星のカービィの匂い

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わたくし、日々、こう、会社に行くために駅から20分くらいかけて歩くのですけれども、この20分という距離が地味に遠く、会社にたどり着く間に朝から汗水流して死にそうな顔をした会社員、馬鹿でかい鞄を抱えて走る中学生野球部、薄ら笑いを浮かべながら訳の分からない歌を口ずさみ自転車を走らせる変態、などに良く会います。

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しかしながら、これ、本当都会の悪いところだと思うのですが、どこに身を置いても自分のパーソナルスペースが確保できないんですね。人はその状況や心理状態に応じて変化する、それ以上近づかれると不快感を感じる距離というものを各々持っていまして、多分、私はそれが広いと思われます。私は老若男女、だれであってもあまり近づかれるのが好きではありません。なぜか。

それは、たとえば、今の時代に安全が確保・担保されている状況などほとんど無く、ましてや東京などという人口過密地域では、いつ見ず知らずの変態に包丁で刺されるのか分からない。同級生を殺す女子高生も居れば、歩行者天国道路に突っ込んで行ったのちに通行人を切りつけるような人も居ますし、怪しげな脱法なのか遵法なのかグレーゾーンなのか良くわからん薬物ないしは植物を吸い、通行人めがけて車でタックルの練習をする、などの行為を働く人も居ます。

で、あるがために、私が電車に乗っているとしますでしょう?それで立っているでしょう?それで思い出し笑いしたとするでしょう。たとえば中学時代の私の同級生のA君が「ヨーロッパの首都はロンドン」「仙台県ができた」などの妄言を本気で信じ込んでいたことなどを思い出すでしょう?そいで、ちょっとふふっと声が出ちゃったとするでしょう?

したら、目の前に座っていたアニメのキャラクターが付いたTシャツを着た巨漢の男無職38歳が「笑うなぁー!!」と叫びながら私に刃渡り12cmにもなる大型のナイフを突き刺す可能性もゼロではないのであって、そんなもんを胸に突き立てられたら刃は容易に大動脈弓に到達して私死ぬでしょう?死んだらどうなります?

するとニュースで騒ぎ立てるね。まずは。「アニメのTシャツを着た38歳無職が前途有望な29歳メーカー会社員を殺害、マジ鬼畜、もとい、キ○ガイ」などと報道するでしょう。ちなみに、29歳と書いているのは早生まれである私の最後の抵抗でございますよ。そしたらどうなります?

「アニメのTシャツを着てるっていちいち報道するマスゴミ何なん?アニメ関係ねえだろ」「いや、でも実際今までこういう犯罪者ってアニメ好きだから」「はあ?じゃあコイツがドラえもんのTシャツ着てたらどうなんだよー、絶対アニオタとかって報道しねーだろ。まどマギのTシャツだから報道してんだろーがーよー」「すげーツワモノだ、俺無理」「いや、38歳でドラえもんもアカンでしょ」「じゃあセーフラインは何処なん?一般的にはどこから許容されるん?」「んなもんにセーフラインあるか、38歳でアニメのTシャツ着てる時点でアウトだろ」「いや、でもデザインTシャツでアニメキャラついてるやつだって有るだろうが、おそまつ君のドットプリントがついてるTシャツ持ってるけど、別に普通だろ」「昔、おそまつ君とバカボンが合体した劇場アニメあったよな」「あー、あった。なんだっけ?西遊記っぽい話だよな。バカボンのママが三蔵法師だった気がする」

