読んだ本:「戦争は女の顔をしていない」


「戦争は女の顔をしていない」
スヴェトラーナ アレクシエーヴィチ (著), 三浦 みどり (翻訳)

結構前に読んだ本。
ドグラ・マグラを読んでいて、そう言えば、こういう本もあったな。というのを思い出して書いてみる。

みんなに読んで貰いたい、でも、オススメできない、そんな複雑な本。

本書は、第二次世界大戦中の独ソ戦に従軍した女性兵士や、従軍看護士、パルチザン、その他軍属女性の体験談を著者が長年にわたってまとめ上げた、女性の視点で戦争を見つめたドキュメンタリーである。昔は検閲が厳しくてなかなか発表することが出来なかったが、近年になってようやく出版できたのだという。

まず、独ソ戦について。

ドイツのソ連侵攻(バルバロッサ作戦)に端を発する独ソ戦は、人類史上、最も凄惨な戦いだったと言っても過言ではないだろう。数の面から見ると、太平洋戦争での日本側の死者数が230万人(うち、沖縄戦が23万)と言われている。

対して、独ソ戦におけるドイツ側の死者数は400~600万人、ソ連側が1500~2000万人であったと言われる。これだけでも、いかに大規模な戦いが繰り広げられたかをうかがい知ることが出来る。

ふつう、戦争というと男のイメージが強く、女は国で夫の帰りを待つ・・・というようなイメージがあると思う。しかし、ソ連軍においては、女性兵士、女性の軍属(軍人ではないが軍隊に所属する、補給業務などを担当する人)が思いの外多い。たとえば、ソ連軍には女性のみで構成された戦闘飛行隊、通称「魔女飛行隊」が組織されていた。今も昔も、航空機パイロットはエリートでなければなれないとされている。第二次世界大戦が行われていた時代は、まだ女性の発言権も強くはなかっただろう。そんな中、女性だけで構成された飛行隊があったとは、今の時代から考えても驚くべき事である。しかも、この飛行隊はパイロットだけでなく、整備士から管制官に至るまで、全て女性で構成されていたという。

この本にはパイロットだった女性の体験談ももちろん記載されているのだが、航空機パイロットだけでなく、ドイツと戦ったソ連軍女性兵士の体験談は、どれもこれもが勇ましい。16歳で前線行きの列車に飛び乗り、どうしても前線に行かせてくれと下士官に懇願する少女。機関銃の雨をかいくぐって、血まみれになって倒れている友軍兵士を引きずる看護婦。

また、ただ勇ましいだけでなく、男には想像もつかないような感情もありありと記載されている。

私が特に記憶に残っているエピソードをいくつかピックアップしてみたい。

戦争で最も怖いもの
戦争で最も怖いものは、爆撃機でも機関銃でもない。男物の下着を履くことだという。これは複数の人が同じようなことを語っている。

明日死ぬかも知れない状況で、毎日髪を結わえ、整える。落下傘兵のパラシュートで、ドレスをこしらえる。敵軍の砲弾が辺り一面に降り注ぐそのときに、だ。それを見て、男性の下士官はなぜ、今、この状態でそのような事をしているのかと叱る。すると彼女らは、死ぬときまで女でありたい、という旨を反論する。極限の状態にいても、そして、何時の時代であっても女性は女性で有り続けるのだな、と感じた。

この感情を理解できる男は、そうそう居ないだろう。(当然、私も理解できない)

殺された白馬
たしか、スターリングラード戦でのエピソード。ソ連赤軍とドイツ軍が対峙する前線の真ん中に、白馬が迷い込んだ。ふさふさの尻尾の綺麗な白馬。
スターリングラードでは両軍ともに補給が途絶え、今日食べるものにすら困る有様だった。ソ連赤軍兵は、それを打ち倒して食料にしようと画策する。おそらく、ドイツ兵も同じ事を考えているだろうから、まだソ連側に近いところに居る内に撃ってしまおう、ということになった。

それに少女が反論する。なぜ?あんなに綺麗な白馬を撃ってしまうの?それで男たちは笑う。常日頃から人間に向かって発砲しているのに、なぜ馬一頭を殺すのに抵抗があるのか。
結局、その白馬は打ち倒され、ソ連赤軍兵の胃袋の中に納まった。その少女はずっと泣き続けていた。

優しいはずの男たちの戦後
戦場の男社会の中、女性はさぞ肩身の狭い思いをしたことだろう。と、思っていたのだが、体験談を見るとそのような例ばかりでないことに、また驚かされる。
「戦場での男たちはみな勇ましく、優しかった」と複数の女性が話している。

戦後、故郷に帰ると、女性兵士には悲しい状況が待っている。戦争に参加し、故郷のために戦った(余談だが、『スターリンのために』戦ったと語るエピソードはおそらく一つも無かったと思う。みな、『故郷のために』『国のために』戦ったと話していた)のに、「野蛮な女」と批判されることが多かったのだという。特に、それは結婚の時に足かせになった。そんな野蛮な女のところに息子はやれない、と言われる。

そんなとき、戦場で一緒に戦った男たちは見て見ぬふりをしていた。情けなくて、悔しくて、涙が流れた。そんな体験談も、一つだけではなくいくつかあった。おそらくこういった事例は多かったのだろう。

以上、記憶をたどってつらつらと書いたが、実は、この中に私が最も記憶に残っているエピソード二つが含まれていない。なぜそれを書かないか。あまりにも凄惨で残酷すぎるからだ。私はその二つのエピソードを、思い出したくもない。

なので、代わりに、もう一つだけ記憶に残っていることを記して終わりにしたい。

これは「男性」の体験談だ。

ドイツに入り、多くの兵士が「正統な戦利品だ」と、略奪や虐殺、強姦を繰り返した。もちろん、それは軍法規で罰せられる行為であるし、赤軍兵士としてみっともないと思う。しかし、ドイツ兵が故郷ではたらいた蛮行を思い出すと、しょうがないと思ってしまう・・・と。

現代社会に生きる我々が、略奪、虐殺、強姦を「しょうがない」と思えるだろうか?
しかし、一通りこの本を読み、私は「しょうがない」と思ってしまえるようになってしまった。もちろん、私は道徳的で常識的な、普通の成人男性である。しかし、そのような普通の人間であっても、一通り読むと、「しょうがない」と思えてしまう。戦争は良くないとか、平和を求め続けるべきとか、そんな常識は吹っ飛んでしまうくらい悲惨な話だ。

気になった人は、読んでみて欲しい。でも、あまりに凄惨なので、おすすめできない。

特に、小さい子供が居る人、おじいちゃんっ子 or おばあちゃんっ子だった人、なんかは読まない方が良いかもしれない。
私は小さい子供が居る人、に該当するので、もう心が耐えられない。

参考:
独ソ戦(wikipedia)
第二次世界大戦等の戦争犠牲者数