フライホイールが世界を救う

そういえばフライホイールの研究は進んでいるのだろうかと思い出し、調べてみました。

フライホイールというのはあれですね。主にエネルギーを貯めこむためのフライホイールのことです。運動エネルギーとしてエネルギーを貯めこむための電池の用途で使うようなフライホイールを指して言っています。車やバイクのエンジンにつながっているあのクソ重い鉄の板ではありません。あれもまあ運動エネルギーを貯めこむものなのですが…。フライホイールバッテリーと言うと電気エネルギーが入出力になるものに限定されますのでうまい言葉が思いつきません。まあ、とりあえず以下から応用例を紹介していきます。

系統安定用フライホイール

以下記事では電力系統を安定化させる目的で大型フライホイール・バッテリーを利用するものが記載されています。

メガソーラー電力を大型フライホイールに蓄電、新型の高温超電導線材を活用

超電導磁石を用いて4tの円盤を浮上、高速回転させ運動エネルギーを保存しようという試みです。

image from 古河電工

特に紹介記事中に言及はありませんでしたが、こういうフライホイールは内部を真空にしています。浮上しているので軸受での摩擦損失もありません。完全な真空を実現するのは不可能なので、ある程度は空気分子が内部に残っている状態にはなりますが、空気抵抗はほとんどゼロに近くなります。その中で回転する円盤を電磁石を通じて回転させると長期にわたって円盤は回転し続けます。つまり、電力を運動エネルギーとして保存できるわけですね。電力を取り出したい場合は単純に負荷を接続してやります。すると、フライホイールとその周囲に設置されたコイルそのものが発電機となり電流を流すことができます。

現在の蓄電池の課題はコストと寿命です。しかしフライホイールはただの重い金属で良いのでコストが安いと言われています。また、軸受けが摩耗することもないので長寿命です。長寿命であるということは初期投資を回収しやすく、またメンテナンス費も節約できるということなので、さらにコストに効いてきます。

フライホイールの課題のひとつは変換効率で、大電流をコイルに流した時に熱として失われるエネルギーが大きいという理由があります。今回の記事で紹介されているように、最近では高温超伝導技術が実用化されつつありますからこの欠点は解決できるかもしれません。が、超電導線にはイットリウムを使用とあるように結局レアメタルが必要にはなってしまいますが。

フライホイールが本格化の兆し

上記記事を参照すると、いくらか具体的な数字が乗っています。イリウムイオンが1000~2000回の充放電回数(自動車向けは5000~7000回)を寿命とするのに、フライホイールは20万回以上だそうです。また、「ミリ秒単位での入出力が可能」とありますが、これはおそらく入力と出力の切り替え、もしくは入力もしくは出力に切り替えてからの負荷・出力電圧の立ち上がりを指しているのだと思います。この点はおそらくリチウムイオンの方がずっと性能がよいでしょうが、用途を考えるとミリ秒単位で困るケースはあまり無いでしょう。

山梨県米倉山で稼働するメガソーラーと連系するフライホイールは蓄電容量100kWh、出力300kWだそうです。

最近だと住宅用太陽光ソーラー発電の新規契約が止まって激おこ、みたいなニュースや意見をよく見聞きしますが、大幅に枠を拡大するにはこういう蓄電設備を拡充させる以外方法は無いような気がします。

車載フライホイールバッテリー

思い返せば、私が初めてフライホイールに動力を貯めこむという発想を知ったのがこの車載フライホイールでした。学研の「科学」を小学生の時に取っていて、それで連載されていたあさりよしとお氏の漫画にて紹介されていました。今あらためて調べてみたら、タイトルは「まんがサイエンス」、登場人物はあさりちゃんとよしおくんだそうです。自分の名前か。懐かしい。今調べたら形や掲載誌を変えつつまだ連載しているみたいですね。

で、そのフライホイールを紹介する回を読んだ時(1996年くらい?)は「電気自動車への応用が期待される」というような書き方でしたが、結局、リーフやi-Mievなどの電気自動車に搭載されたのはリチウムイオンバッテリーでした。プリウスの登場が97年ですが、私はずっとプリウスがフライホイールで動いているものと信じていましたが、その後少年マガジンでプリウスの開発記みたいなノンフィクション読み切り漫画が掲載されていて、そこで初めてプリウスは電池で動作すると知りました(情報源が漫画だけですね)。まさか電池で車が走るなんて思っていも居なかったというのが正直なところです。

なぜフライホイールは採用されなかったのでしょうか。そこは推察するしか無いのですが、回転数を上げることができなかったのか、効率の面で問題があったのか…。効率の面は先に言ったように入出力の間で熱として失われるエネルギーですね。どれだけ高い真空度を実現できるか、どれだけ抵抗の小さい電線を使えるかがキーになると思います。

回転数をどれだけ上げることができるかというのは、工作精度をどこまで高められるかというのによって決まると考えられます。運動エネルギーは(1/2)mv^2ですから、軽量に作るためには速度を稼がないといけません。車載するには軽量であることが重要です。いずれにせよ、最近になって三菱重工が電気駆動加給タービンを披露したくらいですから、高回転なモーターを作ることにも何らかの技術的な障壁があったことは間違いないでしょう。一方で、リチウムイオンなどのバッテリーは順調に進化を続けたので電気自動車やハイブリッドカーに搭載された…ということなのだと思います。