などというしょうもない議論がネットで巻き起こるのであって、前途有望な29歳会社員に同情する声は皆無。これで終わればいいものの、この後で「38歳無職の男は引きこもり経験があり、引きこもり中に父親をバットで殴ったことがある、直近の職歴は牛丼屋アルバイト店員だったが店長と揉めて解雇」などと報じられると、「また引きこもりが悪いとか言ってる。いい加減にしてくれ。ごく一部の凶悪犯罪例を持ち出して引きこもり全体の印象操作するのが日本のマスゴミ」「っていうか社会が悪いよな。新卒社会で就活に失敗したらもうアウトだろ。仕事したくないんじゃなくてできねーんだって」「いや、ハローワークくらいいけや。選ばなきゃ仕事なんて山ほどあるだろ?」「はあ?山ほど?その山ほどあるのが牛丼屋店員だろwww超絶ブラックだろwww」「引きこもりは甘え」「欧州ではワークシェアリングが普通。日本では数パーセントの人間が富を独占してる。格差社会を増長してるのが安倍政権」「っていうか、普天間移設やめろ」「そうだ、俺は納得してねーんだよ」「集団的自衛権やめてくださーい」「ベクレルやめてくださいー」「俺、無防備都市宣言するわ」

などと議論は紛糾。裁判では被告の責任能力が争点となり、弁護士が妙にやる気出しちゃって「心神喪失状態にあった」と認定。精神病棟に入院。でもみんなそんなことには別に興味が無くて、一時期盛り上がっていた議論も「使途不明金を追及された県議が会見で逆切れ」などのニュースにかき消され、ニコニコ動画で県議を茶化す大量の動画が投稿される。

・・・・という風になる可能性はゼロではないのであって、あー、なんだっけ。そう、だから俺は人が嫌い。知らないおじさんには付いていかないし、電車でどんなに可愛いくて乳のでかい女の子が乗ってきて隣に座っても、それが誰であろうと隣に座った瞬間に俺は席を立つね。これは相当に感じ悪いと思う。巨乳の女の子だって、テメーの隣なんかに本来であれば座りたくねえんだよ。って思ってると思う。でも、俺は避ける。だって、嫌なんだもん。だから私は電車で良く立ってるんだけど、たまに「座りなさいよ」としつこく勧めてくる人がいて本当に困る。だから俺は極端に空いている時以外は立って居たいんだって。

で、冒頭の話に戻るんだが、それほど人が嫌いな私であるがために、パーソナルスペースは十分に確保しておきたいのですが、東京じゃいろんな場面でそれは無理。往来を歩くだけで数多の人と接触しそうになる。人通りの少ない路地を選んで歩くと今度は家々の生活音や料理の匂いなどがあるのでこれもいやだ。私の会社の近くにある家の母親はいつも怒っていて、怒鳴り散らされた子供の泣き声が常時聞こえる。これが東京である。気鬱になる。

そいで今日も今日とて歩いていて交差点に差し掛かった際、向こう側から齢20代後半に見せておいて実は30代くらいの女が歩いてきたんだけど、こう、最短距離を歩きたいがために交差点のカーブですごいインを攻めてくるんですよ。しかしながらそのラインを取って歩くと私といずれぶつかってしまうのは容易に分かるような状況であって、それでも女は知らんぷりして突進してくるんです。

つまり、その女、「なによ。あんたがよけなさいよ」そう体全体で表現しているんです。私はそっぽを向いていてあなたの事に気付いてないんだから、気付いているほうがよけなさいよ。そういう態度を取っている。そういうことをして、楽を追求し、わずかな運動をも惜しむのでババア化が進行するんだぜ。

で、俺もイラッと来るので絶対避けない。こうなるともうチキンレースのようなもんであって、お互いギリギリのギリギリのラインまで接近してくる。この行為は先に言うパーソナルスペースの確保と矛盾するようであるが、このようなシーンではイラつきの感情によってオーバーライドされる。

ほいで、女が面倒くさそうに半身避けた瞬間であった。星のカービィの匂いがした。

ちょっと意味が分からないと思うので解説いたします。

私はとても不思議な感覚に陥ることが多々あります。その大半は、ある特定のにおいを嗅いだときですね。と、書くと、こいつは匂いフェチで犯罪者の気質あり、と、通報する人とかいるかもしれないんだけど、まあまあ、そこはちょっと堪えて携帯電話を置いていただきたい。

