次世代の車はどうなるか(2)クリーンディーゼルは普及するか

前回の記事では、電気自動車は次世代の自動車として普及しなそうだ、という結論に至った。では、クリーンディーゼル車はどうであろうか。

(8月28日 追記:新型デミオの登場で色々状況が変わったので、加筆訂正しています)

ディーゼル車の利点と欠点

利点

ディーゼル車はガソリン車に比べると主に効率の面で利点がある。主に以下二点でガソリンエンジンに対してアドバンテージがあるからだ。

  1. 圧縮比を高くできる
  2. スロットルが無いのでポンピングロスを無くすことができる

オットーサイクルエンジンの理論熱効率は圧縮比が高いほど高まる。したがって圧縮比を高く設定できるディーゼルエンジンは熱効率が良い。また、ディーゼルエンジンにはスロットルが無い。エンジン出力の調整は噴射する燃料量によって制御する。このため、スロットルバルブで発生する吸気抵抗(ポンピングロス)が無い。

欠点

では、ディーゼル車の欠点というのはなんだろうか。まず一番大きな欠点は排出ガスだろう。ディーゼルエンジンは、シリンダーで圧縮された高圧の空気に燃料を噴射させることで自然着火させる。このため、燃料が均一に混ざる前に着火されてしまうので不完全燃焼しやすい。だから排ガスにNOxやPM(ススなどの微小粒子)が混じり易い。これを処理するため高価な触媒や、尿素水の噴射システムが必要である。さらに、高温高圧の爆発エネルギーに耐えるだけ頑丈なエンジンを作らなければならない。これは重量増にもつながる。また、出来るだけ燃料を均一に混ぜるために高圧のコモンレール、ピエゾインジェクターといった燃料噴射システム(参考:デンソー)が必要だ。さらには排気を吸気に混ぜ込んで酸素量を減らすことでNOxの発生を抑えるという仕組み(排気再循環:EGR; Exhaust Gas Recirculation)などの仕組みも必要だ。

こういった種々のハイテクデバイスは単純にコストに跳ね返る。いくら燃費が良いエンジンであっても車体価格が高ければ普及しない。これは電気自動車と一緒だ。ランニングコストで、一般的なガソリン車の車体価格との差額分を回収できなければユーザーに対するメリットは薄い。

ちなみに、ディーゼルは低速回転時のトルクが大きいため、走りだしで圧倒的な加速感を感ずることができるというメリットがあるが、こういうメリットがアピールポイントとなるのは、それに価値を見いだせるだけのコアなユーザーだ。普及のためには車にさほど興味が無い層へのアピールが重要である。それが無ければビジネスとして成り立たない。ビジネスとして成り立たなければ、「本当にわかる人にだけ売れればいい」なんて方法を取れるはずもない。

ディーゼル車は普及するか?

ディーゼルは高効率だが、ディーゼル車は高コストであるということはすでに述べた。しかし、車体価格が高くても、その後のランニングコスト、すわなち、主に燃料代で回収できれば結果的には安い。これが電気自動車やハイブリッドカーのアピールポイントである。

では、ディーゼルはどうだろうか。ディーゼル車はランニングコスト、つまり燃費性能の向上分で、一般的なガソリン車の車体価格との差額分を回収できるのだろうか?以前、「ハイブリッドカーはお得じゃない」という記事を書いた。その記事での結論は、ハイブリッドカーでは車体価格との差額分を燃費向上分で回収することは厳しい、というものだった。ではディーゼルだとどうだろうか。

比較してみる

この場合の比較にうってつけの車がある。アクセラである。アクセラはガソリン、ハイブリッド、ディーゼルすべてのラインナップが揃っている。まずはその価格とカタログ燃費を調べた。

ただし、ここで注意したいのがアクセラのディーゼルモデルは数々の装備が付いた良いグレードのモデルであって、廉価グレードでディーゼルというモデルでは無い。そのため、単純にガソリンvsディーゼルという面で比較するのは不適当ともいえる。が、単純なディーゼルのコストが分からないため今回はこの価格で比較した。

グレード 価格 燃費[km/L]
XD(ディーゼル) ¥3,067,200 21.4
20S(ガソリン2.0L) ¥2,268,000 19.0
15S(ガソリン1.5L) ¥1,900,800 19.4
HYBRID-C(ハイブリッド) ¥2,440,800 30.8

また、条件は以下のとおりとする。

ガソリン価格(L/yen) ¥160
軽油価格(L/yen) ¥135
年間走行距離 5000 km

以上の条件より、年間の燃料費を導き出すことできる。ガソリン車の燃料費は高く、ディーゼル車/ハイブリッド車の燃料費は安くなるはずだ。すると、その差額分がディーゼル車/ハイブリッド車のメリットとなる。この差額分が積み重なり、車体価格の差額分を超えたときから、「ディーゼル車/ハイブリッド車はガソリン車よりもトータルコストで見ればお得」と言えることになる。ではそれに何年かかるだろうか。これも計算してみた。以上をすべてまとめると、下記表のとおりとなる。

