中国海軍レーダー照射事件について

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最近テレビや新聞を賑わせているのが本事件。そもそもレーダーって何?全然意味が分からない!というレベルの人のために簡単に解説してみたい。かなり端折って書いているので正確ではないですが、出来るだけ分かりやすく書いたつもりです。

レーダーってそもそも何?

電波を何かに当てて距離や速度を計測するのがレーダーです。車の自動速度取締装置のことをレーダーと言いますが、あれもレーダーの一種なのでレーダーと言っています。
電波は光の速度で進みます。光の速度は3.0\times10^8\mathsf{[m/s]}です。地球から月まで1秒ちょっとしかかからない速度です。1秒で地球を7周半回ります。正確に言うと、この速度は真空中での速度なので、空気中だと少し遅くなりますが、大体こんなもんです。

金属は電波を反射する性質を持っていますので、道路に電波の発射装置を置き、車に向かって電波を照射すると電波が車に当たって跳ね返ってきます。

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電波を放出してから反射して帰ってくるまでの時間と、電波の速度が分かっていれば、距離が分かります。ここで、電波の速度が非常に速い、と言うのがミソです。電波を放出して跳ね返ってくるまでの時間がとても短いので、その時間に車はほとんど動きません。
少し時間をおいてもう一度同じ事をすれば、その間に進んだ距離(1)が分かります。すると時間の差と距離から速度が導き出せます。これが制限速度を超えてたらカメラで写されて色とりどりの紙が発行される訳ですね。

中国海軍のレーダーって何?

軍隊のレーダーも基本的には車のオービスと一緒です。電波を照射し、跳ね返ってきた電波を感じ取って、「戦闘機がきた!」「軍艦がきた!」とか判定します。初期のレーダーは第二次世界大戦中にイギリスで発明されました。飛行機が飛ぶとラジオの電波が乱れる現象に着目したのです。1940年7月から始まったドイツ空軍とイギリス空軍の戦い、バトルオブブリテンでは、このレーダーが大活躍しました。

その頃のレーダーは女性の軍属(軍人でないけど軍隊で仕事してる人)がぐるぐる手でアンテナを回して360°どの方角にも電波を発信し、その反射波を、これもまた女性の軍属が画面で読み取っていたと聞きます。よく「レーダー」としてアニメや漫画などに出てくるのは、下の画像のような画面ですが、これが初期のレーダーですね。中心から放射方向に伸びる線がぐるぐる回っているのは、つまり、電波を放射するアンテナがぐるぐる回転していることを意味しています。
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その後、レーダーは進化を遂げて今に至るわけですが、現代でもその基本的な用途は同じです。遠くから敵の戦闘機や戦闘艦を早期に発見すること。現代戦では敵を如何に早く発見して攻撃するかがとても重要なので、レーダーの重要性も以前に比べてずっと増しています。敵を発見したら今度はどうするかというと、敵が居るであろう位置にミサイルを撃ち込む、という流れになります。昔のように大砲を撃っていた時代と異なり、ミサイルはずっと遠くまで届きますので、肉眼で照準を合わせるのはちょっと難しいです。たとえば、日本やアメリカの軍艦が装備している、対艦ミサイル(軍艦向けのミサイル)として、ハープーンというのがありますが、これの射程距離は124km以上と言われています。東京スカイツリーから栃木県の那須塩原あたりを双眼鏡で覗いていたのではちょっと心許ないですね。そこで、ここもレーダーの出番となるわけです。二点からレーダーを使えば、相手の距離と方角が特定できます。数回測定すれば進行方向と速度も分かるでしょう。

これらの情報を事前に収集し、ミサイルに搭載されているコンピューターに対して「敵はここにいるわけですよ。こっちに向かって飛んでいって、あなたが到着する頃には敵はこの辺りにいるはずなんで、まあ、そこからは適宜敵を発見し次第突っ込んでいって頂戴」と命令しておくわけです。そして発射ボタンを押すと、「はい!分かりました!」ってハープーンが飛んで行くわけですね。と、まあ、こんな流れになっておるわけでございます。

中国海軍がレーダーを照射して何故悪いの?

