圧縮比機構を持つテストエンジンにおける600rpm時での回転テストにおいて、イソオクタンとn-ヘプタンの混合比(%)という形で決定される。
とありました。「600rpm時での回転テスト」というのがちょっと意味不明ですが。エンジン回転数とガソリンの組成に何の関係があるのでしょうか。なんか間違っている気がします。が、本筋とは関係ないためとりあえずほうっておきます。
エンジン内部の正しい燃焼状態とは、火花のスパークを中心として球状に、徐々にスパースプラグから遠方に向かって燃焼が広がった行くような状態です。実際の燃焼状態は最近だとコンピューターシミュレーションによって導きだされていて、火炎の伝播や速度が最適な状態になるように燃焼室形状やピストンヘッダ形状、燃料噴射方法などを制御します。
ここでいうノッキングとは厳密に言えば「スパークノック」と呼ばれる現象を指しています。これは高温・高圧になった混合気が火花を発端とする火炎が電波してくる前に自己着火してしまう現象です。圧縮比が高いエンジンや、過給されたエンジンではシリンダ内部が高温・高圧になり易いため、ノッキングが発生しやすくなります。このため、ノッキングが発生しにくいハイオクを要求する車種が多いというわけですね。
レヴォーグはなぜレギュラーガソリンなのか
一方で、ターボ車でありながらレギュラーガソリンで良い車もあります。代表格はレヴォーグでしょう。そのほか、軽のターボでも同じようにレギュラーガソリンで良いという車が多いです。
レヴォーグがどのようにしてノッキング対策をしているかというと、以下のような技術を使用しているとのことでした。
- ナトリウム封入排気バルブの採用
- 約2800rpm・トルク150Nm付近まで従来1回で噴射する量を2回に分けて噴射して効率的に冷却
- シリンダーヘッドの効果的な水路設定(冷却能力の向上)
- 広めなボアピッチを利用してシリンダーのウオータージャケット部を拡大(冷却能力の向上)
- ヘッドとシリンダーの冷却水の流れをそれぞれ独立(冷却能力の向上)
- 過給は1200rpmから始まるが、JC08モードの運転ではNA運転となる。JC08モード最高速付近でタービンは回転し始めているが過給はしていない。
ナトリウム封入排気バルブというのは、その名の通り熱伝導率の高いナトリウムを封入したバルブで、冷却効率が高くなります。噴射回数の制御は、まあ各メーカー(エンジン)で多少の違いはあれど、現代では特に珍しいものではないですね。続く冷却面での改善はエンジンを日本市場に特化するという点で製造上・ビジネス上のデメリットはありますが、まあ日本専用車種として計画された車ですのでそういうこともできたのでしょう。(結局数が延びなかったのか欧州でも発売することとなりましたが)
「JC08モードの運転ではNA運転」というのは初耳でした。そもそも過給圧もそんなに高くないんですかね?適当にググってみた所レヴォーグの過給圧は最大でも1kgf/cm^2程度、通常は0.5~0.8kgf/cm^2程度という記載が多かったです。私の感覚からするとかなり抑えているような気がします。昔のターボ車って1.2kgf/cm^2くらいは普通にかかった気が。でもGolf TSIのブースト圧も同じように調べてみると、こちらもレヴォーグと同じような記載が多かったのでそういう物かもしれないですね。
軽自動車のターボ車でハイオクが使われていない理由までは調べていませんが、おそらく馬力規制があるのでそこまで過給圧をかけなくても良いので耐ノック性もそれほど必要ないという背景があるのではないでしょうか。ただ、それでも上記に準ずるような何かしらの対策はしているでしょう。
ちなみに、昔のターボは燃料を余分に吹いてその気化熱で冷やしていました。今は燃費基準や環境基準をクリアできなくなる(はず)なのでこういうことは行われません。ただし、高圧縮比エンジンなどでは多少燃料をリッチにするくらいの方法は使われているようです。
ともかく、ここで述べたいことは「レギュラーガソリンで動くターボ車がいい!」と言ったところで簡単に出来るわけではなく、何らかの対処が必要になるという事です。言い換えると、レギュラーガソリンで動くことをサポートするかどうかという問題は、「オクタン価の設計上の下限をどの位置に設定するか」という問題です。
悩ましいオクタン価の想定値
そして悩ましいのが、このオクタン価というのは地域ごとに基準が違うのですね。以下がその資料です。
ここで、プールオクタン価というのはオクタン価の加重平均値です。また、JIS規格(JIS K 2202)上は1号(ハイオク)が96.0RON以上、レギュラーが89.0RON以上と規定されています。上記表は石油元売りが売り出しているガソリンのオクタン価になります。レギュラーが90RONであるのは規格を満たす上での安全マージンを取ったためと推察できますが、ハイオク(プレミアム)が規格値よりもずっと高い値となっている背景は良くわかりませんでした。
