息を止める夢

今日はすごく変な夢を見た。

私はわたしが通っていた大学にいる。大まかな作りは同じだが、外壁や周りの風景がおしゃれになっていて、人もいっぱいいる。明るい日差しが差し込んでいて、なかなか気持ちいい。カフェテリアの外でみんなが飯を食っている。

その一角に、なんかメガホンを片手に喚いている人がいて、名簿を見て整列してください、か、何か言っている。名簿を見てびっくりした。知っている名前が沢山並んでいる。その大学とは何も関係していない知人までもが並んでいる。名簿は10~20くらいのチームに分かれていて、総勢300人分位は記載されていそうだ。

それぞれのチームには名前が書いてあって、「保安チーム」「電気設備チーム」などと書いている。さらに読み進めると、右側に各々の簡単な経歴、学卒だとか高卒だとか、現在の職種、あとは「ID」という列があり、それぞれ、「タマーリ」とか「リミネロ」とか、意味不明なカタカナ4~6文字が記載されている。

私のチームは「連絡チーム」とかいう地味な名前であって、メンバーを見ると知らない名前ばかりだった。

それぞれのチームメンバーは各々のチームの部屋へと移動させられる。中には机があって、部屋を囲む廊下は長テーブルや椅子、画用紙、水性マーカーなどといったものが雑然と散らばっている。チームメンバーは10人位記載されていたはずだが、部屋の中には、俺と同い年くらいの男が二人。

男は二人で不安そうに何かをしゃべっていたが、俺が部屋に入ってきたのを認めるとすぐ、「お前、主催者側の知り合いなんだろ。お前なんか信用できるか」と言われた。何を怒っているのか全然わからない。

主催者って誰だ、ともう一度カフェテリアの方向に向かってみると、メガホンを使ってがなっている男の横に、二人、知っている顔があった。小学校の時一緒だったAとS。なぜここにいるんだ。意味がわからない。全然わからない。

また部屋に戻ろうとすると、女が二人、不安そうに「予防接種を自分で打たないといけないらしいよ」みたいなことを話し合っている。予防接種?なんだそれ。部屋に連れて行かれる時にもらったA4の紙の束をめくると、たしかに、「予防接種の実施」というページがあり、その手順が書いてある。予防接種には二種類あり、その一つが「ギザ」の予防接種で、もう一つがよく覚えていないが、「XXX種皮感染性XXX症」みたいな漢字の長ったらしい名前だった。それを、1周間に一度、自分で注射を打つ必要があるらしい。注射器は小さい円形のもので、素人でも簡単に自分自身に接種できるようなタイプのもののようであった。糖尿病患者がつかうインスリンの注射器に似ている。

と、いうことは、医者とか、医者に準ずるような人間のサポートが得られないような、かつ、病気になる危険性が高い所に派遣されるということなのだろうか?なんか不安になってきた。どうも、この大学にいる人達も軟禁されているのか、学外へと逃げることは不可能なようだ。しかしなぜそうなのか、理由が判然としない。わからないことだらけだ。

しばらくうろうろと歩き回っていると、なにか動きがあった。人が集まってわいわい騒いでいて、その脇で、不安そうな顔をした女が5,6人、壁に寄りかかっている。誰かが「うぐっ」みたいな苦しそうな声を出している。見ると、会社で昔、一緒のチームで仕事をしていた人がうずくまっていて、それを取り囲む男が大げさに笑いながらスタンガンを振りかざしている。

「あと2分息を止めないとまたスタンガンを食らわす」などと脅しているのはAであった。こいつは一体何をしているのだろうか。なにか薬物をやっているのであろうか、キチガイみたいな顔になっている。昔のAとは完全に何かが違ってしまっている。昔のAも、まあ、結構やりたい放題やる破天荒タイプだったけど、レベルが違う。少なくともスタンガンで人を脅したりはしなかった。いや、やっぱりしたかも。

脇でまた別の女が不安そうにひそひそと話をしていて、「XXチームのYYさんは3回も失神して救急車で運ばれた」等と言っている。救急車?私は軟禁されていて、外部へは逃げられないものだと思っていたが、外部と接触できるのか?救急車が来るなら、警察だって呼べば来るだろう。それが不可能にしても、救急隊員が不審に思って警察に通報することだって出来るはずだ。これだけ人が集まり、息を止めろとか、スタンガンを食らわすとか言っていて、警官一人来ないのはなんか違和感がある。

さらにそのひそひそ話を盗み聞くと、どうも死亡者まで出ているらしい。死亡者まで出ていて警察が来ないのはおかしい。警察が来ないのに救急車が来るのはもっとおかしい。どういうこと?公にこれは認められている行為であるということなのか?という気すらしてくる。

それから、そういうことは次々行われた。順番が決められていて、一人ずつ必ず一度は指定期間息を止め、できなかった場合はスタンガンでビリビリやられる、鉄パイプで殴られる、集団で暴行を受けるなどの理不尽な暴力を甘んじて享受しなければならないらしい。で、ひどい時には死ぬ。なんだこれ。どうなってんだ。