では、車載フライホイールは全然開発されていないのでしょうか。というと、そういうわけでもなさそうです。

Flywheel hybrid systems (KERS)

上記記事を参照すると、Flybrid Systemsという会社がF1でフライホイールハイブリッドを実現するために設立されてなんやかんややった、ということが長々と記されています。F1は全然詳しくないのでフライホイールに関する記述のみ読むと、これは駆動軸とCVTで接続されていて、ギア比を変更することで運動エネルギーを貯めこんだり放出したりということを行う仕組みのようです。

image from racer engineering

つまり、一度電気に変換してその電気でフライホイールを回転させる…ということはやっておらず、純粋に回転エネルギーを入出力させているのですね。ゼンマイのおもちゃがフライホイールで走ることの延長線上にあるような感じでしょうか。こういうのを英語ではKERS(Kinetic energy recovery system)と言うそうです。

電気を介在させないと変換時の損失が無くなりますし、システムも軽量化が期待できます。さらに、先に述べたように超電導を実現するためにレアメタルが必要などということもありません。が、フライホイール内部から軸が突き出るので、その部分をどのようにシーリングするかが技術的な障壁になります。つまり、内部から軸が付き出ている構造だと、その軸受け部分をうまく密封してやらなければそこから空気が入ってしまって真空が保てないという意味です。

同社はこのシール方法で特許をとっており、「the achievement is something to be proud」と書かれています。潜水艦の駆動軸を船外に伸ばすところでも同様の技術が必要なので、川崎重工、三菱重工あたりだったら質の良いものを作れるのかもしれませんが、潜水艦のそれはトップシークレットの技術だと聞いたことがあります。

また、Volvoも長らくKERSの研究を行っていたようです。

ボルボのフライホイールKERS、80馬力の出力向上と25%の燃費削減を実現

image from monoist, originally from volvo

この試作したシステムの重量はたったの20kgしかなく、直径も20cmとかなり小型だそうです。ただ、真空ポンプが付いているところを見ると、完全にシールするのは不可能で定期的(頻度は不明)に真空ポンプで空気を抜いてやらなければならないようですね。自動車は数年のオーダーで使用し続けますから、VolvoのKERSのシールがFlybrid Systemsのそれに比べて弱いという事を意味する訳ではないでしょう(実際弱いかもしれませんが分かりません)。

ただ、このシールの問題というのは先に述べたように軸が外へ出てくるような構造の場合の制限ではあります。つまり、電磁気力で回転させる場合は密封することができます。この場合は系統安定化の項でも述べたように、長寿命化が期待できます。KERSとフライホイールバッテリを比較した時の、フライホイールバッテリのデメリットは電気~運動エネルギーとの間の変換ロスが生ずるところです。

が、日本車、特にトヨタなどに関しては既存の大多数の技術が流用できるので、むしろ一度電気に変換してしまった方が何か(制御、製造、必要な要素技術、…)と楽かも知れません。

リチウムイオンなどの化学系バッテリーに未来はあるか

繰り返しになりますが、世界初の市販ハイブリッド車、市販電気自動車に搭載されたバッテリはリチウムイオンでした。また、家庭用蓄電池もほぼ全てがリチウムイオンです。それは、今の技術では、総合的にリチウムイオンの方がフライホイールバッテリよりも優れているからでしょう。

しかしながらリチウムイオンバッテリには、高コストで短寿命というデメリットがあります。NEDOは「2030年には容量2.5倍、コスト1/5」などというロードマップを描いていますが、私にはどうしても楽観的な見積もりであるように思えます。リチウムイオン(系)バッテリのブレイクスルーは何年も待ち望まれていますが、あまり有望なニュースは聞こえてきません。

このままリチウムイオンの性能向上が鈍ってきて、変わってフライホイールバッテリの技術が向上していけばフライホイールバッテリが家庭用蓄電池やハイブリッド車、または系統安定設備として大量に使用される時代が来るのかもしれません。

また、車載用に関して言えば、現在のハイブリッドカーは数百Vの電圧を得るためにバッテリを直列に接続しています。これらのバッテリを均等に充放電するために色々細工が必要であったり、バッテリを冷却するために通風孔を通したりなどと、設計がいささか面倒でもあります。対して、フライホイールバッテリならばそのようはことは必要ありません。KERSの場合は駆動軸のどこかと接続しなければならないので多少置き場所の制約はあると思われます。

危険性についてはどれも似たり寄ったりという感じではないでしょうか。エネルギーを高密度に溜め込めば、方式に限らずなんでも危険物になります。

まあ、いずれの技術がどれだけ栄えるにしろ、今後の日本にとっては蓄電技術が重要になるのは間違いありません。私に投資するためのまとまった金があったらそういう要素技術を研究している企業の株を買いまくると思います。無いので投資できませんが。