車体価格分回収期間[year]
グレード 年間燃料費 対20S 対15S
XD(ディーゼル) ¥31,542 75.66 120.31
20S(ガソリン2.0L) ¥42,105 - -
15S(ガソリン1.5L) ¥41,237 - -
HYBRID-C(ハイブリッド) ¥25,974 10.71 35.38

この結果から、現行アクセラに限って言えば、「ディーゼル車は75年走ればガソリン車よりもお得」と言えることになる。これはとても現実的な数字ではない。

ちなみに、年間1万キロ走るという条件で比較したい場合は、単純に燃料費が倍になり、差額回収期間が半分になると思えばよい。すると、年間1万キロ走る場合はハイブリッドならばおよそ5年で最初のコストを回収できてしまうことになる。ここまでくれば現実的だろう。しかし、ディーゼルの場合は年間10万km走ったとしても7.5年はかかるのだ。

つまり、ディーゼルの燃費性能+軽油の安さをもってしても、コスト面ではガソリンモデルに遠く及ばないことが分かる。

では実燃費で比較すればどうだろうか。カタログスペックは実燃費と大きな遊離があり、かつ、ハイブリッド車に顕著なことは周知の事実だろう。ここでは、みんカラから採取した実燃費データで比較したい。

グレード 価格 燃費[km/L] 実燃費[km/L]
XD(ディーゼル) ¥3,067,200 21.4 16.5
20S(ガソリン2.0L) ¥2,268,000 19 11.32
15S(ガソリン1.5L) ¥1,900,800 19.4 19.6
HYBRID-C(ハイブリッド) ¥2,440,800 30.8 20.03

以上のような燃費が記載されていた(2014/5時点)。ただし、15SとXDに関しては「マツダ 新型アクセラ15S(ガソリンモデル)燃費レポート/永田恵一 」 と、「マツダ アクセラスポーツ(ディーゼルターボ)燃費レポート/永田恵一 」というちょうどよい記事があったので、ここでの値を採用している。

この条件で計算すると、

車体価格分回収期間[year]
グレード 年間燃料費 対20S 対15S
XD(ディーゼル) ¥40,909 26.85 回収不能
20S(ガソリン2.0L) ¥70,671 - -
15S(ガソリン1.5L) ¥40,816 - -
HYBRID-C(ハイブリッド) ¥39,940 5.62 616.27

以上のようになる。

実環境に近い条件で計算しても、やっぱりディーゼルはコスト面ではガソリン車に及ばない。「回収不能」というのはつまり、XDの燃料費が15Sよりも高いという意味である。つまり、走れば走るほどディーゼル車はガソリン車に対してお金がかかる、と言えるかもしれない。

一方で、20Sとハイブリッドの差は検討の余地がある。年間走行距離5000kmでの見積りが上記だから、1万km走るのならば2年とちょっとで初期コストを回収できてしまう。1.5Lエンジンは非力でもうちょっとパワーがほしい、でも燃費も良くしたい。という場合には検討する価値があるだろう。

ディーゼルは普及するだろうか

当たり前のことであるが、商品はユーザーにとって魅力的でなければならない。メーカーが考える魅力とユーザーが考える魅力がミスマッチしては売れない。

ユーザーの価値観の変化

ユーザーが車に求める魅力は昔に比べるとずっと変化してきた。それは車の変遷をみれば明らかだ。80年代から90年代にかけてはスペックを売りにするような車が多かった。どれだけ馬力があるかとか、駆動方式がFRであるとか、ターボやスーパーチャージャーがついてるかとか、そういうところがアピールポイントだった。しかし、2000年以降はターボが装着されていたり、馬力があることを宣伝材料にする車は無くなった。

変わって環境性能や経済性といった新たな魅力が求められるようになった。パワーよりも燃費を重視する車が多くなり、燃費は20km/Lを突破した。一部のコアユーザーはそれをつまらないと判断したが、メーカーとしてはビジネスを成り立たせるために売れる車、つまりエコな車を作るしかない。ガソリンをまき散らして走るような車は売れない。それがCSRというものである。

そのような環境下においてディーゼルが求められるとすればどういったシーンであろうか。

安いから売れる

エコという言葉は非常に複雑だ。だれにも定義できないだろう。ライフサイクルを通して原料を削減すること。CO2の排出を抑えること。NOx、PMを抑えること。経済的であること。レアメタル/レアアースを使わないこと。自然素材を使用すること。リサイクル可能であること。リサイクル原料を多く使っていること。数多のエコがあり、それが随時、使う人によって都合よくいい塩梅にミックスされ、なんとなくのエコができてしまっている。

