妖怪ランドへ行く夢

不動産屋様の風貌であるスーツ姿の胡散臭い女がバインダーを片手に集まった人間に何やら説明している。あなた達はこのマンションに囚われている。脱出するにはこのマンションの謎を解く必要がある。

と、説明すると非常に一方的な印象を持たれるかもしれないがそうではない。もしその秘密を解いた暁にはそれに見合うだけの十分な報酬を用意している。じゃあ頑張ってね。バハハーイ。みたいな感じで女はどこかに消えた。説明を受けたのはマンションの一室で、そこには私の他に10人ほどの人間がいた。うち、2人くらいは顔も名前も記憶が無いが、夢の中では友達であるという設定になっている。

受け止め方は人それぞれで、「面白そうだね」などと笑顔を見せる頭の弱そうな女もいれば、「かんべんしてくれよ、仕事あるんだけどな」などとうんざりした顔をするおっさんもいる。どうも全員が望んでここの場にいるわけではないようだ。

暗いマンションの一室から外を眺めると、かなり高層階であることがわかる。街の遠くまで見渡せた。空には雨雲が満ちていて、雨こそ降っていないものの日差しはほとんど望めなかった。部屋を出て廊下を渡り、玄関に向かおうとする。暗い。照明をつけようとスイッチを入れるが反応がなかった。見ると、天井にはソケットだけが設置されてあって肝心の電球はなかった。そういえば家具も一切ない。引き渡し前の部屋なのだろう。

玄関から外にでると意外にも普通の光景が広がっていて、外に出ることもできた。あの女が言っていた「マンションに囚われている」は嘘なのか。しかし、街に出ても人は一人も見えず、車も電車も一台たりとも存在しなかった。結局はあのマンションの秘密という何かを見つけない限りは元の世界に戻れないのだろう。

マンションに戻ると、何人かがクローゼットを開けたり、天井の点検口から中を覗いたりしていた。「なんにもねえぞ」「何処が秘密なんだ」などと口にしていた。私もひと通りは調べてみたが、別段変わったことはない。普通の部屋である。分からない。

その世界で何事もなく、惰性で数日が過ぎたころ、参加者の一人の女が私と、私の友達二人のグループに近づいてきて「実は私は秘密の扉を知っている。しかし、その先は私一人では行けないので一緒に来てほしい」と言う。他に手がかりもないので二つ返事で了承。金曜日の午前2時に最初に説明を受けたマンションの部屋の玄関に来てくれと言われた。

そして指定された時刻にそこに向かうと女が一人で待っている。女は配電盤を指さし「この白い箱を外してくんない」と言うので外すと、小さな金色の古めかしい鍵が出てきた。その鍵を玄関に入ってすぐ右側のクローゼットの中にある小さな鍵穴に差し込むと、奥へと続く階段が現れた。しかし、女が言うのは「それはダミーで下に下っていっても行き止まりにしかならない。金曜日の午前二時に、この鍵を開けてマンションの玄関扉から出て行くという条件でのみ、秘密の場所へとつながる」という。

その通り、玄関扉から外にでると、そこでは妖怪たちのパレードが繰り広げられていた。いつもの町並みはそこになく、レンガで舗装された通りに路面電車が通っていて、巨大なろくろ首が陸橋と路面電車の間をすり抜けて首を伸ばしている。天にはこれまた巨大なのっぺらぼうが空の半分くらいを埋め尽くしていて、ハロゲン灯か何かでライトアップされている。街路には魑魅魍魎がひしめき合っていて、紙吹雪が吹き乱れ、ラッパの音がアホのように響き渡っている。

妖怪たちは突如として現れた人間を気にする素振りをまったく見せない。しかしそれはただ気づかないだけで気づかれた瞬間に何か干渉してくるやもしれず、私はそれ以上進むのを躊躇した。

すると、女が突如として半狂乱になり、白目を剥いてアホのようにどじょうすくいのような奇怪な踊りを舞い始めた。私はあっけに取られたが、しかしすぐにその意味がわかった。これだけ馬鹿騒ぎしているこの街路で我々4人だけが真面目くさって立ち尽くしている方がむしろ彼らから見たらアホなのであって、ここは合わせて半狂乱になって踊り狂いつつ前進したほうが目立たないのである。全員がこれを暗黙のうちに承知、一瞬の目配せのうち我々はアホのように踊り狂い、よだれを垂らしながら街路を下った。

街路を疾走するうち、ちんたら走る路面電車に追いついた。路面電車からは妖怪が汚らしくゲハゲハと笑いながら親しげな眼差しで見つめてくる。私はまるで風になったかのように妖怪のパレードをすり抜けてその先に進んだ。爽快であった。