次世代の車はどうなるか(3)ガソリンエンジンの進歩

一回目では電気自動車、二回目ではディーゼル車に関して見てきた。電気自動車もディーゼルもハイブリッドもどんどん進歩している。そして、それらが進歩してきた間、ガソリンエンジンに何も進化が無かったというわけではない。ガソリンエンジンも着実に進化を遂げている。

ガソリンエンジンの高効率化手法

ガソリンの高効率化手法はいくつかあるが、その中心は燃料を最適な状態で燃やそうとする思想に基づいている。最適な吸気・排気を行い、ちょうど良いタイミングでちょうどいい量の燃料をうまく空気と混合させて爆発させる。

可変バルブタイミング

可変バルブタイミングは今やほとんどの車で採用されている技術だ。エンジンの運転状態に応じて最適なタイミングでバルブが開閉するよう電子的に調整する。

image from JAMA 2.自動車の燃費改善技術

これによって、スムーズに吸排気を行ったり、意図的に排気量(≠シリンダー容積)を増やして後述するEGRに回す排気量を増やしたりなどと言った制御を行う。

可変動弁(バルブリフト量可変)

バルブはタイミングだけでなく開度も調整できるような仕組みが取り入れられている。

image from JAMA 2.自動車の燃費改善技術

上図はバルブリフト量調整によってポンピングロスの低減を実現する手法だ。アクセル(スロットルバルブ)をあまり開けていないときはスロットルバルブ部分が大きな吸気抵抗となってロスが発生してしまう。これがポンピングロスであるが、バルブリフト量を調整することで空気量を調整し、スロットルバルブを全開に近い状態にしておけば、スロットルバルブでの吸気抵抗を小さくできる。

ミラーサイクル(アトキソンサイクル)

エンジンの熱効率は、圧縮比に比例する。しかし、圧力を高めるとガソリンと空気の混合気がシリンダーの中で勝手に爆発してしまうので、着火タイミングが設計値とずれてしまう(ノッキング)。ミラーサイクルは、吸気行程でバルブを遅く閉じることによって、一部の空気をシリンダーから吸気バルブを通じて逆流させた後でバルブを閉じ、少量の空気を圧縮した後、通常と同じように着火する。すると、圧縮される気体の容量(≒圧縮行程でピストンが上昇した距離)よりも、着火後に膨張した気体の容量(≒膨張行程でピストンが押し下がった距離)の方が大きくなり、結果的に圧縮比が高まる。圧縮比が高まるので効率が改善される。

ただし、通常のエンジンよりも少ない混合気を燃やすことになるため、同じ排気量のほかのエンジンに比べればパワーは小さくなる。

ミラーサイクルエンジンはプリウス、アクア、デミオ、アクセラなどで採用されている。

ちなみに、トヨタはミラーサイクルをアトキソンサイクルエンジンと呼んでいる。もともとはアトキソンさんが考えたエンジンだったが、複雑すぎて実際には作れなかったのを、ミラーさんがバルブの開閉タイミングをというアイディアで実現したので、正しくはミラーサイクルと呼ぶべきだと思う。

筒内直噴

昔のエンジンはキャブレターだった。これは吸気パイプの途中に燃料気化器があり、気化させたガソリンを吸入した空気を混ぜてシリンダーへ流入させる方式だ。その後、燃料はフュエルインジェクションに変わった。これはインテークマニホールド内の吸気ポートのすぐ近くで燃料を噴射する方式である。

筒内直噴はシリンダーの中で燃料を噴射する方式だ。筒内直噴が上記の二つと決定的に違うのは、噴射位置だけでなく、空気を圧縮したあとに燃料を噴射する点にある。筒内直噴方式において圧縮行程で圧縮されるのはただの空気であるため、圧縮比を高めたとしてもノッキングが発生しない。このため圧縮比を高く設定できるし、さらにガソリンの気化熱によってシリンダー内の温度が下がるため熱効率も高まる。

EGR(Exhaust Gas Recirculation)

EGRは排気ガスの一部を吸気側に還流させる仕組みだ。

排気ガスの一部を吸気に戻してあげることで何が嬉しいのか。排気ガスを吸気に混ぜることで吸気の酸素濃度を下げることができる。すると酸素濃度が下がるとあまり燃料を燃やせないので出力が落ちる。出力が落ちるのでスロットルバルブを大きく開けなくてはならない。スロットルバルブでの吸気抵抗が小さくなり、ポンピングロスが低減できる。

その昔、ガソリンエンジンのEGRはNOx低減のために使用されていたが、現在では触媒の進化によって必要がなくなり、代わりに燃費向上対策として使用されている。

EGRの中には、還流させる前に排気を冷やすクールドEGRというものもある。排気を冷やしておく理由はさまざまであるが、最近のガソリン車で採用される場合は流入空気量を増やしたり、理論空燃比で燃焼させる領域を増やしたりすることがあげられる。

