カローラフィールダーはどうやって単眼カメラでADAS最高評価を獲得したのか

すごいですね!!

トヨタ、マイナーチェンジした「カローラ」がJNCAP予防安全性能評価の最高ランク「ASV+」を獲得

久しぶりに「トヨタすげえ!」と思いました。どうやったんでしょう、これ。

2015年新型カローラ発表

上記の記事で、私は「赤外線レーザーと単眼カメラの組み合わせで距離測定精度を向上させるのは難しいのでは」と書いたのですが、それを見事やってのけたということですね。素晴らしいです。

というか、調べてみるとセレナも同様に単眼カメラで自動ブレーキを実現しているらしいですね。これは初搭載がエクストレイルで、ノートにも横展開しているとのこと。単眼カメラで距離を測定するというのは私が知らなかっただけで、低コストなシステムでは徐々にメジャーのものとなってきているようです。私が知らない間に時代はどんどん進歩していますね。

日産が単眼カメラ自動ブレーキを横展開、「セレナ」と「ノート」に搭載

で、私が気になるのはやっぱり仕組みです。仕組みとしてはやはりスクリーン上の大きさから判別しているのでしょう。詳しい原理は以下が参考になると思います。

【Python/OpenCV】単眼カメラで簡易距離計測

関係無いですがOpenCVってPythonからでも使えるんですね!!

まあ、それは置いといて。具体的には以下の式で算出できます。

L2 = L1(h1/h2)

ここで、L2は求めたいカメラから対象の物体までの距離、L1とh1はそれぞれ、決められた距離L1で予め測定された高さh1です。h2はカメラで測定した時の高さですね。L1とh1がわかっていれば、カメラで測定した時のスクリーン上の高さh2が分かっていれば距離が分かります。単純な原理ですね。

ちなみに、軍隊でターゲットまでの位置を測定する際には、1km先で1mの物体を見た時の角度を1ミルとした単位を用いて同じ方法で距離を計算します。それを簡易に行うための仕組みが軍用コンパスに据え付けられています。あとは、潜水艦が敵艦を攻撃する際なんかには、各国の艦型のシルエットと、マストの高さが記された表を見て、それを基に測距します。さすがに現代の潜水艦はそんなことしませんが。

でも巨大な大砲を乗せている艦船では2点間の視差から三角測量するシステムを使っています。こちらの方が正確ですからね。下記は大和ミュージアムにある戦艦大和のモデルの主砲ですが、

image from 戦艦大和46センチ主砲の「砲身命数」

砲塔の左右になんか箱がついていますね。これが測距義と呼ばれるもので、光学的に視差を計測してそこから三角測量で距離を求めるためのものです。

この陸海軍の測距義を作っていたのがニコンとかトプコンとか東芝なんですね。だからトプコンの株を東芝がたくさん持ってて関連会社になってるんですね。勉強になったね~。よかったね~。

で、話を車に戻します。第二次世界大戦のときから実用化されていた手法を何故いままで実装できなかったのかと思われるかもしれませんが、この方法を自動車に適用した時に難しくなるのはL1*h1の値が事前にわからないからです。

正確に測定するとなれば、それこそ第二次世界大戦中の潜水艦がやっていたようにあらゆる車種の後方から撮影した写真とその高さのデータベースを蓄えておき、カメラで撮影した画像とデータベース中の画像をマッチングし、一番高いスコアの車種の高さ(面積)データを採用する…などという仕組みをしなければなりません。これは技術的に不可能ではないですが、おそらく数ms~数十msといったインターバルで演算を繰り返さなくてはならないですし、新車種が出るたび更新しなければならないので、自動車に積むにはちょっと大がかりでコスト高なシステムになるでしょう。

ですから、もうちょいヒューリスティックな方法を取っていると思います。具体的には、撮影した画像から、テールランプ位置や縦横の大まかなアスペクト比などを求めたうえで、ミニバン、トラック、セダン、コンパクト、軽自動車あたりの分類のみを判定させ、それぞれに対して大ざっぱな高さ(もしくは2次元投影面積)のパラメーターを求めるのではないでしょうか。

この推測が正しいか否かは、何も描かれていない真っ白な板や車の形とは全く違う物体に高速で車を激突させてみれば分かります。もし、私の推測が正しければ車とは大きく違う見た目であるものには反応できない(しにくい)でしょうから、赤外線レーザーでしか探知できない筈です。すると、大幅に自動ブレーキの性能は落ちると思われます。

実際、Toyota Safety Sense Cの動作試験の写真を見てみると、

トヨタの新予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense」を体感してきた

試験車種一覧(TOYOTA) | JNCAP

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 どうでしょう?ただの板やクッションではなくて、自動車の写真が貼ってありますね。ちなみに、どちらも昔のGolfがベースの画像でしょうか?もしくは2代目デミオ?良くわかりません。なんか恨みでもあるんでしょうか。まあ、それはおいといて、この車の写真を貼ってあるというあたりにも前述のような理由があると思うのですが、どうでしょう。

だれか、単眼カメラの自動ブレーキシステムを搭載した車を買ったらテストしてみてくれませんか?サーキットなどの安全な場所で時速80km/hくらいで愛車をクッションに激突させるだけの簡単なお仕事です。

なんでステレオカメラやレーダーを搭載しないのか

しかし、こう思う人も多いでしょう。「今時、デジカメなんて数万円で買えるし、小さいコストでステレオカメラが実現できるのでは?実際スバルはそうしているし」とか、「XXとかYYという車ではレーダー式のクルーズコントロール(自動ブレーキシステムが)X万円でオプション設定できる。このくらいのコスト差ならば安い車種にも実装できるのでは?」と。