というか、この100RONという値もネットで調べると良く見るのですが、イマイチ何の値なのか良くわかりません。後述するように、大手石油元売り業者のハイオク商品がほぼ100であることによるとは思いますが…。
ともかく、プールオクタン価を見てもオクタン価の最低値を見ても容易に分かる通り、日本で流通しているガソリンのオクタン価は米国や欧州と比べて低い値となっていることが分かります。ということは、日本のレギュラーガソリンに合わせてターボ車を設計してもそれが他の地域で活きてくることは無いということになります。逆に、欧州車・米国車を日本に持ち込むと本国よりもオクタン価が低いのでプレミアムガソリンを要求する車種が多くなります。これが現状です。
オーリスのダウンサイズターボがハイオクな理由
で、オーリスの記事で「レギュラーガソリンでなくてハイオクなのが残念」と書きましたが、この点で読者の方からメールをいただきました。
「オーリスは欧州展開車種であるので、メインのターゲットは欧州。それをそのまま国内市場に持ってきたからプレミアムなのでは。不人気車種なのでそこまでコストを掛けたくなかったのでしょう」とのことでした。
なるほど、気付きませんでしたがそういえばオーリスは欧州でも展開されていましたね。ハイブリッドモデルが存在します。わざわざオーリス用にダウンサイズターボを用意して横展開が無いなんて、トヨタらしくないな…とは思っていましたが、なるほど、非常に納得がいきます。
メインターゲットが欧州であるならばわざわざ日本向けに頑張ってレヴォーグのような数々の工夫をしても割に合わない。と、こういうわけですね。
実際のところレギュラーでも行けるんじゃないか
メールしてくれた方はまた、オクタン価の点で石油元売り会社2社に「レギュラーガソリンのオクタン価はいくらくらいか」と質問したことがあるそうで、回答は「90以上とは明言できるけれども91と言っていいものか」という物だったそうです。
私もネットで調べてみた所、以下のような感じでした。
元売り会社 | 商品名(ハイオク) | ハイオク | レギュラー | ソース |
JX日鉱日石エネルギー | ENEOS ヴィーゴ | 約100 | 約90 | http://www.noe.jx-group.co.jp/faq/qa/e71_faqa_005.html |
エクソンモービル | シナジー F-1 | 100 | 90 | http://www.emg-ss.jp/service-station/refuel/ |
昭和シェル石油 | Shell V-Power | ? | ? | - |
出光興産 | 出光スーパーゼアス | 100程度 | 90程度 | http://www.idemitsu.co.jp/faq/oil.html |
コスモ石油 | スーパーマグナム | 99.5以上 | 90.0以上 | http://www.cosmo-oil.co.jp/faq/answer1.html |
あくまで私の勝手な推論ですが、日本のレギュラーガソリンが実質「90以上」ならば欧州のレギュラーガソリンである91RONとほぼ等しく、欧州でレギュラー指定されている車種に日本のレギュラーを入れても特に問題ない気がします。91RON指定で設計している車であっても多少はロバストに作っているでしょうから、たとえ90.5RONくらいであったとしても普通に動くでしょう。不安であれば多少ハイオクガソリンを混ぜてあげればよろしい。
まあ、欧州で発売されるオーリス(ダウンサイズターボ)の燃料指定がガソリン指定なのかミドルグレード指定なのか、設計値は何RONなのかというのは良くわからないのですが、オーリスでないにしろ91RON指定の欧州車が日本に輸入されてプレミアムガソリン指定になるケースはあるはずで(たぶん)、そういう場合はレギュラーで走ってもいいのかな?なんて思ったりします。責任は持ちませんが。
ハイオクは添加剤も入ってるよ
ただ、ハイオクはオクタン価が高いだけでなく添加剤も入っているという特徴があります。それによってピストンバルブやインジェクタを綺麗に保つとか出力向上とか燃費向上とか環境性能の向上だとか色々な効果があるとうたっています。なので単純にオクタン価で比較するのもフェアでないと思われます。
まあ、広告に載っている「エンジンの中がこんなに綺麗になりますよ」的な写真をよく見ると「10000km走行後の結果です」などと書いているとおり、ただの一時ハイオクにすればすぐに添加剤の効果が出てくるというものでもないですからそこは注意が必要です。