そもそも、レーダーを照射すること自体が悪いわけではありません。レーダーは軍用だけでなく、たとえば雨雲の監視もレーダーですし、人工衛星から地形を詳細に調べることにもレーダーを使います。私たちの目が電波を感知できないだけで、自動ドアにも電波を発射して人間を検知するタイプのものがあります。

ではなぜこんなにやかましく騒いでいるかと言いますと、照射されたのが「火気管制レーダー」というタイプのレーダーだからです。火気管制レーダーとは、前述したような、「敵がどこにいるかを詳しく調べてミサイルに教えてあげる」ためのレーダーなんですね。あとはこの情報をミサイルに教えてあげればすぐに攻撃出来る訳です。(必ずしもミサイルだけではなく、レーダーの情報を元に大砲を撃つこともできます)つまり、これは最大級の挑発なんですね。実弾発射の手前ですから。

火気管制レーダーは攻撃用のレーダーなので、敵艦の情報をより詳しく知る必要があります。なので、普通の捜索用のレーダー(警戒レーダー)とは、以下の様な点で異なります。

  • 特定の艦にずっと照射する
  • 周波数が高い(細かいところまでよく分かる、直進性が高い)電波を照射する

なので、照射された艦は「火気管制レーダーが照射された!」と分かる訳ですね。車のオービス検知レーダーもだいたい同じ原理です。オービスが発射する電波の特性をあらかじめ記憶しておき、それと同じパターンの電波が照射されれば「スピードを落とした方が良いよ!」とピーピー鳴り始めるわけですね。

で、軍艦はどうなるかと言いますと、警報が鳴り響いて先に攻撃するか(返り討ちに出来るかも知れないが、戦争が始まるかも知れない)、それとも逃げるか(自分たちは死ぬかも知れない)、の危うい判断を強制されるわけです。車の場合は違反切符を切られるかどうかで済みますが、軍艦の場合はいきなり生きるか死ぬかなんでそれは大変なことです。

ちなみに、湾岸戦争終結後のイラクで、イラク軍がアメリカ軍機に対して挑発的にレーダーを何度も照射しましたが、これに対してアメリカ軍はイラク軍のレーダー施設を空爆しました。火気管制レーダーを照射するというのは、先手を取って攻撃されてもおかしくない、そういったレベルの挑発です。

しかしながら、酔っぱらいの喧嘩と大体同じで、先に手を出した方が大体悪いことになります。日本は挑発に乗らず、国際社会に対しては「日本は対話による解決を目指して行動しているが、中国軍が一方的に挑発をかけてくる」ということをアピールすればよいのです。事実を淡々と示していけばよいのです。それと同時に日中ホットラインの創設と、同じく中国に対してこれ以上の挑発を止めるよう抗議していくことが重要です。たとえそれによって中国の態度を軟化させることができなくとも、「ホットラインを創設する」「中国に抗議する」という行動自体が重要です。国際社会に対して日本の正当性をアピールできるからです。

こういうことになるとすぐ「日本の海軍と中国の海軍はどっちが強いか」「日本と中国が戦争したらXXが勝つ」などと極論を言ってくる人が居ますが、まあ、聞き流しておきましょう。サッカーの試合結果を類推するのと同じレベルです。日本は昔、中国の盧溝橋をはさんで中国国民党軍と対峙していたとき、散発的な発砲があったことを発端として「日本が先に撃った」「中国が先に撃った」などと罵りあいながら泥沼の日中戦争へと発展させていきます。そういうことを現代で繰り返してはいけないことは確かです。戦争は政治が取り得るオプションの一つです。政治の延長が戦争です。日本は挑発に乗ることなく、政治的に粛々と対応しく必要があります。

参考:
中国海軍フリゲート火器管制レーダー照射事件(週間オブイェクト)