しかし、ユーザにとって、クラス、タイプを問わず強いメッセージとなるのは「経済性」である。それを以降で説明しよう。

日本にとって、ディーゼル車は汚染の象徴であった。黒煙をまき散らすディーゼル車は駆逐されるべきという意識が発達し、トラックには高価な触媒や尿素水噴射システムなどが装着された。大重量を運ぶトラックやバスなどでは低回転でトルクがあるディーゼルエンジンを採用することがほぼ必須と言ってよいが、一般の乗用車ユーザーには排ガス規制をクリアするだけの高いコストを支払ってまでディーゼル車を買うメリットが薄いので廃れていった。これは日本でも欧州でもそうである。

転機はコモンレールの実用化だ。デンソーが開発したコモンレールはディーゼルエンジンの環境対策の要と言ってもよい。コモンレールの開発から、欧州のディーゼル車比率は一気に上昇した。下記が欧州におけるディーゼル車の割合のグラフだ。コモンレールをデンソーが開発したのは95年、それからボッシュが97年に乗用車用を開発した。その後、急激にディーゼル車の比率は上昇している。

image from European Vehicle Manufacturers Switch Core Product Strategies to HEVs and EVs

欧州でなぜディーゼル車が普及したか

簡単に言えば、ユーザーは安い車を選んでいる。売れる車は安い車である。そう説明した。欧州でディーゼル車が普及したのも、安いからだ。コモンレールの実現によってディーゼル車の比率が急激に増えたのは、ディーゼル車がガソリン車よりも経済的になったからに過ぎない。

欧州では車に長く乗る傾向があり、また、年間の走行距離も長い。このため、1~3年でディーゼル車のイニシャルコスト差を回収できてしまう。


image from 経済産業省 乗用車分野へのディーゼル車導入について

先ほど、アクセラでのディーゼル/ガソリン車を比較した時と全く違う条件になっている。まず、燃費の開きがガソリンとディーゼルとで大きい。日本でもなじみの深いkm/Lの単位に直すと、以下のようになる。

VW Golf Benz E
ディーゼル ガソリン ディーゼル ガソリン
燃費[km/L] 18.52 12.66 15.38 9.35

また、そもそも欧州のディーゼル車は日本のクリーンディーゼル車に比べるとずっと安い。1500ユーロ、700ユーロというのは日本円に直すとそれぞれ20万円、10万円程度のものである。アクセラで100万近くの開きがあるのとは大違いだ。これについては、

また、欧州メーカはACEA 自主規制(2008 年時点で ACEA 参加企業の販売乗用車について、1km当たりの平均CO2排出量を 140g以下に抑える)をコミットしていることから、ディーゼル乗用車をその達成のための戦略的手段と判断しているとの指摘がある。同一グレードのディーゼル車の方をガソリン車より安く価格設定しているケースも見られる。

という指摘がある。いずれにせよ、欧州ではディーゼル車の方が経済的であるという圧倒的な魅力がある。だからディーゼル車が普及する。それが欧州でディーゼル車が普及した背景である。

アメリカではなぜディーゼル車が普及しなかったか

米国のディーゼルカーの割合はわずか1%である(bosh)。この理由は、アメリカでは税制上の理由で軽油のほうがガソリンよりも高いという単純な理由がある。というか、そもそもアメリカではガソリンが安価であるため、燃費性能を重視するユーザーが少ない。今、ネットを検索したらアメリカの2014年1月のガソリン価格が3.31ドル/ガロンというデータが出てきた。1ドル100円として計算すると、わずか89円/Lである。

さらに、道路事情が極端に良い、つまり、道路が広く、直線に伸びていて、ストップ&ゴーも少ない状況にあるために高回転で高出力を発揮するガソリンエンジンとの相性が良い。

性能上、ガソリンエンジンであることに不満は無く、さらに軽油の方が高く、加えて燃費性能を重視していない。したがって、わざわざディーゼル車を選択するメリットに薄い。これがアメリカでディーゼル車が普及しなかった理由だ。

日本ではなぜディーゼル車が普及しなかったか

平成11年に石原都知事が東京都を走るディーゼル車の走行を規制するという条例を定め、埼玉、千葉、神奈川が追従した。これ以降、日本のディーゼル車販売は暗黒期に突入する。トラックやバスなどの大型車は、重い車体を動かすのにディーゼルエンジンが不可欠である。このため、規制に対応するためのコスト増分を受け入れるしかなかった。

