金持ちの家

金持ちの友達宅に遊びに行く夢を見た。

その友達は実在しない。短髪でメガネをかけていて細身。いつもパリッとしたシャツを着ていた。その友達の家はかなり古いが、しかし非常に大きい。豪邸だ。友達の部屋にはガラスの水槽に入ったオーディオアンプがあり、スイッチを入れると内部に備え付けられた真空管が赤熱していくのが見えた。と、同時にうっすらと緑色がかったオイルが水槽の中を満たして行き、真空管もそれに浸った。冷却のためなのだろうか。友達は「こんなもの、オンボロだよ」と笑うが、オークションに出したら高く売れそうな気がする。

その後は友達宅でメシをごちそうになった。自宅なのにビュッフェ形式で多種の料理が並んでおり、殆どの料理は名前も分からず、またいくつかは食い方すらよく分からなかった。白い皿に銀のナイフとフォークが並んでいる。それもことさらピカピカというわけではなく、良く見るとそれなりに使い込んだ形跡が見てとれ、その物を大事に使うあたりがいかにも金持ちであるという感じに拍車をかけている。皿を片付けようとすると「そのままで結構です」と女が言った。女は格調高い、コスプレじゃないちゃんとしたメイド服を着ていた。友達は「デザート食いに行こう」と屈託なく笑った。

繰り出したのは普段私が絶対に行かないような街だ。高い品物がどの店にも並んでいる。それだってネットで買えばここの7割くらいの値段で買えそうな不当な値段付けをしている。その中心にある百貨店に行った。そこで、アイスクリームと餅が合体したような、つまり雪見だいふくのようだがこれもまたいかにも高級そうな質感、色合いで生クリームをふんだんに使っている良くわからないお菓子を女の店員が作っていた。そのお菓子は鉄板の上で作られていて、お好み焼きをひっくり返すヘラに似た器具を使っていた。良くわからんが旨そうだと思った。しかし女店員はずっとうつむいたままいらっしゃいませも何も言わない。やる気があるのか。

友達が「食ってみたら?父さんがここのオーナーなんだよ。お金はいらないよ」とスネ夫みたいな事を言う。じゃあ貰えますか、とその女店員に声をかけて私は腰を抜かした。驚異的に可愛かったのである。全世界のキュートを凝集して圧縮し、インゴットから削り出したような純度イレブンナインの可愛さであった。ウサギ、プレーリードック、タンポポ、アメリカンショート、スノーホワイトハムスターのエリート遺伝子が最新の遺伝子工学により織り込まれ、圧倒的速度で形質発現したかのようでもあった。

私はしどろもどろしていた。女はガシャガシャとヘラで雪見だいふくみたいなものをこねくり回している。紙で包んでクレープのように巻きつけると私の前に差し出し、そして私はまた虚を突かれた。女は私に雪見だいふく様のお菓子を渡すと思いきや、一瞬のフェイントの後にぱくりと一口食ったのである。そして無表情でむしゃむしゃと口を動かしたのちそれを呑み込み、ゆっくりと食いかけの雪見を私の口の前に出し、「あーん」と言った。

複雑な気持であった。バカにしてんのかという気持ち、まんざらでもない感じ、悔しい感じ、小ばかにされている感じ、食った後すぐに口開けんなよ、汚ねーんだよバーカという気持ち、キュートのインゴットからあーんされて嬉しい感じが同居していい感じにブレンドされていた。そのブレンドされた何かと一緒に雪見を呑み込むような感覚があった。旨かった。

そのあと暫くぶらぶらしたうち、今度は晩飯をみんなで食おうという事になり、その友達の友達、私は面識がない男二人と女一人と一緒に飯を食った。無暗に高い椅子に座り旨いのかまずいのか良くわからん、ただ一つ言えることは異様に量が少ない料理を食った。

そのうちの女一人、なんか見たことあるなと思ってよくよく見ると某局のアナウンサーであった。その女子アナは私の話にもいかにも「興味あります」といった風情でうんうんと熱心に相槌を打っているが、しかしあからさまに私と物理的な距離を取っており、「誰コイツ?」という裏の声が全身からにじみ出ていた。んなもん、俺だってお前とメシ食いたいのではなくて友達に誘われたからメシ食ってるだけでお前なんか知らんわと思うのだが、その私の気持ちは態度からしっかりと女子アナに伝わったであろうか。私はまた、なぜ女子アナは女子とかいう年齢でないのに昔から女子アナと呼ばれてきたのだろうかと思った。その性根がそういう失礼な態度に出てんじゃないかという気になる。