全5回で終了するつもりだったのだけど、全6回になってしまった。一応、次回で最後になる予定だ。今回は、日本市場の特徴について述べたい。
日本市場の特徴
日本の市場の特徴を考えたときにまず外せないのが、道路事情である。日本の国土は8割が森林という島国に1億超もの人間がひしめきあって住んでいる。このような環境では、広くて直線の多い道路など作れるはずもなく、必然的に細くて曲がりくねった道が多くなる。市街地に隣接する道路では騒音に悩まされることになる。1車線しかない高速道路も随所で見かける。よく写真で見るような、どこまでも果てしなく続くアメリカの道路のような道は日本では作れそうもない。
スピードを出せる道路が少ない
具体的な数字を見ていこう。以下は森林を除く国土面積あたりの道路長のグラフである。
日本は他国と比べて突出して道路の密度が高いと言える。しかしながら、道路の密度が高いという事は、単純に交差路も多くなるという事である。基本的に道路は地で二次元的に作るしかない。もちろん立体交差も可能であるが、立体交差は建設費が高い。場所を取るので用地費もかかる。したがって、道路密度が圧倒的に高いという事は、信号の多い街路のようなものが圧倒的に多いとみるべきだ。・・・と言い切るのは若干の抵抗もあるが、日本に限ってはそのような構図であるのは間違いないだろう。
合わせて、以下の資料を見ると良くわかる。以下が各国の人口当たりの道路整備状況の比較と、高速巡航できる道路の総延長の比較だ。
image from 国土学からみた北陸の地域づくり(下) | 北陸地域づくり協会
<制限速度60km/h以上> | <制限速度100km/h以上> | |||
道路延長 | 対象 | 道路延長 | 対象 | |
日本 | 約21,200km | 自動車専用道路、一般国道 | 約2,800km | 自動車専用道路 |
フランス | 約36,800km | 高速道路、国道 | 約10,200km | 高速道路 |
ドイツ | 約53,100km | アウトバーン、連邦道路 | 約12,000km | アウトバーン |
table from 国土学からみた北陸の地域づくり(下) | 北陸地域づくり協会
さらに、制限速度を比較してみよう。
国名 | 市街地区域外 | 市街地区域内 | ||
高速道路 | 自動車専用道路 | 一般道路 | ||
ドイツ | 130 | 100 | 50 | |
イタリア | 130 | 110 | 90 | 50 |
ポーランド | 130 | 110 | 90 | 50/60 |
スウェーデン | 110 | 70 | 50 | |
スイス | 120 | 100 | 80 | 50 |
UK | 112 | 112 | 96 | 48 |
USA | 88 | 24-64 |
単位:km/h
table data from ECE 構成国における乗用車の制限速度
欧州は高速道に乗らなくても、市街地でなければ100km/h前後の速度は出せるのだ。それに加えて高速巡航が可能な道路庁も日本とは比較にならないくらい長い。ではなぜ、日本では高速巡航が可能な道路が少ないのだろうか。それは、簡単に言えば金が掛かるからだ。日本の道路は金が掛かるから、良い道路が作れないのである。
以下の図は国土交通省が提供する「我が国における 公共工事コスト構造の特徴」から抽出した資料だ。
なんと、日本の高速道路建設費は米国の2.6倍にもなっている。単純に考えれば、同じ予算で米国の方が2.6倍も長い高速道路ができるという事である。米国に比べると日本のコストアップ要因のうち大きなものは用地費と構造物の違いである。国土が狭いと用地費が掛かるのは容易に想像がつくだろう。単純に地価が高いし、住宅地周辺では騒音問題などから反対運動がおこるケースもある。
構造物とは橋梁やトンネルの事である。同資料を参照すると、道路総延長に対する構造物(橋梁とトンネルの総延長)の比率は、米国が6.6%であるのに対し、日本では36.0%にも上る。しかも、その構造物も地震対策や軟弱地盤の改良などによって建設費がさらに高コストになりがちだ。
消費者の分析
次に、日本における乗用車販売市場の特徴を調べてみたい。参照したのは日本自動車工業会の市場動向調査である。以下に要約を記す。具体的な数値は原文を参照してほしい。
- 車は「あると便利だから」買うのではなく「必要だから」買う
- 自動車を持たない理由で多いのは「ガソリン代、駐車場代が負担」「車検費用が負担」
- 大型車から小型車への買い替えが多い
- 特に地方圏で軽自動車が好まれる
- 先端技術では圧倒的なEV/HV人気、次いでクリーンディーゼル、超低燃費ガソリン車
これらの結果から、以下の事が読み取れる。
車に金をかけたくない
車は必要だから買う。大型車から小型車への買い替えが多い。軽自動車が好まれる。維持費が負担。これらの事実が指し示すのは、「車に金をかけたくない」という消費者の意識の表れだろう。
特に維持費が高いのを嫌う
EV/HVが人気であることと、維持費が負担であるから自動車を持たないというあたりの理由から、消費者は特に維持費がかかるのを嫌っている傾向が読み取れるのではないだろうか。(ただし、HV/EVは維持費が安くともイニシャルコストが高いのでイニシャルコストを回収するのに長い期間がかかってしまうことは何度も当ブログで指摘した)
大型車から小型車への傾向
大型車から小型車へ、または、大排気量からより小さい排気量への乗り換えをする消費者が多いという結果が出ている。対して、小型車や軽自動車に乗っているユーザーは、次も小型車や軽自動車に乗ることが多いという結果も出ている。
タイプ別の売上比較
次に、日本車のタイプ別の売り上げを比較してみた。ソースは自販連。2013年のデータを集計した。ただし、一部の分類(セダン、ハッチバック、コンパクトの比率)は私の独断による。
(具体的には、この残りのうち、5ナンバーサイズであればハッチバックでもコンパクト、セダンはセダン、3ナンバーのハッチバックはハッチバックという分類にしてある。ここまで細かな分類が無かったので、2013年度車種別売上ランキングのTOP30までの車種のうち、上記三つの比率をもとめ、そこから販売台数の割合を求めた)
ボディタイプ | 販売台数 |
セミキャブワゴン(ミニバン) | 770,541 |
SUV | 227,532 |
ステーションワゴン | 404,075 |
セダン | 212,485 |
ハッチバック | 425,122 |
コンパクト | 1,222,768 |
軽自動車 | 2,112,885 |
やはり小さいボディサイズが好まれるようである。また、特筆すべきはミニバンであろう。なぜこんなに日本人はミニバンが好きなのだろうか。
別記事で詳しく考察しようとは思うが、日本で軽自動車が好まれるのはやはり税制上の優遇があるだろう。さらには、高速巡航をするケースが少ないということも挙げられる。欧州のように、郊外では100km/h近い速度を頻繁に出すような環境だと、軽自動車ではパワー不足である。日本であればこのデメリットが目立ちにくい。
ミニバンが好まれるのも同様の理由があるかもしれない。ミニバンは重量があり、さらには積載性を優先してあまり良いサスペンションを使わない傾向があるが、これも長距離の高速巡航や、高速度の領域での運動性能はきついものがあるだろう。日本だからこそ、そういったデメリットが目立たないということがあると思われる。
次回、最終回ではこれまでの考察を元に、今後の20年くらいで車はどう変わっていくかをまとめてみたい。