次世代の車はどうなるか(4)ソフトウェアと電子制御

前回までは主にエンジンやモーターなどのパワートレインについて考えてきた。今回はもうちょっと範囲を広げて考えてみたい。今回のキーワードは、ソフトウェアと電子制御である。

IBMによる予測

2008年に発表された少し古い資料だが、IBMから「Automotive 2020: Clarity Beyond the Chaos(2020年の自動車:混沌の先の明確さ)」という報告が公開された。この中からいくつか興味深い記事を引用したい。

ハイブリッド車は一般的になる

現在、マイクロ/マイルド/フル・ハイブリッド化の広範な開発が進められている。2020年に生産されるすべての新車には、何らかのハイブリッド技術が搭載されているはずである。

マイクロ、マイルド、フルというのはハイブリッド化の度合いを表しているキーワードだ。厳密な定義は無いと思われるが、フルハイブリッドがプリウスやAQUAのようにモーター単体でも走行できるようなシステム、マイルドハイブリッドはフルに比べるとシステム重量も規模も小さいが、モーター単体では走行できないが、走行時のパワーアシストが可能なシステム、マイクロハイブリッドは回生エネルギーを電装品などに使用してオルタネータの負荷を小さくするようなシステムとして使われているケースが多い気がする。が、特にマイルドとマイクロの定義はあいまいだ。

2014年現在でもハイブリッド車は特別なものではなく、ごく当たり前のものになりつつある。日本における新車自動車販売数の上位はハイブリッドカーで占められ、さらに一般にはハイブリッドカーと呼ばれないような車であっても回生エネルギーの利用は普通に行われている(マツダのi-ELOOP、スズキのENE-CHARGEなど)。

ソフトウェアや電子・電気デバイスによる制御

2020年の自動車は、今後12年の間に段階的に実現されながら、最終的に現在の姿から一変するいくつかの大きな進歩によって特徴づけられるだろう。イノベーションへの取り組みは、自動車のさまざまな側面の中でも特にソフトウェア、電気・電子システム、エンジン/周辺システム、およびパワートレインに集中するであろう。

車は既にコンピュータの塊である。なんと、車1台には6インチウェハ分の半導体が搭載されているとも言われている。これは恐るべき数だ。ウェハのサイズやプロセスルールにもよるが、1枚のウェハからデスクトップPCのCPUであれば100個前後は採取できるのではないだろうか。

CPUはどんどん高性能化している。ということは、CPUを山ほど搭載している車もその恩恵を受けられると考えるのが自然である。たとえば、最近GPUメーカーであるnvidiaは自社製品のTegraを車載システムへ活用することを車メーカーにアピールしている。背景には、先細りのPC機器では食って行けず、スマートフォンではQualcommに太刀打ちできないという切実な事情があるのだが、十分に成長する市場であると見込んでの決断であろう。

たとえば、nvidiaが提案しているソリューションとして、より高度なナビゲーション、歩行者の検知、ナイトビジョン、信号や標識の検知、計器類の液晶表示化などが挙げられる。

ただしこれらはごく一部であって、高速化したCPUによってもっとたくさんの支援システムが登場するだろう。たとえば、前述したIBMの報告には以下のようなシステムが普及するだろうと予測されている。

現在開発中で、2020年までに全車種に普及すると予想されるアプリケーション
安全性

  •  赤信号無視防止
  •  車線逸脱防止
  •  路面/舗装状態検知
  •  全方位ビジョン
  •  アクティブ・サスペンション/安定性制御

運転者支援

  •  動的経路案内/ナビゲーション
  •  ドライブ情報(事故、特殊事象、天候、工事区間など)
  •  データ・ダウンロード(エンターテインメント、メディア、ホーム・ネットワーク、個人的嗜好)
  •  盗難車両の追跡・発見
  •  電子決済(通行料金、ドライブスルー、駐車料金、ロード・プライシングなど)

サービス

  •  遠隔車両診断
  •  遠隔車両予知診断・自己修復
  •  保証に基づく車両データ転送
  •  カスタマー・リレーションシップ・マネージメント(車両利用プロファイルやディーラー利用データなど)
  •  運転挙動に基づく点検時期の計画/警告/通知

いくつか細かいところを見ていくと、たとえば電子決済などというのはかなり現実性を帯びている。国内においてはETCの普及率が大幅に向上している。ETCのシステムを詳しく知らないので何とも言えないが、所有者と支払いに必要な情報は送信しているはずなので、読み取る装置さえあればドライブスルーでの支払システムも容易に構築できそうな気がする。