で、たとえば、今回のケースでいうと星のカービィがそれに当たりますな。

星のカービィとは言うまでもなく任天堂とHAL研究所が生み出したよくわからんピンク色のゲームキャラクターでありまして、まあ、そいつは架空のキャラクターでありますから、特に匂いもクソもないわけです。

でもな、俺にはわかるんだよ。何故だか自分でもわからんが。でも星のカービィの匂いがわかるんだよ。

その女とすれ違った瞬間、私は小学生に戻っていた。ゲームボーイのスイッチをONにしたら任天堂のロゴが降りてきて、白黒液晶の画面にカービィが縦横無尽に駆け回り、そして、1UPをゲットしたのだ。その瞬間。「ポロピッピッポー」と1UPした効果音が鳴り響いたのである。女とすれ違った瞬間に。

家の近所にSくんという友達がいた。彼は女の子みたいな名前だったけど、まあ、男でも「おお、かっこいいじゃん」と言われるような名前だった。本人曰く、病院が男と女を間違えて母親に伝えてしまい、それを信じてすぐに出生届を出してしまったのだそうだ。で、まあ、それはいいんだけどそのSくんは結構そうは見えないんだけどゲーマーの気質があり、たとえばポケモン赤緑に真っ先に触手を反応させて友達皆に広めたのはSくんであった。今思うと、Sくんはカービィも好きであった。今でもカービィという名前を聞くとSくんを思い出す。

で、話を戻して、あの女の匂いをかぐと、なんでかなあー。なぜかSくんとカービィを思い出すんだなあー。あの匂いはカービィそのものだよ。ホント。

Sくんはゲームボーイの通信ケーブルを持っていたのでポケモンの交換ができたんだよ。だから151匹揃えれたんだけど、私はそんな高等なケーブルを所有していなかったので、151匹は集めれなかったし、集める前に飽きた。

んがが、なんですか。最近は妖怪ウォッチなどというポストポケモンみたいなゲームだかアニメだかよくわからんものが流行り、そしてyoutubeでそれを見たんですけど、なんですか?「今何時?クソタイムー!!」などと信じられないくらい下品な歌詞で、ほんといかがわしいことこの上ないと思う。

と、まあ、PTAぶってみたけど、我々の頃もコロコロコミックなどを開けば小林よしのりが「おぼっちゃまくん」でウンコをこれでもかと書き尽くしていましたし、刑務所に入って残飯を漁るシーンなども書いていましたし、アラレちゃんなんかも結構露骨で、ウンコを持って走り回っていたし、まあ五十歩百歩かな、とも思う次第でございます。ちなみに私はドラゴンボールが大嫌いでございますが、アラレちゃんはなかなか好きです。ツインビーを思い出す。アラレちゃん。関係ねーけど。

んー、酒が入ってるので何の話をしているかわからなくなってきたのだけど、そうだね。テーマはカービィの匂いなんだ。で、俺が言いたいのは、その、インを攻めてきた女がカービィの匂いだった、ということそのものだよ。つまり、客観的にそれを説明するならば、その女の匂いは、なんだろう。家の匂いってあるじゃん。XXXXんちの匂い、ってあるだろ。あれに近かったんだな。シャンプーとか香水とかの匂いじゃなかった。で、その匂いがたぶんSくんのうちの匂いと似てたんだよ。だから、カービィの匂いとして俺に知覚されたんだな。

共感覚という現象があり、例えば音階や数字に色がついて知覚されるようなタイプの人がいるそうだ。それと比較するのもおこがましいと思うが、でも、確かにそれに近いと思う。

ほいで、その女が去った瞬間、私はすでに小学生へと変貌し、強烈に迫り来るカービィという名の津波が巻き起こす郷愁に耐えられずに、ちょっと涙しそうになったのだけど、朝っぱらからインを攻めてくる面倒くさがりな女とすれ違った瞬間に涙をながす今年30歳の男は客観的に観察するととても気持ちが悪いと思ったので、私は空を見た。上を向いて。歩こうよ。涙が、こぼれないように。

ちなみに日航機の事故は私が生まれた年でした。