クリーンディーゼル、ガソリン、勝つのはどちらか

下記の国際AVL会議というもので、マツダの偉い人(執行役員 人見氏)が基調講演しました。

26th International AVL Conference "Engine & Environment"

タイトルは、「Both the Gasoline and Diesel Engines will be Winners」です。ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンの両方が勝者だそうです。内容はググっても出てきませんでした。今後もし紹介する記事などが見つかりましたら要約してみたいと思います。

最近のクリーンディーゼルの過熱感

最近の自動車関連記事を眺めていると、どこもマツダのクリーンディーゼルを絶賛しています。マツダのクリーンディーゼルでの一番の進歩は尿素水噴射などのNOx後処理システムを使わずにEURO 6やポスト新長期規制といった排ガス規制に適応できるという点であると思います。そもそも乗用車用ディーゼルが廃れたのは、日本ではNOx規制が厳しかったからです。対して、欧州で乗用車用ディーゼルが隆盛したのはNOx規制が緩かったからです。

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 image from jama

耳が痛くなるほどよく聞くのは、「日本はディーゼルを悪としている。欧州ではディーゼルの方がクリーンだと言われている。なぜならばCO2排出量が少ないからだ」ということです。海外の例を引き合いに出して日本がダメだという論述は自動車に限らずどの世界でも嫌になるほど見ますが、よく考えたほうが良いでしょう。

ディーゼルの例で言えば単に規制が欧州で緩かったからにすぎないと思います。日本でも同様のことが言えます。まだ90年代はたくさんのディーゼル乗用車が走っていましたが、NOxやPMの規制が厳しくなった2004年あたりから姿を消しています。

また、ランニングコストが安いという面もあるでしょう。


image from 経済産業省 乗用車分野へのディーゼル車導入について

欧州ではドライバーの平均走行距離と平均車齢が日本に比べて圧倒的に長く(高く)、また、ディーゼル車の規制が緩いおかげで製造コストも圧縮できるという背景があります。また、ディーゼルは高圧縮比を実現できるので熱効率が良いので燃費も優れます。つまり、単に安いからディーゼルを選んでいるのです。CO2の排出量が小さいから環境にやさしいだの、そう言う人もいますが、果たしてユーザーの中でCO2やNOxの排出量を比較して車を選ぶユーザーがどれだけいるでしょうか?私はただの一人もそう主張している人を見たことがありません。ユーザーは安い車(コストパフォーマンスが良い車)を選ぶ、それだけです。

話をマツダのクリーンディーゼルに戻します。マツダのクリーンディーゼルにおいて今までのシステムと比較して特筆すべきなのは、尿素水噴射などのNOx後処理システムを使わずにEURO 6やポスト新長期規制といった排ガス規制に適応できるという点であると思います。ただ、環境に良いからといって選ぶユーザーは居ません。ユーザーにとって一番の関心ごとはどれだけコストパフォーマンスが良いか、ランニングコストが安いか、です。

コストで言えばマツダのクリーンディーゼルは今一歩といったところです。新型デミオのグレードを比較すると、13Cガソリンと1.5 XDディーゼルの価格差は43.2万円。装備が若干XDの方が良いのと、AQUAに対抗して利幅を削っているであろうことが予想されるのと、また、1.3Lと1.5Lで排気量分の差があるのとで比較が難しいのですが、ざっくり言ってディーゼルエンジンとガソリンエンジンのシステム全体のコスト差はやはり世間で言われている通り30~40万といったところなのでしょう。30~40万のコスト差を日本の平均的なドライバーの走行距離で回収するのは厳しいです。

今のクリーンディーゼルでユーザーが得られる利点としては、おそらく低回転数からの圧倒的なトルクによる加速感だけだと思います。走行距離や、イニシャルコストの削減の仕方によっては高い燃費性能という点も利点になるかもしれませんが。

