マツダコネクトは本当に「古くならない」のか

マツダコネクトの開発」というマツダ公式の技報を読んでみたので、感想を述べたい。

マツダコネクトはスマートフォンやオーディオプレーヤーと単につながるだけでなく、それを安全に楽しむことができ、ひいてはもっと車に乗りたくなるようなシステムを目標に開発を行ったそうだ。そのために必要であると考えたのが、

  • (1) 走行安全性を最優先したHMI
  • (2) 古くならないシステムの構築
  • (3) インテリアデザイン革新をサポートする

の三点だそうだ。

古くならないのか?

Wifiでアップデート可能であるから古くならない、という論理は楽観的過ぎると思う。それはスマートフォンを見れば明らかだ。数年前に発売されたスマートフォンはほとんどがアップデート対象から外されてしまっている。

マツダコネクトのシステムスペックとソフトウェア動作環境は最近のスマートフォンとかなり似ているが、車とスマートフォンでは製品寿命も価格も全く違う。スマートフォンは製品寿命が車に比べれば短いし、価格も安いので「新しいスマホに変えるか~」と思ってくれるユーザーは多いだろうが、車の場合はマツダコネクトが古くなって新しいソフトウェアに対応できなくなったからと言って「じゃあ新車に買い替えるか~」と思うユーザーはほぼ皆無だろう。

ソフトウェアの進化はハードウェアの進化と密接に結び付く。新しくなったハードウェアによって受けられる恩恵(新機能、性能の向上、それによる新しいフレームワーク)を最大限に享受したいというのはソフトウェア開発者にとって当然のことである。そうして新しい環境に合わせて作ったソフトを古いハードウェアで動かすことはどんどん難しくなる。

逆に、古いハードウェアに合わせたソフトウェア設計をするのも可能であるが、すると新しい機能を組み込んだソフトウェアは作りにくくなり、結果として新しいハードウェアでも古いハードウェアでも競合製品に比べて古臭いシステムになってしまう。

それに、ソフトウェアを継続的に保守するというコストについても軽視されているような気がしてならない。新しいアップデートを提供し続けるだけでも大変であるのに、「古くならない」とはつまり、新しいフィーチャーを提供し続けるということであろう。新しいハードウェアから古いハードウェアまで動作する新機能を提供するためにはかなりの金が掛かるはずだ。

もっとも、以上を要約すれば「不可能では無いがとても難しい」ということである。技術的には可能であると思うので、マツダがある程度コスト回収を度外視して本気でそれをやっていくという気概をもって取り組んでいるのであればそれはユーザーとして歓迎すべきことである。しかしながら、「ホワイトレーベルのソフトを買ってちょろっとカスタマイズ&ローカライズして売ればぼろ儲けやん」という発想で取り組めばこの試みは確実に失敗する。

個人的な意見だが、これまでの経緯を見るにどうも場当たり的な対応が多いような気がしてならない。ナビについては「技術者が現地常駐して期間を定めて改善できるよう全力で取り組んでいる」「短期間で大規模な改善を実現する」などという記事を見たことがあるし、新しいデミオの販売時期が夏から秋へずれ込んだというのもマツダコネクトに搭載するナビの改善に取り組むためという噂もある。

少なくともダメなソフトウェア(現ユーザーの多くの評価である)を数か月という短期間で劇的に改善できた例というのは聞いたことが無いし、一応ソフトを作っている技術者として言わせてもらうとかなり難しい目標であると思う。

ベストでないがベター

「古くならないシステム」を作る以外の目標として、「走行安全性を最優先した HMI 」「インテリアデザイン革新をサポートする」を実現するという目標があると記されている。

なるほど、それは重要であると思う。走行中にオーディオやナビをいじるのは難しいし、高いレベルでにインテリアと統合・調和されたインタフェースは見ているだけで美しい。そしてその二つは現在のDINという規格の枠組みの中では実現不可能である。

それから行き着く結論として、マツダ独自のナビ・オーディオ・その他GUI関連機能を統合したシステムを作り、継続的にアップデートしようというのもわかる。わかるが、これではユーザーの理解は得られないだろう。

ユーザーはわがままだ。ナビやオーディオシステム一式を押しつけられて、これを使ってね、社外品?それは無理っすねー。でもマツダコネクトでもちゃんとしたナビもSNS連携もスマホ連携もできるんですよ?今はダメだけど。すぐアップデートするって!先生の次回作にご期待ください。・・・という態度では納得できないだろう。しかも、搭載されたナビシステムは今のところかなり不評なのだから。ユーザーは、今すぐ、先進的で美しくて使い勝手が良くて素晴らしいシステムを使いたいのである。

2014新型デミオはマツダコネクト搭載」でも書いたが、私が思うベストは、GoogleがOpen Automotive Alliance(OAA)を成功させてDINという規格を駆逐するシナリオである。現在のAndroidスマホのように操作系をある程度統一してしまい、車側にはそれに合わせたコントロールユニットとディスプレイをインテリアと調和する形で設置しておく。中心となる部分は購入後でも容易に交換して他社製品に載せ替えれるような設計にしておき、HUDのような周辺機器はBluetoothなどで接続する。

すると、ユーザーは自分で好きなハードウェアとソフトウェアを選択することができ、かつ、インテリアとの調和性や高いレベルのHMIも実現できる。ここから独自性を出していくのも簡単だろう。インタフェースさえ用意しておけば、たとえばA社製ナビではHUDが後付で付けられます!とか、ノイズに強い地デジアンテナです!とか、HDMI端子がついてるとか良いオーディオアンプを使っているとか、何とでもできるだろう。

ただ、この方法は「いつ実現できるか分からない」「そもそも実現できるかわからない」という問題点もある。OAAの方向性は一社の都合だけでは決められないし、うまく行くのかダメになるのかも未知数だ。それを待ち続けたのであれば、たとえば新型デミオのような美しいインテリアデザインは生まれなかったであろう。

私が経営者の立場であったとしても、同じように迷わずマツダコネクトの開発推進を決定すると思う。その選択はベストではないが、確実に現時点で実現可能で得るものも大きい。DIN規格でない専用設計ナビの搭載というのは別段珍しい事でもないので、リスクも低いだろう。

で、今マツダがやるべきことは、今現在実際にそうしている通り、ナビ機能の改善に全力を注ぐことでる。その後、OAAの成果が出始めたときに、マツダコネクトとOAAの成果がどのように統一されるのか楽しみだが、現時点で道筋はまだ全然見えてこない。

ちなみに、OAAの成果が反映された車種が今年末に販売されるとGoogleは言っている。本当かな?と思ってしまうくらい早いのだが、今のところは期待して待っている。