吉田調書に書いてある用語等の解説

※本記事は定期的に更新します

だいぶ前の話になりますが、吉田調書が政府サイトで公開されました。全文を今読んでいる所です。下記サイトからダウンロード可能です。

 政府事故調査委員会ヒアリング記録の開示について

当然ですが、専門用語が多くてよくわからないところが多いと思います。ここではその解説をしたいと思います。私自身、読んでいる最中ですので少しずつ更新したいと思います。

序論

大規模な災害でしたから、興味本位で吉田調書等を見るのはあまり良くないことと言われるかもしれませんが、個人的にはそのような気持ちはありません。知らないよりは知っている方が良いと思います。電気は皆が使うものですから、皆がそれぞれ発電の事、原子力発電のことについてある程度の知識を持っていた方が日本の将来の発電のためになると思います。

私が尊敬する精神科医の林先生は「興味本位で精神病について調べているが、精神病患者に対して失礼にあたらないか」という読者からの質問に対し、「興味本位は無関心に優ります」と回答されています。その真意は詳しく書かれてはいないのですが、恐らくは精神病についての正しい理解・知識を付けた人間が増えるほど精神病についての偏見が減る、精神病患者への正しい対応方法が世に浸透する、精神病の早期発見につながるなどの効果が期待でき、ひいては精神病に苦しむ人々全体の助けになると判断されているのだと私は想像しています。

(その想像が正しいという仮定で)私も原子力発電については同じ気持ちでいます。原子炉を知らない、もしくは無関心である、もしくは間違った知識に基づいて批判/推進の意見を述べるなどするよりは、少しでも原子炉に対する知識を持ってもらった方が将来の日本の発電のためには良いことだと思います。

私は知人から「原子炉は止めるべきだと思うがどうか」と問われたことが何度かありました。私はその問いには答えられません。その問いは原子力発電の恩恵を受ける日本国民全体が考えるべき問題だと思うからです。私に出来ることがあるとすれば、その判断をするのに十分な情報を教えてあげることくらいです。

そういう気持ちがずっとあり、今回いい機会だと思ったのでまとめてみました。理解のお役にたてれば幸いです。

注意点

私は原子炉の内部状態を計算によって導き出すようなプログラムを書いていました。ですので、その周辺についての知識はある程度ありますが、原子炉広汎にわたる深い知識があるわけではないので、一部曖昧な記述や不正確な記述があるかもしれません。また、わかり易さを優先させているのでその点でも不正確な記述が多いと思ってください。出来れば、これを足掛かりにして興味が持てたら、ちゃんとした書籍などを読んでほしいな、と思います。

用語解説

1F(F1)

福島第一原子力発電所。1~6号機の原子炉が建設されている。Fはサイト(発電所)のコード。福島のF。それぞれの号機を特定して言う場合は1F-1(1号機)、1F-2(2号機)などと呼ぶ。福島第二原子力発電所は同様に2F-1などと言う。また、女川原子力発電所などはO-1、O-2など。柏崎刈羽原子力発電所はKやKKがサイトコードになる。

5重の壁

原子炉は5重の壁によって事故時でも放射性物質の飛散に対処する設計になっている。燃料ペレット(核燃料を磁器のように固めたセラミック)、燃料被覆管(ジルコニウム合金などで作ったペレットを並べて入れる筒)、原子炉圧力容器(同項目参照)、原子炉格納容器(同項目参照)、原子炉建屋で5つ。

AO(弁)、MO(弁)

空気作動(弁)。Air Operated.AOVと書くこともある。弁の開閉に空気を使う。蓄圧タンクがあり、電源喪失時もしばらくは動作できるという利点がある。ただし、遠隔操作するときは電気が必要。(といってもモーター駆動弁に比べたら低電圧&電力で良いはず)

MOはMotor Operated.モーター駆動(の弁)。電気が無いと動かない。そのほかに電磁作動弁(Solenoid Operated)というのもあるが、あまり事故関係では聞かない。