低速からのトルクが欲しかったら別にディーゼルでなくとも実現可能で、VWや日産がやっているようにスーパーチャージャーを積んでも良いはずです。ガソリンエンジンや補機類だってディーゼルが進歩してきたのと同じ年数の進化を重ねています。ターボやスーパーチャージャーを搭載しても昔のように燃費は悪化しません。

こういう背景を踏まえると、「やっと欧州のレベルに日本が追い付いた!」というようなことを言って盛んにディーゼルエンジンを褒めるのは私には違和感があります。ただの設計思想の違いのような気がします。

そもそもガソリンエンジンとディーゼルエンジンは接近している

発表内容が分からないのでマツダの偉い人が何を思ってガソリンとディーゼル、二人ともWinnerだと述べたのかはわかりませんが、私も同意見ではあります。そもそも近年のガソリンエンジンとディーゼルエンジンは似たような仕組みになっているからです。

マツダのエンジンが良い例でしょう。SKYACTIV-DエンジンとSKYACTIV-Gエンジンはともに圧縮比14です。圧縮比が高い方が理論上の熱効率は良くなりますが、より頑丈な機構が必要になり重くなりますし、高圧縮領域で燃焼させるとNOxやPM(微小粒子)の発生量も多くなります。圧縮比を小さくすれば熱効率は落ちるものの、頑丈な機構が要らなくなるので機械的なロス、重量軽減分での燃費性能の向上、また、ディーゼルエンジンであっても良く回るエンジンを作ることができます。こういうことを目論んでディーゼルエンジンの圧縮比は小さくなっています。

対してガソリンエンジンは熱効率の向上を求めて圧縮比を向上していきました。ガソリンエンジンでは混合気の圧縮比を挙げていくとプラグによる着火よりも前に自然発火してノッキングが発生してしまいます。ガソリンエンジンでの高圧縮比を実現できたのは筒内直接噴射(DI; Direct Injection)や4-2-1排気システムなどが利用可能になったからです。空気を圧縮した後に燃料噴射を行うので直噴エンジンはノッキングに強いです。また、4-2-1排気システムは排気の逆流が少ないために筒内温度を効果的に下げれるため、これも対ノック性の向上につながります。

また、近年におけるVWを筆頭とするダウンサイジングもディーゼルへの接近と言えるでしょう。ダウンサイジングの肝は小排気量エンジンを積み、なるべくスロットルバルブを開けてポンピングロスを少なくさせるところにあります。そのうえで、補機類を使って出力上限の幅を確保します。これはまさにディーゼルターボの手法と同じでしょう。

将来的にはガソリンエンジンとディーゼルエンジンはさらに接近します。HCCIエンジン(Homogeneous-Charge Compression Ignition, 予混合圧縮着火エンジン)というのがそれにあたります。以下が日産の資料です。

HCCI (Homogeneous-Charge Compression Ignition)予混合圧縮着火

HCCIエンジンでは燃料にガソリンを使いながらもディーゼルエンジンのように圧縮後に自己着火させるような方法を用います。これによって圧縮比は18:1程度まで向上するそうです。各社研究していますが、思うようにHCCIが利く領域が広がらないというところが実用化の壁になっているそうです。ちなみに、マツダのSKYACTIV Gen2というのがHCCIエンジンの実用化になるそうです。以下が手前味噌の説明です。

【解説】次期SKYACTIVとは何か?

欲しいと思ったものを買えばよい

色々書きましたが、私が伝えたいことは「欲しいと思ったものを買えばよいですよ」という事です。ディーゼルのメリットとデメリットを良く分析したうえでディーゼルを選ぶのであれば、それはとても良いことだと思います。しかし、ディーゼルがもてはやされているからと言って、それに乗せられてディーゼルを買ってもあまり良いことはありません。

何事もそうですが、情報が氾濫する現代社会においては冷静に物事を分析する能力がどんどん重要になってきます。「第三の波」を書いたアルビントフラーは「21世紀の文盲とは、読み書きできない人ではなく、学んだことを忘れ、再学習できない人々を指すようになるだろう」と言っています。最近何度も繰り返し同じことを書いていますが、私が一番伝えたいのはそういういことです。