私は自動車製造の知識があるわけではありませんが、思いつくだけで以下の理由が挙げられます。

1.ステレオカメラが搭載できない理由

ステレオカメラ自体のユニットコストはおそらく低いでしょう。しかし、それにそれに乗るソフトウェアはそう簡単に開発できるようなものではないので、ここの開発費が実売価格に転嫁されてしまいます。スバルがEyeSightを低価格で提供できたのは、その大規模な開発を日立と共同で行った末、その開発コストを数多の車種に横展開することで低価格化できたからでしょう。

他のメーカーが今から同じことをするとなると、まず開発するところから始めないといけないですから時間がかかります。おそらく数年規模でしょう。するとその間にレーダーが低価格化して意味のない投資になってしまうかもしれませんし、積極的にやりたいとは思わないでしょう。レーダーがまだ高く、十分な開発費の回収期間があるうちに開発を始めたスバルに先見の明があったと言えるのかもしれません。

すでに完成されているEyeSightの技術をそのまま提供してもらうことはどうでしょうか。これはまずスバルが提供したがらないと思います。せっかく開発費をかけて低コストで全車速対応オートクルーズを実現できているのですから(しかもこのアドバンテージは今もあります)、それを他のメーカーに提供したいと思うか?というのがまず一つ。で、提供したとしてもスバルはそれに見合うだけのお金は貰わないといけないわけですから、せっかくハードウェアが低価格でも商品価格は上がってしまうかもしれません。

以上のような背景を鑑みて、ステレオカメラよりは実装が容易で性能も赤外線レーザーよりはずっと良い単眼カメラの距離測距システムということになったのではないでしょうか。

2.レーダーが載らない理由

これはやはりコストが掛かるからでしょう。「Aという車ではレーダークルーズが数万円で乗る」などという主張を見てみると、Aという車がそもそも高級車に分類されるケースが殆どです。高級車は利幅が大きいのでオプション価格ひとつだけを見てもそれがイコールシステムコストとなるとは言いきれません。本体で利益が確保できるからレーダークルーズは多少安くしてもペイできる、と思っているかもしれません。

レーダーユニットの価格は2000年頃はまだ50万円でしたが、近年では10万円をもうすぐ切る、と言われています。これを高いと思うか安いと思うかは人それぞれですが、「普及価格帯の車種にもADASを広げる」という目的を達成させるために投入したToyota Safety Sense Cの価格が5万4000円であるという、この数字は重く受け止めるべきでしょう。ここに10万ちょいを加算したら「普及価格帯の車種にもADASを広げる」という目的は達成できるでしょうか?

ちなみに、「ならばレーダー搭載版と非搭載版の二つをラインナップさせればよいのでは?」と思われるかもしれませんが、それはすでにあります。レーダーを搭載した高級版のADASが「Toyota Safety Sense P」です。なので、Toyota Safety Sense Cがレーダーを積んでも意味ないのです。

日産については興味が無いのであんまり真面目に調べてないのですが、おおよそ同じような考えなのでしょう。「交通事故を減らす」という自動車メーカーのCSR活動の一つとしての意味もあるので、低価格でなければならない、という認識はどのメーカーにもあると思います。

また、レーダーに関して言えばユニットコストが下がろうとも、これもまたソフトに金がかかります。自動車に搭載されるのはフェーズドアレーレーダーというモノポールアンテナを密集させた代物で、イージス艦や戦闘機に積まれているシステムの技術を民生用に焼きなおしたものですね。今日は軍事ネタが多いですね。でも本当なんだもん。

で、私はアンテナには詳しくないのですが、大学で電波を専門にしていた教授はフェーズドアレーレーダー(以下PAR)はハードのコストは密集したモノポールだから大したことないが、制御するソフトが馬鹿高いと言っていました。2000年に50万だったのがもう1/5くらいになったのですから、おそらく圧縮した価格の何割かはソフト部分なのでしょう。ハードに金が掛かるのだったらここまで劇的に低コスト化できない気がします。

そして、このソフト部分というのはPARそのものを動かす制御ソフトだと思います。具体的にはRISC系のCPUで動く組み込みソフトでしょう。そいで、その情報を受け取って車をどう動かすかという部分は自動車メーカーが開発しなければなりません。これにも金が掛かるでしょう。PARは探知範囲が広いので、それを活用するためにはより複雑なアルゴリズムを実装する必要があります。

ですので、レーダーを搭載するとしても10万ちょいでポンと付けれるというわけでもないと思います。

車を自由に運転できるのは今のうち

そしてこの記事を読んでいる何割かの人は、「はっ、何がADASだ。そんなもんは運転が下手なやつに重宝がられるシステムだろ。車の運転を楽しみたい人間には関係ないね」と思っているでしょう。それは論点がずれています。

そもそもADASは「自動車事故の低減」という社会的な動機を発端としています。自動車事故で死傷する人を少なくしなければならない、それがミッションです。運転がうまかろうと下手だろうと交通事故を起こすリスクはあり、それを低減させることが目的です。

現代では多くの作業が人間よりも機械の方がより高精度にできるようになっています。車の運転が機械に出来る様になるのも時間の問題でしょう。するとどうなるか。

車を機械が自動で運転してくれるようになれば、交通事故は今よりももっともっと少なくなるでしょうし、隊列走行(車間距離を極端に詰めた運転)をすれば高速巡航時の燃費が劇的に向上しますし、インフラを変えることなく道路のキャパシティを向上させることもできます。そんななかで、「俺は自分で運転したい」というのはわがままになる世の中がすぐにやってくると私は思っています。

ですので、車の運転な皆様方におかれましたは、今のうちに好きな車に乗って存分に好きなように運転しておくことを私はお勧めいたします。