BWR

沸騰水型原子炉。Boiling Water Reactorの略。原子炉の中で水を沸騰させて蒸気を得るタイプ。別のタイプとしてPWR(Pressurized Water Reactor)がある。こちらは原子炉内部の圧力を高めて高温の水を液体の状態にとどめ、原子炉外部で高温の水から蒸気を作り出す。BWRは原子炉周辺の配管が単純化できる、炉心への給水/循環量によって出力調整ができるなどの利点があるが、核燃料を均一に燃やすことがPWRに比べて難しい。PWRは核燃料を均一に燃やすことが出来るが、出力調整はホウ酸を注入する方法と制御棒の挿入による方法に限られる。もっとも、原子炉は定格運転を続けて運転中の出力調整は基本的に行わないような運転の仕方をする。出力調整は主に火力が担当する。

DD

ディーゼルドライブ。Diesel Drive.ディーゼルエンジン駆動。消火系ポンプなどに備え付けられ、通常の電気駆動ポンプが使用できないときに動くようにできている。

DG

ディーゼル発電機。Diesel Generator.非常用に起動して電源を確保するための設備だが、福島では津波をかぶって発電機とその周辺の電源盤が使用できなくなった。

HPCI

高圧注水系。High Pressure Coolant Injection System.原子炉が高圧であっても冷却材を押し込める圧力を持った非常用注水ポンプ。高揚程で低流量(LPCIと比較して)。小規模な冷却材喪失事故(原子炉の圧力がなかなか下がらなくて、喪失流量も少ない)を想定。

HPCS

高圧炉心スプレイ系。High Pressure Core Spray System. 高圧で送り出した冷却材を燃料上部からスプレーする機構。実際に動作している動画を見ると、スプレーというよりは滝のような感じ。福島第一1~3号機には無い。

LPCI

低圧注水系。Low Pressure Coolant Injection System.低揚程で大流量(HPCIと比較して)。大規模な冷却材喪失事故(原子炉の圧力がすぐに下がって冷却材の喪失量も大きい)を想定している。

LPCS

低圧炉心スプレイ系。Low Pressure Core Spray System.単に炉心スプレイと呼ばれる方が多いかもしれない。低圧で送り出した冷却材を燃料上部からスプレーする機構。

LOCA

冷却材喪失事故。Loss of Coolant Accident. LOCAの中では最も太い配管である給水配管のギロチン破断(破断面積が給水配管径とおなじ)が最もシビアな事故だと考えられていた。シミュレーションソフトなどを使って計算してみると、ものの数分で全冷却材が流れ出てしまう。それでも十分な冷却を行えるだけの能力がECCSには要求される。

IC

非常用復水器。Reactor Core Isolation Cooling Condenser.非常時に炉心を冷却する設備。炉心から上がってきた蒸気を冷やして水に凝縮させ、重力でまた炉心に落とすような仕組みになっている。外部からの電源が要らないという利点があるが、冷却効果は限定的である。古い型の炉には付いているが、新しい型の炉では見かけない。

RCIC

原子炉隔離時冷却系。Reactor Core Isolation Cooling system.非常時に冷却水を循環させて炉を冷やすための装置。モーター駆動(MD; Motor Drive)とタービン駆動(TD; Turbine Drive)によってポンプが動く。交流電源を喪失しても原子炉自身が発生する熱から蒸気を作り出してタービンを回してポンプを動作させることができる。1F-2、3号機ではこれが搭載されており、しばらくは動作していた。

ECCS

非常用炉心冷却系。Emergency Core Cooling System.非常時に炉心を冷却する設備の総称。

image from BWRの工学的安全施設

上図は福島第一1~3号機よりも新しい型の炉であるが、概略はこんな感じ。

FP

消火系システム。Fire Pump.ECCSが全部だめな場合はこれを使って冷却材をポンプ車で押し込む。が、福島では圧力を抜くことができずうまくいかなかった。

FP

Fission Product.核分裂生成物。核分裂の結果生じた種々の物質。消化系システムもFPであるが、全然違う意味なので文脈から用意に推察でき、混乱することはないだろう。

TAF

燃料有効頭頂部。Top of Active Fuel.原子炉内の水位を表すときにTAF + xxxx mm などと言う表現で用いる。たとえばTAF 350mm と言ったら燃料の上端から350mmの位置が水面である。「有効」というのは、燃料棒の上部には実際には核燃料が詰められていない領域があるため。