コンピュータによる燃焼状態シミュレーション

これまでに挙げた技術はただ導入すれば無条件にメリットが得られるものではなく、冒頭に説明したようにあくまでも理想的な燃焼状態を実現するための手段である。これらの技術を組み合わせて燃焼状態を理想に近づけることができたのは、コンピュータによって燃焼状態のシミュレーションが行えるようになったからである。

ガソリンエンジンの進化の実例

このようなガソリンエンジンの高効率化技術が積極的に投入されて華々しい効果を上げているのが、小型車や軽自動車だ。90年代には90年代の後半にスターレットがカタログ燃費20km/Lを突破して話題になったのを記憶している。その後、2001年にFitが登場。初代Fitの燃費は23km/Lで、実際に走らせても田舎であれば21km/Lは超えた。夏場にクーラーをつけても20km/Lをわずかに切る程度であったと思う。

以下は少しデータが古いが、95年~05年の平均燃費の推移である。

 image from JAMA 3.燃費向上技術(CO2の排出抑制)

ハイブリッド車が売れ始めたのは2005年以降であるから、このグラフのほとんどはガソリン車で占められていると思って間違いはないだろう。つまり、ガソリン車の進化は停滞していたわけではなく、順当に進化を続けてきている。現在でもガソリン車の燃費は優秀で、e燃費による実燃費データを比較すると、トップを占めているのはハイブリッドとガソリンの軽自動車である。

順位 メーカー 車種名 実燃費 JC08モード燃費
1 スズキ アルトエコ 25.25km/L 30.2km/L
2 トヨタ アクア 24.01km/L 35.4~37.0km/L
3 ダイハツ ミライース 23.09km/L 27.0~30.0km/L
4 トヨタ カローラフィールダー ハイブリッド 22.68km/L 33.0km/L
5 マツダ フレア 22.38km/L 28.8km/L
6 マツダ アクセラ ハイブリッド 22.14km/L 30.8km/L
7 三菱 アウトランダーPHEV 21.74km/L 18.6km/L
8 ホンダ アコードハイブリッド 21.59km/L 30.0km/L
9 トヨタ ピクシスエポック 21.43km/L 30.0km/L
10 レクサス CT 21.19km/L 26.6~30.4km/L

 

1位、3位、5位は純粋なガソリン車である。もちろん、軽自動車は軽くて排気量も少ないので燃費が良くて当然と言えば当然であるが、それでもハイブリッド車と肩を並べるというのは特筆すべき進化と言えるだろう。

次世代のガソリンエンジン

ディーゼルエンジンは環境性能を求めて低圧縮比化しているが、ガソリンエンジンは高効率化を求めて高圧縮比化している。両者は急激に接近している。たとえば、マツダ アクセラに搭載されるガソリンエンジンとディーゼルエンジンの圧縮比は14.0だ。過給圧によって出力調整をする直噴エンジンの仕組みは、ディーゼルの方式ととても良く似ている。

この進化の先にある、ガソリンエンジンの「究極」の技術と言われているのが、HCCI(Homogeneous-Charge Compression Ignition; 予混合圧縮自動着火)と呼ばれるものである。これは、燃料としてガソリンを使いながらもディーゼルエンジンのように燃料と空気の混合気を圧縮して自然着火させるようなエンジンである。意図的にノッキングを起こしているようなものである。HCCIエンジンは従来のガソリンよりも30%程度効率が良く、これはディーゼルエンジンに匹敵する効率であると言われる

HCCIの歴史は古く、2000年代以降に、GM、ベンツ、VW、日産、ホンダなどがプロトタイプを何度か作っているが、いずれも実用化には至っていない。もっとも大きな障壁となっているのは、HCCIが動作する領域が非常に狭いということだ。HCCIエンジンは常に自然着火させているわけではなく、加速時などは通常のプラグによる着火を行っている(だから、Homogeneousである)。

実運用上でHCCIが有効な領域が少ないので、「苦労している割には燃費が上がらない」という事で実用化を断念したり、世界中で燃料性状がバラバラなのに同じように燃やせるのか?という問題があったり、冬にエンジンが極端に冷えたような状態でHCCIに移行させるのが難しいなどという問題があって、まだプロトタイプの域を出ないというのだ。

しかしながら、VWは2015年には実用化するという噂があったり、マツダがポストSKYACTIV技術として研究開発を進めているなどという情報もあり、近い将来実用化されるかもしれない。

(参考:ガソリンエンジンの自己着火、課題と実現への目算…次世代SKYACTIV開発者に聞く
HCCI - Wikipedia

まとめ

ディーゼル車やハイブリッド車が進化してきたのと同じように、ガソリン車もまた進化してきた。そしてまだまだガソリンエンジンは伸びしろがある。

素人から見ると、クリーンディーゼル、ハイブリッドといったわかり易い変化がないため、あまり目立った進化は無いように感じるが、少なくとも10年、20年といったスパンではまだまだガソリンエンジンは進化し続けるだろう。