クリーンディーゼルは一過性のブームではないか

もし将来にディーゼル車の人気が今よりも落ちたら「ほら、だから俺の言った通りだろう」と言いたいがために今回このような記事を書きます。将来、ディーゼル車の人気が落ちたら「anoparaの管理人は先見の明があるね」とSNSで方々に言を振りまいてください。よろしくお願いいたします。

いすゞジェミニとディーゼル

その昔、うちの実家にはいすゞのジェミニという車がありました。

思い出の車その1: いすゞ ジェミニ

これは良い車でした。搭載する2.0Lディーゼルターボエンジンはパワフルで、少し乱暴にアクセル操作するとすぐにホイールスピンしてしまうような車でした。フル加速すると後方にDPFの煙幕が誕生する素敵な車でした。悪の組織に追われた時などに効力を発揮します。

このジェミニは車体価格もたしか120万円ほどでかなり安かったと記憶しています。それでいてパワフルな加速感を味わえるのですから、今考えると良い時代だったと思います。MTでしたが、運転が楽というのも利点の一つですね。2速でも平気で発進できますし(雪道では2速発進の方が走りやすかった)、当時運転初心者であった私でもほとんどエンストを経験することはありませんでした。

ディーゼルなので全然回転数が伸びないというデメリットはありますが、それでも実用上は特に気になりません。というか実用速度域での加速力が高いのでむしろ実用的と言っていいとはずです。それでいて燃料は軽油です。当時、1リットル50円とか60円だったのではないでしょうか。今のエコカー以上の経済性だったでしょう。

耐久性も高く、このジェミニは新車で買ってから24万km走りました。最終的に乗り換えた理由はボディが錆びて随所に穴が開いたりマフラーが腐食して落ちてきたりということがあったためで、エンジンや駆動系その他には何も問題はありませんでした。

この、安い割に利点が多いあたりがディーゼルのメリットだったのだと思います。ジェミニはそれ自体良い車ですが、その利点の多くはディーゼルエンジンの特徴でもあります。

ディーゼルエンジンの衰退と復活

しかしながら時代は変わりました。安全基準が厳しくなり軽い車を作ることがむずかしくなりました。排ガス規制も厳しくなり、大出力エンジンを作ることが難しくなりました。排ガス基準や燃費基準を達成するためにスロットルワイヤーは電気配線に置き換わり、ドライバーとエンジンの距離は遠くなりました。また、ユーザーも燃費性能を重視したり、利便性やスタイルイメージに重きを置くようになりました。これらの変化は悪い事ではありませんが、しかし、これらが主因となって「走ってて面白い車が減った」と思うのは多くの車好きの意見が一致するところでありましょう。

乗用車のディーゼルエンジンはその歴史の中でも大きな波に揺さぶられてきました。当時の石原都知事が都内でのディーゼル車の走行規制する条例を決めたのが一つの象徴ともいえますが、このころから排ガス規制はどんどん厳しくなり、乗用車に高価な後処理装置を搭載することが現実的でなかったため乗用車用ディーゼルは一気に廃れました。

その後、ディーゼルはNOx、PMの排出が多いがCO2の排出がガソリンエンジンよりも少ないとか、日本人お得意の「欧州ではむしろディーゼルがクリーン」のような「海外ではXXXがスタンダード」的な主張が繰り広げられたりしてから、マツダが低圧縮比化によって尿素水噴射システムなどの後処理装置なしに排ガス規制をクリアするディーゼルエンジンを開発、一気に国内でクリーンディーゼルが注目されたという経緯になっています。

高級なクリーンディーゼルの価値

しかしながらいくら高価な後処理装置無しとは言えど、ピエゾインジェクタ、EGR、ツインターボや可変ジオメトリターボなどの種々のデバイスがコスト増加要因となり、ガソリン車に比べ数十万単位で高い車になってしまいました。マツダを例にすると、SKYACTIV-Dはクリーンでトルクフル、圧倒的な加速を誇り、燃費性能にも優れる次世代のエンジンというような売り込み方をしています。

多くの自動車評論家は圧倒的な加速感に対して横並びで好意的なレビューを書き、ディーゼルがいかに素晴らしいか、優れているか、クリーンで先進的であるかというのを書きたてました。そして、それらに魅力と価値を感じる人が多いからこそ、マツダのクリーンディーゼル車は爆発的なヒットとなり、マツダの経営状態もV字回復という流れになったのでしょう。

しかしながら一歩引いて冷静な見方をしてみると、果たしてそれらは値段分の価値があるのか?という点が私は非常に疑問です。

クリーンであるというのは本当にユーザーのメリットになるでしょうか。地球環境を守るために排気ガスがクリーンな車を選ぶという人は居るのでしょうか。ほとんど居ないでしょう。もし居らっしゃったら本当に徳の高い方だなーと私なら思います。CO2排出量がいくつだとかでかでかと宣伝されている広告はまず見ませんので、つまりそこを重視するユーザーはあまりいないという事実に他ならないのではないでしょうか。(ちなみに、CO2悪玉説も私はとても疑わしいとは思いますが)

