もらい事故でも損害賠償責任【ドラレコ序論】

ドライブレコーダーの装着を検討するのだが、その前に序論と題しこの考えに至った背景を書く。

こないだ、読者の方からメールをいただいた。「ドライブレコーダーを付けるつもりはありませんか?そういう記事が読みたいです」という旨であった。

私はまああったら良いとは思うが、しかしこれ以上ダッシュボード周りをごちゃごちゃとさせるのが嫌ということもあってそこまで積極的に検討しているわけではなかった。しかし、その考えを大きく変えるニュースを見た。

国道8号で衝突事故、1人死亡 大学生ら3人重軽傷 あわら

30日午前7時15分ごろ、福井県あわら市瓜生の国道8号で、福井市中央2丁目の男子大学生(19)の乗用車と坂井市丸岡町吉政、会社役員森川圭造さん(44)の乗用車が正面衝突した。

image from 47news (福井新聞)

この事故によって、大学生が運転する車の助手席に乗っていた方が死亡した。

このニュースが今、TwitterやSNS界隈でにわかに話題になっている。というのは、判決で「もらい事故でも賠償責任を負う」という見解が初めて示されたからだ。

交通事故の過失割合が10:0になるケースはいくつかある。もっとも有名なものは停止している車への追突であろう。そのほか、本ケースのようにセンターラインをオーバーしてきた車と正面衝突した場合にも適用される。過失割合が10:0になるケースでは、被害者側には一切の賠償責任は生じないというのがこれまでの常識であった。が、今回は被害者側(センターラインを越えずに走っていた側)に4000万円の賠償責任が生じた。

「もらい事故」でも賠償責任負う訳 無過失証明できなければ責任あり

車同士が衝突し、センターラインをはみ出した側の助手席の男性が死亡した事故について、直進してきた対向車側にも責任があるとして、遺族が対向車側を相手に損害賠償を求めた訴訟の判決言い渡しが13日、福井地裁であった。原島麻由裁判官は「対向車側に過失がないともあるとも認められない」とした上で、無過失が証明されなければ賠償責任があると定める自動車損害賠償保障法(自賠法)に基づき「賠償する義務を負う」と認定。対向車側に4千万円余りの損害賠償を命じた。

「無過失が証明されなければ賠償責任がある」などというのは私は初めて聞いた。それは、過失割合が10:0になるケースでは当然、賠償責任など生じないと思っていたからだ。調べると、自動車損害賠償保障法第三条として規定されている。

自動車損害賠償保障法

(自動車損害賠償責任)
第三条  自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

私は大変驚いた。法律にこんな文言が書かれているとは知らなかった。「注意を怠らなかったこと」「被害者または運転者以外の第三者に故意or過失があったこと」「自動車に構造上の欠陥や機能障害がなかったこと」を証明しなければ賠償責任を免れることができないというのだ。

ふつう、議論では何かが「あった」と主張するときはそれを主張する側が証明の責任を負う。「無い」ことの証明は「ある」ことの証明よりもずっと難しいからだ。今回のケースで言えば、「過失が無い」ことを証明するには、ドライブレコーダーで前方を撮影し、もう一つのレコーダーで運転者を撮影し、さらには運転者の視線を何らかの方法でロギングしていることが必要と思われる。これらの情報を元に、

「道路をまっすぐ走行していたにも関わらず、対向車がセンターラインを大きくはみ出して正面衝突した。運転者はよそ見せずに前方を向いていたのであり、対向車がセンターラインをはみ出した際にもそれを目視確認しており、右手がクラクションに伸びたその瞬間に衝突していた。はみ出してからぶつかるまでの時間はXX[msec]で人間の反応速度および自動車の性能ではよけきることは到底不可能であった。さらにXX月に法定点検を受けており自動車の機能は健全であったし、同じ車種での走行機能に関する重大なリコール発生は無かった」

くらい言わなければならないのではないだろうか。

しかし既に述べたように、現実の事例を見ると、保険会社が決めた過失割合が10:0であれば賠償責任は無いというのが常識であった。ただ、ではなぜ今回、それを覆すような判決が出たのだろうか。