重要なのは、これが「全車種に普及する」と予測している点である。たしかに、開発コストを十分に回収できれば、それぞれのシステムに非常に高コストな機器が必要というわけではないので、現実的なように思えてくる。

企業の協力体制

 イノベーションのコストは個々の企業で支えられないほど上昇している。業界の枠を超えてイノベーションを求め、他の企業と協力して共通の問題を解決する企業こそが2020年の成功企業になるはずである。

直接ユーザーには関係ない話であるが、上記に挙げたような高度な情報システムを実現するのは車メーカーだけでは不可能である。これまで自動車産業とはあまり縁のなかった通信や情報技術を扱うようなメーカーも積極的にかかわることだろう。さらに、車メーカー同士の横の連結も不可欠だ。近年ではこのような例の枚挙にいとまがない。たとえば、最近では国内メーカー各社がエンジンの共同開発を進めるための共同組織を発足させた、というニュースがある。

 エンジン開発で結束、国内メーカーの危機感 乗用車メーカー8社が研究の共同組織を発足

航空機と車

私は車の発展に関して長年感じていることがある。それは車の技術発展の歴史は航空機、それも特に戦闘機の技術発展の歴史と非常によく似ているということである。

たとえば、機械式の過給器(スーパーチャージャー)は第二次世界大戦中から多くの戦闘機に採用されていた。また、高高度を飛行するために、酸素が薄い航空でも十分な出力を得るため、B-17、B-24、B-29といった爆撃機で排気タービンが採用された。戦後、過給器は自動車にも広く採用された。

操縦システムの変遷も似ている。初期は操縦桿がワイヤーやロッドなどを通じて直接翼と繋がるものであったが、徐々に油圧制御となった。それから、操縦桿の操作量は電気信号にに変換され、コンピュータによって補正されたのち、各部の電気油圧式のアクチュエーターに伝えられるようになった。車の操舵方法の進化も良く似ていて、最初はアクセルワイヤーがエンジンに直結しているような制御方法であったのが、徐々に電子スロットルへと置き換わった。ハンドルも油圧によるパワーステアリングから電気モーターによる電動パワステへと変遷した。

この私の予測が正しければ、現在の最新の航空機で取り入れられている技術は、そのうち自動車にも取り入れられるはずである。ここに、航空機ですでに取り入れられている技術や思想で、そのうち車にも広く普及するのではないかと私が思っているものを挙げる。

光ケーブルによる通信

私は現在、トヨタ プリウスに乗っている。カーナビやバックカメラの取り付けを行うため、内張りを剥がして私は驚いた。ものすごい数のケーブルが現れたのだ。場所によっては直径4~5cmにもなりそうな配線の束が縦横に張り巡らされている。これを見て改めて最近の車とはハイテクデバイスの塊なのだな、と思った。

車におけるワイヤーハーネスの多さというのは増え続けると問題を引き起こす。あまりにも数が多いと引き回しのために内装デザインに制約を生むし、重量も問題になってくる。なんと、軽自動車で約10㎏、大型車で40㎏以上もあるとのことだ。光ファイバーの通信速度と通信帯域は、電気的に通信するのとは比べるまでも無く圧倒的に大きいため、このほとんどを代替できる可能性がある。

航空機では光ケーブルによる通信はすでに実用化されている。電気信号による通信をフライバイワイヤと呼ぶのに対し、光ケーブルによる通信はフライバイライトと呼ばれる。

光ファイバーは、デンソーが過去車載機器に搭載した例がすでに存在する。コストの面で広まることは無かったが、電子機器が増えるにつれ通信量は増えていくはずだから、いずれは採用が広まるのではないかと予測している。その際は、CANなどの通信プロトコルを置き換えるところから始まるだろう。また、それに至るまで、ワイヤ内に複数帯域の電波を流して通信させる方式などが採用されるかもしれない。最終的には無線通信へと行き着くかもしれないが、それまでには通信距離や通信帯域、ロバスト性などの面で解決しなくてはならない課題が多々あるだろう。

グラスコックピット

nvidiaが提案しているように、液晶を使った計器表示はすでに市販車でも一部車種で採用されている。航空機でも近代的な機種では計器類の液晶化(グラスコックピット化)が潮流となっている。計器類の液晶表示化は航空機や自動車に限らず、電車や発電所の制御盤などありとあらゆるところで採用されている。