しかも謎なのが、人によって息を止める時間がそれぞれ別である点だ。5分とか絶対無理な時間を指定される事もあれば、10秒で良かったりもする。これは男女、年齢の差で決まってるわけでもなさそうだ。ただ、その決定権はどうもSにあるらしい。SがAに対してなにかメモのようなものを渡していて、Aが「お前はX分」と指示している。AがSからその紙をもらうその瞬間だけは、周りの野次馬も静かになり、厳かな雰囲気となる。なにか神聖な儀式を見ているようだ。

他に、そこらで喋ってる奴らから得た断片的な情報としては、どうもこれは来るべき戦いに備えている訓練らしい。敵が宇宙人なのか、外国の軍隊なのか、それはわからない。そして、どうもこれは国が推進している事業であって、だから警察が来ないらしい。「お前らはなぜここにいるんだ。志願してきたのか」と聞くと、「そうだ」というので、理由を聞いたら、「新卒だと就職活動で不利になる」と言っていた。やめようと思えばやめれるとも聞いたが、やめる時にまたスタンガンで脅されるのでやめられないと言っている女も居た。

俺は大してすることも無いので暇だった。歩いていると、ふと、とても懐かしい感じのする部屋があったので、入ってみた。そこはかつて通っていた小学校の教室。古い木造校舎で、ロッカーのなかにランドセルが無造作に押し込められていた。壁には学級新聞的な何かがところ狭しと貼り付けられている。

その内の一つに、妙に凝った作りのポスターがあって、見てみると「たのしい訓練学校」のようなタイトルが掲げられている。大きい家の絵が書かれていて、その家に窓が整列して並んでいる。さらに、その窓の中には切り絵のような顔が貼り付けられている。その下に名前とチーム名が書かれており、読んでみると、どうもこの謎の訓練に参加している人、一人一人の名前のようだ。しかしその顔の切り絵は、本人とはあんまり似ていなく、むしろ意図的にブサイクに描かれていて、本人たちを馬鹿にするために作られたような印象を受ける。

俺の顔あるかな、と探していると、後ろで気配がする。「そうだ。次はお前なんだ」とSが言った。その気配はSだった。俺は聞きたいことがいっぱいあったけど、Sはそれには答えられない、という素振りを見せながら、ひどく落ち着いた調子で、「お前の息を止める時間を調べるからIDを教えてくれ」といった。俺はもらったA4の束の中から名簿を引っ張りだし、Sに見せた。Sは視線を名簿に向けたまま、独り事のように「ここでは名前を口に出してはいけない」とも言っていた。

Aは名簿の裏に、鉛筆で数字を書き始めた。「110100110011」と、最初は0と1だけで構成されていたが、あとの方になると「01110801765」のように、0と1以外の数字も出現している。計20桁くらいの数字を見つめながら、Sは冷静に「お前は11分だな」といった。アホかと思った。

Sは間髪入れず続けて言う。「でも11分も息を止めていたら死ぬ。今のAは本当にやる。窒息死させるか、撲殺するか、どちらかだ。どちらかを必ずやるだろう。でも俺はお前を殺したくないから、1分にしておくよ」と、その数字に何かを書き足した。

そしたらすぐに後ろが騒がしくなって、Aとその取り巻きが高笑いしながら入ってきた。AはSが書いた数字の紙をもらう。またその瞬間だけ、厳かになる。Sは紙を渡すのを少し抵抗していたように見えた。Aはじっとその数字を見つめ、「2分48秒だな」と言った。えっ、1分じゃねえじゃん。でもまあ、無理な数字ではない。11分にくらべたらずっとマシだ。でも楽観できる数字でもない。精神統一して目をつぶり、ゆっくりと息を止めれば余裕だろうけど、こいつらのことだからどうせ嫌がらせしてくるに違いない。

俺はゆっくりを息を吸い、そして息を止めた。が、咳が出そうだ。俺は風邪を引いていたのだった。やばい、でも耐えなければならない。無理だった。6秒で俺は咳をして息止めに失敗した。と、同時に、1分すら持たなかったのと、息を止めてなんの意味があるのか分からないというバカバカしさと、真面目な顔をして突っ立っているAと、この状況自体が面白すぎて、大笑いした。したら、「ふざけてんのかっ」と、誰かが何かを尻で爆発させた。たぶんスタンガンだ。バカバカしい。その後、鉄パイプが雨のように全身を打ち付けている。

目をさますと、俺は田んぼの脇に横たわっている。体を見るが、傷も何もない。夢だったのか。夢だったんだな。と理解した。

田んぼの向こうに軽トラが止まっていて、その脇にシルクハットをかぶった兄ちゃんが微笑みながら立っている。明らかに怪しい。その軽トラに近づいていって驚愕した。なんと、荷台にあの、「たのしい訓練学校」のポスターが描かれている。シルクハットが「まだ終わった無いぞ。夢だと思っただろ。夢じゃないからな。必要なら呼び出す」と言っていた。あほかっ、付き合ってられるか。

そう思ったところで目が覚めた。まだ朝の3時だった。