被害者救済のため

結論から言えば被害者(19歳大学生の運転する車の助手席に乗って死亡した男性家族)救済のためであるという。

「もらい事故」でも賠償責任負う訳 無過失証明できなければ責任あり

一般的な感覚では責任の配分が一方的となりそうな事故。はみ出した車は家族以外が運転していたため任意保険が使えず、この車に乗り死亡した男性の遺族補償が困難視されたケースだった。判決は遺族を救済する形となった。

今回のケースでは大学生が任意保険未加入の状態で運転していたようだ。はっきりと書いていないが、上記の文面からは大学生が常に未加入であったというわけではなく、家族限定の任意保険に加入していたが、たまたま家族以外の人(大学生)が運転していたため保険適用外のケースであったという事らしい。

で、死亡事故であるから賠償額が高額になるが、19歳大学生に当然そんな額が払えるわけはない。なので助手席に座っていて死亡した男性の家族にしてみたら、家族が死んでしまったのに運転していた本人は賠償できず、このままでは泣き寝入りという事になりかけていた。

で、この泣き寝入り寸前であった家族を救ったのが新聞に書いてある宮本健治弁護士である。先の自賠法にあったとおり、賠償責任は「注意を怠らなかったこと」を証明できなければ免除されない。ならば、センターラインをはみ出した19歳大学生だけではなく、対向車線を走っていた人にも責任が無いとは言い切れないのではないか。少なくとも法律上は、対向車線を走っていた人が賠償責任を免れるためには「過失が無い」ことを証明しなければならないのだ。

そして訴訟の結果、原告側の言い分が認められ4千万の賠償となった。

…と、これが被害者側からの視点である。被害者側から見れば家族を失い保険適用にもならず、泣き寝入り寸前であったところであったが、裁判を経て相応の賠償をしてもらうことになった。良い事ではないだろうか。

しかしながら対向車線を普通に走っていたドライバーの気持ちになってみる。

自分が普通に車に乗って走っていたところ、対向車がセンターラインを越えてきた。よけきれず正面衝突した。何とか自分と相手のドライバーは助かったが、相手側の車の助手席に乗った人は死亡した。相手側ドライバーは実質的に任意保険未加入であった。さらに大学生であることから自分で賠償することは困難であった。被害者家族は泣き寝入りで心底後味が悪かった。その後、被害者家族から訴訟を起こされ、こちらも保険会社とともに受けて立ったのだが、結果は4000万の賠償と相成った。

19歳大学生に対して任意保険が適用になっていたならば、おそらく19歳大学生の過失となり、保険会社から保険金が被害者家族に対して支払われ、亡くなった家族は戻ってこないものの、これで一応の決着はついたことであろう。

自分が車に乗るときに任意保険が適用になるケースか否か判断するというのはドライバーとしてはごく当たり前のことであり、その当たり前の事を守っていなかった相手方ドライバーは賠償はしなくてよくて、道路交通法に従って普通に走っていた方は賠償責任がある。おかしいではないか。

と、こういうあたりが一般的な常識とは乖離があるので話題になっているのだろう。

弁護士費用特約を付けるドライバーが増えた

まず、私が思ったことを述べる前にはっきりしておきたいのは、私は19歳大学生を糾弾するつもりはない。彼は賠償はしていないかもしれないが、刑事罰は受けているはずだ。業務上過失致死傷罪で懲役刑になる。20代を刑務所で過ごすことになる。相応の罰を受けるのだから糾弾するつもりもない。

※19歳大学生にどのような刑事罰が下ったか調べても分からなかったが、常識的に考えれば業務上過失致死傷罪が適用されることだろう。また、任意保険未加入であっても、そして他人の車を運転していても、自賠責保険は車検の時に自賠責をちゃんと払っていれば損害賠償請求できるはずだが、これを今回のケースでやったのかどうかはわからない。

そして被害者家族の対応についてあれこれ言うつもりもない。大切な人を失ったのだから、それなりの補償はあって当然であると思う。

以降に記すのは本件とは直接関係しない事実と、そこから推察される私の裏付けのない予測であって、個人的メモみたいなものだ。

下記は読売新聞の記事から引用した交通事故損害賠償請求訴訟の件数の推移とその背景である。

交通事故訴訟、10年で5倍に…弁護士保険利用

任意の自動車保険に弁護士保険を付ける特約が普及し、被害額の少ない物損事故でも弁護士を依頼して訴訟で争うケースが増えたことが原因。弁護士が報酬額を引き上げるために審理を長引かせているとの指摘も出ており、日本弁護士連合会は実態把握に乗り出した。

