エンジンの効率について

自分が覚えている間に書いておこうと思い、書いてみる。

エンジンの熱効率は高い方がいい。エンジンの熱効率が高ければ、同じ量のガソリンを燃焼させたときにより大きい仕事量を得ることができる。現在のエコカーの主戦場はエンジンの熱効率を改善することと言ってよい。では、エンジンの熱効率はどうやったら上がるのだろうか。

効率を低下させる4要因

ガソリンエンジンの熱効率を悪化させる主要な要因は4つある。

  • 排気損失
  • 冷却損失
  • 機械抵抗損失
  • ポンピングロス

image from 新世代技術「SKYACTIV パワートレイン」New-Generation Technology “SKYACTIV Powertrain”

排気損失とは排気として捨てられる圧力/熱、冷却損失は冷却材を通じて捨てられる熱、機械抵抗損失は機械が動作するときの摩擦抵抗、ポンピングロスはスロットルバルブを閉めている時に起こる吸気抵抗をそれぞれ意味する。

改善する方法

これ等を改善させるために制御可能なパラメータは膨張比(圧縮比)、燃焼期間、燃焼タイミング、比熱比、ポンピング損失(吸気量)、機械抵抗(摩擦抵抗)の6つである、とマツダ技報では述べている。これ等を制御して燃費を改善するための戦略は一つではなく、各社さまざまな方法で燃費を改善しようとしている。

たとえばダウンサイジングという方法がその一つだ。車格に比べて小さいエンジンを積み、補機でパワーを稼ぐ。こうすると何が嬉しいかというと、まず小さいエンジンは各駆動パーツも小さく軽くなるので機械抵抗が少なくなる。さらに燃焼室の表面積が小さいので、冷却損失も小さくなる。

また、車格の割に小さいエンジンを積んでいるのでスロットルバルブが開きやすい(開度の積分が大きくなりやすい)。この結果、ポンピングロスが小さくなる。さらに、ダウンサイジングエンジンは通常、筒内直接噴射と組み合わされるが、この場合は好きなタイミングで燃料を吹けるため、圧縮行程で混合気を圧縮しなくとも良くなる。するとノッキングが発生しないため、高い圧縮比で燃料を燃やすことが出来るようになる。高い圧縮比で燃焼させる(=長い膨張行程のストローク長を得る)と、膨張する気体がピストンを動かす時間が長くなるので、より多くの仕事量を得ることができる。

別の方法としては、マツダのSKYACTIVやトヨタのTHS-2で用いられるミラーサイクルエンジンがある(アトキソンサイクルと呼ぶ場合もある)。この方式では圧縮比/膨張比が改善される。ミラーサイクルの原型となるエンジンはアトキソンサイクルエンジンである。両者は厳密にはことなる。アトキソンサイクルエンジンはアトキソンさんによって圧縮行程のストローク長よりも膨張行程のストローク長を長く取るような構造になっていたが、あまりにも複雑な機構だったので長らく実現できなかった。2011年にホンダが発電用のエンジンとして市販化に成功したが、車載用のエンジンでのアトキソンサイクルエンジンはいまだ実用化されていない(はず)。下記はホンダが実用化したアトキソンサイクルエンジンの構造。

image from honda

ミラーサイクルエンジンは、ミラーさんによって開発されたエンジン。これはピストンのストローク長そのものは変えず、代わりに吸気行程の時に吸気バルブを遅めに閉じることによって圧縮に寄与するピストンの移動量を小さくし、結果的に圧縮行程よりも膨張行程のほうを長く取るようにしてアトキソンサイクルと同等の効果を得るようにしたエンジンである。

ちなみに、トヨタなどが言う「アトキソンサイクル」は上記のような経緯を踏まえると誤用であると私は思う。ミラーさんの功績を無視していると思う。わざわざアトキソンサイクルと呼んでいるのは、他社と同じ名前を採用するのが嫌だったという単にマーケティング上の理由であると思う。世界で初めにミラーサイクルエンジンを自動車に積んだのはマツダで、1993年秋にユーノス800とミレーニアに搭載した。ヒットを飛ばした車種ではマツダが初めてだったと記憶している。その後、トヨタが3代目プリウス向けにミラーサイクルエンジンを搭載し、これをアトキソンサイクルと呼んだような…。

話を戻して、エンジンの効率という点ではトヨタのハイブリッドシステムTHS-2においても利点がある。THS-2ではモーターとエンジンがパラレルに動作し、充電量と放電量(モーターの駆動)を柔軟に切り替えることができるため、エンジンのアクセル開度(スロットルバルブ開度)を効率の良いところでなるべく一定に保つことができる(エンジンの効率はスロットルバルブが全開に近いほど高くなる)。

他には、EGR(排気ガス再循環)というものもある。これは排気ガスを吸気側に一部戻してやることで吸気側の圧力を高め(もしくは同一の酸素量を供給するためにより大きくスロットルバルブを開けることにより)、ポンピングロスを小さくさせる仕組みである。EGRのもう一つの利点は、燃焼に寄与する酸素量が薄くなるので燃焼温度が下がるという点である。すると、冷却損失が若干ながら小さくなるし、高温状態で生成されやすいNOxも抑えられる。プリウスではクールドEGRと言って排気ガスをいったん水冷クーラーで冷やしてから吸気側に戻してやるような構成を取る。冷やしてやるとさらに後者の利点の効果が大きくなるが、より大きくて重いラジエターが必要になるかもしれない。

将来展望

将来的な技術としては、「【解説】次期SKYACTIVとは何か?」という記事に書いたような、HCCI、断熱エンジンなどが増えてくるのではないだろうか。補機類も、最近では可変ジオメタリターボなどが普及してきている。電動タービンの記事も良く見るようになったので、採用が近いかもしれない。たとえば下記。

自動車用エンジンのダウンサイジングに貢献する電動スーパーチャージャの開発 | 三菱重工

電動タービンはその名の通り、排気圧で駆動する排気タービンを電動モーターによる駆動にしたものである。超高速モーターが開発されたことによって実用化が近くなってきた。電動タービンの利点は制御の自由度の高さだろう。スーパーチャージャーや排気ターボはエンジンの出力と密接に結び付くので自由度がエンジン出力に制約されてしまうが、電動タービンにそのような制約は無い。