固定価格電力買取制度が10月から保留に~日本の発電はどうなるのか

電力会社各社が固定電力買取制度の申請を一時停止し始めているそうです。

状況はさすけさんのブログでわかり易くまとまっています。

 【追記】夢発電破綻の危機??次に太陽光買取が保留になりそうな電力会社は??

概要を簡単に述べると、いくつかの電力会社で固定価格での電力買取申請を一時保留しはじめたとのことです。保留になるのは10kW以上の設備容量での契約になっているそうです。

一条工務店夢発電への影響

一条工務店では夢発電という商品があります。これは太陽光パネルの設置費用を一条の関連会社である日本産業が年利1%程度で融資するというものです。居住者は売電で得たお金を月々の返済に充てることで実質の負担は無し(もしくは多少の利益が残る)、10年未満でローンを払い終えてからの売電分はすべて居住者の利益となる…という算段です。

現在の夢発電で使用されているパネルの容量から言えば小さな家でも10kWの設備容量は超えやすくなっているため夢発電そのものにも大きく影響する話です。

最近は多くの住宅メーカーで太陽光設備を設置施工が出来るようになっていますので、一条だけでなく他のメーカーでも影響するでしょう。

なぜこうなったのか

さすけさんのブログで説明されている通り、最小需要量よりも太陽光・風力の設備容量が大きくなった(もしくはなりそう)ためです。

ある時点での発電量の総量と消費量の総量は釣り合っている必要があります。もし、発電量が足りなければ電圧や周波数の低下が発生します。発電量が過剰であれば周波数や電圧の上昇が発生します。電気で動くあらゆる設備はあらかじめ定められた周波数・電圧が供給されていることを前提としていますから、定格から外れた周波数・電圧の電気が供給されれば正しく動作しない、ひどい場合は故障となります。

このため、火力発電所などでは需要に応じて柔軟に出力量を変えています。電圧や周波数を監視しもっと発電量を増やせとか減らせとか命令を行うのは給電指令所という組織です。が、一般住宅などに乗せられている小規模な一般住宅の太陽光設備にまで給電指令所が命令を行うというのは非現実的ですので、「周辺の電柱を流れる電気の電圧を上昇させてしまいそうなときは売電をやめる」という単純な仕組みが備えられています。(パワーコンディショナに搭載される「電圧上昇抑制機能」です)

これが設置されていて正しく動作している限りは、前述のように「供給過多により電圧が上昇してしまう」という事は起きないのですが、だからハッピーかというとそうではありません。電圧抑制が効いている間、太陽光パネルは発電を行わないのです(自家消費できる場合は別です)。もし際限なく太陽光発電設備が増えたらしょっちゅう電圧上昇抑制機能が働き、全然売電することができなくなります。全然ハッピーじゃない。このため、一時保留するという対応をせざるを得ないのです。

複雑な背景

私は電力関係の仕事をしていますので、色々思うところはあります。電力会社にとって風力や太陽光の電気は「質が悪い」のです。天候によって大幅に出力量が変動する電気は前述のように電圧や周波数の変動を引き起こしやすいです。そのような電気を電力系統に流すと、その変動を抑え込むために細かい給電指令を火力発電所に対して行う必要があります。

また、太陽光や風力は発電量が最低でゼロまで落ち込むような設備ですから、電力会社が持つ発電設備は結局減らせません。太陽光が発電できない場合でも需要を賄うだけの発電設備を準備しておく必要があります。発電設備が減らなければ維持コストも減りませんし、負荷と稼働率が低くなったら発電効率も悪化します。

さらには系統の設備がどの程度まで対応できるかという問題もあります。電力は発電所から末端の家屋に至るまでに、大規模な変電設備から中規模、小規模な設備を段階的に通って届けられます。末端側での発電量が大きくなると、中規模、小規模な各種変電設備で許容できる電力容量を超える可能性があります。このため、末端側から流れてくる電力(逆潮流と言います)を監視し、必要に応じて遮断する設備を新たに設置する必要があったりします。

一方で再生可能エネルギー割賦金を全員が負担するというのもまた問題だと私は思っています。太陽光発電電力の売電価格は、初期コストを回収しやすいよう高値で固定されているのが現状の制度です。この負担は電力会社ではなく、「再生可能エネルギー割賦金」という名目で電力を使用する人全員によって負担されます。これは見方によっては太陽光発電設備を設置した人の利益分を太陽光発電設備を設置していない人が支払っているとも捉えることができます。

蓄電が未来を決める?