弁護士と言えど、お金を稼いで飯を食っていかなければならない点ではそのほかの一般人と同じである。昨今、電車広告などにも弁護士事務所が広告を打つようになった。払いすぎた利息を取り戻しましょう。弁護士費用は取り戻した利息分で賄えます、のようなうたい文句を誰しもが見たことがあるだろう。

弁護士が広告を打つようになった背景としては、単純に弁護士が過剰となり食い扶持を争っているからだ。

弁護士過剰問題 | wikipedia

そして自動車事故にもこれは言える。昨今では弁護士費用特約を付帯する自動車保険ユーザーが多くなった。弁護士費用を出すのはお金を持っている保険会社である。交通事故で納得の行かない結果に終わって悶々としているドライバーに「訴訟を起こせばあなたの言い分が認められるかもしれませんよ。弁護士費用は保険会社が持ってくれますよ」と言われればたとえ少額であっても訴訟に踏み切る人は多いのではないかと思う。というか、実際、先に示したグラフの通り、訴訟件数は急増しているのだ。

そして、冒頭に述べた「もらい事故でも賠償責任」のケース。たった一つの判例があったからといって、今後あらゆる事故に「もらい事故でも賠償責任」が認められるわけではないが、しかし、今後も弁護士があの手この手を駆使して「被害者救済」に躍起になるのは容易に想像できる。その一方で、任意保険にちゃんと加入し、道路交通法を守って運転していても損害賠償訴訟を起こされるケースが今後再び起こるかもしれない。

これが正義なのか悪なのか、私はわからない。分からないから特に言及しない。これは道徳の問題なので、皆さんも考えてみてほしい。

どのようにして身を守るか

で、私がもっぱら興味があるのは自分の身をどのようにして守るか、というそれだけの事である。私は正義とは何か、を論ずるほど人間が完成されていないので議論できない。強いて言えば、私の正義とは、嫁子供に飯を食わし続けた上に、さらに一条工務店の家の35年変動金利ローンとマツダ CX-5のローンを遅滞なく払い続けることである。

それで、例えば私が娘の誕生日にディズニーランドに行くということで中央道を自慢のCX-5で運転していたところ、逆走車と正面衝突、相手方搭乗者が死亡という事になったとする。ご自慢のADASシステムも役に立たなかったとする。ミッキーも神妙な面持ちだったとする。

その後、相手方の車を運転していたドライバーが任意保険に入っていなかったことが判明、被害者(死亡した搭乗者)家族が憤慨、そこに弁護士がやってきて「訴訟しましょうや…」と提案、私も受けて立つが盛大に負けて4千万の賠償が確定。ということになったらどうなるか。

その4千万は私が加入していた任意保険の保険会社が払うことになるだろうが、ノンフリート等級はカス同然になるだろうし保険料は増大、それ以上に逆走してきた相手方が悪いとはいえ人を殺したという罪悪感は一生付きまとうのであり、家族もぎくしゃくし始めるに違いなく、娘は小学校で「人殺しの子」とバカにされるかもしれない。

以上は先に述べた私の正義条項とは直接関係しないものの、到底許容できることではないのでものである。

であるがために、何らかの行使可能な予防措置はするべきというのが今回のニュースで得た私なりの結論である。聞いた話によると、ロシアではドライブレコーダーの装着率が高いそうだ。たしかに、youtubeで事故動画を見るとロシア発のものが多い気がする。その理由とは、ロシアでは警察が信用ならないので自分の身は自分で守るという考えが広まっているため、らしい。

私も同じように以前から弁護士という職業自体に不信感があるため、やっぱりドライブレコーダーを付けるべきだな、と思った。

先に説明したとおり、無過失を完全に証明するにはドライブレコーダーだけでは不可能であると思われるが、無いよりはあった方が絶対良い。完全でないことを承知しつつも、あった方がマシだから付ける。これがドライブレコーダーを付ける動機になる。

次回記事ではドライブレコーダーの具体的な機種選定をしたい。