マツダ SKYACTIV-D 1.5エンジンのソレノイドインジェクタ

前回の記事の後で、再度マツダの発表を読み返して気づいたこと。

インジェクタにはソレノイドを利用しているとある。以下、マツダのニュースリリースからの引用。

高分散噴霧のソレノイドインジェクターと段付エッグシェイプピストン*4による火炎の壁面接触低減、過渡燃焼制御技術により冷却損失を抑制

ピエゾインジェクタとは何か

規制が厳しくなった後のディーゼルエンジンには、コモンレールとピエゾインジェクタの組み合わせが良く採用される。

特にPMの発生を抑制するためには、燃料を均一に燃焼させることが大事である。近年では燃料を均一に燃焼させるための方法として、燃料を複数回に分けて細かく燃焼させるような方式がとられてきた。

以下がトヨタが出願している燃料噴射方法の特許に掲載されている図である。

image from 内燃機関の燃料噴射制御装置 WO 2012035635 A1

ここで言うパイロット噴射とは、燃料の燃焼を行う前に、筒内に均一に燃料を分散させるために行う噴射の事である。これを行った後に燃焼に大きく寄与するメイン噴射を行う。場合によってはメイン噴射の後に、触媒をより効かせる目的で燃焼ガスを高温にするため、さらに燃料を噴射する場合もある。

現在のエンジンにおける要素技術のコアが、この回数や噴射時間、噴射量などである。最適な燃焼を行うためには燃料の噴射をより細かに制御できたほうが良い。すると、より細かに制御できるインジェクターが必要である。ピエゾインジェクタはそのソリューションの一つである。コモンレールと呼ばれる高圧の燃料タンクのようなものから燃料はインジェクタを通って噴射される。このインジェクタの弁開閉機構には、ソレノイド(空芯コイル)もしくはピエゾ素子が用いられる。

ピエゾ素子というのは、100円ライターのカチカチと火花が出るあれである。圧電素子とも呼ばれる。圧電素子は力と電圧を変換するような作用がある(圧電効果)ので、電圧を加えればピエゾ素子から運動エネルギーを得ることができる。これを用いて弁の開閉を行うのだが、ピエゾ素子を使うと何が嬉しいのかというと、動作速度が非常に速くできるのである。したがって、ピエゾインジェクターを使用した方がソレノイドインジェクターを使うよりもより柔軟な制御をしやすい。

一般的には、ソレノイドインジェクターが一回の燃焼で3~4回燃焼できるのに対し、ピエゾインジェクターは9回程度の燃料噴射が可能であると言われている。

なぜソレノイドインジェクタを使うのか

ここまでピエゾインジェクターの優位性を説明してきたが、ではなぜマツダの1.5Lディーゼルエンジンではソレノイドインジェクターを採用したのだろうか。これはおそらくコストの問題であろう。おそらく、と書いたがまず間違いないと思われる。

一般に、ソレノイドインジェクタとピエゾインジェクタでは、後者の方が高コストであると言われている。

既に本ページを見ているような方であればご存じであろうが、ディーゼル車のコストはまだまだ高い。たとえばアクセラはガソリン車に対して100万近い差がある。ディーゼルが普及していて、営業戦略的にもディーゼル車の価格を下げているというような欧州のマーケットでも、たとえばVW Golfは日本円にして20万程度の差がある

イニシャルコストを下げないとランニングコストでガソリン車との差額を回収できないので、ガソリン車に対する優位性をアピールしにくい。いくらディーゼルの燃費が良いと言っても、年間の燃料費で10万円も20万円も差がつくわけではない(そもそも燃料費にそれほどかからない)ので、イニシャルコストを下げるのはとても重要だ。

もちろん、ソレノイドインジェクタを選択したことによって、燃料噴射制御の自由度は減る。そこをどのように解決したのかは、まあマツダ社外の人間、ましてや私のようなエンジン工学素人には全然分からない。分からないが、それが解決できたからこそ、こうして商品化できたのであろう。

気になるデミオの価格

ソレノイドインジェクタはピエゾインジェクタに比べてコスト面で優位性があると述べたが、ではそれは具体的にどの程度なのだろうか。これはとても気になるところであるが、調べても分からなかった。海外の怪しい通販サイトで、一つのピエゾインジェクタが300~400US$で売られていたので、4気筒であれば16万くらいになるのだろうか。

根拠が無い、かなりおおざっぱな推論だが、たとえば16万のピエゾインジェクタを1万円のソレノイドインジェクタに変えることができたとしても、15万しか圧縮できない。アクセラで100万近い価格差のうちの、15万円である。

さらに、変速機構もどうなるか気になるところだ。従来デミオではCVTが採用されてきたが、これがディーゼルのトルクに耐えられるのかどうか不安なところがある。たとえばこれが全域ロックアップ機構付きの6速ATなどになった場合にどのようにコストに影響するのだろうか。

営業戦略的な側面を無視すれば、1.5Lディーゼルを積んだデミオの価格は200万は少なくとも超えるだろうと私は思っている。

ここからは個人的な感覚になるが、最上位グレード(sport)でも170万くらいという価格設定のデミオにディーゼルが乗ったとして、許容できる車体価格はせいぜい200万前後である。もちろん、200万でも買う人は買うだろう。でも私は、200万を超えるのであれば、デミオクラスの車としては明らかに高いと感じる。

私は昔、ディーゼルターボの車に乗っていて、しかもいまだにディーゼルが好きだが、それを加味してもガソリンに比べて30万以上の価値がディーゼルにあるとは思えない。だったら170万でガソリン最上位車種を買ったうえ、30万で中古のバイクでも買うとか、最上位機種のカーナビを買って、オーディオもいじるなどした方が楽しめそうだ。30万あれば家族で海外旅行にだって行ける。それらの方がディーゼルであることの価値よりも大きいと、あくまでも「私は」、思う。金は使うためにあるものだが、車体にだけ投入するものでもなければ、車にだけ投入するようなもんでもない。

マツダが本気でディーゼルを浸透させようとしていて、戦略的に利幅を大きく削って安い価格設定にするということが絶対ない、とは言わないが、まあ、大幅に値段を抑えるのであればそのくらいしか方法は無いだろう。

ただ、200万を超えるのであればほかのハイブリッド車と競合してくるので、ますます勝負は厳しくなる。先に述べたように利幅を削って安くするのか、もしくは、CX-5などの先行車種の成功を踏まえて強気の値段設定に出るのか、何とも言えないところだ。