これまで述べたような太陽光・風力が送り出す変動の大きい電力によるデメリットを回避するには、蓄電設備を充実させることで対処が可能です。蓄電池を系統に備え付け、電力が余剰になったときに貯めこんで、足りなくなった時に放出するというバッファの働きとして用いることができます。バッテリの出力は太陽光・風力ほど出力変動が激しくないですし、充電量・放電量の制御も容易です。

…と、言うのは簡単ですが、現状はまだ課題が多く大規模な蓄電設備は研究の域を出ず、NEC、東芝、SONYあたりのメーカーが実証実験をやっている段階です。家庭用や小規模施設向けでは数十kWhのリチウムイオン電池が販売されている程度でしょうか。

NEDO(新エネルギー産業技術総合研究開発機構)の「安全・低コスト大規模蓄電システム技術開発」基本計画という資料を見ますと、平成27年まで(プロジェクトは2011年から開始)に「余剰電力貯蔵用として、2 万円/kWh, 寿命 20 年相当」の蓄電池を実用化させるめどをつける、とあります。つまり、大規模な蓄電設備を運用するにはこの程度のコスト、寿命が必要だということです。

同じくNEDOが発表した二次電池ロードマップを参照すると、以下のようになっています。

これを見る限りは、2020年程度には2.3万円/kWh程度のコストで系統用蓄電池が開発される見込みとあります。2012年比で半分以下のコストということです。最近は二次電池の大きなブレイクスルーは聞かないのでこの見通しは厳しいのではないでしょうか。

もし新型の蓄電池を実用化できたとしても、それだけの大電力を貯め込める電池には相応の危険があります。モバイル機器のバッテリでも、発熱や爆発などによってけがをしたという事例は報告されているように、エネルギー密度が高くなるほど危険になるのは避けようがありません。すると、蓄電設備にはより高い耐震性や耐火性が求められることになるでしょう。これは蓄電設備の用地の選択肢を狭めたり建設コストが上昇したりする要因になります。

また、現状のリチウムイオン電池はレアメタルを使用する点でも不利です。それは価格だけの問題だけでなく、地政学的なリスクを背負ってしまうという観点でもまた不利です。中国がレアアースの輸出を制限し始めたことは記憶にも新しいですし、為替変動や国際情勢などによって原材料が高騰し、それが頻繁に電力価格に転嫁されるというのでは安定した電力を供給できるとは言い難いです。石油と違って運用時に資源を消費するわけではないのでいくぶんマシであるとは思いますが。

ここまで不利な点ばかり述べましたが、それでも不安定な電力を有効活用するためには蓄電という方法を研究して少しでも実用化に近づけるよう努力する以外に方法がないというのも事実です。

まとめ

これまで述べてきたように、固定価格電力買取制度の申請が保留になったというのは掘り下げていけばそれなりに複雑な背景があります。簡単な解決策はありません。中長期的に根本処置できるような見通しもありません。個人的には、常温超伝導や商用核融合炉などのSFに近い技術が実用化されない限りは原発停止以降の電力問題というのは根本的に解決できないのではないかとすら思えます。

よく福島事故以降は原発や電力会社を叩き、自然エネルギーや再生可能エネルギーを強く推進すべきといったような発言がネットではよく見られますが、今の人類の技術と産業規模ではすべてを再生エネルギーに頼ることは不可能なのです。原発をやるかやらないのかのシングルイシューに落とし込むのは万年野党のすることです。日本のエネルギーセキュリティを中長期的にどのように保証していくかという、政治や国際情勢まで含めた観点が重要です。ではどうするのか。これは簡単に答えられる質問ではありません。

私は、一番の問題は国がエネルギーセキュリティを担保するための明確な長期計画を立てることができていないという点にあると考えています。そもそも安易に太陽光発電設備を充実させようと固定価格取引を推進した結果がこの結末でしょう。個人や一般企業が発電設備を設置できるようになり、そして需要を超える可能性があるまでに巨大な設備容量までに成長して電力問題は解決したでしょうか?電気代が安くなる見通しはあるでしょうか?電機メーカーに対する経済施策として利用しただけではないでしょうか?場当たり的に再生可能エネルギーを充実させるだの、原発はやめるだの、やっぱり続けるだの政権が変わるごとにコロコロ方針が変わってしまっては電力会社は戦略を決定できません。それどころか、今回のように一般家庭も振り回される始末です。

政府は「とりあえず再稼働承認された原発から動かして、長期的な電源のベストミックスは今後決める」などと悠長なことを言っている暇はないと思います。震災直後は電源構成による長期的なコスト試算データなんかも良く発表されていたのですが、最近は何も具体的な発表がありません。

有識者を集めて実現可能な道筋を検討し、一刻も早くトップが明確な方針を示すべきではないでしょうか。それが難しいことは述べましたが、しかしだからと言ってベストな案を模索して時間を浪費してよいい問題でもありません。なぜならば、自然エネルギーを強力に推進するにしろ、火力+原子力の組み合わせを持続させるにしろ、その中間にしろ、膨大な時間と大規模な人、物、金のリソース投入が不可欠だからです。老朽化した火力発電所を維持させるだけでも金がかかるのです。大規模なインフラに機動力は全くないのです。いつまでもこのままではいたずらに高くなる電気代で中小企業が疲弊していくだけです。