しかし乗用車はそうはいかなかった。乗用車にはガソリン車という選択肢がある。経済性の面でメリットのうすいディーゼル車への魅力は薄れていってしまった。以下は平成13年度のガソリン車とディーゼル車の総コストを比較した図である。

image from 経済産業省 乗用車分野へのディーゼル車導入について

日本と欧州の排ガス規制を比べると、現在ではどちらも同じような厳しさが設定されているが、かつて、日本はPMに対する制限が緩く、NOxに対する制限が大きかった。欧州はその逆である。そして、NOx重視の姿勢が結果的にPMの増加と燃費の悪化を招くような設計しかできなかったという背景もある。

したがって、イニシャルコスト差を回収することが難しいような構図になってしまった。「高い車は買わない」、ここでもまたその単純な原理が支配する。日本では欧州と同じくガソリンよりも軽油の方が安い。それでもディーゼル車は経済性の面でガソリン車に対して力が及ばなかった。

日本でディーゼル車は普及するか

これまで見てきたように、各国にはそれぞれの事情がある。しかし共通しているのは経済性である。

何度も言うが、消費者が魅力的と思わない車は売れない。売れない車は普及しない。ディーゼルエンジンが進化したのに要したのと同じ時間、ガソリンエンジンも進化している。ガソリンエンジンの経済性もどんどん改善されている。それなのに、ようやく登場した日本のクリーンディーゼルも、経済性の面では歯が立たない。

ディーゼルエンジンが経済性でアピールできないとすれば、経済性以外の「エコ」やトルクフルなエンジンであるという点でアピールするしかない。日本ではストップ&ゴーが多いので、トルクフルであるというのは一定のアピールポイントになるだろう。しかし、それがアピールになるのはその利点が分かる程度コアなユーザー層である。経済性以外のエコ、というのは残念ながらアピールポイントにはならないだろう。メーカーはしきりにCO2やNOx削減をアピールするが、そこを重視するユーザーはほとんど皆無と言っていいだろう。

そのような状況にもかかわらず、車に関連するメディアを読んでいるとよく「クリーンディーゼルの躍進」というような見出しを目にする。しかし、いくらマツダのクリーンディーゼル車が売れたとしても、日本国内では圧倒的にハイブリッドに分がある。以下は、2014年3月の日本国内における自動車販売台数である(自販連)。消費税増税の駆け込み需要でたくさん車が売れた時期だ。

これを見ると上位はハイブリッドもしくはハイブリッドモデルがある車で締められている。ディーゼル車が売れていると言っても、販売台数からみたらごくごく少数であると言ってよいだろう。

日本でディーゼル車が普及するためには、まずはイニシャルコスト差をランニングコストで回収できるか、出来ないにしても、その差を大幅に縮めるくらいの価格設定が必要なのは間違いない。アクセラを例にすれば、現在の価格差は100万弱。現在のクリーンディーゼルは価格差が50万でも採算を確保するのが難しいとも言われている。

対するハイブリッドを考えてみると、国内ではハイブリッド=エコであるという認識が浸透していることに加え、さらにハイブリッドシステムもどんどん安くなっている。たとえば初代プリウスのハイブリッドシステムは60万、3代目は30万、次のプリウスは15万を目標としていると言われている。このような状態でディーゼルに勝ち目はあるだろうか?

私が思うに、答えは次期デミオにあると思う。既に述べたように、アクセラの各パワートレーンでの比較では、ディーゼルは経済性で低排気量ガソリン/ハイブリッドに敵わなかった。しかし、アクセラのディーゼルモデルはそもそも良い装備を積んだ上位グレードモデルなのだから、回収できないのはしょうがないとも言える。

次期デミオでは、ディーゼルエンジンを積んだ廉価なモデルが登場することが報じられている。デミオのカテゴリはトヨタのAQUAと競合するので、AQUAよりも高い値段設定では厳しい戦いになるだろう。予測ではあるが、車体価格が170万円前後、燃費は30km/L前後とされている。このスペックが本当に実現するのであれば、ハイブリッド車よりは優位に立てる可能性がある。しかしそれでも、ガソリン車にはまだ対抗できないと思われる。詳しくは下記記事を参照して頂きたい。

新型デミオの経済性

まとめ

ディーゼルはコストがまだ高い。少なくとも車体価格差を回収するのは難しそうだ。さらに現在、日本でもっとも「エコだ」と思われている車はハイブリッド車であり、ハイブリッドであることの付加価値はとても高いと言える。この点でもイメージ戦略を展開していく必要がある。

ディーゼル車がシェアを増やしていくためには現状のイニシャルコスト差を大幅に圧縮し、その上さらにハイブリッドにも勝るとも劣らない良いイメージを作らなくてはならない。

関連記事

新型デミオの経済性

1件のコメント

  1. […] http://anopara.matrix.jp/2014/06/01/nextcar_2_diesel/ 31 名無しさん@そうだドライブへ行こう 14/07/22 13:10 +JYpqEj30.net デミオが200万オーバーってギャグですか?ww […]

ただいまコメントは受け付けていません。