アナログ計器(針と目盛による計器)に比べて液晶画面による表示方法が圧倒的に優れているのは、表示の自由度である。カーナビやAV機器との連携を行ったり、ユーザーの好みに合わせて表示を変更したり、アップデートしたり新規機能を追加したりもできる。

既にセグメント表示のELディスプレイは広く採用されている。近年では、メーターの一部に単色のELディスプレイを採用したり、ダッシュボード中央部に燃費やエアコンの設定温度などを表示させるようなものが設置されている車種が増えてきた。フルカラーで高解像度のパネルは最初は高級車種のみに搭載されるだろうが、部品の原価や設置コストがべらぼうに高いものではないので、開発コストが回収されれば普及帯の車種にも徐々に搭載されると思われる。

HUDとHMD

乗り物を操縦するという観点では、通常の操縦時から計器類を確認するの視線移動は小さいほど望ましい。視線移動が大きいと前方を確認できない時間がどんどん長くなるので事故の危険性が上昇する。

HUD(ヘッドアップディスプレイ)に必要な情報を表示することは、それを解決する手段の一つである。車に採用された歴史も以外に古く、たとえば日産シルビアの一部グレードや、トヨタのクラウンマジェスタにはすでに装備されていた。最近ではマツダ アクセラに搭載されている。カーナビの分野ではPioneerのサイバーナビなどでの採用例がある。

デンソーが2012年に開発したフルカラー大画面HUDなどは非常に精細で、まるでSF映画のようである。

image from denso

しかしながら残念なことに、HUDの採用が進んでいるのはレクサスなどの高級車やBMWなどの欧州車が中心である。以下は、日本精機HPに掲載されているBMW X5のHUDだ。

コモンレールもそうだが、日本精機やデンソーといったメーカーが開発しても、搭載されるのは外車であるというのは悲しい現実である。いずれは低価格帯の車種にも投入されるだろうから、それを待つしかないだろう。

HUDが普及すると、次に普及が考えるのがHMD(ヘッドマウントディスプレイ)だ。たとえば、最新の戦闘機F-35でもHMDが採用されていて、360°いかなる方向でも見渡すことができるようになっている。パイロットは真下の光景を透視することもできる。つまり死角が存在しないのだ。

F-35戦闘機の電子光学分散開口システム「AN/AAQ-37 EO DAS」

これは機体に備えられた複数の赤外線カメラの映像を合成し、HMDに投影することで可能となっている。似たようなシステムは車でもすでに採用されていて、たとえば駐車時にまるで車を真上から映したかのような映像を表示させるようなソリューションがいくつかある。代表的なのは日産のアラウンドビューモニターだろう。

近い将来、これが発展して車の中からの死角というのは無くなるはずだ。技術的には十分に実現可能である。車のタイプにもよるが、たとえば、Aピラー(フロントガラスを支える枠)によって生まれる死角というのは意外に大きい。右左折時は歩行者が死角に入ってしまいがちだ。しかしながら、フレームというのは車体剛性や事故時の生存空間を確保するうえで重要な役割を果たすので、死角になるからと言っておいそれと細くしたり取り外したりは出来ない。こういった場合に、合成映像による透視はとても有用だ。

ただし、車に乗る度にHMDを装着するというのはかなり面倒な作業であるので、ここは改善の余地がある。たとえば、Google glassのような半透過型でメガネに近いような重量とサイズであることが望ましい。

自動操縦

自動操縦は今かなりホットな分野だ。自動車メーカー各社が昔から研究していて、最近では車メーカーではないGoogleなども参入している。自動操縦の歴史もまた古い。航空機におけるオートパイロットは、軍用・民間を問わず広く採用されている。船舶でもまた利用されている。自動車においても同様で、駐車など限られたシーンではすでに実用化されている例もある。最近ではスバルのレヴォーグにEye sight ver.3という名称で、高速道路上(正確には時速65km/h以上かつ車線が判別できる場合)での自動速度調整・操舵システムが搭載された。

自動操縦の主な利点としては、ドライバーの負担軽減や事故の抑制などがよく挙げられるが、後に説明するように渋滞抑制にも効果があるはずだ。

C4I

これは特に航空機に限った用語ではないが、似たような制御は自動車においても行われるのではないかと思われるので、紹介する。C4I(Command Control Communication Computer Intelligence system)は軍隊における情報統合システムである。おおざっぱな説明をすると、軍用機や軍用車両などに設置されたセンサーや、オペレータからの報告を情報システムによって統合化し、戦況を正確に把握し、それに応じて適切な指令を各部隊に伝達するためのものだ。