これは余談だが、おそらくTIP(Traversing In-Core Probe)と呼ばれる、炉内を上下に移動する放射線計測器が燃料末端を計測できないから、燃料が詰められていない領域が存在するのではないかと思っている。

SRV

逃がし安全弁。Safety Relief Valve. SR弁とも。SR/Vと書くこともある。原子炉圧力容器の圧力が高くなった場合、自動もしくは手動で蒸気を逃がすための弁。空気駆動とモーター駆動の二つがある(はず。詳しく記憶していない。調べても分からなかった)。逃がした上記はサプレッションプール内に放出される。

原子炉圧力容器

RPV(Reactor Pressure Vessel)とも書く。たまにPVと書いているのも見る。核燃料と冷却水が入っていて高い圧力が掛かる容器。原子炉そのもの。

原子炉格納容器

原子炉圧力容器を覆う容器。PCV(Primary Containment Vessel)とも。上部のドライウェル(Dry well; D/W)、下部のウェットウェル(Wet well; W/W)からなる。圧力容器が破損した時でも放射性物質を外部に飛散させない目的で作っている。

image from atomica

上記のMARK-Iが福島第一1~3号機の炉型。オレンジ色の物体が原子炉圧力容器でそれを取り囲む構造物が原子炉格納容器。水色の部分がウェットウェル。ウェットウェルはサプレッションチェンバ(Suppression Chamber; S/C)とも言う。現場の人はサプチェンなどと略して呼ぶ。サプレッションチェンバの中には水がためられており、これをサプレッションプールと呼ぶ。新しい炉型であるMARK-II以降の炉はドライウェルとウェットウェルは同一の構造物になっているが、MARK-Iは別の構造物になっている。(配管では接続されている)MARK-Iのサプレッションチェンバは図をみると球状のものが二つついているように見えるが、これは断面図であり実際はドーナツ型の構造になっている。

サプレッションプールは予備の冷却材の役割とともに、原子炉圧力容器からベントしたときの蒸気をサプレッションプールに導き冷却・凝縮させるという役割もある。

もし、圧力容器に繋がる大きな配管が破断したら、漏れた冷却材は原子炉格納容器内に溜まる。非常用冷却系はサプレッションプールを水源とするので原子炉圧力容器→サプレッションプール→非常用冷却系ポンプで冷却水のループが完成できる。

制御棒

燃料集合体間に挿入する十字のブレード。中性子をよく吸収する素材で作られており、燃料集合体間に挿入すると中性子を遮断するので核反応が止まる。運転開始時は徐々に引き抜き、普通は全部抜いている。通常運転中は頻繁に操作しないが、燃料を均一に燃やすために部分的に挿入したりもする。

制御棒駆動水系

制御棒は水圧で駆動される。新しいABWRという炉だと電動駆動もできる。駆動に用いた水は炉内に放出される仕組みになっている。また、パージ水といって制御棒駆動機構にゴミが入らないように常時少量の水を炉内へ放出している。

サプレッションプール

ウェットウェル内部にある貯留水。原子炉圧力容器をベントして内部の圧力を逃がすとき、蒸気はサプレッションプール内に放出して液体に戻す。あんまりベントすると温度が上がり液体に戻せなくなってくる。また、ECCSの水源としても用いる。

また、圧力容器が破損した時は流出した冷却水がサプレッションプールに溜まるようになっており、サプレッションプール→ECCS→原子炉圧力容器の間で冷却水のループを構築することができる。

スクラム

全ての制御棒を全挿入する操作。異常事象が発生した時に自動で作動するほか、手動で動作させることも可能。BWRの場合、制御棒は下から上へ挿入する。上から挿入したほうが重力に任せて落下させることが出来るので都合が良いのだが、BWRの場合は大きな気化器が燃料上部に配置されているほか、蒸気配管が多数上部に設置されているためそのようなことができない。制御棒は普通水圧で駆動させる。スクラム時には蓄圧された窒素ガスによって水圧を生じさせて一気に挿入させる。挿入させたあとはラッチ機構があるため抜け落ちないようになっている。

ベント

弁を開いて圧力を逃がす操作。