燃費性能が優れるというのも本当にユーザーのメリットになるでしょうか。「車のローン/燃費シミュレータ」などで計算すると分かりますが、年間2~3万kmを走行したとしても、月間の燃料(ガソリン、軽油)代の差は数千円のオーダーです(デミオの場合)。年間走行距離の平均値は8000km~1万kmと言われますが、このオーダーだと月1~2千円の微々たる差になってしまいます。このために、数十万のオーダーでガソリン車よりも高いディーゼル車を買うメリットはあるでしょうか。高い車を買ってローンを組めば金利分も高くなるということも忘れてはいけません。

トルクフルで圧倒的な加速というのも本当にユーザーのメリットになるでしょうか。低速回転域での鋭いトルクの立ち上がりは加加速度(m/s^3)に大きく効いてきます。そしてこの圧倒的な加加速度がそのまま圧倒的な「加速感」になっているのは事実です。しかし、この加加速度はジェットコースターなどがその好例であるように、場合によっては不快さを表す値にもなります。運転している本人は人馬一体の気持ちよさを感じていても同乗者にとってはただ気持ち悪いだけかもしれません。

さらに、一般的な話をすればディーゼルエンジンが優れるのは「加速感」であって「加速性能」ではありません。加速性能に優れる車は仕事率の高い車、つまり高出力(馬力のある)な車です。もっとも、走る楽しさを感じるために加速性能はあまり重要ではない(加速感が重要)と言われますが。

また、クリーンディーゼルはそれまでのディーゼルの弱点全てを克服したエンジンであるという訳でもありません。つまり、振動と騒音が大きく、回転数の伸びが鈍いエンジンであるということです。これらはディーゼルエンジンの高トルクにピストンヘッド、クランクなどが耐えれるようにするために重く頑丈に作っていることが主たる原因です。

マツダのSKYACTIV-Dエンジンはそれらの質量を小さく軽く作り、従来のディーゼルエンジンよりは静かでよく回るエンジンになっているそうですが、ガソリンエンジンと比べればやはりうるさいというレビューをよく見ます。ディーゼルの静粛性の高さが際立つというレビューも同時に良く見ますが、それは遮音・吸音に配慮した設計となっているからではないかと思われます。実際、街中で走っているマツダのクリーンディーゼル車の音を聞くとガソリン車よりは明らかにうるさいです(カラカラという特徴的な音がそう思わせるということもあるでしょうが)。

今のクリーンディーゼル車といすゞジェミニを改めて比較して考えると、いすゞのジェミニは120万という値段でディーゼル車を実現したから魅力的なのであったと思います。120万という価格でディーゼルエンジンゆえのメリットを享受できる。逆にディーゼルエンジンのデメリットに関してはこの値段だからしょうがないとあきらめが効く値段だったということです。今のクリーンディーゼル車は値段が高いために同じような発想に少なくとも私は至らないです。

将来にわたってガソリンエンジンもディーゼルエンジンも残る

これまでに書いたことを要約すると「クリーンディーゼル車は価格に見合うメリットが無いと私は思う」ということです。私の感覚に基づくことなので、そう思わない人も多いでしょう。事実、クリーンディーゼル車の人気は高いです。

しかしながら、加熱しすぎだとは思います。本来の評価よりも分不相応に高い評価を得ているとも私は思います。その理由は上記に述べたとおりです。再三再四述べるようにあくまでも私の考えではありますが、しかし、この考えと同じ考えを持つ人も多いのでは、という期待ががあるからこそこういう記事を書いたわけです。その辺の思いを今回の記事のタイトルに詰め込みました。

で、ここまでにクリーンディーゼルに対して否定的なことを書いてきましたが、ではクリーンディーゼルがダメかというと私はそう言い切るつもりもありません。「クリーンディーゼル車は価格に見合うメリットが無い」というのは言い換えれば価格が下がればそれに見合うメリットがあるということです。今後技術開発が進んでコストが下がっていけばクリーンディーゼルを買いたいと思う人は今よりもさらに増えます。

そしてまた、ガソリン車も継続して技術開発が進んでいます。面白いことに、ディーゼルエンジンとガソリンエンジンは接近しつつあります。ダウンサイジング過給エンジンの設計思想はディーゼルターボエンジンのそれと近いものがありますし、ディーゼルエンジンはNOx回避のために低圧縮比化し、ガソリンエンジンは効率を求めて高圧縮比化してきました。ガソリンエンジンは最終的にHCCIエンジンとして半分ディーゼルエンジン化するでしょう。

以上のようなことを踏まえると、ガソリンエンジンとディーゼルディーゼルエンジン、一概にどちらが優れているかというのではなく、両方が共存するような未来が待っているのではないでしょうか。タイトルの「クリーンディーゼルは一過性のブームではないか」という問いに対する私の答えは、「今は人気が過熱気味であるが、そのうち落ち着いてガソリンとディーゼルが一定の割合で共存するのではないか」ということになります。

まとめ

クリーンディーゼル車の人気は過熱気味であると思う。自動車評論家のほとんどは手放しでクリーンディーゼルを褒めているが、褒めすぎである。冷静に性能を分析していけば購入のモチベーションになる強みはそれほどない。ただ、ディーゼル車の流行は一過性のものではなく、将来的には一定の割合のディーゼル車が存在することになると思われる。

以下記事などもよろしければご参照ください。

次世代の車はどうなるか(2)クリーンディーゼルは普及するか

次世代の車はどうなるか(3)ガソリンエンジンの進歩

【訂正版】CX-5フル加速の速度変化、0-400mタイムなどを計算した