この思想は自動化・情報化された自動車にも十分に応用できるものである。たとえば、見通しの悪い道で事故が発生した時、即座に後続車に対して事項情報を通信し、安全に減速させて二次事故を防ぐ。急な車線変更をしたときに、周囲の車に数十msといった時間内に即座に危険を通知し、周囲の車が人間が知覚するよりも先に安全に減速、さらに協調してお互い衝突しない方向に回避する。急ブレーキを後続車に対して通知する。または、渋滞時にそれぞれの車に対して抜け道を提案するとき、一つの抜け道に偏らないよう各車が分散して提案する。と、このような処理が行えるだろう。

以上は主に車両間の通信の話をしたが、これはV2V(Vehicle to Vehicle)と呼ばれる。そのほかにはV2I(Vehicle to Infrastructure)といった概念がある。これは車両と道路、信号などを結合する概念だ。たとえば、高速道路で渋滞が発生しそうだという事を道路情報センターでキャッチすると、各車両に対して自動運転と増速を指示する、などと言ったことが可能になるだろう。渋滞の発生原因として良く挙げられるのが、緩やかな上り坂で徐々に走行速度が落ち、それが伝播していって渋滞に発展するというパターンだ。高速を走っていると良く目にする「この先上り坂、速度低下注意」などの電光掲示板メッセージは渋滞抑制を意図したものである。

次回の記事にて詳細を書くが、日本は諸外国に比べて特に高速道路のインフラが弱いと言われている。道路インフラの使用効率を上げるという目的で、日本では重要な技術となるかもしれない。

これらはいずれも技術的には可能であるが、このような複雑なシステムを開発し、全国レベルで適用するのは10年、20年といった期間では無理かもしれない。今後10~20年ではまず、自動化操縦がより容易な高速道路上に限ったシステムが登場すると予想される。その後、徐々に一般道での走行に適用されるだろう。

フェーズドアレイレーダー

フェーズドアレイレーダーは電波の位相差を用いて、放出する電波の強度に指向性を持たせる技術である。これで何が嬉しいかというと、スキャンが非常に高速になるのと、機器のサイズがコンパクト化できるという利点がある。

一昔前の軍艦や気象用レーダーなどを見ると、アンテナがくるくる回転しているのが分かる。周囲を伝播によって見渡すためにはアンテナ自体をぐるぐる回していろいろな方向を走査しなければならないからである。アンテナを回転させて全方向をスキャンするとなると、時間的な解像度は回転周期を超えることは出来ないし、そもそも回転するアンテナを設置スペースも必要になる。しかしフェーズドアレイレーダーにはそのような制約が無い。

フェーズドアレイレーダーでは高速にスキャンできることから、同時に多目標を処理しなければならないイージスシステムで採用されたりする。また、機器を小さくできることから、スペースの制約が厳しい戦闘機などにおいても搭載する例がある。

自動車はどうかというと、近年まで搭載されるレーダーというのは、せいぜいが単方向のミリ波レーダーであった。これによって、前方を走る車との距離くらいは分かるので、速度追従型のオートクルーズ機能などに応用されることが多い。しかし、それでもたとえばカーブなどでは前方を走る車をレーダーが見失う場面もある。

自動車ようのフェーズドアレイレーダーとしては、たとえばデンソーは2004年に車載用のプロトタイプを試作している(毎度のことであるが、自動車業界の技術進歩においてデンソーが果たしている役割はすさまじく大きい)。それから十分な時間が経ち、高性能で低価格な製品が市場に出始めている。今後は高級車から徐々にフェーズドアレイレーダーの採用が進むだろう。

応用する場面としては、たとえば自動操縦や衝突回避の場面において、路面上のオブジェクトの認識に使用されることだろう。これはEye sightなどに見られるステレオカメラによる認識方法と併用されて用いられることが予測される。たとえば信号の色などは光学的なカメラでないと認識できないが、レーダーは夜間や悪天候時に光学カメラほど影響を受けることが無く、また広範囲を見渡せる。それぞれの短所を補完するような形で使われるだろう。

まとめ

今回は主に電子的な技術について述べた。

これまで書いてきたようなパワートレーンに関する技術と異なり、この分野は各メーカー共に開発の方向性は大きくずれていない。将来的には、各国のメーカーや資本提携メーカーの間で共調した研究開発が進んでいくのではないかと思われる。